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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
60/125

11   [B]



――――   2   ――――



レルピィが保持していたマップデータを元に出口を目指し駆け回っていたが、とうとう周囲をパンテオン達に囲まれ、道を塞がれる。三人は岩陰に身を隠し、何とか難を逃れる。


「くそ……ここからどうする!?」


「とにかくじっと耐えるの!今、ダーリンを呼ぶわ」


正面突破を図ろうかと身を乗り出そうとするロルフに、レルピィはそう言ってコアユニットからゼロへと通信を始める。セラは目を閉じ、祈るように両手を強く握り合わせていた。


――――アーク……


頭の中で呼ぶのは最も信頼し、大切に想っていた少年の名。きっと無事にいてくれること、再会できることを心から祈っていた。







鼻息と共に、両腕から氷の槍を発射する。ゼロはそれを華麗に斬り落とし、スタグロフへの懐へと潜り込むが、新たに生成された氷の槍がその勢いを削ぐ。また、それを防ぎきることができたとしても、両腕から殺気とも取れる違和感を感じ、再び距離をとってしまう。


――――あの冷気はヤバい……


両腕から先ほど放出されていた冷気の危険性に、そう直感していた。

ふと、耳元に通信が入る。


「ゴメン、ダーリン!囲まれたっ!」


その慌てように、事態の深刻さが窺える。ゼロは「問題ない」と落ち着くよう言い聞かせる。


「よく連絡してくれた、今そっちへ行く」


「『そっち』って……“どっち”だぁ!?」


そう叫び、スタグロフが一気に間合いを詰める。しかし、ゼロは既に次の手を打っていた。

左腕に高速で蓄積されたエネルギーを、足元へと放出する。瞬間、地面が大きく崩れ、エネルギーの放出に合わせて岩盤が弾け飛んだ。

フラクロス戦におけるアースクラッシュの用途について事前情報を得ていたスタグロフは、そのエネルギーを感知すると、咄嗟に後ろへ飛び退いていた。そして光量に視覚が刺激されることと敵の追撃を警戒し、両腕から氷の盾を生成し眼前に構える。――――しかし、ゼロが再び飛び掛ってくる気配はない。


「むふー……あの野郎ぅ……」


一通りの衝撃が過ぎたところでゼロの姿を探す。しかし、既にあの紅いコートはどこにも見当たらなかった。どうやら取り逃がしてしまったらしい。


「むふー………逃げられると思うなよぉ…」


基地のデータサーバーを介し、パンテオンたちの視覚情報や監視カメラの映像にアクセスする。そして逃亡する二人とサイバーエルフ、それにゼロの位置を確認する。


「ここは俺の基地だぁ……俺様が一番良く知っているんだよぉ…むふー」


横の壁から隠し通路へと入り、ゼロよりも早く、あの二人を捕えるべく駆け出した。





レルピィの位置情報を頼りに、駆けるゼロの耳に、新たな通信が入る。ペロケからだったが、ひどく慌てていた。


「すいません、ゼロさん!……アークさんが……」


「……っ!なんだと!?」


ペロケは手短に、アークが脅迫まがいの行動を起こし、空間転移装置を作動させ、スタグロフの基地へと乗り込んで行ったことを伝えた。思わず「ちっ」と一つ舌打ちをする。

「本当にごめんなさい」と深く謝るペロケに、「大丈夫だ」とわざとトーンを高くして答える。


「お前は何も悪くないさ。何とかしてみせる!」


そう言いながらも、新たに生まれた不安要素に、ゼロは焦りを感じずにはいられない。

そしてそれ以上に、少年の無謀な行動が悪い結果を生まなければ…とゼロはただひたすら願い、基地内をできる限りの速度で駆けるだけだった。


そんなゼロを足止めするように、パンテオン達が道を塞ぐ。


「お呼びじゃないんだよ!」


バスターを一斉に撃ち始めるパンテオンの群れの中心へと飛び込み、ゼットセイバーを構え、高速で回転する――――“円水斬”。その勢いに巻き込まれたパンテオン達は余すことなくズタズタに身体を引き裂かれてゆく。また、そうして生み出した隙を利用し、ゼットセイバーを左腕に素早く持ち替え、右腕にエネルギーを蓄積し、地面に打ち付け放出する。エネルギーは無数の光弾となって周囲へと飛び散る――――“落鳳破”。

