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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
29/125

4   [E]



―――― 5 ――――




カツン、カツンと無機質な音を立て、ゼロは荒れ果てた旧黄金の鷲基地の中を歩く。そこは惨々たる光景だった。壁面は剥がれ、内蔵されていたコード類は垂れ落ち、床も決して歩きやすい状況ではなかった。ネオ・アルカディアとの戦闘の傷跡が生々しく、基地の至る箇所に見受けられた。


――――なのに……


ゼロは奇妙な事に気づいていた。


「ゼロ。ここが管制室だよ」


右腕に付けられた水晶のような装置が光り、サイバーエルフ――――デルクルが飛び出す。基地内の設備や記録を解析できるようにと、念のためエルピスから連れていくように言われたのだ。


ただ侵入させるだけならば本部にある、彼らの情報を収めた「コアユニット」からネットを介して行うことももちろん可能だが、その方法だと何処かで足がついてしまう危険性がある。そこで、サイバーエルフを一度実体化させ、回線に侵入させるという方法がとられるのだが、情報生命体であるサイバーエルフが実体化できる範囲には限界がある。コアユニットの周囲、またはそこに有線で直結した回線の周囲でなければサイバーエルフは実体化することはできない。だから小型のコアユニットに彼らの情報を移し、移送するという形が取られており、今ゼロの腕につけられている装置はその小型コアユニットというわけだ。


「ここもひどい有様だね」


デルクルの言うとおり、管制室内も惨たらしい傷がいくつも残っていた。こんな最深部まで敵の侵入を許してしまったのでは、壊滅するのは当然だろう。


しかし、やはりここにも“何も無い”。


「デルクル、早速この基地の回線に侵入して、何か情報がないか探ってくれ。それと、基地内の監視カメラの情報もよくチェックするように――――誰か生存者がいるかも知れないからな」


「探索深度は?」


「任せる。デリートの危険性が無い部分まででいい」


「了解」と言うと、デルクルはまだ息のあるコンピューターに侵入していった。






ゼロは少しだけ傾いた椅子に座り、息をつく。

実際、自室に戻っても、少しも休めていなかった。悪夢に怯え、眠りに就くことすら拒み、ただずっと座り込んでいただけだった。


――――情けないよな……


自嘲する。廊下で幻覚まで見てしまう自分の現状には不安を通り越して、嘲笑しか生まれなかった。

何より、シエルにあの姿を見られてしまったことが、ゼロにとっては一番の失態だった。いや、見られたこと自体は問題ではなく、本当に問題なのは彼女に心配をさせてしまったことだ。

あんな年端も行かぬ少女に、何もかもを背負わせたくない――――そう思っていたのに、自分が重荷を一つ背負わせてしまっては本末転倒だ。


「あいつがそういう人間だって分かってるハズなのに…な…」


髪を掻き上げ、そう呟く。

その後で、ふとセルヴォの問いを思い出した。


『君は、シエルの何に惹かれたんだ?』


未だその問いに答えられない。あの少女のために剣を振るうと決めた理由。それは「直感」という言葉で片付けていいものでもない。


――――戦う理由…か…


過去の自分はいったいどんな理由を持って戦っていたのだろうか。それが思い出せれば、自ずと問いの答えも出せるかも知れないと思った。




そうこうしている内に、デルクルが探索を終えて戻ってきた。


「データをそっちに送るよ」


そう言ってコアユニットの中に戻る。コアユニットを通じて、デルクルが取得してきた基地内の情報がゼロの脳内に浸透してゆく。その全てを瞬時に閲覧し、必要な情報、不必要な情報を振り分けてゆく。


――――これといって、何か問題になるような事項はないな…


他のレジスタンス組織の配置などといったネオ・アルカディアのほしがりそうな情報は含まれておらず、エルピスがはじめに言った可能性の一つはほぼ消えた。もちろん、ネオ・アルカディアが情報を収集した後に、削除した可能性もなきにしもあらずだが。

しかしそもそも、ほとんどのレジスタンス組織は、たとえ協力関係にある組織であろうと通常は拠点の情報などを開示したりすることはない。黄金の鷲のような事になる危険性は十分にあり、その際に情報が漏洩してしまえば、協力関係にある組織全てが芋づる式に暴かれてしまうおそれがあるからだ。


