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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
42/125

7   [D]

 


――――  4  ――――



作戦に参加する団員たちは敵のセンサーから逃れるため、人機判別を誤魔化す偽装スーツを着用する。今作戦に向け、技術局が総力を挙げて開発していたものだ。敵を引きつけるという役割上、ゼロはそれを着用しなかった。

皆それぞれライドアーマーや輸送トラックへと乗り込み、出撃の準備を整えてゆく。ゼロもまたライドチェイサーに跨る。作戦開始まであと十分もない。


「それじゃ、行ってくるぜ」


後ろを振り向き、声をかける。セルヴォとアルエットはその声に答える代わりに、ただ俯き続けるシエルの方を見た。


「シエル…」


セルヴォが優しく声をかける。まるで今気づいたかのようにシエルが顔を上げる。しかし、何かを言う気配はない。

ゼロは少し困ったように溜息をつく。傷が治ってからここしばらくシエルはこの調子で、まともに会話した覚えがない。ただ、一人思い悩んでいる様子で、声を掛けることすらできなかった。

原因は、分かっているつもりだった。けれど、なかなか言葉にすることができず、ここまで来てしまった。

出撃五分前を知らせるルージュの通信が響く。

このままではいけないと、ようやく意を決し、ゼロはライドチェイサーから降りてシエルに近づく。そして、少し迷ってから言葉をかける。


「すまなかった」


突然の謝罪の言葉に、シエルは驚いたようにゼロを見つめる。周りの団員たち全員がその光景に注目していることに、セルヴォは気づいた。

周囲の視線も気にすること無く、ゼロは謝罪の言葉を続ける。


「…心配をかけて、すまなかった」


「違う…!」


遮るようにシエルは強く言う。「それは違うわ」と瞳を潤ませる。


「謝るのは私の方よ…。あなたに頼って…縋って……そのせいであなたは…」


こらえ切れずシエルは顔を覆う。

今回は乗り切ることができた。けれど、いつ、今回以上の傷を負うか分かったものではない。次は還って来ることができないかもしれない。そして、それらは全て自分に原因がある。目覚めさせてしまった、この世界に引きずり込んでしまった自分に。


「それなのに……私はまた…こうして送ることしかできない…」


この作戦にゼロの存在は不可欠である。いや、この作戦だけでなくこれから先も彼の存在は不可欠なのだ。それは戦略的な理由だけでなく、精神的な意味合いも大きく含まれる。ゼロはどこまで行っても、この世界にとって英雄という存在であることに変りない。そんな英雄が、例え墜ちずとも退くことがあれば、団員たちのネオ・アルカディアへの反抗の意志は砕かれかねない。彼という“駒”が白の団に揃った時から、その宿命はついてまわっている。

万が一にも、負傷を理由に作戦を退けば、作戦成功率の破滅的な低下だけでなく、団員たちの士気低下は避けられない。――――引き止めたくとも引き止められない。シエルの心は雁字搦めとなっていた。


セルヴォも、アルエットも、エルピスも、他の団員たちの誰でも、彼女のために掛ける言葉が見つからない。彼女の心境を思えばこそ、何も言うことはできなかった。――――ただ一人を除いて。


「…顔、上げろ」


そう促すゼロの声に、シエルは従い、顔を上げる。――――その瞬間、「バシッ」という音ともに、額に痛みが走る。シエルは、泣いていたことも忘れ、「痛っ」と声を上げ額を抑える。それを見ていた他の者達も呆気にとられる。ゼロが、指でシエルの額を弾いたのだ。痺れを感じる額を抑え続けているシエルに、ゼロは何処かぶっきら棒に言う。


「小娘、笑え」


「へ…?」


突然の要求だった。そのままゼロは言葉を続ける。今度は少しだけ優しいトーンで。


「もう二度とあんなヘマはやらない。二度と俺はお前に心配をかけない。……だから、お前ももう“そんなこと”で悩むな。――――いや、悩まなくていい。悩む必要なんかない。俺はもう、誰にも負けない。絶対だ」


たとえこの先、如何なる敵が現れようと、退くことも、敗れることも、いや、傷つくことすらしないと誓う。


「だから、お前は笑ってろ。二度と泣いたりするんじゃない。お前は、“お前の英雄”を信じて、無邪気に笑って、理想を語ってればいいんだよ」


不敵に笑い、そう告げる。

自分の心で信じ、自分の手で目覚めさせた英雄。その力をひたすらに信じろと、ゼロは言う。

シエルは赤くなった眼で、じっとゼロを見つめる。その瞳に、確かな輝きがあることを認めると、もう一度だけ俯き考える。そして、緩く握った拳で、ゼロの腹のあたりを「ポスッ」と軽く叩く。