忽ちの内に、周囲を囲み始めていたパンテオンやメカニロイド達はスクラップへと変えられてゆく。

その光景をリアルタイムで確認していたスタグロフはその戦闘力に感嘆すらしていた。


「流石だなぁ……紅いイレギュラー!しかしぃ…こいつらはどうだぁ!?」


ゼロが一際広い部屋へと足を踏み入れると、目前に五機の改良型ゴーレムが立ちはだかる。

口元が開き、冷気が漏れ出たかと思うとそこには巨大な氷の塊が生成され、ゼロ目掛けて発射される。咄嗟にゼロはゼットセイバーを構える。するとその刃は燃え盛る炎に包まれた。ゼロは一息で氷塊を破壊すると、炎の剣を手に飛び上がり、ゴーレムの頭部から足元まで、一直線に焼き切る――――“断地炎”。

他のゴーレム達は氷の槍をその両腕から飛ばすが、ゼロはそれらを鮮やかに掻い潜り、一気に足元へと潜り込むと炎の刃を上方へと向け、一気に飛び上がる――――“龍炎刃”。一機、また一機と持てる技を駆使して破壊し、五機のゴーレムを正に瞬殺してしまった。


『けれど、覚えておきなさい。私たちが追っている“あの男”――――“紅いイレギュラー”は今までのような手緩い相手ではないということを』


スタグロフはレヴィアタンの忠告を思い出す。確かにこの男の戦闘能力には計り知れないものがある。これをこのまま野放しにしていては危険極まりない。そしてまた、正面切ってぶつかり合ってはいけない相手だと理解した。


「むふー!一刻も早くガキどもを捕えてやるぅ!」


それを盾に戦えば、絶対に勝てる。そう確信し、全速力で走り続けた。


ふと何者かが基地内へ侵入したことを感知した為、監視カメラの映像へ直ぐ様アクセスした。


「むふー……何だあのガキはぁ……」


見たこともない少年レプリロイドが基地内を駆け回っている。咄嗟に「紅いイレギュラーの仲間では」と勘付いたスタグロフはパンテオン達に警戒するよう呼びかける。

指令を受けたパンテオン達は、セラ達を取り囲みながらも、その少年の接近に備えることにした。












―――― * * * ――――



基地内の煌びやかな輝きに目もくれず、アークはエネルギー銃を手に走り続ける。頭の中は、ただセラのことだけでいっぱいだった。


――――この基地の何処かに……セラが!


なんとしても自分の手で助けだすのだと強く誓い、走り続ける。

無謀であることは分かっている。ゼロに任せているだけでも上手く行ったのかもしれない。そんな風に思い、何度も足を止めてしまいそうになった。けれど、それでも彼女はきっと自分を待っているのだと信じて疑わなかった。――――そう思うことで、家族を失ったことへの悲しみに打ち拉がれそうになる自分を支えていたのかも知れない。


――――セラ…………セラ……!!


共に生き抜くことを誓い合った少女、誰よりも大切な彼女の顔を、瞳を、髪を、鼻を――――何度も思い出しては地を駆ける足に力が入ってゆく。疲労すら感じること無く、ただひたすら走り続ける。


――――俺が絶対に……!


膨らみ続けた気持ちは溢れ出し、己を奮起させるように、思わずその名を叫ぶ。


「 セ ラ ぁ ! !」


直ぐ近くまで迫っていた彼の反響する声に驚きながら、思わずセラは「アーク!」と彼の名を呼ぶ。ロルフやレルピィ、そしてパンテオン達もまた、その声の方へと視線を走らせる。

アークは微かに響いたセラの声を、確かにその耳で拾うことができた。そして、パンテオン達の姿を確認すると、エネルギー銃を前に向け、腹の底から叫びながらその引き金を引く。


「 う あ ぁ ぁ あ あ ぁ あ あ あ ぁ ぁ あ あ ――――!!」


警戒していたとは言え、突然の襲撃にパンテオン達は一瞬躊躇し、二機、三機とその頭部を撃ちぬかれる。慌ててバスターショットを放ち応戦すると、アークは咄嗟に身を庇うように地面を転がり、銃撃を掻い潜る。そして、セラたちの下へとあと一歩まで迫る。しかし――――