今度はゼロの脳内に映像が流れ始めた。基地内の監視カメラが収めた情報の一部だ。だがほとんどのカメラは壊されてしまっているため、戦闘時以降の記録はほとんど見つけられなかった。予想はしていたが、これほどまで情報がないのは困る。


――――いや、待て…


カメラが端で捉えた映像に注目する。格納庫のものだった。戦闘の中、破壊されてゆくライドアーマーや戦車。飛び交うビームを尻目に、物陰に隠れて進み、既に破壊されたそれらのマシンに乗り込む数人の影が見える。パンテオンたちは気づいていない様だ。カメラは次の瞬間、破壊されてしまってそれ以降の映像は確認できなかったが、ある可能性が出てきた。


「生存者がいるかも知れないな…」


直ぐ様椅子から立ち上がり、歩き出す。デルクルが収集してきた基地内の地図を頼りに格納庫へと足を向けた。







「ねえ、ゼロ。なんだか不気味なほど静かだね…」


格納庫に着いた時、これまでの道のりの雰囲気にデルクルがそう呟く。すると「お前もようやく気づいたか」とゼロが笑う。


「…ああ、不気味なほどここには“何も無い”――――メカニロイド、パンテオンの残がいも……そして絶対にあるはずの、黄金の鷲メンバーたちの残がいも、“何もかもが無い”」


激しい戦いの跡が随所に見受けられるのに、肝心の遺骸がどこにもないのだ。まるで誰かが綺麗に掃除し尽くしてしまったかのように、誰の体も残っていない。


「この不気味な状況が例の問題の答えになるかも知れないな…」


そう呟いた後、格納庫内を見渡し、そして声を張り上げる。


「俺は白の団から、エルピス団長の命令で調査に来たゼロだ。誰か生き残っているやつがいるなら返事をしてくれ。こちらで保護させてもらう」


声の残響が消えた後、またも格納庫内は静寂に包まれる。

呼びかけに応じてくれる者がいるかどうかは一つの賭けではあったが、ある程度の勝算があっての賭けだった。もし、生存者がいるならば、ここ数日身を隠していた分、精神的にも弱っているだろう。となれば、友好関係を持っている白の団の名を名乗れば、耐え切れず顔を出してくれるハズだと考えたのだ。そして、その予想は見事に的中する。

ガシャッと音が鳴る。キャタピラが崩れ、砲台が折れ曲がった戦車のハッチが開いた。恐る恐るこちらを見ながら頭を出してきたのは、赤毛を三つ編みした女性レプリロイドだった。こちらをじっと、警戒しながら見つめている。


「…安心してくれ。さっきも言ったとおり、俺は白の団に所属しているゼロってもんだ。ここの生存者を保護しに来た」


そう言って、両掌を広げ、得物を持っていないこと――――戦う意志がないことを示す。すると彼女は戦車の中を見つめ、何か語りかけてからゆっくりと外に出てきた。そして彼女の後に続いて、二人ほど男性レプリロイドが出てくる――――だが、一人はどう見ても衰弱しきっており、もう一人が支えてようやく歩いている。


「白の団…の方なんですね…?」


女性レプリロイドが恐る恐る尋ねてくる。まだ警戒はしているようだ。


「そ。白の団の者だ。そう言う君たちは黄金の鷲のメンバーで間違いないかな、お嬢さん?」


軽い調子で尋ね返す。とにかく相手の警戒心を解きたかった。


「……けど…あたしたちが知っている白の団のユニフォームと違うんですけど…それは何かワケが…?」


「ああ…。これか…」


そう言えば、白の団の戦闘員は皆もっと地味な、深い緑色のユニフォームを纏っていた。しかし、ゼロのコートは派手に紅い。どう説明しようかと考えたが、答えはすぐに浮かんだ。


