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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
23/125

3   [E]



―――― 4 ――――




「嘘…だろ…」


その光景を、その場にいる誰もが疑った。


休息をとった廃墟から歩き出し、ようやく目的地であるポイントB-37Tの旧塵炎軍団基地までもう一息と言ったところで、彼らの目の端に最悪の光景が飛び込んできた。


ライドチェイサーに跨るパンテオン。その支援用に配備されたメカニロイド達。併せて百は超えているであろうネオ・アルカディアの軍勢。そして、その後方で強い存在感を放つ五機のゴーレム。


マークチームのメンバーは、僅かに胸に抱き始めていた希望を一瞬で掻き消され、逃れようの無い絶望に再び飲み込まれた。


「はは…ははは……」


ある者は乾いた笑いをこぼし


「終わりだ…全部おしまいだ……」


ある者は気が狂ったように絶望の言葉を何度も口にする




「マーク……分かってるな?」


ゼロが確認する。


「俺がヤツらを引き止める。お前らは全力で逃げろ」


「ふざけんな!無理に決まってんだろ!」


横で聞いていたヘルマンが、狂ったように喚きだす。


「どうせ死ぬんだ!俺も!あんたも!みんな死ぬんだ!!」


ヘルマンが吐く諦めの言葉に、皆、頭を抱える。ゼロはそれを無視して、マークに促す。


「早く指示を出せ。……こんなヤツがこれ以上増えれば、取り返しがつかないことになる」


「けど無茶だ!いくらあんたでも、あんな数を抑えられるワケ無い!」


今度はコルボーが食ってかかる。ゼロはまたも無言であしらい、マークを急かす。


「早くしろ!マーク!」


しかし、意外なことにマークは異を唱えた。


「ゼロさん、申し訳ないがあなたの指示には従えない」


「なにを…」


「“俺たち”が足止めをする。あなたは逃げてくれ」


「!?」


「リーダー…!?」


そのやりとりを聞き、皆、マークの提案に絶句した。そのような策を取れば、間違いなくゼロ以外は全滅するだろう。


「ふざけんな……!ふざけんなよ、マーク!!」


マークの胸ぐらを掴み、ヘルマンがまたも喚きちらす。


「馬鹿言ってんじゃねえ!なんで俺たちがこんな野郎のために命張らなきゃ……」


「黙れ!!」


マークが一喝し、ヘルマンを突き飛ばす。前日以上の迫力に、ヘルマンを含め、皆嘆くことをやめた。ただ呆然とマークに注目する。



「…………ずっと考えていた。俺たちが生き残ることに意味があるのか…」


この先、ネオ・アルカディアとの戦いはさらに激しさを増してゆくだろう。死者は大勢出るだろうし、白の団の拠点も今のまま平穏無事でいられるとは限らない。しかしその時、果たして自分たちはどのような活躍ができるだろうか。


