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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
離別編
116/125

22nd STAGE [A]
















いつか目覚める君のために





僕は この世界を遺してゆくよ
























    離別編






















22nd STAGE





  レプリロイドは

  ぜんまいねずみの夢を見るか?


















――――  1  ――――



「チッ……とんだヘマをやったもんだな……」


ゼロは自身の失態に舌打ちながら、思わずそう零す。

つい数十分前のことだ。エルピスからの指示で、塵炎軍団の一部隊と交戦した時。戦闘中に敵の一撃をエル・クラージュに当てられてしまった。

走れないということは勿論ないが、乗り心地がどうにも落ち着かないものになってしまった。


「直りそう、ダーリン?」


レルピィが心配そうに問いかける。

堪えきれず手頃な岩場に隠れて停車し、調子を見ていたのだが、正直、細かい作業ができるような環境ではない。

「何とも言えないな」と溜息をついて、車体から離れる。

ここから近場の空間転移装置まで、距離は結構ある。このままの状態で走り続ければ、不快感がどうこうという話だけでなく、他の部分にも影響が出ないか心配になってくる。


「……ごめん…あたしのミスだよね……」


戦闘中、エル・クラージュを動かしていたのはレルピィだ。これだけの高性能機でありながら傷を付けられてしまったことに責任を感じているのか、申し訳なさそうに俯く。

「気にすんなよ」とゼロは笑って答える。


「むしろあの状況の中、この程度の傷で済んだのはお前のおかげさ。サンキューな」


そう言って頭を撫でるように人差し指を振る。勿論、触れられるわけではないのだが。


「とにかく、傷ついちまったもんは仕方ない。なんとか調整する方法を考えよう」


「……うん、オッケー。あ、そう言えば」


何かを思いついたように、エル・クラージュの管制システムに戻る。それから、周辺のマップ映像を映し出す。


「確かこの辺りに良い感じの廃墟があったはずよ」


レルピィの音声が発せられると共に、ある一点に赤い印がつく。

旧世紀の廃墟の中ならば、身を隠すにはもってこいな上、上手くいけば整備に使えるものが転がっているかもしれない。


「そうだな、とりあえずそこまで行ってみるか」


こんな岩場で作業をするよりは、精神的にも幾分楽なはずだ。

決心すると、エル・クラージュに跨り、再びアクセルを回した。











かつては人で溢れかえっていたであろう、大都市の成れの果て。辿り着いた廃墟の第一印象はそんなとこだった。

その区域に足を踏み入れてみると、数人の気配が感じられた。おそらくこの場所を集落として住み着いたレプリロイド達だろう。

真紅のコートに、流れる金髪――――噂に聞いたことがある、彼の風貌に、警戒しながらも興味津々という様子だ。

エル・クラージュを押しながら歩き、周りを見る。そして、傾いた廃ビルの一室にいる一人の男に視線を止めると、瓦礫の山を避けながら、彼の下へ近寄っていった。


そこにいた男は、まるでゼロになど興味ないというように、ボロボロの日記帳に何かをひたすら書き綴っていた。


「なあ、あんた。この辺りに廃工場とか無いか?」


問いかけられたことに暫く気づかなかったらしく、男は尚も書き続けていた。

もう一度声をかけると、ようやく顔を上げた。かと思うと、直ぐそばに立つゼロを見て、驚いたように目を丸くした。


「……あんた…“紅いイレギュラー”か?」


「!……そういうお前は――――………‥‥」


ゼロはあることに気づいたが、そのまま言葉を飲み込んだ。

男はじっとゼロの方を見つめたまま黙りこむ。それから、ある方角を指さし、再び口を開いた。


「そこの通りを進んでいけば右手の方にある筈だ。――――おーい、ナタリオ」


男に名を呼ばれ、一人の少年レプリロイドが部屋の奥から現れる。

人間で言えば十歳前後と言ったところだろう。少年――――ナタリオは男の前に立ち、彼の顔を見つめる。言葉は一向に発さないまま。


「ナタリオ、この人を廃工場に案内してやってくれ。通りの先にあるアソコだ」


男の言葉に、ナタリオは黙ったまま頷き、歩き始める。


「あの子に着いて行けば大丈夫だ。迷うことはないだろう」


