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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
32/125

5   [C]



―――― * * * ――――



ゴリンッ…と鈍い音とともに捩じ切られた首が、真っ直ぐ地面に落ちる。


「…ぅ……あ…」


ドシャッ…と胴体が崩れ落ちた――――かと思いきや、腕がその体を支える。間違いなく、その体の主は死んだはずだ。それなのに、“まるで生きているかのように”それは再び立ち上がった。


「ああ……ああああ…」


ズシャッ、ズシャッ…とぬかるんだ地面を踏みしめ、一歩ずつ確実にこちらへ近づいてくる。


「ああぁぁぁあぁ……は…」


――――死


脳裏に浮かんだのはその一文字。そう、自分は死ぬのだ。この訳の分からない集団の中で。生ける屍達の手によって。

そうしてまた、自分もこの軍団の一員となり、生き続けるのだろう。


「ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハ」


笑いが溢れる。止めどなく。しかしそれは決して喜びからではない。


――――呪い


無力な自分を、自分の境遇を、この世を、己も含めた全てを呪うように、ただひたすら笑い転げる。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――…グェッ!!」




チャーリーの首もまた、呆気無く引きちぎられた。






――――  3  ――――



雨粒は弾け、飛沫に変わる。

もう少し光が差し込むようならば、その飛沫に光が反射し、キラキラと特別綺麗に輝いたことだろう。

その細かい粒の一つ一つに映る世界は、汚れのない、理想的で、幻想的なものに見えていたかもしれない。

しかし残念ながら、今この時、その飛沫に映る世界は、凄惨で、血にまみれた、さながらこの世の地獄とも言うべき舞台の一幕だった。


斬って、斬って、斬って、斬って――――…


「ガラクタはガラクタらしく……眠ってろぉ!!」


また斬り伏せる。だが、どれだけ斬り刻もうとも、部位ごとに捌こうとも、何者かに操られたそれらは黙りこむこと無く、何度となくゼロに向かい襲いかかってくる。

ゼロもまたそれら全てを相手にはせず、できるだけやり過ごしながら、操り続けている“何者か”を探すべく霧の中を突き進む。宛があるわけではない。だが、こちらの動向を伺っているのは確かだ。となれば、この軍団の何処かか、もしくはこれらを見渡せる、それ程遠くはない何処か。どちらにしろ、こうして戦い続ける者がいるとなれば、その“何者か”もいつまでも黙っているわけがないだろう。この状況は、おそらく相手にとっても予想外のはずだ。


「――――つっても……キリがなさすぎる…」


跳ねる泥に、紅いコートも、美しい金髪もすっかり汚されてしまった。

自分の考えが少々甘かったのかもしれない。ティナと別れてからしばらく経つが、一向に事態が好転する気配はない。苛立ちが焦りを生む。焦りが疲労に変わる。疲労は彼の心を蝕んでゆく。


不意に少女の影がちらつく…


「何処にいる!?」


叫ぶ。足をとめること無く。剣を止めることなく。けれど大声で叫び散らす。


「何処にいやがる!?出てこい!!」


少女の背中がちらつく…


「失せろっ!!」


またパンテオンの胴を断つ――――いや、パンテオンではない。別のレプリロイドの胴だ。軍団の中には黄金の鷲や、それ以外のレジスタンス組織のメンバーだったと思われるレプリロイドのボディーも確認できる。とは言え、そんなモノをいちいち気にしている余裕など無いが。


「…自分は陰に隠れて人形遊びか、この陰険野郎!!姿を現せって…言ってるだろう!!」


ガムシャラに剣を振るい続ける。しかし、その声に答えるものは現れない。


――――まさか…


本当に呪いだったのか……?









「クックックッ…」


不意に聞こえる笑い声が、迷走している思考を掻き消した。ゼロはゼットセイバーを強く振り、剣風で霧を裂く。

そして声の方に目をやる。


――――…いた!