「……さっきの…おでこ、結構痛かったんだから…」


まだ少しだけ痺れているのを感じる。けれど、その痛みすら、どこか優しく感じてしまう。


「絶対よ。…絶対に……絶対よ」


約束に念を押す。


「そう、何度も言うなよ」


笑う。ゼロも、そしてシエルも。それを見ていた団員たちも、安心したように息を付く。

先程までの暗い表情から一転、念を押すシエルの声は明るく響く。


「絶対に誰にも負けないで。絶対に戦いに勝って。どんな作戦でも、絶対に成功させて」


「絶対に誰にも負けないし、絶対に勝ち続ける。どんな作戦だって、成功させて見せる」


シエルの言葉を繰り返すように、答える。

それ以上は何も言わず、ゼロは振り返る。そして、ライドチェイサーに再び跨った。


「手始めに、大手柄を挙げてきてやるよ。完全復帰祝いの準備でもして待ってな」


「任せて。信じて待ってる」


そう言葉を交わし合うと、ルージュの作戦開始を告げる通信が入った。先頭を切って、ゼロはライドチェイサーのアクセルをかけ、走りだす。


「行ってらっしゃい!ゼロ!」


背中を見つめながら、小さな体で元気よく手を振って送り出す声に、ゼロは片手で答えた。















―――― * * * ――――



「既に“私のミス”で二分ほど遅れが生じています。少々急いでください」


ルージュが通信で謝る。「ははっ」とゼロは軽く笑う。


「気を遣わせてすまなかった。――――大丈夫さ。目的地には予定時刻丁度に到着してやる」


そう言って、更に加速してゆく。

頬に当たる風は強く、落ち始めた陽は赤々と不吉な輝きを見せる。改めて眼にする荒廃した大地には、草木一本見当たらない。


ふと、ノイズが走るのを感じる。


――――あの夢の影響か…


詳細が思い出せない夢のことを考える。周りにはなんとか押し隠してはいたが、治療が終わってからも、度々ノイズが走るのを感じる。決まって、フラッシュバックのようにあの光景が脳裏を掠めた。

そう言えば、あの場所はこの世界よりも酷かった。誰がどうやったらあんなにも凄惨なものになってしまうのか。それを考えると、何故だか分からないが、少しだけ胸が苦しくなるのだった。


そうこうしていると、目的のポイントが近くなり、肉眼で線路が確認できるようになる。


――――あれを辿って行けば…


ネオ・アルカディアに着く。「あいつ」がいる「理想郷」に。そんなことを不意に考えた後で、鼻で笑った。


「……ネーミングセンス、皆無だな」


そう呟き、ネオ・アルカディアの方角とは逆方向にハンドルを切る。

幾ばくかの距離を走ると、ついに黒い塊が視界に捉えられるようになる。


「見えた」


通常の列車の三倍はあろうかという、巨大な塊。その姿が小さくだが確認できる。

敵の各種センサーに対しては、サイバーエルフによるジャミングが行われているため、ゼロの存在はまだ知られていない。

ゼロはさらに速度を上げ、線路に近づいてゆく。だんだんと黒い列車の顔が大きくなってゆく。心の中でカウントを取る。


――――1……2の……


「3!」


線路沿いまで来たところで、ハンドルを大きく切り、列車と同じ方向へと向いて走る。列車がすぐ傍を走っている。聴覚のポテンシャルをギリギリまで落とし、轟音に耐える。

速度を適度に合わせる。兵員輸送車両、貨物車両としばらく続いた後、最後尾の車両に並ぶ。


「…後でな」


そう、声をかけるとライドチェイサーの設定をオートにして、適当な場所で停まるようにセットをする。

そしてそのまま、鉄の塊へと目掛けて、大きく飛んだ。


ライドチェイサーは入力されたデータに従い、そのまま走って行く。無理やり車両の突起物に掴まるゼロ。凄まじい風圧で金髪と紅いコートが風にバタバタと煽られる。


「荒っぽくいくぜ」


ゼットセイバーを取り出し、エネルギーを放出する。車両の装甲を縦に切り裂くと、あとは力尽くでこじ開け、侵入した。


「!!」


ほの暗い列車の中、一斉に向けられる銃口。感情のない赤い大きな一つ目が、ぼんやりと幾つも闇に浮かび、こちらを睨んでいる。敵の襲撃に対し、いつでも動けるよう待機していたようだ。


「仕事熱心だな。感心、感心」


そう不敵に言い放つ。パンテオン達の銃口は鈍く光る。


「さて……――――パーティーの開幕さぁ!」


鳴り響く無数の銃撃音よりも遥かに速く、光の刃が闇に弧を描いた。







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