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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
97/125

18   [D]



――――  4  ――――



乱暴に身を投げられ、「ぅあっ」と声が漏れる。

縛り付けられた手足をもぞもぞと動かしながら顔を上げると、厳つい顔をした大柄なレプリロイドが自分の方に近づいてくるのが分かった。彼はそのまま、彼女の前髪を鷲掴み、無理やり顔を上げさせる。

思わずまたしても呻き声が漏れる。


「なかなかいい声で啼くじゃねえか。なあ、“紅いイレギュラー”さんよぉ」


「う…うっさい!離せ!」


「おらよ」と声を荒げ、地面に叩きつけるように手を離す。すると、彼女の頬に鈍痛が走り、一瞬息が止まる。

男――――ガラノフはじろじろとその風貌を眺めながら、口端を歪める。


「流れる金髪に、真紅のコート……まさかこんな手に引っかかるとは。なあ、サイモン」


そう言って、彼女の身をここまで運んできた男――――サイモンに視線を移す。

サイモンは引きつったような笑みを浮かべながら、そこに倒れている“紅いイレギュラー”の腰のあたりを蹴飛ばした。


「全く、ふざけたガキだぜ!このイレギュラーがぁ!」


二度、三度蹴飛ばすと、他の隊員たちがサイモンを抑えた。

“紅いイレギュラー”は蹴られる度に悲痛な呻き声をあげ、呼吸は荒くなっていった。

尚も“紅いイレギュラー”に乱暴を加えようとするサイモンに「落ち着け」と仲間たちが呼び止める。これまでの鬱憤と怒りが溜まっているせいか、更に“紅いイレギュラー”を痛めつけようと、不気味に引きつった笑みを浮かべながらその手を振りほどこうとしていた。


「落ち着け、サイモン。テメエは愉しむって事をよく分かってねえなぁ」


ガラノフがやれやれと肩を竦め、“紅いイレギュラー”に手を伸ばす。そして、恐怖のせいか小刻みに震える彼女のコートに手をかけ、力づくでその生地を毟りとった。

脇の辺りに激しくコートが食い込み、その痛みに思わず“紅いイレギュラー”は叫び声を上げた。壮絶な光景に、サイモンも、それを傍観し楽しんでいた者達も皆、言葉を失う。

ガラノフは口端を醜く歪めながら、痛みに喚き続ける少女の体から着衣を剥ぎとっていった。


「ほれ見ろ。ガキだが、愉しむには申し分ねえ身体つきじゃねえか」


露わになった白い肌を舐めるように眺め、ガラノフは感心したように言う。

実際、サラリと覆う金髪の輝きも相まって、少女の艶やかな肌とその腰つきは、その場にいた誰もが予想していた以上に蠱惑的だった。

少女は小さな声で何度も「やめろ」と口にするが、誰もその声を聞いてはいなかった。

顎をガラノフが持ち上げ、顔を向けさせる。少女の顔は、目の前の敵を睨みつけてはいるものの、恐怖に怯えていた。


「いいかい、嬢ちゃん。自分のやってきたことが分かってんだろ?これからその報いを受けるのさ」


殊更嫌らしい笑みを浮かべ、ガラノフはそう言い聞かせる。少女を激しい悪寒が襲った。


「俺の部下どもも、いろいろ溜まりに溜まっててなぁ。上司である俺としてはその欲求不満を解消してやる義務もあるってわけよ」


じりじりとその時を待ち焦がれ、サイモン達は疼く身体を必死に抑えた。


「それでだ、嬢ちゃん。これまでの全てをチャラにする代わりに、一つ協力ってことで、ここにいる全員に犯されちゃあくれないか?なに、簡単なことさ。国にいた頃と何ら変わりねえ、性処理玩具になってくれりゃいいだけの話よ。人間よりもちょいとタフな連中が相手だが……まあ、イキまくって頭がぶっ飛ぶだけさ。大したことはねえよ」


そう言って後方に打ち棄てられた女性レプリロイドたちの方を親指で示す。廃人同然に、意思を失い、壊れた人形のようになってしまった彼女達を視界に入れ、少女は全てを理解する。