屍の軍団とは違う、傷など何一つ付いていないボディーの、全く形の違うレプリロイドがそこに浮遊していた。犬のような頭をしたレプリロイド。間違いない、ミュートスレプリロイドだ。


ゼロは足に力を込め、一気に跳び上がる。そのミュートスレプリロイド目がけてゼットセイバーで斬りかかる。


「愚かな」


ミュートスレプリロイドはそう言って、不敵に嘲笑う。かろやかにゼロの一撃を躱し、手にしたステッキでゼロの体を打ちつける。ゼロは地面へと叩きつけられる――――が、既の所で身を翻し、着地する。


「テメエがこの人形ショーのプロデューサーってワケか…」


ゼロは強く睨みつける。だが、相手は相変わらず不敵な笑みを浮かべ、こちらを見下している。


「その通り」


対峙する二体目のミュートスレプリロイドは、己の正体をあっけなく明かす。


「我輩の名は[アヌビステップ・ネクロマンセス三世]。死を司るアヌビス神の具現よ!」


「死を司る……ね」


なるほど、この能力はその具現とでも言うべきものなのだろう。しかし――――


「笑わせるなよ、ワンコちゃん。[よいこの人形劇]の間違いだろう?」


「それなら貴様は我輩の劇を盛り上げるゲストと言うべきかな?」


ゼロの挑発も意に介さず、余裕の笑みを浮かべ続ける。


「そういうキサマは何者だ?紅いコートの愚か者よ。――――我輩の軍団と対峙し、臆せずに闘い続ける男には、生まれて初めて出会った。そんな貴様の名前を覚えておいてやっても良いぞ?」


杖をゼロに向け、上から目線で問いかける。


「なんだ、知らないのか?――――噂に聞いたことくらいあるだろう。百年前の“紅い英雄”の噂を…さ」


「成程。つまり貴様があのガネシャリフを倒したと噂の[紅いイレギュラー]か」


「ふむ」と感心したような声を漏らす。一体目のミュートスレプリロイドを倒した話はネオ・アルカディア側には既に知れ渡っているらしい。


「よろしい、古き時代のものよ…。ならば、手加減は一切なしだ…」


杖を強く振るう。軍団が一気にゼロへと跳びかかる。


「永久の旅路へ向かう貴様に向けて、我輩が祝詞をあげてやろう!」


「チィッ!」


舌打ちと共に素早く身を躱し、ゼットセイバーを振り回す。次々と襲い来る敵は休む間を与えてはくれない。


「クックックッ。素晴らしいだろう?死をも操る我輩の術。これぞ神の所業!」


「御託のうるさい野郎だ…」


神の所業?科学の力を借りておきながら、平然とそのように宣うことができるのか。だが言い返そうにも、その余裕すら生まれない。


――――余裕が無いなら…


自分で切り開くしか無い。力を振り絞り、もう一度強く振るい、襲い来る軍団を跳ね除ける。そしてまた、強く地面を蹴り、跳び上がる。


「ワンコはワンコらしく地べたを這いずり回ってろ!」


「後ろだ、紅いイレギュラー!」


「…ッ!?」


ゴッ…と鈍い音と共に、またしても地面に叩きつけられる。今度は受身を取ることもできず、もろにダメージを食らう。


「地べたを這いずり回るのは貴様の方だ!我輩の兵から逃れられると思うなよ!」


「ぐ…っ」


ぞろぞろと迫り来る骸の兵。圧倒的優勢に、アヌビステップは「百年前の英雄とてこの程度!」と高笑いを上げる。


「今は塵炎軍団に身を置いてはいるが、いずれこの“死屍軍団”を率いて四天王共を駆逐し、やがてはネオ・アルカディアすら我輩のものとしてくれるわ!」


壮大な野望を語りながら、ステッキをまたしても大きく振るう。疲労により上手く回らない頭で打開策を練るが、ゼロは防戦一方の状況から抜け出せない。振り続ける腕にも負荷がかかり、動きが鈍くなる。しかしそれでも、手を止めることはできない。休む間もなく襲いかかってくる屍の軍団。


「く…っそぉ…!!」


一筋の光明も見いだせぬまま、ゼロは敵を斬り続ける。

斬って、斬って、斬って、斬って――――…





「――――…ッ!?」


不意に、ノイズが走る。


――――なんだ……!?