「ありがとな……――――名前は?」


「オレクだ」


「ありがとな、オレク」


そう言って握手をかわすと、気を使って待っていてくれているナタリオの後ろに続いて廃墟を出た。


そこから十数分とかからない場所に、目的の廃工場はあった。

歩いている間、ナタリオは一言も喋ること無く、時折、ちゃんとゼロがついてきているか確かめるように振り返るくらいで、人形のような仏頂面で黙々と歩いていた。

途中でレルピィが「なんか不気味」と漏らしたのだが、ゼロは人差し指でそれを制した。ゼロはといえば、彼の異様な雰囲気に、なにかしら理由があるのだろうと思い、自分から声をかける事はしなかった。ただ一度、そこに辿り着いた時に「ありがとな」と声をかけたが、ナタリオは表情も変えずに頷くだけで、やはり言葉を発さなかった。


積み上げられた瓦礫の下を漁り、使えそうな部品や道具を掘り出す。期待した以上にいろいろと出てきてくれたお陰で、作業は順調に進むだろうと思えた。


「帰っても大丈夫だぜ?」


ナタリオにそう言ってみる。だが、ナタリオは首を横に振り、その場に留まった。

表情から考えを読み取ることはできないが、きっと自分達が帰りに道に迷いでもしないかと心配してくれているのだろうと予想した。

確かに、この廃墟群はゼロが知っている他の場所に比べて明らかに広い。とは言え、一度通った道に迷うなど、レプリロイドである自分にはありえない話だ。

だが、それでもナタリオが待ち続けてくれるので、その厚意は無下にすべきではないと考えた。ちょうどスペース的に作業もしにくかったところでもある。


「俺たちも一緒なら、いいだろ?」


そう問いなおすと、ナタリオはハッキリと頷いた。

必要になりそうなものだけを手に取り、エル・クラージュに乗せ、その場を後にする。

それからまた、オレクがいた廃墟に辿り着くまで、一行は一言も発することなく、歩き続けた。


「お帰り、ナタリオ――――……っと、あんたもか」


再び驚いたような顔で、オレクはゼロを見る。


「ちょいとこの辺で作業をさせてもらおうと思ってな」


「……なら、このビルの奥に手頃なスペースがある。好きに使ってくれ」


ビルの所有者であるかのような口ぶりで、そう言う。それから足元に転がっていたボールをナタリオに投げ渡した。


「お前はそれで遊んでおいで」


オレクの言葉にナタリオは頷き、そのまま外に駆け出した。


ゼロはオレクに案内されるまま、エル・クラージュを押してビルの奥へと入ってゆく。

電気が通っていないため、外の明かりだけが頼りだった。勿論、陽が出ている間だけだが。

しかしそれでも、スペース的にはオレクが言うとおり、十分なもので、ゼロとしては満足の行く場所だった。


その場に座り、工具を広げる。

そして、エル・クラージュの損傷部を確かめる。

ふと気づくと、オレクも何やら興味ありげにエル・クラージュを眺めていた。


「最新型……か?見たこともないマシンだな」


感心したように言う。その口ぶりで、ゼロは先程気づいたことが真実であることを確信した。


「そ、冥海軍団から奪わせてもらったんだ」


細かい経緯については若干異なるが、そういう話で通しておくことにしている。


「妖将様からか……流石だな、紅いイレギュラー」


「素直に褒めてもらえて嬉しいぜ。それで、お前は元々何処所属だったんだ?」


「ああ、俺は塵炎軍団第八方面――――……‥‥!」


言いかけたところで、口を噤んだ。ゼロがニヤリと笑いながら、見つめている。思わず咳払いをした。


「……どうして分かった?」


「ただの国抜けしたレプリロイドと思えなかったからだよ。お前みたいな、よく訓練された戦闘用レプリロイドがさ」


その佇まいや、身の振り方、一挙手一投足にまで、正規の軍に所属していたであろう独特の雰囲気が滲みでていた。

勿論、それに気づけたのは、ゼロが百戦錬磨の英雄であるからこそだが。


「とは言え、今はもう軍を抜けた身だ。あんたとやり合うつもりはないよ」


オレクはそう言って、両手を上げる。


「だろうな。そう言う感じがしたよ。偽りじゃなく…な。……それで、こんなとこにいる理由はなんだい?」


「……理由…か」


オレクは暫く考え込んだ後、観念してその場に座り込んだ。

そしてゼロを指さすと、苦笑してみせる。


「理由はともかくとして……原因は他でもない――――“あんた”だよ」





悔しさはあるが、憎んではいない。

少なくとも、今は。




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