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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
34/125

6th STAGE [A]



―――― * * * ――――



「ゼロ!しっかりして!ゼロ!」


傷だらけの戦士を乗せたストレッチャーの車輪がガラガラと騒ぎ続ける中、少女の悲痛な叫びが廊下に響く。


「コンディションレッド!非常に危険な状態です!」


「集中治療用カプセルを使う!ブラウン、先に行って起動させて来てくれ!」


「了解!」


セルヴォの指示に従い、若いレプリロイドが先行する。

突然の騒動に基地中のレプリロイドが注目する。少女同様顔を青ざめさせる者、心配気に見つめる者、冷ややかな視線を送る者、「それ見たことか」と鼻を鳴らす者まで反応は様々。

しかし、少女はただひたすら叫び続ける。


「ゼロ!返事をしてよぉ!」


美しかった金髪は血と泥にまみれている。血のように紅かったコートは、さらに生々しく濁った色に変わり、ぐしょぐしょに濡れている。


「シーダ!シエルを抑えてくれ!邪魔だ!」


「シエルさん!離れて!」


指示を受けた女性レプリロイドが少女をストレッチャーから引き離す。


「でも!ゼロが!ゼロが!!」


「どけ!前に出るんじゃない!聞こえないのか!どけぇ!!」


いつも冷静なセルヴォの怒号が飛ぶ。それに弾かれるように、ストレッチャーの前を行く者たちは皆壁際に寄り、道を開ける。


騒ぎ続ける車輪と共に、ストレッチャーはだんだんと小さくなってゆく。

その様子を潤んだ瞳に映しながら、少女はひたすら彼の名を叫んだ。



「ゼローーーっ!!」



基地中に響き渡りそうな程の大声。

しかし、その声に答えてくれる者はいない。







6th STAGE



    キズダラケ








――――  1  ――――




白の団本拠地へと無事に到着したティナは、ゼロがネオ・アルカディアの軍団と戦闘状態にあることをエルピス達に伝えた。罠ではないかという意見もあったが、ゼロが連れて入ったはずのデルクルを連れていたことでその問題はすぐに片付いた。

ゼロの支援、及び状況確認のためにマークチームが再び集められ、派遣されることとなった。


彼らが現場に到着したとき、全てが決着していた。敵レプリロイドの姿は残骸ですら確認できず、本当にその地が戦場だったのか、疑ってしまうほどだった。そして降り続ける雨の中、クレーターのように大きく窪んだ大地を歩き、ようやく見つけたのは泥の中、傷だらけで倒れていた英雄だった。




治療室のランプが消えると、セルヴォが扉から出てきた。

シエルはシーダに付き添われて待っていた。先ほどのように取り乱してはおらず一応は落ち着いて見える。横にはアルエットが寄り添い、サイバーエルフも三体ほど宙に揺れていた。


「ゼロ…は…?」


心配そうに、シエルが尋ねる。


「大丈夫――――とは言い切れないが、命に関してなら問題ないよ」


セルヴォが優しく答える。


「――――ただ…いったいどんなことをしたのかは分からないが…外部も内部も損傷が酷い」


シエルの顔が更に曇る。しかしセルヴォは微笑みながら続ける。


「心配しないでいい、シエル。私が最善を尽くすんだ。必ず元通りにして見せる。――――…それとも、シエルは私の腕が信用できないのかな?」


「…でも…」


頭を「ぽんっ」と撫で、尚も微笑みながら言う。


「物事はいい方に考えなさい。――――彼は生きて帰ってきたんだよ。約束どおりにね」


しかし、シエルは一向にその表情を緩めることはなかった。表に出すことはなかったが、普段以上に見せるセルヴォの微笑みがどうしても信用できなかったのである。


「中にはいっても、だいじょうぶ?」


シエルの不安を余所にアルエットが尋ねる。


「何もいじらなきゃね」


「わかった。行こ、おねえちゃん」


アルエットはシエルの手を引いて、治療室へと入った。


複数のコードが繋がれた治療カプセルの横にはロシニョルが座っていた。カプセルの中には傷だらけのゼロが仰向けで寝ている。その姿を見て、シエルの顔から血の気が引く。


「シエル。大丈夫かい?」


ロシニョルが心配して声をかける。


「…平気…。大丈夫…よ」


――――ゼロに比べれば…。


改めて見ると本当に酷い。コートの下はまるで内側から何かが噴き出たように、惨たらしい傷がいくつも見受けられる。腕部、脚部のアーマーも、ヒビが入り、今にも崩れそうなほど無惨である。壁に掛けてあるコートも、鈍く変色し、本来の鮮やかさは少しも見受けられない。まさに満身創痍。しかし、顔だけは安らかに眠っているようだった。


「ゼロ…」


シエルはカプセルの透明なカバーに手をあてる。


「おねえちゃん…」


アルエットはシエルの手を優しく握る。さすがのサイバーエルフたちも、いつものように騒ごうとはしない。


パンパンと手を叩き、ロシニョルが皆の注目を集める。


「さあさ。せっかくだけど、みんな外に出ようかね。ここで見ていても、治りが早くなるワケじゃないよ」


アルエットはそれに従い、外に出ようとする。しかし、シエルは動かないどころか振り向きすらしない。


「…おねえちゃん?」


「私…ここで待ってる…」


「でも…」とアルエットがもう一度呼びかけようとすると、ロシニョルは肩に手をおき、首を横に振る。


「今はそっとしておいておあげよ」


アルエットは渋々了解し、二人と三体は外に出る。無機質な音と共に扉が閉まる。


誰もいなくなると、シエルはカプセルに体を寄せた。まるで心音を聴くかのように、カバーに頬をつける。表面はひんやりと冷たい。

聴こえてくるのは、「ゴウンゴウン」というカプセルの低い駆動音だけ。どんなに耳を澄ましても、決して声など聞こえない。

瞼を閉じると、うっすらと涙が滲む。


「………ごめん…ね……」


誰に向けたものか分からないその呟きは、悲しく光る雫とともにカバーの曲線を伝い、流れていった。




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