10th STAGE [A]
7/27:Illustrations([Z-E-R-O]の世界を生きるキャラクター達)数点追加
(ちょっといろいろありまして作業が遅れてしまいました…すいません。もうちょっとしたらまた足します。では、最新話をお楽しみください)
激闘編
―――― 1 ――――
エネルゲン水晶の眩い輝きに照らされる洞窟の奥――――自然物が織り成す芸術に取り囲まれていながら、それらとは遥かに対照的である、如何にも機械的な扉の中の暗い一室。彼は、仄かに部屋を照らしているモニター越しに自分の上司と向き合っていた。
「先日、ガネシャリフの三号機が破壊されたわ」
彼女が疲れ気味に話を切り出す。
「ガネシャリフ二体目の破壊に、元老院から情報運搬ユニットの見直しと、ガネシャリフ運用の一時凍結を言い渡されたの。おかげで戦略研究所から“ガネシャリフユニット”の改造案が提出されて、これからその視察に行かなきゃならなくて……」
「それは…面倒なことになりましたなぁ…」
彼は「むふー」と独特の鼻息を鳴らしながら労いの言葉をかける。
「そう、とっても面倒なことになっているのよ。だから、ねえ……私の言いたい事、分かるかしら?」
溜め息混じりに話していた彼女は、一変して妖艶な笑みを浮かべる。思わず彼の心臓部は大きく高鳴ったが、その笑みの奥に含まれる脅迫的な威圧感に気づくと、今度はゾクリと悪寒が走った。
「これ以上の失敗は赦されないのよ。私たち、“冥海軍団”には」
戦略上重要な位置にあったガネシャリフ二体の敗北は、彼女が指揮する冥海軍団にとって戦力的にも、評価の面でも、大きな痛手であった。
これ以上の失態があれば、元老院からの叱責、不信は免れず、今後の活動に負の影響が出ることは間違いないだろう。
「むふー……安心してください、レヴィアタン様ぁ…」
念を押す彼女の声に負けじと、彼はニタリとほくそ笑みながら答える。
「このブリザック・スタグロフ。あの鉄塊野郎のような失態は絶対に犯しゃしませんぜ……むふー…」
「頼もしい返事ね」
「フフ」と、妖将レヴィアタンは微笑む。しかし、すぐにその笑みは消え、レヴィアタンは眉を僅かに寄せながら「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど」と言葉を付け足す。
「それを言うなら、あなたのその“鬼畜な趣味”は程々にするべきだと私は思うんだけど……どう思う?」
痛いところを突かれてしまい、思わずスタグロフは鼻息を一際荒く鳴らす。
「むふー!…お言葉ですがねぇ…レヴィアタン様ぁ…。こう…暗い穴蔵の中にいたんじゃあ、ストレスが溜まっちまって仕方ねえんすよぉ…」
レヴィアタンはそれに呆れながら忠告する。
「いい、スタグロフ?『やめろ』とまでは言わないわ。『程々に』と言っているのよ。そんな趣味にかまけて警戒を怠れば、“あの男”はあっという間にあなたの喉元に迫って来るはずよ」
「大丈夫っすよぉ…その点はぁ」
「むふー」と殊更得意げに鼻を鳴らす。
「例え喉元まで迫ったとしても、そこで終わりっすよぉ…。ヤツがサーベルを振るより先にぃ、この俺の冷気がヤツを捉えるんすからぁ…」
またしても「むふー」と鼻息を鳴らす。自信満々に語るスタグロフだが、その目に宿っているのは決して慢心などではない、確かな勝機と殺意だった。それを認めると、レヴィアタンは満足そうに再び微笑む。
「ならいいわ。……けれど、覚えておきなさい。私たちが追っている“あの男”――――“紅いイレギュラー”は今までのような手緩い相手ではないということを」
「了解っす」とスタグロフが答えると、またしても妖艶な笑みを浮かべながら、レヴィアタンは映像通信を切断した。それからスタグロフは「むふー」と鼻を鳴らしながらゆっくりと振り返り、その部屋を出た。
部屋を出たスタグロフのアイカメラが光量を大きく絞る。煌々とした輝きがエネルゲン水晶に幾重にも反射し、洞窟の中だというのに、朝陽が差し込むテラスのように明るい。その通路を進んだ先にある、別の扉を開ける。そこから先は、地下へと暗黒に包まれた階段が続いていた。仄かに照らしているのは、頭上に備え付けられた数少ないパネルライトだけだった。
階段を下った先に、また一つ扉がある。スタグロフは電子ロックを操作し、その扉を開けた。すると、中には数十人ほどのレプリロイドたちが怯えるように縮こまり、肩を寄せ合っていた。
スタグロフはいやらしい笑みを浮かべ、その場にいる全員に聞こえるよう、声を上げる。