聴覚に、視覚に、ひたすら走る。


目の前の軍団の姿も、アヌビステップの笑い声も次第に掠れてゆく。


――――なにが……どうなっている!?


己に起きた何度目かの異常事態に、困惑する。

しかし、驚くべきことにゼットセイバーを降り続ける腕は止まることがない。それどころか右腕は酷くふわふわと、まるで自分の物ではないような感覚さえ感じる。


気づけば、視界は染まっていた。“全て”を塗りつぶすように。まるで血の海を泳でいるかのように。辺りは紅く染まり切っていた。


――――これじゃあ、まるであの夢の……


相変わらずアヌビステップは、己の軍団の中でもがき苦しむゼロの姿に高笑いをし続けていた。けれど、最早ゼロの耳にその声は届いていない。


代わりに、ひどくノイズが走る。



唐突に、頭の中で声が響き始める。


《俺ニ身ヲ委ネロヨ》


――――やめ…ろ


どんなに拒絶しようとも、“声”はそれを受け付けない。


《俺ニ全テ任セロヨ》


――――やめてくれ


そして、要求する。


《モット殺セ》


――――…っ!!


気づけば体中が血塗れだった。泥にまみれた紅いコートはさらに紅黒く変色し、ゼットセイバーを握る掌はぬるぬるとしたおぞましい感触に侵食され、決して振り払うことができない。


《モット壊セ》


――――…黙れ


《モット破壊シロ!》


――――黙れっ!


《破壊シロ!》


――――消えてくれっ!!!


《破壊シロ!破壊シロ!》


――――嫌だっ!


拒絶の声を上げる。繰り返す。しかし、その声が収まることはない。


《破壊シロ!破壊シロ!破壊シロ!》


――――嫌だ…!……嫌だぁっ!!









いつの間にか“彼女”が、目と鼻の先に立っていた。


悶え苦しむ彼に向け、“彼女”が言葉を紡ぎ出す。


――――ねえ……


少しずつ近付き、彼女は手を伸ばす。


――――……私…待ってるから……


頬に触れる白い手。優しい手。


「…あぁ…」


――――…ずっと…ずっと…待ってるから…


けれど、彼女の手もまた血に染まる。


「あぁ…ぁあぁ……」


分かっている。その手を。その肌を。その心を。


紅く。血のように染め上げてしまったのは、他の誰でもない。


「――――…俺だ」


頭が割れるような痛みと共に一際大きなノイズが走る。


「あ あ ぁ ぁ あ ぁ あ ぁ ……」









破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ――――…‥



「あぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁああぁあぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁああぁ!!!!」











「なんだ!?」


叫びを上げたかと思うと、次の瞬間、“紅いイレギュラー”は周りの兵たちを大きく跳ね除け、高く宙へと舞い上がった。アヌビステップはまたしても自分の方へと向かってくるのだろうと身構えたが、予想は外れる。“紅いイレギュラー”は逆に大きく距離をとった場所に着地した。


――――何をするつもりだ?


“紅いイレギュラー”はそれまで振るっていた剣を左腕に収納する。とほぼ同時に、彼の両腕に強大なエネルギーが高速で蓄積されてゆく。そのエネルギーの大きさは恐怖すら感じさせるほど異常なものだった。


「待て……そのエネルギーを…どうするつもりだ……」


嫌な予感がする。そのエネルギーは明らかに、ここら一帯を吹き飛ばしても余るほどのものだ。


腕部アーマーが輝き出す。


「や…やめろ…貴様の体も…無事じゃ済まんぞぉっ!!」


恐怖に駆られ警告するアヌビステップ。しかしその声はまるで聞いていないように、“紅いイレギュラー”は動作を続ける。振り上げた両腕は唸りを上げる。


「頼む!やめてくれぇっ!!」


どれだけアヌビステップが喚き散らそうとも、意に介さない。

ためらうことなく。臆すことなく。


「助けてくれぇえぇぇっ!!」


ゼロはその両手を一気に振り下ろす。







解き放たれた破滅の光に、アヌビステップの絶叫ごと、その場の全てが飲み込まれてしまった。






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