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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
4/125

OPENING STAGE [A]



―――― * * * ――――




……




――――……。




……




――――………。






……声がする



名を呼ぶ声が



助けを求め



救いを求め



叫ぶ声が



聞こえる




涙まじりの



少女の声が





眼前に広がるは暗闇



色もない



音もない



触覚も



己の存在を確かめるもの全て



何もない



それでも



聞こえる…





――――…もう…いいよね?



(…誰だ?)



耳の奥で響く優しい声に、問いかける



――――…君も十分休んだよね?



(…誰なんだ?)



問いかけた言葉は何もつかめず、宙に舞う





――――…さあ、「  」。彼女を…



(……何だ?)



――――…「みんな」を、任せたよ……



(……)



響きが遠ざかる



(……待て…)



慌てて呼び掛ける



(待てよ……おい…)



けれど、見えない声の主は離れてゆく




不意に、彼は気づく




(…お前は…)





……お前は……?




そしてまた、問う




(…………俺は……?)








     俺は










見つかりかけた答えを消し去るように



鮮烈な光が



闇を







切り裂いた


















――――…目覚めて



















 第一部




   X〜エックス〜















    覚醒編























OPENING STAGE




  涙の少女と

    寝起きのマルス













――――  1  ――――




「――――現在、目標は遺跡内を逃走中。イレギュラー十二体に、人間一人」


管制室に早足で入ってきた彼に、オペレーターとして座っているレプリロイドの一人が状況を伝える。

薄暗い部屋を照らしているのは、遺跡内の映像を映す十数枚のモニターのみだった。


「レヴィアタン様からの通信は?」


「はっ。『イレギュラーは即刻処分。人間は保護。逃亡中の[Dr.シエル]ならば、速やかに本国へ送還せよ』とのことです」


「了解した。――――しかし…解せんな…」


彼は訝しげな声を漏らす。


「なにが…ですか?」


「イレギュラー共に与する人間…。その小娘に執着する四天王…。そして…――――」


彼――――リーグがこの遺跡の警備隊隊長に任命されてからしばらく経つが、最深部については国家の最高機密として全く知らされていなかった。

噂では過去に破棄された研究施設があるというのだが、そんな場所にいったい何があるというのか。



――――命をかけてまで侵入する理由がそこにあるのか…?










飛び交う光。

頬を掠めるエネルギー弾。

遺跡の壁は抉れ、破片が散る。

駆ける足は疲労を訴え、同朋の死は心を蝕む。


追うものと追われるもの。

狩るものと狩られるもの。


数億年前からこの世界を支配している驚くほど単純な構図は、栄華を誇った生物のほとんどが死滅したこの時代においてもほとんど変わることのない生命の摂理として存在していた。


もっとも…


この場にいる中で真に生物と言えるのは、人間である「彼女」ただ1人。


あとはみな、人類が自らを模倣して生み出した疑似生命体、「レプリロイド」なのだが…。





「ここは俺たちが引き受ける!」


「ミラン!シエルを頼んだぞ!」


貧弱なエネルギー銃を敵の単眼レプリロイド――――「パンテオン」の群れに向けて連射しながら仲間が叫んだ。

名を呼ばれたミランは力強い声で応える。


「任せろ!…行こう、シエル」


銃を脇に抱え、ミランが少女に声をかける。

少しだけ迷いながらも、仲間の期待に応えるべく、人間の少女――――シエルは頷いた。


しかし、再び走り出した瞬間、シエルは遺跡の破片に躓いてしまった。「きゃっ」と声を上げ、倒れこむ。

その声を聞きつけたミランは慌てて彼女に駆け寄る。


「大丈夫か!?」


「平気……っ!!」


立ち上がろうとしたシエルの足に激痛が走る。どうやら挫いてしまったらしい。

無理もない。一時間以上も走り回っていたために、足に疲労がたまっていたのだろう。


まともに歩くことすらままならないことを察したミランは、携帯していた銃を捨て彼女を両腕で抱えて走り出した。



「ごめん、ミラン…」


申し訳なさそうな顔をするシエルに、ミランは前を向いたまま、優しく笑いかけた。


「心配するなよ、シエル。…俺はさ、[ネオ・アルカディア]にいた時は、ペット以下の扱いだったんだぜ?」


「…」


「それに比べりゃ、これくらいなんてことないよ」


己のために。


みんなのために。


そして、何より君のために。


そう思って自らこの道を選んだのだ。


――――後悔もしていない。


ただひたすら希望に向かって、走り続けた。









彼らが走り去る姿を見届ける間もなく、仲間たちはパンテオンの軍勢を先に進めまいと奮闘し続けた。


「これ以上先には行かせねぇぞ!」


「くたばれ木偶野郎共!」


――――シエルの道を、希望の道を邪魔はさせない!