「俺はね、特別なんだよ」


「特別…?」


「ああ――――耳にしてないか?白の団が[伝説の英雄]を仲間にしたって。[百年前の英雄]を…さ」


あのエルピスのことだ。ゼロの立場を考えれば、白の団の宣伝に使っていないはずがない。ならば「英雄」の話は黄金の鷲の耳にも入っているだろう。

すると、支えている方の男性レプリロイドが女性レプリロイドに声をかけた。


「確かに聞いたことがあります――――『白の団がネオ・アルカディアの秘密研究所から[百年前の伝説の英雄]を復活させた』と。そう言えば[ゼロ]という名前にも聞き覚えがあります…」


「じゃあ…あなたが噂の…」


「分かってくれたかな、お嬢さん――――そんなところで一つ、君の名前も教えてくれないか?」


そう促すと、女性レプリロイドは自分の胸に手を当て、自己紹介をした。


「あたしの名前は[ティナ]。黄金の鷲のメンバーです。…今はもう、壊滅してしまいましたが。それと、あちら――――支えている方――――が[ダスティン]、もうひとり――――支えられている方――――が[チャーリー]」


ティナが紹介すると、ダスティンは軽く会釈をした。チャーリーの方はぐったりとしたまま、何かぶつぶつと呟いているだけで、ゼロに対してはなんの反応も示さない。


「それじゃ、一通り自己紹介を終えたところで――――率直に聞かせてもらう。なにがあった?」


尋常ではない状態のチャーリーを指差し、ゼロが尋ねる。ダスティンは目を背け黙りこむ。ティナは少し言葉に迷ってから、ようやく問いに答えた。


「それが……分からないんです……」


「分からない?」


「はい……。恥ずかしながら、ご存知のようにあたしたちは戦車の中で戦闘をやり過ごしました」


事態が終息した頃、チャーリーは『基地内の様子を見てくる』と戦車を飛び出し、格納庫から一旦外に出た。そして、それからしばらくして帰ってきたときには既に――――


「この状態だったわけか……」


それだけの話で容易に納得出来るような、尋常な状態ではない。しかし、おそらくここにいるティナとダスティンにも、本当に何が起こったのか分からないのだろう。ゼロは無理矢理にでも納得するしか無いのだと、自分に言い聞かせた。


「仕方ない……。とにかく今大事なのは、事態の把握よりも安全の確保だ。とっととここを出るぞ」


「待ってください。まだ生き残りがいるかも…」


そう言って引きとめようとするダスティンに、ゼロはすかさず異を唱えた。


「生き残ったのはお前たちだけさ。基地内の映像データを見る限りでは、だが…」


「それなら…!」


「それに……まだ気がかりなことがある」


肝心な問題がまだ一つ残っている。


「今の今まで、唯一の生存者であるお前たちは戦車の中に隠れていた…――――つまり、白の団のメカニロイドが捉えた人影の正体については、未だ謎のままだ」


「人…影……って!?」


その言葉にティナとダスティンは衝撃をうける。その様子こそ、“それ”が彼ら以外の何者かであるという確かな証拠だった。


「詳しいことは道中、俺が分かる範囲で話してやる。分かったらさっさと来い」


そう促すと、ティナ達三人を引き連れ、足早に格納庫を後にした。生存者の安全を確保するという理由も勿論だが、何よりゼロ自身が、この不気味な場所から早く抜け出したいと感じていたのだ。



基地施設内の廊下を慎重に歩く。チャーリーが今の状態になった理由が分からない以上、警戒を怠ることは決してできない。


「……でも、本来の任務はその人影を突き止めることでしょ…?」


デルクルがおそるおそるゼロに尋ねる。確かに、エルピスがゼロに依頼したのは人影の正体を明かすことであって、人命救助ではない。


「だとしても…さ。この連中を抱えたまま、そんな得体の知れないモノを調べるのは御免だよ……」


後ろについてくるティナたちを親指で指し示し、小声で答える。

“それ”が敵の側にある物だった場合、戦闘は避けられない。そうなればティナ達を守りながら戦うことになる。


「可能な限り、リスクは抑えたい。不安要素が多い今、とにかくここから出ることを第一に考えるべき……――――…ッ!?」


ゼロは急に立ち止まり、身構える。片手で制止するのに倣って、ティナ達も足を止めた。


「ゼロさん…なにが……」


尋ねてくるティナに向けて、人差し指を口に当てて黙るように注意する。


剥がれた床のタイル。剥き出しのコード。生々しい傷の残る、電気系統の不具合により暗闇に覆われた廊下。――――そこに一人のレプリロイドが立っていた。


「……誰だ…?」


静かに、しかしはっきりとゼロは尋ねた。腹部から下しか見えないが、どうやらパンテオンではない。それどころか、黄金の鷲のユニフォームを着ているようだった。

だが、様子がおかしい。共に生き延びた仲間と出会えた喜びを分かち合うという風でもなく、チャーリーのようにぶつぶつと何かを呻くわけでもなく――――それどころかゼロの問いに答えようとすらしない。