「むふー…!いいかお前らぁ!優しいやさしいこの俺様がぁ、お前らレジスタンス共に最後のチャンスをくれてやるぅ!」
その声に、レプリロイド達は皆「ビクッ」と肩を震わせる。
スタグロフはそれをニヤニヤと眺めながら、声高らかに宣言する。
「今から三十秒くれてやるぅ。その間に牢から出て、基地内を逃げ回れぇ!むふー…パンテオン共には動かないよう指示してあるから安心しろぉ!そして五分!……むふー……五分間逃げ切った奴はそのまま見逃してやるぅ。むふー……」
その提案に一人のレプリロイドが恐る恐る問い返す。
「ほ……本当に逃がしてくれるのか……!?」
僅かな希望に縋りつくその瞳に、スタグロフは極上の珍味を前にしたような舌舐めずりと共に答える。
「勿論だぁ…。むふー……俺様は優しいからなぁ。但し、捕まった場合は……」
端の方で身体を震わす少女型レプリロイドを一瞥し、殊更興奮したように大きく鼻を鳴らす。その鼻息に、少女はゾクリと悪寒を感じた。
「俺様の好きにさせてもらうぞぉ…?…むふー…!」
「他に質問はないかぁ?」とスタグロフはレプリロイド達に問いかける。希望を抱く者、その提案を訝しむ者、尚も恐怖に震える者――――それぞれ様々な反応を見せる。
ひと通り見回した後、それ以上質問が出ないことを確認すると、スタグロフは壁を力いっぱい叩く。
「むふー……それじゃあゲームを始めるぞぉ…!」
レプリロイド達は立ち上がり、駆け出す準備をする。皆、様々な思いを抱えながらも、「生きたい」という願いだけは共通に強く持ち合わせていた。
「ようい……スタートだぁっ!!」
その掛け声と共に、誰もが一斉に地を蹴り、駆け出す。共通に「生きたい」と願いながらも、「我先に」と狭い扉をくぐり、階段を駆け上がってゆく。しかし、数十人が一辺に通れる程の広さは当然ながら無く、窮屈に押し合い、すぐに道が詰まってしまう。
「……きゅぅう……じゅぅう……じゅぅういち……」
スタグロフがカウントする声が聞こえてくる。残り僅かな時間を聞き取ると、一人が「落ち着け」と声を張り上げる。だが冷静なその声も、「どけ」「邪魔だ」という乱暴な声にかき消されてしまう。
「じゅぅうよん……じゅぅうごぉ………むふー…」
突然、スタグロフは数えるのをやめ、考え込む。その不気味な様子に気づいたのは最後尾にいた者だけだった。
しばらく悩むようにした後、スタグロフはまたも鼻を鳴らし、意を決したように言い放つ。
「やめだ!長ぇ!……“三十”!!」
頭部側面に突き出ている筒に冷気を集め、一瞬にして氷柱を発生させる。そして、角のように生えた氷柱を前方に向け、最後尾にいた者の背中へと一気に突進した。
ズブリという鈍い音と共に、突き刺された者が悲鳴をあげる。尋常ならざる事態から忽ち悲鳴は伝染し、その場にいた者たちは激しい混乱に包まれた。
スタグロフは瀕死の標的を目の前から除けるように横へ突き飛ばし、更に先へ進んでいる者を突き刺してゆく。一人、また一人とその凶悪な突進の餌食となってゆく。
ようやく先頭にいた者たちが階段を抜け、エネルゲン水晶に囲まれた通路へと飛び出した時には既に十数人が犠牲となっていた。
「セラ!こっちだ!」
男性のレプリロイドはそう叫ぶと、少女型レプリロイドの手を引いて走りだす。
「ロルフさん、ちょっとまって」
歩幅の違いに、セラと呼ばれた少女は躓きそうになる。
その様子に痺れを切らし、ロルフと呼ばれた男性レプリロイドはセラを抱えて走ることにした。
「よく掴まってろよ!」
しばらく駆け回った後、基地内を警備しているパンテオン達の視界に入らないよう注意しながら、途中の岩陰に身を隠す。
その間も方々から耳を劈くような悲鳴が聞こえ続け、その度にセラは耳を塞いだ。
「とにかく……脱出する方法を考えよう」
自身を落ち着かせるように、ロルフは言う。
「『五分逃げ回れば…』なんて嘘に決まってる。なんとしてもこのまま逃げ出すんだ」
その為にはパンテオン達の視界や基地内の監視カメラにこれ以上写ってはならない。その情報はまちがいなくスタグロフに転送されているはずだ。
逃げ出す算段を立てようと思考を巡らすロルフ。だが一方、セラは既にこの絶望的な状況に打ちのめされていた。
「…むりだよ……ロルフさん…。そんなの…できるわけないよ」
「諦めるな」とロルフが声を荒げる。
「生き延びるんだ、なんとしても!……アークだって、どこかで必ず生きているはずだ。……会いたいだろう?」
「アーク」――――所属していたレジスタンス組織で、仲の良かった少年レプリロイドの名前を出され、セラは渋々頷く。
