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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
74/125

14   [B]



――――  2  ――――



「ちょっとハル、話を聞いて」


足早に議事堂の廊下を歩いてゆくハルピュイアを、レヴィアタンは引きとめようと声をかける。

しかし、一向に聞く耳を持たない彼に対し、仕方なく歩きながら話を切り出す。


「ファブのことだけど……。…確かにあいつは馬鹿な事をしたと思うわ。紅いイレギュラーを倒すためとは言え、四天王としての職務を忘れて私闘に興じた挙句、敗北まで喫した……。もう……本当にただの馬鹿よ…」


先日の紅いイレギュラーとの戦闘に関して、元老院と四天王リーダーであるハルピュイアとの間に協議が行われた。

そしてその結果、「感情に任せた身勝手な行動による職務放棄」と「救世主の守護者でありながらの敗北」と言った失態から、ユグドラシルの地底深くに設置された「特殊監獄ヘルヘイム」第九階層への一時的拘束と一ヶ月の謹慎処分が決まった。


「――――けど、そこまでの処分が必要かしら?」


元老院との決定に、レヴィアタンは異を唱える。


「“四天王として課された職務と使命の放棄”は勿論、重大な問題よ。……けれど……」


少しだけ言葉に迷う。感情のままに述べるべき事柄ではない。


「……けれど……本当にあいつは馬鹿だと思うけれど……私は…あいつの気持ちをもう少し理解してあげてもいいと思う」


同じく四天王計画から、救世主のDNAデータを元に生まれたレプリロイドであり、それは言わば兄弟同然の存在とも言える。強い仲間意識を持って行動する必要があるとは決して思わないが、それ程弱くもない絆を無下にすることもないと彼女は思っていた。

だがそんな訴えも届いているのか、一言も返事をせず、ハルピュイアは黙々と廊下を歩く。


「ちょっとハル!」


そんな様子に、やがて腹が立ってきたらしく、レヴィアタンも語気を強めてその名を呼び始める。

すると、後ろから「お待ちを、レヴィアタン様」と彼女を呼び止める声がした。その声の主は、ハルピュイアの腹心を務めるミュートスレプリロイド、“三羽烏”長兄、アステ・ファルコン・アインだった。


「ハルピュイア様は決して処罰することだけ考えていたのではありません。むしろ、元老院の追及から養護したのです」


「え?」


予想外の事実に、レヴィアタンは思わず足を止める。


「元老院が提示しようとした処分は『精神プログラムの精密検査と“再教育”』。また他にも『戦略研究所への実験素材としての提供』という案まで用意しておりました」


“再教育”――――即ち、精神プログラムの調整や、最悪の場合は消去からの再構築という作業である。人格データに問題ありとされた場合に行われることが多く、“イレギュラー処分”と同程度の処分と考えて良かった。

ファーブニルに関してはその設計思想が既に問題視されており、元老院は機会さえあればそのような措置をとろうと窺っていたのである。


「元老院側の処分を予期し、ハルピュイア様は四天王リーダーという身分から、それを切りだされるより早く、自ら今回の処分を提案。元老院側も『それだけ重い処分であれば』と、なんとか話が落ち着いたのです」


「余計なことをベラベラと喋るな、アイン」


ようやく口を開いたハルピュイアにそう叱咤され、アインは「申し訳ありません」と頭を下げる。


「ハル……あなた――――……‥」


「別に、あいつのためにやったわけではない」


無愛想にそう言いながら、廊下の柱を抜け、中庭へと出る。そして、アインに飛行形態へと変形するよう促した。


「元老院議長……特にヴィルヘルムは我々を追い落とそうと画策している節がある」


四天王へのライバル心からか、それとも他の何かがあってのことか――――とにかく、元老院の中でも彼は“反四天王”という立場に強く傾いており、それに寄り添う者も決して少なくない。ハルピュイアはそれを気にしていたのだ。


「我々の使命は、エックス様がこの百年間抱き続けた正義を貫き、護り続けた人間をこれからも護り抜く“力”となること。……だが、その使命も俺達四人が揃ってこそ達成できると、俺は信じている」