そしてまた突然の周囲の変化に、ゼロは息を飲んだ。


――――……霧…!?


施設内だというのに、もやもやと霧が立ち込めてくるではないか。


「絶対に離れるなよ……」


ゼロの声に、ティナは咄嗟に後ろにいるダスティンの腕を掴み、前に構えるゼロのコートの端を握りしめた。瞬間――――…



「…――――アァア在ぁ阿ァぁァ嗚呼ぁァァ厚唖々痾ァッ!!!!」



目の前に現れたレプリロイドは、尋常な言語とは取れない奇声を発し飛び掛ってきた。それをゼロは――――ティナが大声で叫ぶよりも早く――――左腕から抜き出したゼットセイバーで一気に両断した。


頭頂から股までを見事に引き裂かれたボディが床に崩れ落ちる。


「……デルクル、様子を見てくれ…」


あくまでも冷静に指示する。デルクルはゼロに従い、遺骸の側に寄った。


「……ゼロ!これ……!」


そのレプリロイドは確かに黄金の鷲メンバーだった。しかし、そのボディは銃痕と刀傷で幾重にも傷めつけられ、何より動力炉が大きく抉られており、とてもまともに動ける状態ではなかった。


「なんだコイツは……………ッ!?」


再び息を飲むゼロ。目を向けると、霧の中にまた複数の人影が見える。ゆらり揺らめきながら、こちらへと近づいてくる。――――だが、ゼロがもっとも驚いたのは“そんなこと”ではなかった。


左足に感じた違和感。そこに注目すると、その信じ難い異様な光景はすぐに視界に映った。


切断されたはずの右半身から伸びる右手――――いや、それだけではない。胴と繋がっていない片腕、頭部のないレプリロイドのボディ、そしてまたレプリロイドの頭部そのもの等、いくつもの残骸がゼロの足元に、まるで生き物のように群がっていたのだ。


「…っあぁぁあ!!」


叫びながら脚を振り、亡者どもを蹴散らす。その風圧で霧が散り、近づいてくる集団の様子がハッキリと見て取れた。

ティナは叫ぶどころか絶句し、ダスティンは震えるティナの腕を握り返す。ゼットセイバーを殊更強く握ったゼロは、思わず呟く。


「…なん……なんだ……コイツらは…!?」



首が無いだけならまだいい。四肢がもがれ、剥き出しのコードをだらしなく垂れ下げて、擬似体液をそこら中に撒き散らしながら、スクラップ同然のレプリロイド達がこちらに向かってその歩を進めてくる。それも一体、二体という数ではない。数十体以上の群れが、その状態で動いているのだ。


そして次の瞬間、まるで生者の肉を求めるように、屍の軍団はゼロ達に向かって一斉に飛び掛ってきた。












NEXT STAGE




    死屍軍団





皆様お久しぶり、ようやく更新できました村岡です。


前回からだいぶ間を空けてしまい、読者の方々には本当に申し訳ありません……。

私にも現実の生活がございますので、その点はご理解いただけると嬉しいです。もちろん、前作のように「途中だけどバッサリ!」などという暴挙は致しませんので、それについては信じていただいて結構ですよ(`・ω・´)


ただ、身の回りが忙しいのは相変わらずですので、更新はこれからもゆっくりめになってしまうとは思います。が、それでも楽しんでいただけるよう出来る限りの努力を絞って執筆してまいりますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。


謝罪だけというのはあまりにカッコがつかず、お恥ずかしい限りですが、話の流れもございますので、ウラ話などはまた別の機会にさせて頂きましょう。


ではでは…


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