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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
88/125

16   [F]



――――  6  ――――



〔君が悔やむことはない。君はよくやってくれた〕


カムベアスの亡骸を弔った後、Cはそう言った。


どうにも心配になり、C達は近くまで来ていた。そして、偶然にもゼロとカムベアスの遣り取りを見守ることになったのだ。

繰り返す葛藤の末、ついにゼロを殺そうと、腕を振り上げたカムベアス。Cはそれを察知し、同胞たちにコンマ数秒の意思疎通を行い、結果、“伝説の英雄”を守るために、百年近くの間一度も使うことのなかった唯一の武器を使うことにした。

そして、カムベアスを撃ち抜いた。彼の動力炉をピンポイントで。


〔しかし、世の中にはどうにもならないことがある。今回がそれだった。ただそれだけのことだ〕


あくまでも冷静に、諭すようにCは言う。


〔それでも、君という英雄を失う訳にはいかなかった。だから我々は決断した〕


ゼロを守るために、長年使うことのなかった武装を使った。これから先も、二度と火を噴くことはないだろうレーザー砲を。その意味は、決して軽くはない。

〔けれど〕とCは言葉を区切った。そして暫く考えるような間の後、一言だけ呟いた。


〔何かが足りないんだ〕


それを聞いたゼロは、ただ「すまない」と口にした。

そして、遠くまで広がる真っ白な雪原をぼんやりと眺めた。








―――― * * * ――――



倒れた巨躯へと寄って、その顔を覗き込む。

『カムベアス』と名を呼んだ。

動力炉を貫かれた。だが、カムベアスは辛うじて、まだ生きていた。直に機能が停止してしまうだろうことは間違いなかったが。


『ゼ…ロ……』


搾り出すような声。プログラムの効力は見られず、最後の力を振り絞ったのか、どうにか正気でいるようだった。

いつしか、C達も寄って来た。そして、カムベアスの身体を囲むようにして集まった。死にゆく友の最期を見届けようとしていた。


『なあ……ゼロ………』


カムベアスが呼びかける。ゼロは『なんだ』と聞き返す。


『オデ……思うんだ………』


そう言って、遠くを見つめる。


『もじも……この世界が………この山みだいに………何の穢れもなぐ…美じぐ…優じいものだったなら……』


この場所に住むようになってから、毎日のように思っていた。

レプリロイド同士が血で血を洗う様な、そんな戦争が果て無く続く世界。それが、このどこまでも広がる白銀の雪景色のような世界だったなら、穢れも知らない優しい世界だったなら、きっと――――……‥


『争いも…殺じ合い…も……なぐなる…の…が………な…』


理想を問う声に、少しだけ黙った後、こちらを再び見つめる瞳にゼロは『ああ…そうだな』と一言だけ答えた。それを聞いて、カムベアスは微笑み、そして息絶えた。優しい雪に抱かれるようにして、安らかな眠りに就いた。

