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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
69/125

13   [B]



――――   2   ――――



右のランチャーの先端部がワニの顎のように大きく開き、身体を捉えようとしてくる。その攻撃を咄嗟に躱し、ゼロは左腕から一息にゼットセイバーを引き抜き、大きく斬りつけた。それをファーブニルは、ギリギリのところで地を蹴り、後方へと飛び退くことで躱す。


「へへっ……やるじゃぁねえか」


そう嬉しそうに言うと、舌舐めずりをする。まるで目の前に極上の肉料理でも見えるのかという程、その眼は輝いていた。


「とんだご挨拶だな……闘将さんよ」


臨戦態勢に入りながら、ゼロも口を開く。

自ら出撃し解放議会軍の本拠地を壊滅させたという話は聞いていたが、このようなところで出会してしまうとは思っていなかった。


「悪ぃ、悪ぃ。一応、試させてもらったわけよ。あんなもんでやられちまうような雑魚じゃあ困るからよ。まあ、俺の眼に狂いはなかったわけだが」


「いいのかよ、軍団の大将さんがこんなところに出張ってきてさ?」


痛いところを突かれ、ファーブニルは苦笑いをする。


「それな、実際やべえんだよ。俺様の軍団が一番デカイからよ。端まで気を配れるようにとかで、『後ろで指示出せ』ってハル公や元老院のジジイ共から言われてたワケ」


“ハル公”とは四天王のリーダー格である賢将、ハルピュイアのことだろう。


「けどよ、テメエの活躍聞いてたら居ても立ってもいられなくなっちまってよ。とりあえず手始めにマゴテスの野郎をぶっ潰してやろうと思ったわけさ。まあ予想通り、あの卑怯者は尻尾巻いて逃げやがったんだけどよ」


「そもそも、何故マゴテス如きがSランクイレギュラーと認定されたのか分からない」という風に、ファーブニルは肩をすくめる。どうやら彼にとって一軍を率いる智将というだけでは評価に値しなかったらしい。

同時に、隠密部隊である斬影軍団にすら行方が分からない程、息を潜め、身を隠しているベルサルクについても全く興味がないようだった。


「で、ちょいと愉快なパーチーが催されるって聞いてよ……なら俺様も参加させてもらおうかなぁと思ったら――――案の定、テメエが出てきてくれたのよ」


ニヤリと笑いながら、右腕のランチャーでゼロを指し示す。

無論、第十七精鋭部隊が作戦を展開するという事実以外の詳細――――マゴテスとマクシムスの謀略など――――は全く周知されていなかった。それでも「何かある」と感じて足を運び、ゼロを見つけたことを「案の定」と言い切ってしまう辺り、戦いに対する嗅覚は流石という外ない。

それ故に、ゼロにとってはこの軽い調子の男がとても危険に感じられた。


「……ってことは上の指示を無視してきたんだろ?……早く帰らないとヤバいんじゃないかい?」


「ご心配ありがとよぉ。……けど、もうたぶん遅いぜぇ。テメエに勝とうが、殺そうが、捕まえようが、軍団ほっぽり出して単独で出張っちまった以上、謹慎処分どころじゃ済まねえだろうなぁ」


自身の責任と、それを放り出した事への処罰の程度が分からないほど馬鹿ではないらしい。しかし、そんなことよりゼロが引っかかったのは、ファーブニルが「負ける可能性」について言及しないことである。「勝つ」か、「殺す」か、「捕まえる」――――どれも自分の勝利を固く信じているが故の言葉だった。


「だからよ……もう後には退けねえんだよなぁ」


そう言った瞬間、空気が変わる。ファーブニルの全身を、激しい闘気が包んでゆくのが分かる。

それを感じると、ゼロもまた、この闘いが避けては通れないものであることを確信した。


「なあ、紅いイレギュラーよぉ……俺はテメエと会うのが初めてな気がしねぇんだよ……」


それについてはゼロも同意見だった。「初めてではない」どころか、この数分の遣り取りだけで、とても親しい相手であるような気すらしていた。出会い方が違っていれば背中を預けあえる戦友となっていたのかもしれない。

しかしそれもその筈で、決して偶然からでは無い。何故なら四天王たちのDNAデータとそれに伴う精神プログラムは、ゼロにとってかつての友であった救世主の物を参考としていたのだから。


「だからよぉ、分かるんだよな……。こうして間近で会うと、ビンビンによ。テメエがどれだけ強ぇのか。テメエにはどれだけの力を出していいのか。俺様の持てる力をどれだけぶつけていいのか……がよ」