一人、また一人と仲間が目の前でスクラップに変えられていくにも関わらず、彼らは決して怯えも、恐れもしなかった。

彼らは大いなる使命感によって支えられていたのだ。


だが、それは圧倒的な「力」によりいとも簡単にへし折られてしまう。


「…!?」


遺跡の壁面をこすりながら近づいてくる巨大な影に、一人が気付く。


――――…あれは…


識別すると同時に、彼の頬に疑似血液が飛び散った。

現れた「メカニロイド」は、そこにいた数体のレプリロイドを自慢の剛腕で丸ごと鉄くずにかえてしまった。


「ひっ…」


そのメカニロイドこそ、ネオ・アルカディアの番兵にして力の象徴――――「ゴーレム」


五メートルを越える巨躯で浮遊し、敵を圧倒。

特殊素材で組まれた超硬質なワイヤーは、その身から放たれた己の腕を一気に巻き戻す。――――次のターゲットに撃ち込むために…。



「い…いやだ…」


幸運にも一人残された彼だが、逃れる道は最早なかった。

腰が抜けてへたり込む。


「やめて…くれよ…」


ゴーレムの腕がカシンッと無機質な音を立て、巻き戻る。

彼の顔が悲痛と恐怖で歪み、みるみる青ざめてゆく。


「頼む…。助けて…。助けてくれよ。なあ…。…死にたくない。死にたくないぃ」


傍に横たわる仲間の亡骸は微塵と化し、疑似血液やらオイルやらの混じった液体がドロリと広がっている。

地につけた手がじわじわと染色されてゆくのを感じる暇もなく、彼は懇願し続けた。

しかしそれに答えることもなく、代わりにゴーレムは再び拳を握りしめる。


「……いやだ…。いやだ…いやだ…いやだいやだいやだいやだいやだいやだっ!」


ゴーレムの巨大な腕が、飛ぶ。


「あぁあぁぁああぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁ……っ!!!!!!!!」









鈍い音が響く



残骸が散らばる



どす黒い液体が広がる




しかし


痛める心を持たぬ感情の無い兵隊たちは


ただ静かに歩みを進めた…














「ここが…」


――――…この奥に、彼が…。


目前にあるのは見上げる程大きな扉。いたるところで塗装が剥がれ、壁面にヒビが入り、すっかり劣化している。


「ダメだ、ロックが掛かってる」


扉の開閉装置を少しいじってから、ミランは合図する。それを受けたシエルは、左腕に付けた腕時計のような装置に話しかける。


「パッシィ。お願い」


「任せて、シエル」


声とともに、腕の装置のエメラルドグリーンの部分が輝き、光る物体が現れた。


その光る妖精、情報生命体「サイバーエルフ」のパッシィは電子ロックに直接アクセスし、ハッキングを開始した。その間、僅か数秒。

「カシャリ」とカギの開く音がした。


「オーケー、シエル」


「急がなきゃ」


――――彼を…早く…!


駆け足で扉をくぐったが、あることに気づいて直ぐ様足が止まる。


「…ミラン?」


ミランが入ろうとしない。それどころか、何かを考えているような表情で棒立ちしていた。


「ミラン…どうしたの?」


不安の入り混じった声で問いかけるシエルに、ミランは何か決心したような声で答えた。


「…俺はここで時間を稼ぐ」


――――…えっ?


シエルに背を向け、ミランは言った。


「…パッシィ、頼む」


その言葉の内に秘められた覚悟に、パッシィは頷く。


「待って。待ってよ!ミラン!」


「シエル。…今まで――――」


――――ありがとう。



「ミラァン!」



扉が、閉じる。



少女の声は虚しくこだました。






「シエル…」


心配そうに、パッシィが尋ねる。


「…たくさん、殺された」


――――たくさん失った。


「でも、もう、誰も殺させない」


確かな誓い。


握った拳に力が入る。


「そのためにも、[彼]の力が必要なの」


シエルはそう言って、振り返る。


扉の幅に比べ、その部屋はとてつもなく広かった。壁や床の塗装はところどころ剥げ、コードがむき出しになっている個所も見受けられる。

数代のモニターやらコンピューターやらも確認できるが、ほとんどが機能停止していて、まともに使えそうなものは見当たらない。


「…“忘却の研究所”…」


養父から聞いたその名を口にする。まさしくこの場所を指すにふさわしい名だと思った。


その奥にポツンとあるのは数十本近くの太いケーブルに繋がれた、古びたカプセル。

中央には、内に眠り続ける戦士の名前が確かに刻まれていた――――




     [ Z E R O ]








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