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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
99/125

18   [F]



―――― * * * ――――



方々から呻き声が聞こえる。死屍累々といって良いような状況である。しかし、それにも関わらず、驚くべきことに、死人はいなかった。皆生きたまま、傷の痛みに呻いていた。


「…テメ……エ…………クラ……フ…ト……」


名を呼ぶガラノフに目もくれず、傷ついた身体のまま、クラフトはレイラの傍へと歩み寄った。

しかし、レイラはあからさまに怯えてみせた。


「…く…来るな…」


それは決して、先程クラフトが見せつけたメガビームスウィープの、脅威的な閃光を目の当たりにしたせいではない。

過去のトラウマ。加えて、つい先程襲われようとしていた現実。そしてまた、イレギュラーハンターとしてのクラフトに対し、己の罪状が割れてしまったこと等への恐怖が入り乱れていた。


「近寄るな………ぁッ!」


おもむろに腰を降ろすと、クラフトは自分のマントで包むようにしてレイラの体を抱き寄せた。

レイラはクラフトの腕の中で「バカ!やめろ!離せ!」と何度も喚き、もがく。しかし、しばらくすると次第にその勢いは収まる。

冷たい筈のプロテクター。その内側から感じられる熱が、優しく感じられた。


「もう…大丈夫だ……」


そうクラフトが告げると、レイラは瞳を閉じて柔らかく微笑んだ。


「…………あったかい…」


それは初めて感じる、優しい温もりだった。









――――  6  ――――



自室に戻ると、壁を勢い良く殴りつけた。

只の憂さ晴らし以外の何物でもなかったが、それでもエルピスの心は晴れない。


――――クソ……クソ………クソ……!


求めたのは何だったのか。

望んだのは何だったのか。

願ったのは何だったのか。


不意に、壁に突き立てた腕が視界に映る。その白い袖が、異様に腹立たしく感じられた。


そして、マントを脱ぎ去り、その場に投げ捨てた。まるで怒りをぶつけるかのように。乱暴に足蹴にする。

それから呼吸を整える。


「……どうして…私は…………」


今になって思う。どうしてこの色を選んだのだろう。

どうしてこの道を選んだのだろう。どうしてこの戦いを進もうと決意したのだろう。

どうしてこの想いを捨てきれないのだろう。どうして。どうして――――………‥


全てはそのマントが物語っているような気がした。


分かっている。

憧れだったのだ。羨んでいたのだ。模倣したかっただけだ。

あの救世主の傍に侍る、権力者達の威光を、いつか我が手にとくだらない野心を持っていただけだ。


『真っ白な優しい世界へ羽ばたける真っ白な翼』――――そんな口上も、只の見栄だった。

現に、今自分はこの“白”によって縛り付けられているような気がした。過去に、感情に、幻想に。


だからきっと、あの少女への想いも捨てられないのだ。あの日から大事に温めてきた想いを。

この色への憎しみと憧れと共に。


「…………クッソォ!」


再びマントを拾い上げ、乱暴に投げ捨てる。

そして、マントが地についた頃、ようやく気づく。扉が開き、そこに一人の女性が立っていたことに。


「…あ……」


「っッ!」


そこに立っていたのはオペレーターのルージュだった。

我に返ったエルピスは、途端に顔を酷く赤くしながら、なんとか表情を取り繕おうとした。


「な…なんですか、ルージュさん。何か用があるならばノックくらいは必ずしていただけないと……困ります」


その様子に、ルージュは少し唖然とした後、あくまでも冷静に答える。


「申し訳ありません。何度かしたのですが返事がなかったもので。ロックもかかっていらっしゃらなかったものですから……」


「そ……そうですか……」


相手がルージュでよかったかもしれない。万が一にもジョーヌのように口が軽い者であったなら、“エルピス乱心”の噂は団内に忽ち広まっていることだろう。

とは言え、醜態を晒してしまったことは確かだ。「オホン」と咳払いをして、恐る恐る口添えをする。


「……先程のは……他の方には」


「大丈夫です。ご心配なさらずに」


そう言うと、ルージュは本当に気にも留めていない様子で部屋へと足を踏み入れた。

かと思いきや、エルピスが投げ捨てたマントの下へと近寄り、手にしていた電子ボードを脇に抱え、優しく拾い上げた。

エルピスは思わず上ずった声で言う。


「そ……それは放っておいてください。それで…用件は……――――」


「ネオ・アルカディアの救世主は“蒼の救世主”」


不意に、ルージュの言葉が遮る。エルピスは「え?」と首を傾げ、黙る。


「私達のもとに現れた英雄は“紅の破壊神”」


“彼”のことを差す言葉に思わず、エルピスは顔をしかめる。

だが、ルージュは言葉を続けながら振り返った。


「蒼と紅――――………面白いものです。それらの色が二人のパーソナルカラーであることは、誰もが認める事実。その二色を聞いて、眼にして、彼らを連想しない者はいない程……」