「会いたいよ……。けど、にげのびても…どこに行けばいいの?わたしたちの“家”はもう……」
セラとロルフが所属していたレジスタンス組織は、“レジスタンス”と呼ぶには烏滸がましい規模の、ネオ・アルカディアから脱出したレプリロイドたちの寄り合いの様なものだった。まともな反抗活動は出来なかったが、互いに家族のように寄り添い、温かい暮らしを築いていた。
しかしスタグロフ率いる軍団に襲撃を受け、僅かに生き残った者は、同じく襲撃された他のレジスタンス組織の構成員と共に、あの暗い牢屋へと押し込まれていたのだ。
この周辺のレジスタンス組織はもう壊滅的だろう。しかし、ロルフはその状況を理解していながらも、諦めてはいなかった。
「……“白の団”がある。他のレジスタンスへの援助も積極的に行なっているという噂のあそこなら、きっと俺たちを助けてくれる」
そうは言うものの、実際にはどうコンタクトをとればいいのかすら分かっていなかったが、ロルフは希望を持ち、生き延びる道をなんとか模索することにした。そんなロルフの姿勢に、セラもまた生き延びれることを信じてみようと思った。
その瞬間――――
「むふー……みぃぃつけたぁぁ」
醜悪な笑みを浮かべる牡鹿の眼が二人を捉える。咄嗟にセラは声をつまらせ、体を震わせる。そんなセラを守るように、ロルフが抱き寄せる。
「三分かぁ……むふー……。意外に持ったほうだなぁ……」
体内時計を確認し、二人の健闘を称えるように鼻を鳴らす。
「男の方は殺すとしてぇ……お嬢ちゃん……むふー…」
青ざめた顔で恐怖するセラへ、得意げに提案をする。
「頭を潰されるのとぉ…腹を裂かれるのとぉ…胸を貫かれるのとぉ……むふー……四肢を砕かれ、なぶり殺されるのとぉ…ネオ・アルカディアに帰って人間の慰み者になるのとぉ……どぉれがいぃい…?…むふー…」
想像するのもおぞましい提案の全てに、セラは激しく首を振る。
「…い…や…ぁ…!…どれも…いやぁ…!」
「畜生!この外道が!」
ロルフが怒りのままに吐き捨てるが、スタグロフはいやらしい高笑いを上げる。
「どれも嫌ならぁ…仕方ねぇ…。むふー…むふー……腹を突き刺して…死ぬまで俺の慰み者になってもらおうかぁ!」
今度は両腕に冷気を集め、氷の槍を形成する。それを二人へと向け、狙いを定める。
絶体絶命の状況に、セラはいつしか瞼を強く閉じた。ロルフは尚も、彼女だけでも守ろうと更に強く抱き締めた。
恐怖に包まれる二人を眺め、スタグロフは殊更大きく舌舐めずりをする。そしてそのぬるりとした悦楽の時から、更に強い一瞬の快感を味わうべく、「あばよぉ!!」という掛け声と共に両腕を一息で前に突き出した。
刹那、横切る鮮緑の閃光――――
セラは恐る恐る、その瞼を開ける。気づけば、抱き締めるロルフの腕から力が抜けていた。しかしロルフもまたセラ同様に確かな温度を放ち、生きていた。
ロルフが呆然と見つめる先へと、セラは視線を移す。そこに、見えるはずのスタグロフは見当たらず、代わりに見えたのは真紅のコート、流れる金髪――――……‥
「ちょいと“おいた”が過ぎるぜ?――――なあ、ブリザック・スタグロフ」
その声は、その場を包む絶望を切り裂くように、凛と響く。
氷の槍を防ぐ、その右腕が握り締める剣から発せられる激しい輝きは、辺りを囲むエネルゲン水晶に反射し、殊更眩しく見える。
「き……キサマはぁ…!…むふー……!」
驚きの鼻息を漏らすスタグロフに、“彼”は嘲笑とともに言い放つ。
「その荒い鼻息も…どうにかした方がいいぜ。すんげぇ気色悪いからな!」
そう言ってビームサーベルを勢い良く振り切る。咄嗟にスタグロフは後方へと跳び退く。
「さあ、もう大丈夫だ」
スタグロフへの警戒を怠らないよう注意しながら、背後の二人に視線を遣る。鋭い闘気を含みながらも、温かい眼差し。
「あなたは……?」
問いかけるロルフ。その隙を突いてスタグロフが跳びかかる。思わずセラが「あ!」と声を漏らすが、“彼”は危なげ無く、その攻撃を再び防ぐ。激しい鍔迫り合いすら物ともせず、そのままロルフの問いに答える。
「名乗る程のもんでもないさ。……けどまあ……そうさな、今の呼び名は――――」
ぐっと踏み込み、空いていた左腕をスタグロフへと突き出す。そこに収束されたエネルギーの危険性に気付いた瞬間、小さな衝撃と共にスタグロフは後方へと激しく弾き飛ばされた。
「――――“紅いイレギュラー”さ……」
不敵な笑みを浮かべ、紅いイレギュラー――――ゼロは強く地を蹴った。
10th STAGE
紅いイレギュラー