21 [E]
―――― * * * ――――
……
――――……。
……
――――………。
眼前に広がるは暗闇
色もない
音もない
触覚も
己の存在を確かめるもの全て
何もない
それでも
聞こえる…
――――…もう…いいっすよね?
(…誰だ?)
耳の奥で響く優しい声に、問いかける
――――…あなたも十分休みましたよね?
(…誰なんだ?)
問いかけた言葉は何もつかめず、宙に舞う
――――…さあ、「 」。
(……何だ?)
――――…「みんな」を、任せましたよ……
(……)
響きが遠ざかる
(……待て…)
慌てて呼び掛ける
(待てよ……おい…)
けれど、見えない声の主は離れてゆく
不意に、彼は気づく
(…貴様は…)
……貴様は……?
そしてまた、問う
(…………俺様は……?)
俺様は
見つかりかけた答えを消し去るように
鮮烈な光が
闇を
切り裂いた
――――…目覚めて
「――――目覚めて下さいって、副隊ちょー」
そう言いながらドローがシューターの頬をベチンと叩いた。
それと同時に、急に開いたシューターの目が、ドローをギョロリと睨みつける。思わず「やべ」と声を漏らし、ドローは後ずさった。
「…………俺様は眠っていたのか……」
そう言ってムクリと起き上がる。
既に陽は登り始め、辺りは朝焼けに染まりつつある。五人は岩陰に身を隠し、休息をとっていた。
「ハッ……まさか夢オチ!?」
「そんな馬鹿なオチがありますか、副隊長!全て現実です!」
既に起きていたボウがすかさず切り返す。
「マジでか!?ならば、俺様の華麗なる技に惚れた美女は何処にいる!?」
「おそらくその辺は夢っす!副隊長!」
アーチの切り返しに「む……それは残念だ」と項垂れてみせる。それから赤くなった頬をさすると、ドローを再び睨みつけた。ドローは「何も知りません」というような顔で明後日の方角を眺めていた。
「……俺様のほっぺたがひりひりするのだが……何故だ??」
「誰に聞いてるんですか?」とでも言いたげに、答えようとしないドロー。それにジリジリと迫りながら、再びシューターは口を開く。
「……貴様に叩かれた辺りがひりひりしているのだが………な・ぜ・だ!?」
「……そ……それは……」
あまりの迫力にドローは思わず言葉を漏らし、後ずさる。
答えはとうに分かっている。そう、目覚めるまで何度も叩いていたのだ。恨みつらみを込めながら。
「赦すまじ!この反逆者め!!」
「い…いつまでも起きない副隊ちょーが悪いんスよ!」
「喧嘩はダメっす!二人共!」
「副隊長!コイツも悪気はなかったんです!副隊長が寝過ごして寝こみを襲われないか心配で!」
「黙れ黙れ!貴様らも止めずに見ていたな!!一緒に成敗してくれるぅ!!」
「「ひぃやぁーーーー!お助けをを」」
――――などといつも通りのドタバタ劇を繰り広げる無能な同僚たち。
しかし真に華麗なハンターという者は、常に己の任務を(略、神経を鋭敏に(略、あらゆる状況においても(略
「そう……この私…コード隊員のように……」
これを読んでいる紳士淑女の皆様方には、この優秀なるコードがこれまでの経緯を簡単に説明しよう。
今現在、あの穴蔵から出て、既に七時間が経過した。
我々の華麗なる連携攻撃により地に伏したメカニロイドは無事に制御され、どうやらあそこに住み着いていたレプリロイドたちもひと安心できたようだった。
『あなた達のおかげで救われました!本当に有難うございます!救世主さま!心より感謝いたします!』
リーダーと目される白いマントを羽織った男から、少々派手すぎる感謝の言葉をいただき、快い気分で外に出た我々。
陽が暮れ、宵闇に包まれた大地に身を任せ、激闘の疲れを癒すように眠りに就いたのだった。
「いやぁ、それにしても久々に決まりましたね、我々の連携攻撃」
平手打ちを食らった頬を摩りながら、ボウが嬉しそうに言う。
同じく頬を摩りながら、アーチが「そうだなあ」と共感の声を上げる。
「最近じゃ久しくあんな戦いしてないっすからねえ」
紅いイレギュラー捜索活動に専念している以上、何度も戦闘状態に入るということはない。更に言えば、紅いイレギュラーと交戦したとしてもずる賢い手により上手く撒かれてしまって、なかなか連携攻撃を見せつけることもできない。
「『できるんなら、やれよ』って声が聞こえる気がするっす……副隊ちょー」
両頬を摩りながら、ドローが零す。
「何を言うか!俺様達は何時だって全身全霊!命がけ!手を抜いたことなど一度もない!」
「じゃあ、なんでいつもやれないんでしょうかね……?」
「それは!――――………」
ドローの返しに言葉が詰まる。それから暫く硬直した後、シューターは「シャラップ!」と声を張り上げた。そして勢い良く立ち上がると、拳を天に向かって突き上げ、声高らかに宣言する。
「俺様、過去のことを振り返ってウジウジするようなウジウジくんは大嫌いなのだ!俺様が生きているのはまさに今!この時!この瞬間!未来に向かって生きているのだ!!故に過去など不要!昨日の反省などしてやるものか!!」
