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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
覚醒編
14/125

2   [B]



――――  2  ――――



ホールにはすでに、基地内に滞在しているほとんどの者が集まっていた。

「英雄」の登場に誰も彼もが興奮を隠せず騒いでいる。


エルピスの後に続いて、ゼロたちはエレベーターに乗りホールを隅まで見渡せるほど高さのあるバルコニーへと上がる。

騒ぐ声を聞き、ゼロの顔からは嫌そうな雰囲気が止めどなく溢れ出ていた。


ゼロたちを一旦後ろで待機させ、エルピスが前に出る。すると、それだけで皆が一斉に静まり返った。

なるほど、このリーダーは見かけ倒しではないのだと、ゼロは理解した。


「皆さん。今日は、ご存知の通り、我々に新しい仲間が加わりました」


待ちきれず声を上げる者もいたが、エルピスがそれを右手で制すると、またしても皆ピタリと止んだ。それから後ろに立っているゼロに、前に出るよう目配せをする。

嫌々ながらも、ゼロはそれに従う。


「紹介しましょう。旧世紀の[イレギュラー戦争]で活躍した[伝説の英雄]、ゼロさんです」


エルピスはそう言って、ゼロを手で示す。

「おおーっ」と会場中が大声を上げる。盛り上がりは最高潮。

期待通りの反応にエルピスも満足げな顔をする。あとは「伝説の英雄」に、皆を奮起させるだけの言葉を発してもらえば全ては予定通り。

たとえ彼にそれなりの発言ができずとも、自分の能力を持ってすれば興冷めなどと言うことはありえないだろう。


しかし、そんな思惑が必ずしもうまくいく保証は無いのだということや、事態が思わぬ方向に行くこともあり得るのだということも、この時のエルピスにはまるで考えつかなかった。


「どうしました?ゼロさん」


エルピスが小声で尋ねる。

隣に立ったゼロは黙り込んだまま一言も口を開こうとしない。

それどころか彼の表情は、先ほどまでとも、ましてやエルピスたちとも全く違うものだった。


――――これは…


彼は一目で、あることに気づいてしまった。


「主役がしっかりしてくださらなければ、彼らも気にしますし、士気にも関わるのですよ」

何も分からないエルピスは、ただゼロを急かす。彼の言葉通り、英雄の演説に期待していた団員たちはざわめき出している。


「…ゼロさんには今後、「紅の破壊神」の称号と共にネオ・アルカディア撃滅の作戦に率先して協力していってもらうつもりです。――――さあ、ゼロさん、挨拶を!」


エルピスが間をつなぎ、ゼロへ話をふる。

しかし、ゼロはまだ黙っている。


「――――ゼロさ…」


呼びかけて止めた。


いや、止められた。


ゼロがエルピスを見ている。


――――感情のない冷たい目で…。


一瞬、エルピスは凍りつく。その圧倒的な威圧感に気圧されて。


そしてゼロは自分から前に乗り出した。エルピスを鼻で笑いながら。


そんなやりとりを知らない団員たちは動き出した「英雄」を見て安心した。場内が静まる。


彼の言葉に、その場にいた皆が期待した。


シエルも、セルヴォも期待していた。


新しい仲間の「誕生」に期待していた。



――――ただ一人、エルピスだけが彼の違和感に気づいていた。


目の前にいるこの男は危険だと、彼の勘が言う。

一言も話をさせてはいけないと直感する。


――――いけない…!


そう思い、止めに入ろうとする。


しかし、時既に遅く。


英雄の演説は始まってしまった。




彼の壮大な高笑いとともに…。






会場中が黙りこむ。しかし、それでもゼロは笑い続ける。


いったいなにがどうなってるのか誰も分からない。


状況が呑み込めないままシエルが、慌てて駆け寄る。


「ちょっと!!―――何を…」


「いやぁ、すまんすまん。――――エルピスとか言ったっけなあ…お前」


ようやく笑い終えたゼロは突然、横にいるエルピスに話しかけた。


「とんだ茶番だぜ。テメエらのレジスタンスごっこは」


「な!」


ゼロの言葉に、エルピスは再び凍りつく。事態が呑み込めない団員たちはただそれを眺めているだけ。


「悪いが、俺様はこんな連中と『一緒に戦え』なんて言うのはゴメンだね。絶対に」


「こんな…連中…?」


「ああ。『こんな連中』さ。そうだろ?」


ホール中の団員に聞こえるよう声を張り上げる。


「揃いも揃って腑抜けた面した連中ばかり。[伝説の英雄]である俺様が、足手纏いにしかならんような雑魚共と轡を並べるなんて言うのはありえないって言ってるんだよ」


予想だにしなかった明らかな侮辱の言葉に、今度はエルピス以外のメンバーも凍りつく。


「いいかい?お坊ちゃん。この先全てのミッションを、俺様は一人でこなしてやる。誰の協力もいらない。たった一人で、だ。――――そうしてネオ・アルカディアとやらも、俺様が一人でたたき潰してやる。テメエら役立たず共は[伝説の英雄]様の活躍を、ただ指を食わえて観ていればいいんだよ」


「ゼロさんっ!!」


エルピスが静かに怒りの色をにじませる。


「今の発言は聞き捨てなりません…。撤回してください!」


「そうだ!そうだ!」


「ふざけたことぬかしてんじゃねえぞ!」


下からも抗議の声が聞こえてくる。団員たちも怒りに震え始めていた。

だが、ゼロはそれを意に介すことなく、またも声を張り上げる。


「いっちょ前に吠えることはできるようだが、それだけならガキにだってできるってもんさ。なんなら今ここで俺様とやり合うか?――――まあ…」


とびきりの嫌味な嘲笑いを浮かべ言い放つ。



「――――テメエらがいっぺんに何人かかってこようが、俺様は負ける気がしないけどな」



その一言で全てが切れた。


その場にあった爆弾は、一気に爆発した。


「ひっこめ!」


「出てけよ!」


「何が英雄だ!チンピラ風情が!!」


「テメエなんかいらねえよ!」


「降りてこいゲス野郎!」


口々に野次が飛ぶ。


「…皆さん!落ち着いてください!」


己が怒る間も無く白の団のリーダーとして、エルピスは事態を収拾しようと叫ぶ。

シエルも自ら前に出て叫ぶ。


「落ち着いて!みんな!……ゼロ!?」


シエルの呼び掛けすら無視して、スタスタと後ろに下がって行くゼロ。収まりつかない状況を気にも留めず、そのままエレベーターに乗り込む。


「ちょっと!待ってよゼロ!ゼロ!」


シエルはゼロを追おうとするが、間に合わないうちにエレベーターは降りて行ってしまう。






ゼロは無言のまま、静まらぬホールを一人去っていった。





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