「ゼロさん、あなたの言う通りだ。……俺たちは非力で、なんの役にも立たない…………ただの役立たずだ」


たった十機のパンテオンとも、正面からまともに戦うことができない。その程度の力で、ネオ・アルカディアに勝てるハズも無い。


「けれどあなたは……俺たちよりも遥かに強いあなたは、この先の戦いで絶対に必要とされる」


「伝説の英雄」と呼ばれるレプリロイド。その実力は確かに、名に恥じぬモノだった。

だからこそ、その力はこんな場所で失われるべきでは無い。ここにいる二十名程度の“役立たず”たちの命に代えても、守りきられるべき尊い存在なのだ。


「……分かるだろ、みんな。俺たちとゼロさん、どちらがどれだけ必要とされるか。…俺たちの……シエルさんの理想のために誰が力になれるのか」


周りのメンバーに問いかける。誰も言葉にして答えようとはしない。だが、その静寂こそが答えだった。


「ゼロさん、お願いだ。あなたは生きてくれ。そして、シエルさんの力になってくれ。必ず」


それは文字通り、決死の覚悟だった。


マークのその言葉に、皆ようやく意を決した。ヘルマンも不満気ではあったが、マークの言うことにほぼ同意していた。

ゼロの道を守る。それは何よりも、シエルの目指す理想のために。寸分違わぬ覚悟を持って、チームは団結した。


「俺たちは命がけでヤツらを足止めする。……どんなに役立たずでも、最後くらいは役に立って――――」


「……却下だ」


しかしゼロは、首を縦に振りはしなかった。


「……ゼロさん!しかし…」


「『命懸ける』のと『命捨てる』のは…違うだろ」


静かに怒気を含ませる。ゼロの目はマークチームのメンバー全員を睨みつけていた。


「お前らは生きたいんじゃないのかよ?……死にたいわけじゃないだろう!」


本音はそうだ。誰もこんな辺境で命を落としたくはない。基地へと生還し、帰りを待ってくれている同胞たちと共に、また笑い合いたい。


「なら、生きるために足掻くんだよ!!足掻いて…足掻いて…足掻き続けるんだよ!!」


理想も、誇りも、命あってこその存在であり、決して命を捨ててまで貫くべき物ではないのだ。

そう唱えるゼロの声は、チーム全員の胸に真っ直ぐ突き刺さった。


だが、覚悟を決めた矢先、その叱咤に従うべきか、誰もが迷う。マークの言う通り、白の団の――――シエルの理想には、おそらくゼロという戦士の存在こそ求められるのだろう。決して非力な自分たちなどではなく。


だが、そのゼロは「生きるために足掻け」と言う。


できるならばそうしたい。生きられるのならば、生きるために足掻きたい。けれど、その行為の結果が、この戦いの終りにいったいどんな形となるのか。自分たちが生き残り、ゼロが命を落としてしまえば、それは「シエルの理想のために」と戦う同胞たちに対する裏切りではないのか。そもそも、全員が命を落とす可能性は依然として薄れはしない……――――

あらゆる思考の下、マークたちは決断に二の足を踏み続ける。


しかし、こちらの様子を伺っているパンテオンたちも、「動かないのならばこちらから」と向かってくる空気を醸し始めている。実際、猶予など僅かもないのだ。


とうとうメンバーの煮え切らない態度にゼロは声を荒らげて怒鳴りつけた。短く、簡潔に――――…




「 走 れ っ ! !」




瞬間、一斉に地を蹴る。ゼロの迫力に気圧されたかのように、マークチームは全力でその場に背を向け、走り始めた。

同時に、ネオ・アルカディアの軍団も動き始める。こちらが逃亡を選択したことを確認し、追撃戦を行うことにしたのだ。


ふとコルボーが足を止め、振り返る。ビームサーベルを左腕から抜き出す紅いコートの背中が目に留まる。


「コルボー…どうした…?」


肩越しにトムスが尋ねる。


「なにしてる!?早く走れ!!」


異変に気づいたマークも、コルボーに促す。


「いいんですか…?これで…」


敵の大軍へと向かう金髪の戦士。その姿を見送り、ただ情けなく震える声で問う。


「本当にこれで、いいんですか!?」


自分たちの非力を呪いながら、屈辱にこらえながら、マークが答える。


「そんなこと……分かるワケないだろう!!」


この行動が正しかったのかどうかなど、今考えることではない。


「とにかく走るんだ、コルボー。言いたいことは分かるけど…あの人がそう言ったんだ。今更迷っても仕方ないだろ…」


トムスがなだめる。コルボーは悔しさに唇を噛み締める。


「『生きるために足掻け』って……」


『命を捨てるな』と、そう彼は伝えてくれた、けれど――――


「あの人は、どうなんだよ!?」


一人叫び、そしてまた地を蹴った。











メンバーの誰かが落としていったエネルギー銃を拾い上げ、遠方を走るパンテオンの頭部を正確に撃ち抜く。二機、三機と破壊した後、投げ捨て、目の前に迫るパンテオンに跳びかかり、首をはね、ライドチェイサーを奪う。ライドチェイサーに搭載されているビーム砲を撃ち、片腕でゼットセイバーを振り回し、敵を次々に破壊してゆく。


刹那、一気に飛び降りる。ゴーレムの剛腕により、乗り捨てたライドチェイサーが粉々に砕け散る。

地を焼き、走るレーザーをかい潜りながら、飛び掛ってくるパンテオンやメカニロイドたちを斬り捨ててゆく。


一瞬の隙に息を整え、周りを見渡す。


――――囲まれた…か…


マークチームの追撃を一旦中断し、行く手を阻もうとするイレギュラー――――ゼロを破壊せんと方針を切り替えたようだ。


――――約束したからな…


必ずこの場を切り抜ける。


でなければ、約束を守れない。


「“ヒーロー”がお子様との約束を破るわけにはいかないんだよな……。……分かるだろ?」


不敵に笑い、駆ける。握られた閃光が、宙に弧を描く。


火花が飛び、擬似体液が噴出し、鋼の部品が舞う。




そしてまた、斬り捨てた。






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