「アーク、駄目だ!」


ロルフの声にアークは、スタンスティックをその腕に装備し、飛び掛ってくるパンテオンの姿に気づく。避けるだけの余裕は何処にもない。

セラが悲鳴を上げる隙もないほどに、それは一瞬で訪れた――――









恐る恐る瞼を開くと、金の髪が鼻の辺りでくすぐったく揺れている。砕かれたと思ったその身体には、僅かな異常もない。


「馬鹿野郎……!」


そして耳に刺さるのは彼を叱咤する男の声。


「『仲間は必ず助けてやる』って言っただろう!」


「ごめん……なさい」


アークは思わず震える声で謝る。

高速で駆けつけたゼロは片腕でアークを抱き寄せ、ゼットセイバーを振るい、パンテオンの胴を断ち切っていた。

しかし、アークに向けられた攻撃は勿論、それだけではなかった。


「ダーリン!!」


レルピィが悲痛に叫ぶ。コートにより威力は大きく軽減されたが、ゼロの身体はパンテオンたちの集中砲火を浴び、その衝撃から内部へのダメージは無視できない。また脚部への一撃が、当たりどころが悪かったらしく、感覚が鈍ったことは否めない。


「喚くなよ、レルピィ……。全員、顔伏せてろ!」


ゼロは自分の背後にアークを降ろすと、ゼットセイバーを左腕に仕舞い、パンテオンの群れに向け両腕でアースクラッシュを解き放った。その破壊力は凄まじく、光りに包まれたパンテオン達は一瞬にして塵と化した。

この日何度目かの大技の行使に、ゼロは片膝を着いた。負担は大きく、疲労は隠せない。このような緊急事態でなければ、何度も使用すべきではないと改めて思った。

アークが、よろけるゼロの身体を支える。そして、尚も「ごめん」と謝り続ける。ゼロはその手を優しく振りほどく。


「言っただろ。……“命は一つしか無いんだ”。策もなく、敵陣に飛び込むんじゃない」


そう言って、頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でると、アークは小さな声で「はい」と答えた。


「アー……ク?」


セラが、彼の名を確かめるように呼ぶ。「本当にそこにいるのはあなたなの?」と大きな瞳が問いかける。ゼロは、少し戸惑うアークの肩を、優しく叩いた。それに押されるように、アークの足は前に出る。


「セラ……!」


アークは問いに答えず、代わりに名前を呼びながら駆け寄り、その小さな体を抱き締めた。セラもまた、アークを抱き締める。一言も言葉を交わすことなく、二人は再会の喜びを噛み締めた。


「よかったねぇ……」


レルピィがゼロの傍で呟く。幼い二人の再会は、何処か感動的だった。

しかし、喜びに浸っている場合ではない。


「悪いが、続きは後にしろ。早くここを脱出しないと、スタグロフが――――……‥」


言いかけた瞬間だった。

ゼロ達の向かい側の壁が素早く開く。そして、氷の槍が一直線に撃ちだされた。――――隠し通路からスタグロフはここまで辿り着き、機会を窺っていたのだ。

その槍の矛先は、アークを確実に狙っている。


「むふー……!このクソガキがぁ!!」


気に入ったセラに対し親しげに接するアークへの、理不尽な怒りからだった。


「クソ…………ッ!」


斬り落とすべく駆け出そうとしたゼロだったが、脚部の故障が響き、地面を上手く蹴れず、そのまま倒れこむ。「避けろ」と叫ぶが、突然のことに二人は身動きが取れずにいた。

二人の目と鼻の先まで槍が近づく。ようやく状況を理解したアークは、セラを守るべくその身を盾にした。








ズブリと、生々しい音が響く――――……‥







誰もが言葉を失った。

氷の槍は、咄嗟に二人を突き飛ばしたロルフの胸を、深々と突き刺した。

まるで永遠にも思える一瞬だった。


吹き出る鮮血が、光り輝くエネルゲン水晶を紅く染め上げる。

何が起きたのか思考が追いつかなかった少年と少女は、数秒で事態を整理した後、彼の名を大声で叫んだ。


その声は洞窟の奥まで、悲しく反響を繰り返した。










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