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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
44/125

8th STAGE [A]

 


―――― * * * ――――



作戦の経過を管制室で確認していたエルピス達は、その強大なエネルギー反応に驚愕した。輸送列車の反応はあっという間に消失してしまった。


「ゼロさんは!?」


ジョーヌが目を凝らしてモニターを見つめると、ゼロの反応は確かに確認できた。オペレーター達はほっと胸を撫で下ろす。しかしまだ安心するのは早いと、エルピスは気を引き締めるよう注意する。


「彼の戦いはまだまだこれからですよ……」


指し示す一点には、他のレプリロイドの比ではない強力な反応が表れていた。それに注目した者たちは皆生唾を飲んだ。

部屋の後ろのほうで見守るシエルは、祈るように両手を胸で組む。いつしか、合わせたその掌には汗が滲んでいた。


「大丈夫だよ、シエル。私たちの英雄はきっと勝ってくれるさ」


思わず強張っていた肩を、セルヴォが優しく叩き、微笑む。しかし「ええ、そうね」と答えるシエルの表情は以前にも増して、活力を感じられるものだった。彼女は今まで以上に彼のことを信じているのだろう。


誰もが作戦経過に気をとられている中、シエルに気を使いながらもセルヴォは一人考えていた。

先日、ゼロの治療データに現れた異変。各所の損傷具合から割り出した自己修復回路の損傷率は、間違いなく常識的なボーダーラインを切っていた。その事実を受け入れまいと何度も計算を繰り返し、その結果、数値の信頼性が高いことを知り、絶望したのだ。忘れるはずがない。

しかし後日、ブラウンがセルヴォに提出した治療データには、ある時点から二次関数的に治癒率が上昇していることが示されていた。そのデータが意味しているのは、自己修復回路における最低ライン――――「五割以上の損傷」からの復帰。つまりは“百年以上前の技術”による現代常識の超越である。


――――彼の潜在能力は…“私たち程度の技術”では計り知れないのかもしれない……


突き付けられた現実に、科学者としてある種の恐怖心を覚えながら、同時に、彼が“英雄”足るに相応しいレプリロイドであることを確信し、その存在を殊更頼もしく感じていた。







8th STAGE



    未来









――――  1  ――――



ガタガタと貧相な音を立て、ついに列車は止まる。――――いや、正確には列車“だった”ものだ。

エネルギーの放出に伴う反発と爆風により、宙を舞った真紅のコートが地面に落ちて倒れこむ。その直後、グッと手に力を込め、上体を起こす。意識はハッキリしていた。

砂漠で放った時よりも、その出力を抑えこむことができた。完璧とは言えないが、ある程度のコントロールが出来るようになったらしい。ただし、戦闘に扱えるだけのエネルギーを残すことができたかどうかは別だ。


――――全て消し飛ばしたか……?


辺りを見まわす。輸送列車は一部の車輪とそれに繋がるシャフトが残っているだけで、ほぼ消滅していた。出来れば本当に“全て”を消すことができていればいいと思った。残念ながら“例の敵”とまともに戦える自信がない。

しかしそんな願いも虚しく、ゼロのセンサーは直ぐに、自身の近くに高エネルギー反応があることを感知していた。


「よくもまあ、派手にやってくれたもんだぜ。[紅いイレギュラー]さんよぉ」


「く…っ」


後方から聞こえる挑発的な声に反応し、立ち上がって振り返り、身構える。威風堂々と腕を組んで立っている黒い影。今、一番顔を合わせたくなかった相手がそこにいた。


「俺様の輸送列車を“こんな”にしちまってくれるとはよぉ」


ミュートスレプリロイド、雷霆の黒豹――――パンター・フラクロス。

その姿にはこれまで戦った他のミュートスレプリロイドにはない迫力と威厳が確かにあった。


――――どうする……?


ゼロは逡巡する。このまま剣を合わせて良いものか。短期決戦と決め込んで立ち向かえば、まだ勝機はあるかもしれない。


――――いや、勝算は非常に薄い


今の自分に残されている体力は通常時の半分にも満たない。それに対し、今目前に構えているミュートスレプリロイドの、事前に得たスペックを比較すれば勝負にすらならないことはどんな愚鈍な計算機でも容易に証明することができるだろう。


――――ならば逃げるか…?


このまま尻尾を巻いて、退散してしまおうか。逃げること自体は非常に悔しいことではあるが、「戦略的な撤退」と捉えれば受け入れることはできる。

しかし、果たして逃げ延びることも出来るだろうか。その行動を、俊足を自慢とするこの相手に対して完遂するだけの余力すら危うい。

まさに八方塞がりの状況と言える。この状況を根底から覆すだけの材料はどこにも見当たらない。

そしてゼロはいよいよ覚悟を決めた。進もうが退こうが、どちらの道も塞がっているというならば、進むしか無い。残るすべての力を持って、この強敵を撃退しよう。

そう決心したゼロだったが、フラクロスは想定外の行動に出た。


「そらよ」


ぶっきら棒にそう言って、何かを投げる。自分に向けて飛んで来るその物体を、ゼロは素直にキャッチしてしまった。何かと思い、じっと見る。それは携帯型のエネルギーパックだった。


「どういうつもりだ……?」


その行動の意図がつかめず、問いかける。フラクロスは鼻で嘲笑い、答える。


「“プレゼント”ってヤツさ。俺様の輸送列車を見事に破壊してくれやがったからなぁ。そのご褒美だよ」


「ははっ。…舐めてくれる……」


不敵に笑い、言葉を返す。普通ならばそれを素直に受け取ることなど決してできない。敵からの屈辱的な施しを受け入れるのはプライドが赦さない。――――そう、普通ならば。

ゼロは迷わず、そのストローに口をつけ、一気に飲み干す。その瞬間、体中にエネルギーが満ち溢れてゆくのを感じる。力が漲ってくる。全快とまでは言えないが、まともに剣を振ることはできるだろう。


どんな屈辱よりも、今欲しているのは“勝利”である。どれだけ舐められようと、戦いに勝利することができるならば甘んじて受けよう。――――ゼロの“戦士としての本能”がそう告げていた。フラクロスは一目でそれを読み取っていたのだろう。その行動に決して驚くことはなく、むしろ当然のことのように、何食わぬ顔で構えていた。

ゼロは空になったパックを脇に投げ捨てる。


「借りはキッチリ返してやるよ。……百倍にしてな」


そう言ってゼットセイバーを左腕から引きぬく。


「そいつぁコッチの台詞だゼェ…」


黒豹もまた戦闘体勢に入る。漂うは極限の緊張感。


「……ハルピュイア様からの大事な任務を、キレイに砕いてくれやがってよぉ…」


そう言いながらもどこか嬉しそうに笑っている。


「部下同様、お前も仕事熱心なんだな」


ゼロも笑っている。奇妙な高揚感が込み上げてくる。

そしてお互い、片方の足で一際強く地面を踏みしめた。



「耳揃えて返してやるよ…………テ メ エ の 体 に な ぁ !!」



フラクロスの咆哮と共に、死闘の火蓋が切って落とされた。









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