変形したアインの背に足をかける。


「奴の行動を赦すつもりはないが、こんなことの為に奴を失う訳にはいかない。――――四軍団中最大規模を持つ塵炎軍団の今後の士気と、その動きにも関わるしな」


アインが浮遊を始めると風が巻き起こり、羽織ったマントがバタバタと音を立て始める。ハルピュイアは帽子を抑え、レヴィアタンの方へようやく視線を遣る。


「貴様も用心しろ、レヴィアタン。俺達が生まれてからの“十年”という土台は、思った以上に頼りがないぞ」


そう言った後「俺はこのまま任務に向かう」と、ハルピュイアはアインの背に乗ったまま、空高く飛び去って行った。その姿を、レヴィアタンは黙って見送った。

遠方の地域へ足を運ぶのに空間転移装置を使わず、清々しく広がる青い空を選んだのは、彼もまた煮え切らない想いを堪え、静かに葛藤していたからだろう。

とは言え、そういった考えなどについて一言くらい相談があっても良かったのではないかと思ってしまう。


「男って…ホント……」


肩をすくめながらそう呟くと、苦笑のような微笑みを浮かべた。














―――― * * * ――――



思いもよらぬ侵入者の登場に、この秘密研究所を預かっているミュートスレプリロイド――――ヒューレッグ・ウロボックルは驚愕した。よもやこのような所にかの紅いイレギュラーが現れようとは。管制室にて森の至る所に配置された監視カメラ、その一台の映像を睨みながら、コブラを模して造られたその頭部に焦りの色が滲む。

ファントムより下された二つの密命。それらをこの状況において、共にクリアするのは非常に困難である。ウロボックルは何度か考えを巡らせた後、意を決する。


「たとえ紅いイレギュラーであろうと……優先すべきはここの秘匿だ」


そう言って「シャーッ」と唸ると、研究所内に配備されていたパンテオンとメカニロイド達に出撃命令を下した。

大蛇型のメカニロイド――――アルトロイドの性能を疑うつもりはないが、どれだけの戦力を裂こうと無駄なことはないだろう。敵はそう言う相手だ。


「もしもの時は俺が出るしか無いだろうがな…」


万が一の時には命を賭してでも始末をつけなければならない。ウロボックルは自身の主を思い浮かべると、その使命を必ずや果たすことを誓った。









蛇の体を形成するブロックの中心にある紫色のクリスタルが輝きを放つ。そこから自身へと発射されたレーザーの一斉射撃を華麗に交わすと、ゼロはゼットセイバーで大きく斬りつける。

だがその瞬間、ブロックは連結を解き、独立して浮遊を始めた。


「なかなか……楽しませてくれる!」


ゼロを中心に、囲むように陣形を組むと、そこからまた一斉にレーザーの連続攻撃が始まる。二発、三発とセイバーで防ぎ、地を転がるようにして躱すとその内の一つへと跳びかかる。だが、今度はそれを察知してブロックは瞬時に集まり一繋ぎに連結する。そして、大蛇の首が大きく口を開け、ゼロへと襲いかかる。

素早く地を蹴り、飛び退く。それに対し、側面に向いたクリスタルからレーザーが発射される。ゼロはまたもゼットセイバーでそれを弾いた。


「ダーリン、あっちにも!」


レルピィが示す方――――秘密研究所の方角からメカニロイドとパンテオンの軍勢が現れる。その数は百機近く、背後にはゴーレムの姿が五体ほど確認できる。

このような場所に良くもこれだけ部隊を裂いたものだと呆れながら感心しつつ、余計に何が隠されているのかが気になりだした。


「気の乗らない任務だったが……だいぶ面白いことになってきたじゃないか…」


ゼロはニヤリと笑い、メカニロイド達からの集中砲火を躱す。それから大蛇が放つレーザーを掻い潜り、パンテオンの軍勢へと飛び込み、高速回転斬り「円水斬」により近づく敵を薙ぎ払う。

周囲のパンテオンを気にも留めず、大蛇はゼロへと向かい口を開けて襲いかかる。ゼロがその場から上空へ跳ぶと、周囲のパンテオンだけが犠牲となる。そしてそのまま大蛇の身体へと着地した。


「それなりの乗り心地だな……。ぶち壊すのがもったいないぜ…」


大蛇へのダメージを厭わずに、強化型のゴーレムが放つ雷を纏ったレーザーを、ゼロは大蛇の背を駆けながら躱す。その途上、ゼットセイバーを左腕へと収納する。そして左腕へとエネルギーを蓄積する。

しかし突如、己の危機を察知したのか、大蛇の身体は再び分離した。ゼロはブロックの一つに振り落とされないよう慌ててしがみつく。だが、それすら計算済みである。


「まずは一つ!」


左腕をブロックへと打ち付けエネルギーを直下に放出する。アースクラッシュのエネルギーを応用した必殺技――――天照覇の激しい輝きがブロックを貫き、真下にいる敵部隊までも破壊した。

それからヒラリと華麗に着地すると、またしても地面へと、今度は右腕を打ち付ける。もう一つのアースクラッシュ応用技、落鳳破がゼロへと襲いかかる2つのブロックと取り囲むメカニロイドたちを破壊する。


「一気に三つまで…か。それで……達磨はあと何個だい?」


挑発するようにそう言うと、怒りのままに唸る蛇へとゼットセイバーを再び構えた。







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