「流石っす副隊長!」「そこに痺れる!憧れる!!」
そう言って尚ももてはやすアーチとボウの裏でドローだけが「だからダメなんじゃ」と溜息混じりに漏らしていた。
―――― 5 ――――
事の顛末をシエルから聞いて、ゼロは腹を抱えて大笑いをする。
「笑わないであげてよ」とシエルが言うのに、「クククッ」と堪えながら言葉を返す。
「いやぁ……セルヴォもとんだ災難だったなあ。しかもあいつらが関わるとは」
「『あいつら』…って、どっちのことなんだか……」
「勿論十七部隊の方さ。サイバーエルフの方は……まあ、どうしようもないな」
そう言って、尚も笑みを浮かべていた。
メガ・ブランシュの動きを封じた後、ジョーヌとセルヴォの手により、デルクルは救出された。
それと同時に、今回の事件の真相が判明した。
ウインキィ、ナッピィ、ハピタンの三人組がデルクルと争ううちに、デルクルとリンクしていたメガ・ブランシュのメインコンピューターに干渉。
その影響がバグとなって、暴走の原因となってしまったのだ。そもそも制御用に一体分の空きしかなかったリンクシステムに他の三体が干渉した事自体が問題で、チェック不足によるシステムの欠陥であったことは言うまでもない。
とは言え、実際に問題を引き起こした三体のサイバーエルフは、危険なものを秘密裏に作ろうとしていたセルヴォと一緒に、シエルからキツイお叱りの言葉を受け、しばらく反省の証にデータ整理の奉仕活動をすることで話はまとまった。
「セルヴォのおっさんまで叱る必要もなかったんじゃないか……プフッ」
十四歳の少女に叱りつけられる、中年男性レプリロイドの姿を想像して、思わずゼロは噴きだす。
顔を少し赤くしながら、シエルが「そんなことないわ!」と語気を強める。
「言ってくれれば協力でもなんでもしたのに……勝手にそんなもの作ってたなんて…許せない」
そう言って、子供っぽく口をとがらせ、頬を膨らます。
その様がいつも以上に歳相応に思えて、何より、怒る視点と理由が彼女らしくて、ゼロは微笑みを浮かべる。
ゼロの眼差しに、シエルは「なに?」と問いかけたが、「なんでもないよ」と返した。
セルヴォがメガ・ブランシュを作ったのは、誰でもない、ゼロのためだった。
「彼だけに戦わせ続ける訳にはいかない」と思い立ち、苦心して作り上げたのがあのマシンだっただけに、破壊する時には些か以上に悔しい思いがあっただろう。
「とは言え、腕も足も綺麗に外されていたから、修理はそこまで大変じゃないって、明るい顔していたわ」
「その点に関してはあの連中に感謝だな。何処まで分かってたのかはともかくとして、有難いもんだよ。――――それにしても大丈夫なのか?……そのまま帰してしまって」
曲がりなりにも十七精鋭部隊のメンバーだ。もしかしたら白の団の拠点への入り口が割れてしまうかもしれない。
だが、「その点は大丈夫でしょう」とエルピスは言っていた。
「『必要以上に褒め称えて、いい気分で帰ってもらいましたから』って、エルピスが。最後まで疑うような事は言われなかったそうよ」
「…………ホントかよ……と言いたいとこだが、確かにあの連中ならそれで大丈夫そうだな」
「………どんな連中よ……」とシエルは思わず零した。
正直なところ、調べた情報ではそこまで“間が抜けた”人物であるなどという情報はとても掴めなかった。
能ある鷹は爪を隠すというが、それどころの話ではない。そのシューターという男について、もっとも多く流れている噂は、天才と呼ばれてもおかしくないとある記録の件についてなのだ。
ハンター養成課程における、射撃技能テスト――――イレギュラーハンターがネオ・アルカディアに設立されてからの八十年の歴史の中で、断トツのトップ記録を保持している一流の射撃手。それがそのシューターという男なのだ。
「携帯式の小型エネルギーガンで、予備動作の欠片も見せずにシャッターの隙間から数十メートル離れたメカニロイドにヘッドショットを決めたり、ほぼ同時に四発のショットを放っては、ズレること無く二発ずつ二箇所に命中させたり……尋常な射撃の腕じゃないと思うんだけど」
「俺もそう思う……が、まあ………“天は人――――とレプリロイドに二物を与えず”ってことで…な」
「『…な』って………」
尚も納得出来ないというシエルの表情に、ゼロはまた笑い声を上げた。
天才少女の頭脳を持ってしても理解できないというのだから、ある意味シューターという男は、真の天才なのかもしれない。
―――― * * * ――――
「ところで、今回の件。クラフト隊長にはどう報告するつもりなんですか?」
ドローの問いに、シューターは凄まじい形相で詰め寄り問い返す。
「貴様!もしやまた報告を!?」
「してないっす!今回は断じてしてないっす!――――……で、どうするんすか?」
「う……むぅ」
再び問い直され、シューターは考えこむ。
そして暫くの後、首を横に振り、「いらんだろう」と答えた。
「彼らに紅いイレギュラーとの繋がりなどきっとない……というか、そもそも今回の件をどう報告すればいいと思う?」