実際の所、その感覚は四天王全てが感じ得るだろうものではなかった。戦闘に特化して誕生したファーブニルだけが持ちあわせる抜群の戦闘センス、戦士としての嗅覚がその感覚を助けていた。


「だからよぉ……嬉しいぜぇ。テメエがこうして現れてくれたことがよぉ」


両のグリップを握りこみ、トリガーに指をかける。


「俺は、できればお前とはこんなタイミングで会いたくはなかったけどな」


そう本音を言いながらゼロもまた、ファーブニルから視線を、文字通り一ミリも逸らさないまま、ゼットセイバーの柄を握り締める。


「ハハッ……人生ってやつはいつだって突然の出来事ばかりで溢れてるんだぜぇ……この命だって、いつ何がきっかけで燃え尽きちまうか分からねえし、この世界だって明日にはないかもしれないんだぜぇ?だからよぉ……」


二つのランチャーをゼロへと向ける。ゼロも両足に力を込める。






「――――この一瞬を遊び倒そうぜぇえぇええぇっ!!」






咆哮とともに銃口から、炎弾が絶え間なく放たれ始めた。


「オラオラオラオラオラ………オラオラオラオラァァアァァアァ!!ヒャーーーーーーーーッハッハッハッハッハァァアァァアァ!!」


狂ったように笑い声を上げ、炎弾を撃ち続ける。地表に着弾した炎弾は爆炎を放ち、砂埃を巻き上げる。視界を覆うほどの砂塵に気にも留めず、ファーブニルは狂ったようにトリガーを引き続ける。

そして、後方より振り下ろされる緑の閃光。今までの相手であれば、例え最も苦戦を強いられたあの黒豹であろうと絶対に捉えられるであろう、そう言う一太刀をゼロは放った。――――筈だった。


「……ッ!?」


どこに眼をつけていたのか。どうやって察知したというのか。砂埃に紛れたゼロの一撃に対し、ファーブニルは身を翻し、右腕のランチャーから炎を刃のように吹き出してその一太刀を防ぐ。そして左のランチャーがまたしてもゼロの身体を捉えようと口を開けて襲いかかる。

ゼロは万が一に備え、僅かに貯めていた左腕のエネルギーを放った。小さな爆発に身を任せ、後方へと飛び退く。そのエネルギー波がファーブニルのはだけた胸元に浅くも確かな傷を与える。


「ハハッ!クソッ、痛ぇっ!ヒャハハハ!痛ぇッ!」


そう言いながら顔はとびきり嬉しそうに笑っていた。まるで親からプレゼントを受け取る子供のように。

二つのランチャーの銃口を合わせ、エネルギーをチャージする。その危険性を察知して、ゼロも左腕にエネルギーを貯める。


「痛ぇッ!痛ぇぜぇ!紅いイレギュラーよぉぉぉぉおおぉぉぉおお!!」


ゼロの身体すら包みこむ程、巨大な炎弾を発射する。咄嗟にアースクラッシュを放ち、応戦した。


炎弾とエネルギー波の衝突。そしてそれらが同時に弾ける光と爆音は、視覚、聴覚センサーに一瞬のノイズを挟ませる。――――そして気付いた瞬間、ファーブニルはその場にいなかった。


「ヒャァーーーーーーーッホォォオォ!!」


奇声とも取れる叫び声が頭上から聞こえてくる。見上げると、丁度真上に、ファーブニルの姿が見えた。南中した太陽の光線をその背に受けながら。ランチャーをゼロへと向けている


瞬間、ゼロはその戦闘センスに驚愕した。


間違いなく、ファーブニルのセンサーにも影響はあった筈である。その影響は、例えゼロほど優れたレプリロイドに対しても相手の動作予測を鈍らせ、自身の次の戦闘行動を決定するのに一瞬の躊躇を与える程大きいものだった。

しかし、ファーブニルのその行動には躊躇いがなかった。視覚、聴覚の狂いなど物ともせず、地を蹴り、敵の頭上に舞い上がった。――――そう、“視覚の狂いがあるにも関わらず、丁度真上に、ランチャーをゼロへと狙い定めて舞い上がった”のだ。


「弾けちまいなぁぁぁぁあああぁあぁ!!」


そして二門のランチャーから放たれる炎弾。それはまるで滝のように降り注ぐ。




立ち上る爆炎と、巻き上がる砂埃に、再びゼロの姿は見えなくなった。






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