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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
71/125

13   [D]



――――   4   ――――



「クッ……クククッ………フハハハ…… ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!」


射線を辿り、その方角を見上げると、丘の上に狂ったような高笑いを上げる男が、二十人程の部下を連れて立っていた。


「ザマあないなぁ!紅 い イ レ ギ ュ ラ ァ ァ ァ !」


その言葉に比類なき怨念を込め、現れた男――――マゴテスは笑い続けた。

ファーブニルは呆然と立ち尽くしたままマゴテスを見つめ、その後、撃ちぬかれたゼロの方へと視線を移した。

突然過ぎる不意打ちから察するに、ダメージは相当なものだ。しかしコートにより軽減されたおかげか、なんとか生きていたらしく、よろけながら立ち上がろうとしている。


「この私を出し抜こうとした報いだぁ……クハハハハハハハハハ!!」


「チクショウ……ちゃんと仕事をしてくれよな…イレギュラーハンターさんよ……」


打ち所が悪かったのか、左腕が上手く動かない。また、衝撃のせいで、ゼットセイバーのエネルギーラインにも支障を来したらしく、出力異常が起こっている。


「所詮はイレギュラー……貴様ごとき雑兵がこの私に敵うはずもないのだよぉ……ええ?」


そう言って、片手で射撃準備の指示を出す。それに従い、部下たちも手にしたライフルの銃口をゼロへと向けた。


「……天に昇りしこの私に逆らおうとした愚か者がぁ……その罪は測りしれんぞぉ?」


気違い染みたその表情は、まるで悪魔が憑いているかのような悍しさを感じさせる。


「……死んで罪を償えぇえ!紅いイレギュラァぁぁぁぁあああぁあぁ!」


マゴテスの絶叫と共に、ライフルのトリガーが再び引かれた。















「 ク ソ ッ タ レ が ぁ あ あ あ ぁ あ あ ぁ あ あ あ ぁ あ あ ぁ あ あ あ ぁ あ あ !!!」
















ファーブニルの咆哮と共にソドムの口からマゴテスの部隊へと無数の炎弾が放たれた。

激しい爆音と巻き上げられる砂塵。それらに塗れ、相手が視認できなくなっても尚、ファーブニルの怒号と炎弾の乱射は続いた。


やがて、ソドムのエネルギー残量が底をつく。カチカチと空のトリガーを十回以上引いた後、ファーブニルはようやくその腕を下ろした。


先ほどまでマゴテス達の姿が見えていた丘は大きく形を変え、そこには人っ子一人、影も形も見当たらなくなった。


「……ハァ……ハァ……ハァ……」


叫び終えると、ファーブニルは切れる息を落ち着かせようと深呼吸をする。そしてようやく落ち着くとまたしても「チックショォォ!」と叫び声を上げた。その声は悲痛な響きを秘めていた。

そうして一仕切叫び終えた後、ゼロを見つめる。それからソドムを投げ捨て、戦闘用のジャケットをショルダーアーマーごと脱ぎ捨てた。上半身が露になる。


「五分……とは言えねえか…」


落胆したような声でそう呟く。すると、ゼロは「いや」と言葉を返す。


「問題ない……かかって来いよ。本気出でさ」


出力以上を起こしたゼットセイバーを左腕に仕舞う。ボロボロの体だが、かろうじて右腕のアースクラッシュの回路は使える。

片やファーブニルは、身体の状態は安定しているが、武器を持っていない。


「ヘヘッ……ならよ……“こいつ”でケリつけるか…」


そう言って拳を示す。ゼロはそれに対し強く頷く。


「とは言っても…悪いが俺は、使えるもんは使わせてもらうぜ?」


「構いやしねえよ……それでも俺は絶対に負けねえ」


互いに笑みを浮かべる。

不思議な感覚だった。湧き上がる高揚感は、決してファーブニルだけが感じているわけではなかった。ゼロもまた、この勝負に水を差されたことに怒りを感じ、そして真っ当な闘いの末に決着をつけることを望んでいた。


互いに拳を握りしめ、相手を睨みつける。そして、力強く地を蹴ると、一気に接近した。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアァアアァ」


ファーブニルの連打を軽いフットワークで躱す。そして、一気に伸びきった右腕を掻い潜り懐に一撃を加える。強力なボディーブローはファーブニルの巨体を跳ね上げ、後方へと退かせた。

だが、それでもファーブニルは臆す事無く、左足を軸にして回し蹴りを繰り出す。咄嗟に左肩でガードをしたが、ゼロはそのまま弾き飛ばされ地面に転がった。

右手を付き、上体を起こす。それに向かってもう一度距離を一気に縮めようと駆け出すファーブニル。飛び込んできた彼に対し、ゼロはアースクラッシュを発動させた。

崩れる足場と、巻き上げられる砂塵。だが、ファーブニルはそれでも正確に、後方から奇襲を仕掛けようとしてくるゼロの存在を感知し、彼の右腕をガードする。――――が、そのままガードした腕を鷲掴みにされ、投げ飛ばされた。

宙に浮いたファーブニルの身体へ追撃をかけるゼロ。だが、地面へと叩きつけようと繰り出した左足を、今度は逆に掴まれる。そして反動を利用し、体勢を入れ替えられ、そのまま地面へと投げ飛ばされた。

右腕に残していたエネルギーを放ち、その衝撃で、かろうじて直接的なダメージを避ける。地面を転がり、そのまま起き上がると飛びかかってきたファーブニルに対し足払いをかける。倒れこんできた顔面に向けて右ストレートを放った――――が、既の所でファーブニルは左腕を地面につき、力尽くで飛び退き、攻撃を躱した。


互いに立ち上がり、体勢を立て直す。


「ハハッ……紅いイレギュラーよぉ…やっぱりテメエは面白いぜぇ」


「俺は何も面白かないけどな……。次で決めてやるよ、暴れん坊将軍殿」


「そいつはコッチの台詞だぜぇ?」


そう言って、己の持てる力を拳に注ぐ。実際、ダメージ的に優勢なのは間違いない。しかし、それでも簡単に勝利を掴ませてはくれないだろうことが身体中のセンサーが知らせていた。――――だからこそ“面白い”。


「ようやく十年がかりの願いが叶ったんだぁ……」


待ち焦がれていた瞬間。最高の一瞬。最上の相手と拳を交えるという、至福の時。十年の鬱憤が全て解き放たれる。


「けどよぉ……勝つのは…」


想いの全てを拳に込め、地を蹴り出す。


「勝つのは……こ の 俺 様 だ ぜ ぇ !!」


咆哮と共に駆ける。そして、構えるゼロへと向かい、拳を振り抜いた。




















――――俺は闘将、ファーブニル












闘うために生まれた力の化身。


それ故に、闘いのない一生など、何の意味もない。



勿論、救世主への忠誠は本物だ。


自身の任務の重要性も分かる。


けれど、“闘い”の中で生きられぬなら、生きていないのも同じこと。








しかしまあ……何とも笑える話だ。




闘争本能に特化し



“闘い”についてだけを思考するよう造られたというのに




この心は満たされぬ事への“嘆き”と“憂い”で



溢れ返っていたのだから……‥‥









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