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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
39/125

7th STAGE [A]



――――  1  ――――




大型輸送列車のコントロールルームに、ふてくされた男が一人いた。

ネオ・アルカディア、エネルゲン水晶鉱山間を結ぶこの鉄の塊は、男にとって非常に退屈を感じさせるモノで、窓から見える景色――――旧世紀のとある戦争が原因で荒廃した大地はそれを更に増長していた。


――――くだらねえ…


「彼」は思う。

しかし、それはこの退屈を指しているわけでは無かった。また、決してこの輸送任務のことを指しているわけでも無かった。

それどころか、四天王にして烈空軍団長「ハルピュイア」から与えられた任務ならば誇りにすら思えるモノだと十分承知していた。


それならば何故…?


理由はもっと簡単な、ある意味で複雑なモノだった。


――――くだらねえぜ…まったく…


「彼」は渇いていたのだ。自身にとって何もかもが順調とも言えるこの世界に。何不自由ないこの世界に。

彼は求めていたのだ。自分でさえ何とも分からぬ、何かを。確かに。


「ちっ」と、一つ舌打ち。レジスタンスの襲撃に備え、レーダーとモニターに注意を払っていた部下達が、ビクッと体を震わせ、司令官席の「彼」を恐る恐る見上げた。


「なんでもねえよ」と、乱暴に顎で任務を続けるよう促す。木偶の坊共は怯えたように急いで仕事に向かい直した。


――――よくもまあ、飽きねえもんだ…。


精鋭といえど所詮はただの下級レプリロイド。四天王の守護のためにミュートスレプリロイドとして生まれてきた「彼」ほどの力を持ったものはいない。同時に、その力のやりどころに悩む者もいない。つまりは、今「彼」が感じている退屈や渇きが分かる者など、この車内には誰もいないのだ。

いや、もしかしたら四天王ほどの者でも、この想いを理解できる者はいないのかもしれない。これ程までに「戦い」へと懸ける「彼」の極私的な執着心を理解できる者は、そしてそれに応えてくれる者は、この世界において誰一人としていないのではないかとさえ思えた。


――――そういえば…


そんな想いの中、最近聞いた妙な話を思い出した。

「彼」と同じ、ネオ・アルカディアを守護するミュートスレプリロイドが二体、「紅いイレギュラー」によって破壊されたという話だ。


「紅いイレギュラー」…


ネオ・アルカディア側からそう呼ばれるレプリロイドは、レジスタンスによって発見された過去の英雄だと聞いている。勿論「彼」自身のデータにも、その存在はしっかりと記録されていた。

百年前の「イレギュラー戦争」を、ネオ・アルカディアの主、エックスと共に終結させたという伝説の英雄。そう、百年も昔のレプリロイド。


四天王ほどの力があるワケではないにしろミュートスレプリロイドも、現存しているレプリロイドの中では最高峰の技術で作られ、それに見合うだけの性能を備えている。

そして、そのほとんどが実力を認められ、四天王の片腕としての地位を得て、ネオ・アルカディアを守護している。

そのミュートスレプリロイドが既に二体もやられた。


何かが胸の奥で滾るのを感じる。


――――会ってみてえ…


会って戦ってみたい。



直ぐ傍に誰かいたなら、「彼」の表情の微妙な変化に気づいたことだろう。

この退屈な平穏を打ち壊すであろう存在。その存在を危惧しながらも、一方でほのかな期待感が募り始めていることを否定できない。

日常に現れることのなかった、非日常の存在。文字通りの「イレギュラー」。


「…見つかるかもしれねえな…」


「彼」は呟いた。


部下達は再び反応したが、「彼」が何も示さないのを確認して、そのまま自分たちの任務に戻った。


窓の外に広がるは乾き切った荒野。

しかし、傾き始めた日が、ひび割れた大地に鮮やかな朱のグラデーションを施す。


風は少しだけ強くなる。


「彼」はまた、自分の体内に備えられた擬似体液循環装置が発する鼓動の高鳴りが大きくなるのを感じる。

見つかるかもしれない。求めていたものが。渇きを潤すものが。非日常の、新たな「戦い」と出会うことで。分かるかもしれない。――――己が真に望んでいるものが何なのか。


湧き上がっていく期待から、自身も気づかぬうちに笑みがこぼれていた。


それが幸か不幸かは知れないが、その数分後、警報と共にこの黒豹の表情が、歓喜に満ちたことは確かだ。







7th STAGE



    渇望/葛藤







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