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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
73/125

14th STAGE [A]



―――― * * * ――――



「デュシスの森……?」


聞きなれないその名前に、ゼロは首を傾げる。「ええ、そうです」とエルピスがそれに答えた。


「こちらを見てください。協力関係にあるレジスタンス組織から頂いたものです」


エルピスはルージュに、そのレジスタンスから送られてきた画像データを送信するよう命じた。

画像が送られて来たことを確認すると、ゼロはそれを眺める。人工物ではあるが、緑が生い茂る森林地帯。その奥に、似付かわしくない無機質な建物が僅かに見える。


「こいつは……」


「おそらく、ネオ・アルカディアの秘密研究所でしょう」


確証があるわけではないが、マップデータ上でデュシスの森の位置を見る限り、あまり戦略的に価値のある場所ではないように思われる。そんな場所に立てる施設と言えば、秘密研究所やそれに伴なう実験施設といったものの可能性が高い。


「ゼロさんの今回のミッションは、音信不通となってしまった彼らの調査隊――――おそらく全滅していると思いますが――――の捜索と、デュシスの森にあると思われる秘密研究所の調査及び、必要であれば、その破壊です」


それだけ知らせると「それではお願いしますよ」と映像通信を一方的に打ち切った。


「なんだかご機嫌がよろしくないように見えたのですが……気のせいでしょうか?」


ペロケがエルピスの様子を心配して問いかける。ゼロは「さてな」と肩をすくめた。


「大方、先日のマゴテスの一件が気に食わなかったんだろう」


ゼロのみならず、白の団に対するマゴテスの裏切り行為。そして白の団司令官であるエルピスに相談することなく行われたペロケとの極秘作戦。エルピスが気分を害する要素は確かにあった。


「悪い影響が出なければいいのですが……」


「まあ、あいつも“一人のまともなレプリロイド”だってことさ。気にしたって仕方ない。情報の整理、よろしく頼むぜ」


そう言って部屋を出てゆく。ペロケは「了解しました」とキーボードに向かい、白の団より送られて来たデータの整理を始めた。

なんとも奇抜な名前を付けたものだと呆れながら、ゼロはエルピスから聞かされたその名をもう一度だけ呟く。


「デュシスの森……ねぇ……」


聞き慣れないものは、言い慣れるにも時間がかかるのだろうと思いながら、頭を掻いた。







14th STAGE



    証明









――――  1  ――――



過去の戦争が原因となり、荒廃してしまった大地。しかし、影響の少ない地域というのは確かにあり、ここデュシスの森と呼ばれる森林地帯もその一つだった。

とは言え、この森が“本当の自然”であったのはさらに――――それこそ、レプリロイドの先祖とも言うべき自立思考型ロボットが誕生するかしないかという程――――昔のことであり、既にその九割以上が機械化されていた。だが、現在の厳しい環境に耐え、森としての形を保っていられる理由がそこにあるのだ。


手前の岩場でライドチェイサーから降りる。風呂敷のような布を上から被せ、スイッチを押す。すると、光学迷彩が作動して周囲の風景に溶け込み、ライドチェイサーの車体は視覚的に隠蔽された。


茂みへと足を踏み入れる。

そこら中に生えている草や、曲がりくねった形で成長している樹木、それに生い茂った葉、垂れ下がった蔦などが不気味さを感じさせる。


「デートコースには…あまりよろしくないかもな」


ゼロがそう冗談めかして笑うと「『あまり』っていうか、全然よくないわよ」とレルピィは不満そうに口を尖らせた。

マップデータを確認してみる。研究所と思われる施設の正確な位置データまでは取得できなかったようだが、ジョーヌ達の解析から凡その見当はつけられているので、最終的にはそこへ向かえば良い。とりあえず一応とは言え、まずは調査隊を探すところから始めなければならない。