その頬を舐めるように、Cが寄り添った。それから暫くの間、じっと傍を離れなかった。




C達がカムベアスに寄り添う様子を見つめながら、ゼロは思った。『果たしてそうだろうか』と。

白く穢れない世界だったなら、争いも殺し合いもなくなるのだろうか。


答えは簡単だった。“否”である。


どれだけ白く穢れのない世界だったとしても、美しく、優しい世界だったとしても、争いや殺し合いが無くなることなどあり得ない。


それはたった今、カムベアスが自身の身を持って示したばかりではないか。

もしも争いも、殺し合いもない世界だったならば、急所を射ぬかれた亡骸が天を仰いで倒れ込んでいることなどあってはならない。

しかし現実に、この雪山の中でカムベアスは死んだ。状況はどうあれ、その胸を貫かれ、命を落とした。

それだけではない。ネオ・アルカディアの要塞基地も崩壊した。その中で多くのレプリロイド達が、争いの中で命を落とした。


平和に見えるこの雪山の中でさえ、純白で穢れないように見える世界の中でさえ、争いも殺し合いも絶えることがなかった。

故に、それらが真に無くなる世界などあり得ないのだ。



突き付けられた現実に、ゼロはただ立ち尽くすことしか出来なかった。













―――― * * * ――――



〔ありがとう。君が来てくれて良かった〕


去り行き際に、Cはそう言ってくれた。ゼロは苦笑することしか出来なかった。


「俺は、結局何も出来なかったよ」


救って欲しいと言われた。けれど救うことは出来なかった。“また”出来なかった。

だが、Cは首を横に振る。


〔先程も言ったように、君はよくやってくれた。彼の魂は、きっと報われる。私はそう信じている〕


そう言って遠くを見つめるC。きっとカムベアスの事を想っているのだろう。


Cはきっと哀しみを感じているのだろうと、ゼロは思った。

それでも、彼はそれが何なのか、特定できないでいるのだ。

知識として知っている哀しみとは違う、本物の喪失を経験して、感じずにはいられなかった哀しみ。

ただのメカニロイドでいたならば、感じられることのなかった感情。


しかし、それを感じさせてしまったのは、間違いなく自分だ。


〔我々はこれからもこの雪山で生き続けるよ。彼が愛したこのボレアス山脈で〕


友の死の哀しみを抱え、これからも生き続けるのだろう。静かに命が停まるその時まで。

どうか、せめてその日までは、ここが平和な場所であって欲しいと祈らずにはいられなかった。


それから互いに別れを告げ、ゼロは歩き始めた。

後ろを一度も振り返ること無く、十数分ほど歩いた後、足を止めた。

そして、辺りを見渡した。


どこまでも広がる白銀の大地は、雄大で、優しくて、そして哀しかった。






――――もしも…“あいつ”だったなら……


雪景色を眼に焼き付けるようにして眺めながら、不意に想像してしまう。

もしも自分ではなく、“あいつ”が此処に来ていたなら。同じ状況の中に立ったなら。いったいどうしただろうか。

雪に埋もれる脚もそのままに、暫く考えた末、辿り着いた答えは一つだった。



きっと“あいつ”は撃った。

葛藤の末に決断し、C達が撃つよりも速く、引き金を引いていたに違いない。

カムベアスとC達の友情と、誇りのために。自らの手で、カムベアスの命を絶っただろう。


そしてそのあとで、涙を流すのだ。


奪った命への懺悔と、救えなかった非力への後悔とを受け容れ、糧にし、またいつか誰かを救うために。

その姿に、きっとC達も、そして死にゆくカムベアスも――――誰もがまた、別の形で救われるのだ。


その光景は、想像といえど、鮮明に思い浮かべることができた。


それに比べて、自分はどうだ。

いったい何が救えたか。何を護って誰を救えたというのか。


出来る精一杯のことをしたつもりだ。けれど、自責の念はいつまでも頭の中に絡まり続ける。

きっと、これから先もそうなのだろう。

救いたいものを真に救えないまま、何度もこうして悔しさと憤りとを噛み締め続けるのだろう。


込み上げる、やり切れない想いが口を衝いて漏れ出す。


「俺には……できない…」





ポツリと呟いたその言葉は、白く広がる雪原に静かに溶けて、消えていった。













NEXT STAGE




    理想の表裏











15th STAGE「レスキューコール」

16th STAGE「世界を覆う白雪の上で」


イメージソング:白い雪/Kokia


カムベアスの大幅な性格改変により成り立ったお話。雪山で悲劇を起こすことを前提に、「では誰がいいか」選りすぐった結果。

レイビットの参戦は個人的な拘り。Xシリーズ(X1)からの繋がりを感じてもらえれば。気になった方は、ぜひロックマンX、またはイレギュラーハンターXに手を出してみてください。

話としては[Z-E-R-O]構想時から結末やらはすでに出来上がっていたのですが、間を埋めるのに相当苦労。レヴィアタンがこんなにも出てくる予定では当初無かったのですが、彼女にはいくらか助けられました。それにしても色気の出し方は難しい。もっと精進しないと。

しかし、なんといっても個人的に当たったのは第十七部隊の参戦。これがなければ16th STAGEの方は完成しなかったかもしれません(苦笑)


イメージソングは、別に、これに合わせて書いたというわけではないのですが、なんとなくマッチするかなと。

ぜひどこかで耳にして頂ければと思います。






今更ですがあけましておめでとうございます、村岡凡斎です。

ずいぶんお待たせしてしまい、申し訳ありません。どうも納得の行く文が書けずで手こずりました。

前述した通り、十七部隊のおかげでなんとかなりましたが。


それと、暫く気づかずに放置していた「th」が「tn」になっていた問題を修正。いやいやお恥ずかしい…。誰からも指摘がなかったのは不幸中の幸いか。


ようやく激闘編も折り返し。ここから最終章へと少しずつ動き出します。

振り落とされることなく、付いて来てくだされば幸いです。

それではまた、次のお話で...


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