「何が言いたい」と訝しむような目で見つめるエルピス。そんな彼に対し、ルージュはめったに見せない表情をして見せた。

思わず、エルピスも唖然として言葉を失う。そしてまた、ルージュは言葉を続ける。


「しかし、私は思います。我々の誰もが皆、自分の色を持ち、それに従い生きているのだと。ですが、時に濁らせ、時に変色し、偶に別の色に憧れてしまうこともあります」


そう言って、持ち上げたマントに視線を移す。

それから、真っ直ぐに歩み寄り、エルピスに差し出す。


「それでもまたいつか、自分の色を知る時が来る筈です」


エルピスは、差し出されたマントをじっと見つめる。


「私はそれでいいと思います。今はまだ自分の色を知らずとも、見つけられずとも、歩みを続ける内にきっといつか手に入れられるものだと……そういうものだと信じていますから」


その微笑みは、これまで一度も見たことのない、けれど正真正銘彼女の素顔だった。

呆気にとられるエルピス。それからしばらくして、「フッ」と笑みを浮かべ、マントを受け取った。


「……わざわざ拾って頂き、ありがとうございます」


「いえ、問題ありません。それより、この解析データなのですが……――――……‥‥」


仕事の顔に戻り、電子ボードを覗き込む。釣られてエルピスもまた、そこに示された情報に目を遣った。



白いマントに袖を通して。




















―――― * * * ――――



必要とされたかった。

いくつかの集落を移り住み、レジスタンス組織に参加し、過ごした一年間。

しかし、いつでも感じたのは無力で護られてばかりの自分。だから、自分もどうか誰かの役に立ちたいと、誰かを護ってみたいと思ったのだ。本当にそれだけが理由だった。


そうして分かったのは、自分にはそれが出来るだけの力がないということ。誰かを護る力も、役に立つ力も持ちあわせてはいなかった。

だが、それは決して悪いことではない。力が無いことが悪いわけではない。というか、良し悪しを述べるべき問題ではない。



自分の弱さ、欠点、反省点、失敗、過ち――――あらゆる過去を認め、これからをどう生きてゆくかの方が遥かに大切だと、彼は教えてくれた。






「有益な協力者がいるとして、この集落を第十七部隊の保護下に申請した」


クラフトはそう伝える。


「万が一何かが起こった時はこの通信機を使ってくれ。俺が離れている時でも、近くにいる隊員が直ぐに駆けつける筈だ」


そう言って、支給された通信機をレイラに手渡した。レイラの後方では集落のメンバーが並んでクラフトを見送りに来ていた。


「やっぱり…行っちゃうの?」


「紅いイレギュラーを倒す。その使命だけは変わらない」


そう言って、自分の胸に手を当てる。それからレイラの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「そんな顔をするな。今生の別れじゃあない」


あれから二日――――短い付き合いではあったが、レイラも、集落に住むみんなも、クラフトと打ち解けることができた。だが、クラフトは新たに立てた誓いを遂げるためにも、ここで別れを告げなければならない。長く留まる訳にはいかない。

