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遺跡から出ると、入る前に傾き始めていた陽はすっかり姿を隠し、あたりはうっすらと暗くなっていた。
作動させておいた時限装置により、ゼロは遺跡の内部を爆破した。万が一、自分のデータが残っていた場合、それをネオ・アルカディアに利用されたくはなかったのだ。
しかし、そのおかげで、彼は本当に過去とのつながりをほぼ失ってしまった。
脆くも崩れ去ってゆく遺跡を眺め、その呆気なさに思わず苦笑した。
ミランの遺骸を回収しようかどうかは最後まで悩んだ。
だがそれを持ち運んだところで、何がどうなるというのか。ついにその答えを得ることが出来ず、回収することはできなかった。
もしかしたら、それを運んだことで少しは救われるものもあったのかもしれない。跡形もなくなってからそう思いついたが、時既に遅かった。
ふと、夜空を見上げる。
『レプリロイドは死んだらどこにいくんだろうね…』
かすかな記憶の中、ようやく思い出した一つの言葉。
昔、そんなことを「あいつ」は言っていた。――――あの時よりも、辺りはずいぶんと暗いけれど。
「…エックス……」
再び「あいつ」の名を口ずさむ。
友としての情は捨てたつもりだ。もう道は違えた。決別した。
けれど戦いが終わり、再び思い返してみればその名はやはり、口にした彼に懐かしさと安らぎを感じさせるのだ。
なんと女々しいことだろう。そう思い、またも苦笑する。
「あいつ」と自分。
共に戦った、親友。
背中を預け合った
共に支え合った
かけがえのない真の友
そうだったかもしれない
かつては
けれど――――
「…違う」
違うだろ。俺たちは。
そんなヤワな繋がりじゃない。
親友だとか、戦友だとか
ライバルだとか、パートナーだとか
そんな簡単な括りで説明できるような二人ではなかった。
「――――そのはずだ」
だからこそ、捨て切ることなど出来ないのだ。
停めていたライドチェイサーに跨り、ハンドルを握る。
そして、顔も声も忘れた「あいつ」の背中に、決して届く事のないであろう問いを、一言だけ静かに呟く。
「…なあ。そうだろう?」
ライドチェイサーの走行音が
暗闇の砂漠に虚しく溶けて行った。
――――* * *――――
「正気か?エルピス…」
作戦の概要を聞いたセルヴォが、おそるおそる尋ねる。
「ええ、もちろんですよ。まあ、少々危険な任務ではありますが…」
あくまでも爽やかな笑顔で、エルピスは答える。
「英雄たる彼の力ならば問題ないでしょう」
「推定生還率はたったの15パーセント…ですよ」
金髪の女性オペレーター――――ジョーヌも、その作戦には反対のようだった。
「シュミレーションの数値は、確かに私たちの想定でしか無いですけど…。いくらなんでも一人でなんてとても…」
「彼が言ったのですよ?」
たった一人で戦うと。
たった一人でネオ・アルカディアを潰すと。
彼は確かにそう言ったのだ。
「その発言が嘘ではないと証明するためにも、この作戦は必要なのです。――――詰まるところ、これは“テスト”なのですよ。彼が本当に伝説の英雄と呼ばれるだけの力を持っているのか。ただの狼少年ではないかどうかの、ね」
「テスト」――――そうはっきり言い切るエルピスに、セルヴォは少し戸惑った。
大事な仲間の命が懸かったこの作戦を、このリーダーは軽々とそう言ってのけたのだ。
ここにシエルがいたら、どんな顔をしただろう。
そんな彼の心配を余所に、エルピスはミーティングルームにいる団員たちに再び、声高らかに作戦を告げる。
「目標はポイントB-38S。マークチームの救援です。ゼロさんには帰還後、直ちに向かっていただきましょう」
ポイントB-38S――――そこはネオ・アルカディア四軍団の一つ、塵炎軍団が勢力圏の真っ只中である……
NEXT STAGE
包囲戦線
どうも皆様お久しぶり、村岡凡斎です。
亀更新ではありましたが、なんとか第三話まで投稿出来ました。
次回はお待ちかね(?)ようやく“ほぼ完全新作”でございます。
…ええ、“ほぼ”です。一割くらい前作のどこかと同じ場面を使うことはあるかもしれないという保険です(笑)
ただ、またも身辺が忙しくなってまいりまして、間は空いてしまうかもしれません。
できるだけ早く更新出来るよう精進いたしますので、ごゆるりとお待ちいただけると嬉しいです。
ではでは...