13 [E]
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気がつくと、仰向けに寝転がっていた。自分を見下ろす金髪の男の姿が目に入る。
「ヘヘッ……見事だぜぇ……チクショウめ…」
そう悪態をつきながら、尚も笑う。
ファーブニルの全力の拳を躱したゼロは獄門剣同様、その勢いを逆手にとったカウンターパンチを顔面にヒットさせた。とてつもない衝撃に、ファーブニルは意識が飛び、そのまま崩れ落ちたのだった。
咄嗟に感じた悪寒に従っていれば、このような無様な敗北を味わってはいなかっただろう。だがそれでも、あの一瞬に全てを懸けてみたかった。自分の直感を超えて、新たな何かを掴み取ろうとした。――――その結果の敗北ならば悔いはない。
「ほら……トドメでも何でも刺しやがれよ…」
決して諦めではない。倒れこみはしたが、正直の所まだ戦える力は、僅かだがある。
しかし、自分は負けた。それ故に、潔い幕切れを望むのだ。
だがしばらくして、何を思ったのか、紅いイレギュラーは背を向け、歩いてゆく。そしてひっくり返ったままのライドチェイサーを立て直すとそのハンドルを握り、押して歩き始めた。
ファーブニルは上体を起こし、「おい」と呼びかける。すると、彼は足を止めた。
「情けなんざかけられたくねえんだよ…俺は――――…」
「借りを作りたくないんだよ」
ポツリとそう答える。
マゴテスの部隊への攻撃のことか或いは、ソドムを投げ捨て拳での戦いを提案したことか、どちらかは分からないがファーブニルは納得できなかった。
「“借り”なんて………そんなつもりはねえ!!」
「お前さんにそのつもりがなかろうが、こっちは嫌なんだよ」
笑いながらそう答える。それから「それに」と付け加える。
「いずれ、本当の決着をつけようじゃないか。邪魔者抜きで…さ」
「『本当の決着』……」
思わず繰り返す。
「そうさ、ファーブニル。覚えておけよ」
そう指を差されながら、名を呼ばれる。呆然と口を開けた後、「フッ」と微笑む。
「テメエこそな……“ゼロ”。絶対にぶっ潰してやるから覚悟しときやがれぇ」
そう答えると、ただライドチェイサーを押して歩く背中を見つめた。それが小さく、見えなくなってゆくまでずっと、見つめ続けた。
それから、じわじわと込み上げてくる不思議な感覚に、笑いが漏れる。
「ブハッ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハ…」
そのまま大笑いしながら再び倒れこんだ。
見上げた空は、変わらず青いままだった。
―――― * * * ――――
「お待ちくださいヴィルヘルム卿!」
公安委員会が派遣した特務警察にその身を抑えこまれ、マクシムスは必死に訴える。
マゴテスの証言を元にマクシムスへの捜査令状が下ると、過去数年分の通信記録等の調査の末、有罪と決定。その身柄拘束に乗り出した。
その訴えに対しヴィルヘルムは冷酷な視線を投げる。
「貴様には失望したぞ……まさか元老院議長でありながらレジスタンス共と繋がっていたとはな」
「なぁ!?」
無論、今回の作戦の立案はマクシムスからであったが、ヴィルヘルムも協力をしていたのは事実だ。だが、その物的証拠はない。
「ヴィルヘルム卿……貴様はぁ……」
だらしない身体ではあるが百キロを超える醜くも大きな体を揺らし、警官たちの腕に抑えられながらヴィルヘルムへと詰め寄ろうとする。
「貴様こそ!貴様こそ真の謀反人であろう、ヴィルヘルム!ネオ・アルカディアの変革を誰よりも先に説いたのは貴様であったろうがぁ!」
「…くだらぬ言い訳は見苦しいぞ……マクシムス。そのような証拠があるならばこの場に出して見せい……」
「こ……こぉの老いぼれめがぁ!!」
叫びと共に警官たちを振り切り、ヴィルヘルムへと飛び掛かろうとする。だが、その一瞬に轟音が鳴り響く。すると、胸に手を遣るような動作をした後、白目を向いて、マクシムスの身体が虚しく崩れ落ちた。
ヴィルヘルムは懐から取り出した拳銃で、その脂肪に包まれた胸部を撃ちぬいた。
「この肉塊を処理しておけ」
警官たちにそう冷静に指示をする。
「哀れなものよ……快楽に興じた挙句“愛玩用レプリロイドの一体に叛意を持たれ、殺されてしまった”とはな……」
その言葉に警官は頷き、マクシムスの寝室へと向かった。その後、女性型レプリロイドがその警官の手により引き摺り出されたのは言うまでもない。
「……さて…非業の死を遂げたマクシムス卿の為にも…早急に元老院議長の空席を埋めねばな」
ヴィルヘルムはそう言って「フッ」と鼻で嘲笑うと、その場を後にした。
―――― * * * ――――
「チク……ショウ」
アシルに肩を支えられ、マゴテスは身体を引きずるようにして歩く。
闘将の攻撃に、辛うじて生き残った部下たちも半数が死に絶えてしまった。
「こうなったら……白の団だ…」
白の団へと要請し、救援を出してもらおう。そして、紅いイレギュラーが知らせるより早く、奴の反乱を捏造し、言いくるめる。そして再び返り咲こうじゃないか。
いや、それよりもあの組織の本拠地をネオ・アルカディアへと垂れ込むのもいいかもしれない。そうすれば所属している紅いイレギュラーも行き場を失う。
「クッ……クククッ……フハハハ」
――――まだ終わらんよ……私の覇道は……
いずれ天へと駆け上るこの私がこのような場所で朽ち果てる運命にあるわけがないのだから――――……‥
「何だ貴様!?」