クラフトは真剣な目で、レイラを見つめる。


「その代わり、レイラ。俺は約束する。十七部隊としての任を全うし、いつか必ず、レプリロイドが人間の最良のパートナーであることを認めさせてみせる」


レプリロイドと人間が真に心から支え合い生きてゆく世界。そんな理想を、クラフトも追いかけることに決めた。そして、必ず実現させると誓うのだ。


「それを遂げた時、俺はまた君に会いに来よう。必ず…な」


「クラフト……オレ、ずっとここで待ってるから」


そう言ってクラフトの手を両手で握る。その形を確かめるように、記憶するように。自分を救ってくれた人の手を。

すると、クラフトはレイラの片方の手を握り、硬い握手をした。


「もう二度と、あんな格好をするんじゃないぞ」


レイラははにかみながら「それはどうかな」と悪戯っぽく答える。思わずクラフトは苦笑いを浮かべた。


ライドチェイサーに跨り、ハンドルを握る。そして、片手で別れの挨拶をして、アクセルを回した。

他の皆が、大きく手を振り、別れを告げる中、その後ろ姿を見守るレイラ。胸の辺りで、ぐっと拳を握る。


「クラフト……絶対に死なないで…」





後日、第二十三独立遊撃隊へのクラフトの粛清は噂に広まり、塵炎軍団中を震撼させた。

しかし、規律の乱れに対する四軍団内の指導力不足と、クラフトの独断的な対応に対し、元老院と四天王で合意のもとに、この事件は闇に葬られた。

とは言うもののガラノフ達自身も、自分達の屈辱的な敗退を広めることを嫌ってか、それともクラフトへの敬意からか、事件について上に訴えを起こすような素振りは一切見せなかった。

ただ、それからというもの、クラフトの粛清を恐れてか、塵炎軍団の素行が改善されたことは確かだ。







「ありがとう、レイラ」


出会ってくれて。


キッカケをくれて。



追い風に吹かれながら、そう小さく呟いた。















NEXT STAGE




    妖将










・17th STAGE 「理想の表裏」


当初の予定では、あまりにゼロとの絡みがなかったので「クラフト回を作らねば…」と焦っておりました。

「衝突する信念」とかそれっぽい仮題をつけては見たものの、話が全く浮かばず……。

それからカムベアス戦でクラフトを出すことになり、「それならば」と全く別のパターンで話を幾つか考え、結果今回のようなネオ・アルカディアの内部事情も踏まえた話に。

ちなみに案の一つには「シューターとクラフト、ゼロの三人で遭難」というのもあったんですが、やめました(笑


タイトルにも“理想”といれているように、9th STAGE「理想郷の詩」と対になる話。

レオニードの誕生パーティー部分は雰囲気がガラリと変わったので、動揺された方も多いでしょう(笑

ちなみにいくつか小ネタ、豆知識をはさんでいます。

エッカルトとイーリスの遣り取り――――バンドやってた時に自分はそうとう気にしました。アルコールは喉に負担がかかるので、飲んだ後に歌うのはよくありません。ハーブティーは喉にやさしい飲料として有名ですね。歌う直前には普通の水の方がいいと思いますが。

クラフトとレイラが話していた廃墟――――“傍らには鳩のマークをした巨大な看板が見える。”って、まんまです(笑

ゼロのコートについて「紅いイレギュラーのコートはもっと暗い血の色だ」――――これ、分かる人いるのかしら。


……個人的に楽しんでいただけです、すいません。


なんにしても、「紅いイレギュラーの偽物が現れる」という案が化けてくれた話。

急に思い立って「オレっ娘」にしましたが、個人的に気に入りました。



……ええ、個人的に楽しんで(ry





・18th STAGE 「color of mine/d」


エルピス回……の予定のはずが、クラフト回も引きずる形に。

とは言え、結構良かったかな、うん。エルピス周辺の肉付けも何処かでしなければと考えていたので。あと、白の団の由来もね。

ガラノフ達があっという間にやられたのは尺の都合……もありますが、まあ、クラフトのメガビームスウィープが凄かったってだけです。はい。

ちなみに宣言しますが、これでクラフトさんにはもう目立った活躍はありません。残念。

とは言え、気分や思いつきで話が変わりやすいので、もしかしたら……ということもありますので断言はできないかも。







17th STAGE進行中、オイラムさんが素敵なレビューを描いてくれました。ありがとうございます。

一ヶ月以上経ってからの紹介ですいません……。

レビュー、感想は励みになり、モチベーションに繋がります。いつでも受け付けておりますので、よろしくお願いします。


それとIllustrationsも復活しております。

キャラ紹介画を一新しましたので、一度でも目を通していただけると幸いです。

今回のタイトルイラストはZ1のジャケットのオマージュです。ちなみに前回のはサターン版X4のジャケットのオマージュだったのですが…気づいた人いるのかな…?


さて、次回はついに彼女の回です。待ちに待った方もいらっしゃるのではないかと思います。

既に三部分ほど出来上がっていますが、二日に一度の更新で行きたいと思います。

初回は3月24日0時を予定しております。よろしくお願い致します。


それと、活動報告でも書きましたが、百部分到達を勝手に記念してイラストを製作中です。

19th STAGEと共にIllustrationsの方にアップさせていただきたいと思いますので、こちらもよろしくお願い致します。


ではまた、次のお話で...


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