「それは………」
話を振られ、アーチとボウが考えこむ。
だが、聞かれたところでまともな答えは出てこない。
紅いイレギュラーと縁の有りそうなレプリロイド達を見つける
→地下空間でメカニロイドに追い回される
→レプリロイドたちに捕らえられる
→なんやかんやで協力
→恩人と称えられ、脱出
「………報告できるような手柄一個もないっすね」
「だまらっしゃい!!」
サラリと答えるドローに、シューターは声を荒げる。
「ゴホン!……まさにそのとおり。報告したところであの小僧がまたつけあがるだけだ。故に、俺様は黙秘権を行使する!」
「おお!副隊長、その思い切りはかっこいいっす!」
「惚れます!男惚れします!!」
要は「怒られるのが怖いから報告しない」というだけだというのに、アーチとボウはいつも通り持て囃す。流石のドローも憎まれ口を叩く暇なく、ただ呆れてみせた。
「さあ、昨日の栄光にすがる暇など無いぞ!グズグズはしておれん!皆の衆!我々特殊班は再び紅いイレギュラー討伐のために歩みださねば!!」
「「イエッサー!」」
「…いえっさ~」
「………………」
「うむ、気合の入らない奴らも、今日の俺様は赦してあげようではないか!では行くぞ!ついてこい!俺様の背中に!!」
そう言って、朝陽に向かって地を蹴るシューター。その後を追いかける四人の部下達。
一つの戦いが終わりを告げる!
しかし!
彼らの戦いはまだ始まったばかりだ!
行けシューター!
走れシューター!
クラフトに怒られたって、いちいちイジケちゃダメだぞシューター!
もう出番がなかったとしても、絶対泣くなよシューター!
「俺様の戦いはまだまだこれからだぜぇ!!」
コード先生の次回作にご期待ください!
※WARNING※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません。
また、架空の人物、団体、事件などについても、直接つながりがあるかどうかは保証いたしません。
よいこのみんなの自己判断でお願い致します。
NEXT STAGE
レプリロイドは
ぜんまいねずみの夢を見るか?
・21st STAGE「デンジャラス・デイ」
脳内主題歌:ザ・マイスター/B'z
初(?)のギャグ回。二度とやるもんか(笑
え~………ニヤニヤしながらも「これ笑えんのか?」と疑り続けて作ったお話。
どうだったんでしょうか?
自分は根っからのシリアス好きらしく、これを描こうと決めてからモチベーションがだだ下がり。しばらく放置する結果に……。
何度かこれをやめて、シリアス回を繰り上げようと思いましたが、作品内のテンションの波を考え、どうしてもここで一旦“そういう話”を作っておくべきかなと思い、苦心して作りました。
とにかく一気に書いて、一気に終わる。それだけを考えたので、好き勝手やって、ほとんどそのままです。推敲なんてものはほとんどしていません。
作り終えて確信したことは、「二度とこんなものは描くもんか(笑」です。
とは言うものの、シューター達特殊班の面々は書いていて楽しかったです。オリキャラだということもありますが。
ちなみに、名前は元々シューターのみが決まっており、あとは隊員A、B、C、Dだったのですが、自身が定めた「モブキャラでも個性を」というルールを見つめなおし、それぞれのアルファベットを頭文字に、「弓矢」に関する名前を揃えました。
Arch(弓形)Bow(弓)Chord(弦)Draw(引く)……てな具合です。
班員達の「お気に入り解除」「最低点数獲得」の功績は紛うこと無き事実です(笑
……ちょうど激闘編10th STAGEのBパートでしたか。今でもあのやっちまった感を覚えています。
そして今回も……彼らが登場したこの21st STAGEは、初回で「Z-E-R-O」内の読者数記録一位を塗り替え、そこから見事に右肩下がりに読者数を減らしてゆくという素晴らしい功績(5月31日13:30現在)を残してくれました。
本当に飽きない連中です。
きっともう出会うことはないでしょうが、もしも「コイツら好きだよ(はぁと)」な声が聞こえてきたら再登場はありえます。
それと今回は、気づいた方もいるかと思いますが、一部にセルフパロディを取り入れております。まあ、ほぼコピペみたいなもんですが。しっかりと読み進めて下さっている方は「あれ?」と思えたのではないでしょうか。その辺を、もう一度振り返って確認してみるのも良いかも知れませんね。
さてさて、ついにこの話で激闘編は終了です。
次回から通常営業に戻り、第一部のラストへ向けた最終章がスタート致します。
現在既に、22nd STAGEについてはほぼ完成しており、あとは投稿を始めるだけというところですね。
………やはり、シリアスな方がキーボードが乗ります(笑
温めておいた話ですので、ぜひお楽しみいただければと思います。
6月3日辺りに掲載開始とさせて頂きます。そこからは不定期更新です。
それではまた、次のお話で......