突然、耳元でアシルが声を上げる。考えを巡らせていたマゴテスはそちらへと視線をやる。
そこに立っていたのは、不気味な仮面で顔を隠した、漆黒のコートを纏う謎の男。
「名乗れ!でなければ……敵とみなす!」
アシルが片手で指示をすると、後方にいた部下たちがライフルを構える。――――次の瞬間、男の姿が消えた。
「……何がどうなって――――……‥!」
刹那、後方の部下たちは一斉に、まるで死んだように倒れこんだ。
そしてアシルもまた、首筋に何かを当てられて倒れこむ。支えをなくしたマゴテスも一緒に倒れてしまう。
「おい!?なんだ……!?なにがどうした!?」
理解が追いつかない事態に、マゴテスは困惑した声を上げる。すると、背後に先程の男が立っていた。その恐怖に、思わず飛び退く。
「き……貴様がやったのか……?」
「……安心しろ…御主らを斬るつもりは無い…」
表情が分からぬ仮面の下から、冷たい声が聞こえてくる。
「………我が刃を汚す気はないのでな…」
「ヒッ…――――……‥ッ!!」
そのまま手刀を当てられ、マゴテスは他の部下同様に意識を失った。
それから仮面の男は歩を進める。ファーブニルの元へと、無駄のない足取りで。
ファーブニルも男の接近を感じ取り、寝そべったまま視線を向ける。
「………よぉ、どうしたよ…?」
その目的を尋ねるが、ある程度の検討はついていた。
「……“敗北者は赦さず”ってとこだろぉ?……一思いにやっちまってくれよな…」
そう言って目を瞑る。
再戦を誓い合った直後だというのに――――全く、不運なことだ。しかし、それも仕方がない。どの様な形であれ、思いのままに私闘を行い、そして負けた以上、その報いは受けなければならないのだ。
だが、男は一向に刃を取り出す気配を見せない。じっとファーブニルを見下ろしたまま動かない。
それからしばらくすると、仮面を外してコートに仕舞い込み、手を差し伸べてきた。
普段の彼の印象からは想像つかないその行動に、ファーブニルは呆気にとられてしまう。そして、思わずその手を掴み、引き上げられながら立ち上がる。
そして肩を支えられたまま、歩き始めた。
「……どうして…だ?」
理由がどうしても分からず、問いかける。すると彼は小さく微笑んだ。それは今まで一度も見せたことのない表情だった。
「…………御主は己が背負った宿命のために闘ったまで……。……結果はどうあれ…それを罰する資格を拙者は持ちあわせていないので…な」
ファーブニルにはそれでも意味が分からなかった。しかし、支えてくれているこの体の存在こそは確かだった。それだけで十分なのかもしれないと思った。
「へッ……なんだかよく分からねえけどよ…………」
はにかみながらも口を衝いて出たのはただ一言。
「…………あんがとな」
心からの感謝だった。
やがて風に掻き消されるまで、広大な砂漠に並んだ二人の足跡は、どこまでも続いていった。
NEXT STAGE
証明
・12tn STAGE 「ウラギリ」
コンセプト話とでも言いましょうか。
基本的に話の道筋を考えてから題名を決めるのですが、この回はまず題名から決めました。
原作をプレイしたことのある方なら分かるでしょうが、評価の一つ「ウラギリ」です。そのままですね 笑
タイトルから、とにかく至る所に「ウラギリ」を仕込むというのが目標に。
ちなみに「マゴテス」はその為に考案したキャラだったり 笑(名前を逆から読むと……)
マゴテスの裏切り、ゼロの裏切り、元老院によるイレギュラーハンターたちへの裏切り……
あなたは一体幾つの“裏切り”が見つけられたでしょうか?
もしかしたら私が気づかずに冒してしまった裏切りもあるかもしれません...
ちなみにマゴテスとゼロとの会談部分については、この作品において私が描きたいことの一端が確かに表れたように思います。
胸に留めて今後を読み進めていただけると、より楽しめるんじゃないでしょうか。
・13th STAGE 「闘将」
ファーブニルのデザイン画同様、描いていたら化けた話。
当初は戦闘シーンばかりで、たぶん三部分くらいで終わるんじゃないかな…なんて思ってたら、ファーブニルが予想以上に愉しく動きまわり且つ、悩める男だったおかげでそこそこ中身のある話に。
個人的には、彼を想って黄昏るレヴィアタンの描写がお気に入り。「あ、入れてみよ」と思ってやってみましたが、正解だったんじゃないかなあと。
あとは、最後の場面。この二人のツーショットってあり得ないだろうなって思ったから、「むしろアリだな」って 笑
ゼロとの決着については、とにかく「ファーブニルが生存するためにはどうすればいいか」から考えました。
で、エックスのDNAデータ云々の話と「ウラギリ」の回から繋げるという構想に至り、マゴテスさん最後の悪あがきに至ったわけです。
なんにしても、書いていてとても楽しめたお話。
旧版の方では構想中に、うまく話がまとめきれていなかったのに(結局ここまで話が至らなかったしね)
ようやくここまでで予定の三分の一を消化できました。
まだまだ先は長いなあ 汗
懲りずに、飽きずに、見捨てずに、これからも応援お願いします。
そうそう、どうでもいいことなのですが…個人的に主題歌にはGLAYの「coyote, colored darkness」を推します。
スピード感もいいのですが、「紅」「蒼」「黒」等、物語に重要なカラーが歌詞内に散りばめられていて、自分は話の情景を思い浮かべながら聴いていたりします。
ぜひぜひ聴いてください
では、また次のお話で