奥地へと進むに連れ、道が迷路のように入り組んでゆくのが分かる。正確な経路情報を注意して記録しながら進む。

やがて、さらに奥深くへと進むと、昼間だというのに日差しの明るさがまるで感じられない程、周囲は薄暗くジメジメとしてゆく。


「……さて……ここが敵の勢力圏内って言うんなら…そろそろ――――」


続きを言いかけたところで、突如、ゼロへとエネルギー弾が放たれた。その弾道を一瞬で読み、素早く躱す。

茂みから現れたのは数十機のメカニロイドだった。


「噂をすれば…ってやつだな」


「じゃあ、しなきゃよかったのに」と尚も不満そうなレルピィに「ちょっと静かにしとけよ」とコアユニットへ入るよう促す。そしてそれを確認すると、左手へと右手を添える。

刹那、ゼロは緊急加速装置を作動させ、敵陣の懐へと潜りこむ。その速度に反応できるものは勿論いない。そして、抜き出す勢いそのままに居合い斬りをお見舞いすると、五機ほどが同時に両断された。


そこからの手並みはいつも通り鮮やかなもので、放たれる敵の弾に掠り傷一つ負うこと無く、あっという間に敵のメカニロイドたちを全滅させた。


「あたし……ちょっと敵のメカニロイドが可哀想になったわ」


「おいおい、同情なんかくれてやるなよ。あっちもこっちも果たすべき使命と覚悟があってのことだぜ?」


更に先へと進んでゆく。急にゼロは木の影に身を隠した。レルピィも慌ててその後ろに隠れる。

目を遣ると、緑色にカラーリングされたパンテオン達が地を這うように蠢いていた。その手には鋭く大きな爪を装備しているのが分かる。

しばらく見ていると、何かを探すようにあたりを見回しているのが分かった。


「……生存者の捜索中か」


どうやら敵も、万が一の生き残りですら赦すつもりはないらしい。それだけ重要なものがここにはあるのだろう。

ゼロは再びゼットセイバーに刃を形成させると息を整える。


「ダーリン、上!」


斬り込もうとしたゼロの頭上から、一機のパンテオンがその爪で斬りかかってきた。レルピィのおかげか、ゼロは危なげなく躱すとゼットセイバーで一太刀のもとに斬り伏せる。


「サンキューな。……けどまあ」


既にパンテオン達がこちらを向いている。


「先手は取れなかったみたいだ」


そう言いながら不敵に笑い、パンテオンの群れへと斬り込んだ。

奇声のような声を上げながら、草むらから次々と飛び掛ってくる「パンテオン・ホッパー」部隊。不規則なリズムによる集団攻撃は、これまで相手にしてきたパンテオンとは戦闘パターンが全く異なっていた。だが、ゼロの感覚を持ってすればその程度のことは問題とならなかった。向かい来る敵を次々と斬り伏せ、十分とかからない内に全滅させてしまった。


「さてと……こんなもんか……」


そう言いながら、ゼットセイバーを軽く一振りして左腕に収納する。見事な手際に感嘆するレルピィを他所に、更に先へと進んでゆく。すると奇妙な場所にたどり着いた。

息を飲み、辺りを見回す。そこは、木々が乱暴に倒され、足元を覆っていた草は荒らされ、隠れていた茶色い土がむき出しになっている。カーブを描きながらも一本の道のようにして、そうした光景が広がっていた。まるで、巨大な何かを引きずったように。


「ねえ、ダーリン……あれ」


レルピィが差し示す方へと目を凝らす。そこには数体のレプリロイドが倒れているのが見える。その服装から、おそらくレジスタンスの調査隊であることは分かった。

しかし、一人として無事な状態ではなく、ある者は胸に大穴が空き、ある者は腰から下をなくしていた。ゼロはいったい何があったのかを推測するために、彼らに近寄り、傷の様子を確かめようとした。――――瞬間、背後の樹木が鈍くも激しい音を立てながら倒された。そして、自分へと迫り来る巨大な何かを既の所で躱し、ゼロはその正体を確認する。


そこに現れたのはヘビ型の巨大メカニロイドだった。

大きな牙に紫色の瞳。鱗のような深緑の装甲。ブロックのような塊が数珠のように繋がり、長い身体を形成している。

周囲の状況から見て、こいつが調査隊を襲ったのだろう。


「番犬にしちゃ、図体がデカすぎると思うがな」


不敵に笑いながらそう言うと、ゼロはゼットセイバーを手に、立ちはだかる大蛇の懐へと飛び込んだ。







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