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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
81/125

15   [D]



――――  4  ――――



転属初日から雪景色の中、「気晴らしに」と外を歩いてみた。

延々と続く荒野の上で数多の敵と戦い続けてきた彼にとって白銀の世界はとても新鮮味があり、神秘的な神々しさすら感じた。無論、データでは知っているつもりであった。だが、それらを実際に直視した時の感動は何とも言い難く、三年が経った後でも心がそれを覚えていた。


そこで彼は二体の旧式メカニロイドに出会う。


巡回していた軍のメカニロイドにやられたのか、片方は傷つき倒れ、もう一体はそれを気遣うようにして寄り添っている。彼は奇妙な人間味を感じ、思わず太い腕を差し伸べた。

傷ついた方を基地へと連れ帰り、修復する。そして、寄り添っていたもう一体と共に、再び雪山へと返した。二体は振り返る。次の瞬間、彼の脳内に声が響く。


〔君の協力により、私の同胞が救われた。心より礼を言わせていただく。本当にありがとう〕


彼はしばらく目の前のメカニロイド達を呆然と見つめた。


〔目の前にいるメカニロイドが音声通信により意思を伝えているという事実に困惑していることだろう。だが焦ることはない、じっくり受け容れてくれれば良い〕


メカニロイド――――レイビットはそう再び音声通信により言葉を伝えてきた。

彼は信じられない事実に直面し、呆然と目の前のレイビットを十数分ほどの間、眺め続けた。




それが出会いだった。




彼――――ポーラー・カムベアスは暇を見つけるとその“C”と名乗るレイビットと並んで雪山を歩いた。

Cと共に数日過ごし、いくつもの信じ難い現実をカムベアスは知った。


Cが引き連れるレイビットの群れは二十数機ほどの数がいること。百年以上昔からこのボレアス山脈を棲家としていたこと。メカニロイドに偶発的にも意思が生まれたこと。生き長らえようと策を巡らせていたこと。

同時に、Cは過去の世界のことを語り聞かせた。

ネットワーク上で収集したあらゆる逸話や、各地の風景、今は既に消えてしまった沢山の国のこと。この山脈にも、他の生物がいたこと。

対して、カムベアスもまた語り聞かせた。

荒廃した現代の世界。それでも尚、生きようとする人類のこと。残された最後の国、人々が暮らす街、人工物とは言え街中を彩る植物など。救世主のこと、四軍団のこと。戦争のこと。そして――――


「オデはたくざんの同胞を壊じてきだ……」


鼻が詰まったような抜けの悪い特徴的な声で、まるで懺悔をするかのように語り続ける。


「初めはそれでいいと思っだ。戦争だから……オデは冥海軍団の一員だがら……。“猛将”と呼ばれ…頼られで…そでが誇りだった」


だが、ある時ふと後ろを振り返った。

そこに遺っていたのは誰が処理するわけでもない、自らが手を下した者たちの残骸、悍ましいまでの擬似体液の染み――――それら全てを腹の上に乗せても尚、表情ひとつ変えない無情な大地。

カムベアスの大きな胸に、何かが突き刺さった。それはジワジワと侵食し、心を蝕んだ。やがて、体中が“それ”に包まれると、カムベアスは耐え切れなくなり、転属を願い出た。


「おかじな話だよな」


そう言って苦笑いを浮かべる。


「四天王の部下とじて、戦士とじて生まれだっていうのに……オデは戦うごとがもう嫌なんだ。情けないけど…戦うのが怖いんだ」


生まれてきた理由を否定したのだと言っても差し障りない、ミュートスレプリロイドとしてあるまじき心持ちであった。我ながら本当に愚かしく感じられた。

しかし、Cはそれを否定しなかった。


〔それでもいいのではないだろうか〕


脳内に響く声につられ、カムベアスはじっとこちらを見つめていたCの顔を、同様にして見つめ返す。


〔君がそう決めたのならば、何も問題はない。それがポーラー・カムベアスという一人のレプリロイドの生き方なのだから〕


確かにミュートスレプリロイドとしては、存在意義を自ら棄却するような決意だったかもしれない。

けれど、一人のレプリロイドとして生き方を選択しただけのことだ。臆病者と、愚か者と謗られようと、その生き方を曲げる必要はない。


〔それに私は、他者の命を慈しみ、平和を尊ぶ今の君を肯定したい。その道は、誇っていいものだ〕


争いを好み、他者の命を奪い、自らの力を誇示するような者よりも、他者の死の悲哀に嘆きながらも、平和な世界を望む優しさと慈悲深さを持ち合わせる者でいて欲しい。そんなカムベアスだからこそ、友として寄り添うことができたのだから。

