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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
33/125

5   [D]



――――  4  ――――



砂漠にいた屍の軍団は一瞬にして霧ごと姿を消し、大言壮語を吐いていたアヌビステップも塵となったようだ。僅かに残る残骸がちらほらと転がっている。


解き放ったエネルギーの反動は大きく、体中に激痛が走った。節々から疑似血液が吹き出し、両腕のアーマーにヒビが入る。

ゼロは両の膝をつき、そして泥の中へと俯せに倒れ込む。


力が入らない。音も聴こえない。世界は歪んだまま――――けれど色は消え、暗闇の中。

息苦しくなって首を横に向ける。それだけの動作で精一杯だった。


――――…足…?


足が見える。目線を上へと泳がせる。くびれた腰、小さな背中。


――――…あれ…は…


見紛う事無き“彼女”の背中。

幾度と無く視界にちらついては、消えていった“彼女”の背中。

そしてその背中は、今にもその場から立ち去ろうと歩き出す。


――――……行く…な…


自分でもよく分からなかった。あんなにも恐れていた“彼女”の姿。それなのに今は心の底から「引き止めたい」と願っている。側にいて欲しいと、その手に触れたいと、その身を抱き寄せたいと、ゼロは願っている。


しかし、あまりのダメージに声を出すことすらできない。


――――行かないで…くれ…


どれだけ願っても、強く祈っても、“彼女”の背中は遠ざかる。


――――……たくない…


その背中はだんだんと、闇に向かって進んでゆく。二度と手の届かない、闇の向こう側へと。

それでも想うのだ。願い、祈るのだ。


――――…失い…たくない……




失いたくないんだ





ただ一人


俺を



包んでくれた人








最愛の人――――…








――――…駄…目……か…


届かぬ想いを保ち続ける気力すら今はない。


それでも雨は激しく降り続く。視界はさらに歪み、次第に黒く染まり、意識は遠のいてゆく。


やがて全てが闇に閉ざされる。



――――……なのに



それなのに


全てが消えたはずなのに



何故だろう…







いつまでも



ノイズが





消えない

















―――― * * * ――――



「報告致します!」


「ああん?」


指揮官室へと訪れたオペレーターの声色に、眉をひそめる。何かトラブルが起きたらしい。

まったく面倒くさいことだと彼は思った。軍団を率いている自分の立場を思えば、確かに仕方が無いことだが、“闘い”にしか興味のない彼にとっては、それ以外の“雑事”は全て部下に押し付けたいほど邪魔な存在なのだ。そしておそらく、たった今舞い込んできた新たなトラブルもそう言った“雑事”に決まっている。

そう思い込んでいたが、事態は彼の予想を良い意味で裏切った。


「戦略研究所より発案されていた[アンデッド計画]、実験機第三号の反応消失を確認しました!」


「なにぃ!?」


「アンデッド計画」――――死んだはずのレプリロイドやメカニロイドの体を、統制用レプリロイドが専用の特殊なナノマシンによってあたかも生きているかのように操作し、それらを前線で部隊として活用することで、資源の削減を図るというもの。

彼はこの計画に不服だった。闘いとは生者同士によるものだからこそ、血が滾り、心踊るものとなるのだ。だというのに、その舞台となるべき戦場に、屍共が死に切れずに彷徨うとあっては気分が悪い。だが、本国の戦略研究所はその計画を推進し、彼もまた立場上、それに協力せざるをえなかったのだ。


その計画において実験されていた統制用レプリロイドの反応が突如として消えた。


彼は考える。

たかが統制用レプリロイドと言えど、四天王の四軍団において活用するという名目上、それはミュートスレプリロイドとして開発されていた。しかし、そのレプリロイドが死んだ。――――いや、死んだと考えるのは早いのかもしれない。もしかしたら、単純に通信機器が故障しただけかも知れない。


「いや……そんな面白くねえ話のはずがねえよなぁ…」


ニタリとほくそ笑む。

そうだ、そのミュートスレプリロイド――――アヌビステップ・ネクロマンセスは死んだのだ。いや、殺された。何者かの手によって。何者かと闘って。


ふと、ガネシャリフが倒されたという話を思い出す。


「……面白くなってきたじゃねえか」


笑いが込み上げてくる。

ここ最近、いや、生まれて以来自分と対等に戦える者と出会ったことはない。もちろん仲間の中にはいるかもしれない。けれど、真に命を懸けたやりとりなどはできるハズがない。

しかし今はどうだ。ミュートスレプリロイドを二体も倒したという者が現れた。なかなかに骨のある者が、姿は見えずとも彼の前に現れたのだ。(無論、それが一人であるかどうかは彼には分かる由もないが、それでも彼は「一人である」と決めつけていた。)


「いかが致しますか…?」


「そうだな、とりあえずは……放っておけ」


本国に知らせろというわけでもなく、彼はただ放っておけと指示する。


「いいのですか!?」


「構わねえよ。もう少し様子見しようや」


彼は片手をひらひらしながら、そう答える。

そうだ、もう少し様子見が必要だ。対等にやり合える強者だと信じて飛びかかった挙句、ハズレくじという可能性も否めない。その者の強さが真であるかどうか、それをもう少し見極めたい。


「了解…しました。……烈空軍団、冥海軍団には…?」


「“ハル”と“レヴィ”?…言うな言うな!面倒くせえ話になるに決まってやがる。何処にも漏らすんじゃねえぞ。勿論、元老院の連中にもな」


「ハッ」と威勢よく敬礼をして、オペレーターは指揮官室を去っていった。扉が閉まってから彼は呟く。


「さぁて…楽しみにさせてもらうぜ。[紅いイレギュラー]よぉ……」




抑えきれぬ高揚感に、「闘将」はしばらく一人で笑い続けていた。











NEXT STAGE




    キズダラケ






こんにちは、こんばんは、村岡です。


僕からのクリスマスプレゼントということで、5th STAGEをこの日にアップ完了させていただきました。……こんな先行きの暗そうな話でごめんなさい(汗)


本当はイラストも増やそうかと考えていたんですが、上手く時間が取れず……。

まあ、それに関してはまたいずれ。


年末年始にも何かしらアクションできたらいいんですが……


期待せずに待っていて頂けると嬉しいです。

…いや、実際に何も出来ないかも(汗)


とにもかくにも、これからも村岡ゼロをよろしくお願い致します。

それではでは...

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