そして、劈くような悲鳴を上げ、身を何度も捩らせた。縛られた手足をジタバタと動かすが、どうにかなる気配はない。

その様子を見て、皆、ガラノフ同様、下卑た笑みを浮かべた。


「サイモン、まずはテメエにヤらせてやるよ。これまでの分、きっちり返してやんな。口はどうする?」


「ありがとうございやす、隊長。そのままで大丈夫っす。喚いてもらった方が気分が乗るんでね」


サイモンはそう言って近づくと、少女の肩を掴み、無理やり仰向きに反転させた。


「やめろ!来るな!来るな!ゲス野郎!!」


「ヒャハッ……本当にいい声で啼きやがるぜ」


暴れる少女の体を押さえつけると、足を持ち上げる。そして、擬似的に取り付けられた己の一物を取り出そうと腰に手をかけた。


「死ね!バカ!死ね!死んじまえよ!やめろ!……やめろぉぉおーーーーーっ!!」


少女は一際大きな叫び声を上げた。










「 ガ ラ ノ フ !! 」








地鳴りのように響く怒声に、皆、ビクリと体を震わせる。

今にも少女の身体を犯そうとしていたサイモンも、その動きを止める。ガラノフはその声の主を睨んだ。


「……クラフトか」


「貴様……何をしている……」


その凄惨な状況を目の当たりにし、クラフトは昂ぶる怒りを必死で抑えながら、慎重に尋ねた。

だが、ガラノフはそんなクラフトの様子を小馬鹿にしたように、嘲笑を返した。


「『何をしている』?…前に言った通りさ」


少女に覆いかぶさろうとしていたサイモンの身体を片手でどける。今にも陵辱されようとしていた少女の姿をクラフトに晒す。少女の顔は恐怖に青ざめていた。


「弱ぇ奴から“奪い”、強者である俺達が“欲を満たそうとしていた”。ただそれだけだ」


「…ふざけるのも大概にしろ……」


静かに怒気を含ませながら、クラフトはガラノフを睨みつける。


「ふざけてなんかいないぜ?俺達は大マジさ。なあ、クラフト。それともテメエも加わるか?」


「ふ ざ け る な と 言 っ て い る !!」


怒鳴り声に、ガラノフの部下達は思わず後ずさる。だが、当のガラノフ本人は全く動じる気配を見せない。それどころか反抗心を瞳に燃え上がらせる。


「『行動を改めろ』と伝えたはずだ。でなければ貴様を――――」


「『処分する』か?ふざけてるのはテメエの方だぜ、クラフト」


そう言うと、殊更威圧感をむき出しにし、クラフトを睨みつけた。その尋常ならざる雰囲気に、部下達はまたしても後ずさる。


「できもしねえことをそうそう容易く口にするんじゃあねえよ。救世主ってのはホラ吹きでもなれんのか?」


「………その子に……レイラに罪はない」


先日同様、言い返すことのできないクラフトは、悔しさに憤りながら、要求を伝える。気づけば懇願するような目でレイラがこちらを見つめていた。


「レイラを解放しろ。今すぐに」


「できねえ相談だなあ」


そう言うと、今度は一変、ガラノフは豪勢な高笑いを上げた。


「滑稽だぜぇ、クラフト。何も知らない糞野郎が手前勝手な口上垂れる様を眺めるってのはよぉ」


「……どういうことだ?」


クラフトは眉を潜める。すると、今度はガラノフの部下達までニヤニヤと嫌らしく口端を歪めはじめた。

その異様な雰囲気に、クラフトは焦りを感じ、またしても「どういうことだ」と声を荒げて問い直す。


「残念だけどなぁ…クラフト。罪なら有るのさ」


「……!?」


クラフトは驚き、戸惑いの色を思わず見せてしまった。動揺を抑えきれない彼の様子に、ガラノフは自信ありげに語る。


「分かるぜ。いちいち外の奴まで確認しねえもんな。けどよ…ハンターのデータベースにはしっかりとこのガキの事件は記録されてるぜ」


彼女のDNAデータから、国内での居住場所、飼い主等、あらゆる情報を割り出し、ガラノフは一年前に起きた事件に行き着いた。状況証拠からではあるが、紛れも無く彼女が犯したであろう犯罪の事実を掴んだ。ガラノフは少し勿体ぶってから、ゆっくりと、そしてはっきりと口にする。


「こいつはなあ、殺しちまったのさ。人間を」


その瞬間、クラフトは言葉を失った。受け入れがたい真実に衝突し、理解が追いつかない。いや、認めたくなかった。そんな風に呆然とする様子を眺めながら、ガラノフは言葉を言い換え、再びクラフトに真実を告げた。更に端的に、分かり易い言葉を選んで。




「このガキは、人殺しなんだよ」








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