そう言う、表情がないはずのCの顔がどこと無く微笑んでいるような気がして、思わずカムベアスも柔らかな笑顔を浮かべる。


「……ありがとな、C…」


それから、Cの身体すら包み込めそうな程大きな手のひらで、Cの頭を優しく撫でた。感謝と慈しみの心が、ただただ溢れていた。








そんな時間が終わりを告げたのは、それから一年以上後のこと。














―――― * * * ――――



〔彼――――ポーラー・カムベアスは既に本来の自我を失い始めている〕


カムベアスの様子がおかしくなり始めた頃、Cは例の“彼女”に連絡を取り、その事実を確認した。

そして現在、「破壊衝動プログラムのネットワーク媒介注入計画」の被験者として彼が扱われていることを知らされた。


〔あれ程争いを嫌い、平和を求めていた彼が、今ではただの破壊マシーンと成り果てようとしている〕


元の精神プログラムに上塗りするような形で注入されてゆく破壊衝動プログラム。Cの話だけだというのに、ペロケとレルピィはその効力に悪寒を感じずにはいられなかった。

Cは佇まいを直し、ゼロへと向かい、再び頭を下げる。


〔お願いだ、ゼロ。君の力で彼を救って欲しい。今ならばまだ、彼の自我を取り戻すことが出来る筈だ〕


計画は精神プログラムの事情から段階的に進められており、現段階ではまだプログラムの効力が切れる瞬間が見られるほどに、定着しきってはいないのだ。

その隙を突き、計画から彼を解き放つことが出来れば、どうにか救うことが出来るだろう。


「要するに、『研究所をぶち壊して、囚われの白熊を救いだせ』ってことか」


〔そうだ〕とCは首を縦に振る。

ペロケとレルピィが不安気に見つめる中、ゼロは一人考えこむ。

即決という訳にはいかなかった。

この話自体が罠である可能性も十分考慮することができた。勿論、これほどまでに回りくどい方法を執る必要性があまり思いつかないのだが。

だが、この話のままゆけば敵の拠点へと単身乗り込むことになる。敵の戦闘員がどれほどのものかは分からないがある程度の危険があることは確かだ。そういったリスクを冒してでも果たすべき依頼であるかどうか……。


方針を決めかねる中、ふと脳裏を掠める友の背中――――その記憶。


「――――悩んでいても埒が明かない……か」


そう呟くと、決意を固め、Cに向かって不敵な笑みを浮かべながら頷く。


「いいぜ、C。俺に任せな」


〔ゼロ……すまない、恩に着る〕


またもやCは頭を下げた。


「そうと決まれば戦支度だ。まずは……ペロケ、お前さんを家まで送り届けよう。こんなとこに居られたんじゃ気になって仕方がない」


「了解です。私も戦闘のお邪魔をするわけにはいきませんからね」


ペロケは整備用に持ち込んだ道具一式を工具箱に詰め込む。


「ペロケを無事に送り届けた後、敵の拠点に向け進軍する。レルピィ、お前さんも用意はいいか?」


「問題ないわ、ダーリン」


レルピィが得意げな笑みを浮かべ、顔の周りを軽やかに一周する。


〔既に計画は最終段階に移行している。もう数日も余裕はないだろう〕


「『善は急げ』だ。可能な限り迅速に取り掛かる。そう、不安がらずに待ってな」


そう言って、Cの頭を優しく撫でる。


――――成程、流石は英雄といったところか……


決して容易な戦いではないというのに、この堂々とした立ち振る舞いは確かに安心感を与えてくれる。その背中が「きっと大丈夫だろう」と強く信じさせてくれるのだ。


しかし、Cは少しだけ疑問であった。


――――彼の異名は“紅の破壊神”……


知っている限りの情報では、戦いの中ではあくまで冷徹に刃を振るい、敵を処分し続けてきた、伝説のイレギュラーハンター。

だが今眼の前にいる彼は、見ず知らずのメカニロイドのために、その身の危険を顧みず、一人のミュートスレプリロイドを魔の手から救おうと言う。

「相反する」とまでは決して言わないが、その非合理的且つ慈善的な態度は、聞いていた印象とは些かズレが生じているような気がした。







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