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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
114/125

21   [D]



―――― * * * ――――



「エルピスやセルヴォ達と連絡が取れない?」


モニター越しに、何やら心配そうに表情を曇らせるシエルに、ゼロは聞き返した。


「そうなの。格納庫方面でなにか起きたらしくて……エマージェンシーコールの後にエルピスから暗号通信が入って、『こちらから連絡があるまで通信は禁止』だって」


並々ならぬ状況に、不安が募るばかりである。彼女の様子が心配だったアルエットが、ゼロを呼びに来たのだ。


「なるほどね」と考える。どうやら基地の中で只事ではない何かが起こっているのだ。

しかし話によれば、エルピスは他の団員への指示をしたわけでもなく、ただ「通信を禁止」しただけだ。

万が一、ネオ・アルカディアの軍勢が侵入したり、なにかしら戦況に関わる問題が発生したなら、団員全員になにか指示をしているはずだし、ゼロに対しても救援要請か何かしらのアクションをとっていることだろう。


「まあ……『心配するな』と言ったところで無理だとは思うが。“した”ところで状況がつかめないなら仕方ないだろ。指示通り、向こうからの連絡を大人しく待つしか無いと思うぜ?」


「そう……よね」


シエル自身も理解してはいるのだが、気持ちとしては容易に飲み込める事態ではない。

表情からゼロにもそれが伝わってくる。


「なんなら……俺がそっち行ってやろうか?」


「え?」


思いもよらぬ提案に、シエルは驚く。

それから少しだけ考えると、苦笑をしながら答える。


「…いや、大丈夫。それこそエルピスの指示もなく…勝手な判断をするべきじゃないと思うし……」


ただでさえ目をつけられている“紅いイレギュラー”だ。万が一にも移動中に発見され、そのまま白の団の位置が特定されては意味が無い。


「賢明な判断だ。そんなら…ゲームでもしながら気長に待とうぜ?」


そう言って、ボードゲームのアプリケーションを起動させる。

シエルのことを気遣って、少しでも気を紛らわそうとしてくれているのだろう。

そうした何気ない配慮に、シエルは胸の奥が温まるのを感じた。


「……できるの、ゼロ?」


笑いながらそう問いかけると、ゼロもまたはにかんでみせた。












――――  4  ――――



「認めよう。……確かに貴様達の言う通り、この私は“イレギュラーハンター”なのだろう」


よろけながらも立ち上がり、そう言いながらシューターは真っ直ぐに見つめた。

暴力であれ、権力であれ、力を持った強者により、この世界は動かされている。そして、弱者はその力に振り回され、時に犠牲となってしまう。それは変えられない摂理だ。

そう、それはまさしくあの憎き十七精鋭部隊長と、我が愛するか弱き元第四部隊メンバーとの関係である!

その中で一人、戦い続けていた。“イレギュラーハンター”として、華麗に!優雅に!蝶が舞う如く!誰からも憧れられるような超人的な活躍を見せつけて!


「…俺は……もう迷わん」


正直、葛藤とかそういうものは全て昨日に置いてきたので、元から迷ってすらいないのだが。

今この場にいた幾数人のイレギュラー……いや、心優しき協力者達の手により調整されたエネルギーガンを手に、シューターは構える!


「謎のメカニロイドめ!貴様がこれまで行なってきた数々の蛮行は、赦し難き罪悪だ!故に、この“華麗なる狩人”――――“青鬼”グラーツ率いるイレギュラーハンター元第四部隊副隊長にして現第十七精鋭部隊特殊班班長シューターの名において、貴様を粛清する!」


迷いを吹っ切った眼と声色に、アーチ達は感嘆の眼差しを向ける。

「流石っす!副隊長!かっちょいい!!」とアーチ隊員は思わず叫ぶ。




「俺様は前に進む。それだけだ」






「とっとと行きやがれ!」


「あいた!」


キメ顔を決めているシューターの背中をヘルマンが蹴り飛ばす。


「……ええい!この俗物め!他の者達は友として認めるが貴様だけは許さん!いずれ成敗してくれる!」


「勝手にしやがれ!」


言い争う二人をトムスとコルボーが取り押さえる。マークが「まあまあ、落ち着けって」と再び仲裁に入った。


「それで、副隊長。陣形はいかが致しますか?」


「うむ、ボウ隊員。我らが必殺の陣形トライアングルフォーメーションで行くぞ。アーチ、コード、貴様らは右翼。ボウ、ドロー、貴様らは左翼。俺様の初撃を合図に展開。以降、左翼から時計回りに奴の身体を攻撃する」


「「「了解!」」」


「……返事をしていない奴もいる気がするが、さておく。……で、だ!私は右のアイカメラを先ずは仕留める。左翼は奴の右足を、右翼は当然、奴の左足を」


シューターがテンションもそのままに部下達に指示を送っている。横で聞いていたエルピスが「ちょっと待ってください」と口を挟む。


「初撃はどこから与えるつもりで?」


「……?……無論、ココの隙間からだが?」


「スコープもついていない、小銃タイプのエネルギーガンですよ!?当たるんですか!?」


今この場にあるエネルギーガンは精密射撃、狙撃に対応した専用のライフルでは決して無い。だが、このハンガー内からメガ・ブランシュの頭部――――それも“右目”を狙い撃とうなどというのは無謀以外の何物でもない。

もしも外れて、注意を逸らすことも、ダメージを与えることもできなかったなら、展開した部下達の身が危険にさらされるだろう。

しかし、エルピスの言葉に、シューターは不敵な笑みを浮かべてみせる。


「この俺様を誰だと思っている?“華麗なる狩人”様だぞ?――――この程度の障害、突破せずしてどうする!?」


「そんな無謀なことを――――…「流石です!素晴らしすぎます!」


エルピスの言葉を遮るようにして、ボウが顔を輝かせながら賛辞を送る。


「フッ!流石も何もあるまい!なにせこの場にいるのは“ 俺 様 ”なのだから!!」


「「おおおおおおおお!」」


アーチとボウが声を上げて囃し立てる。そのテンションにどうにもついていけず、ついにエルピスも黙って見届けることにした。

五人は銃を構えてシャッターの前に立つ。その後ろに、コクピット部に取り付く役を負った、セルヴォとジョーヌが立つ。


「フッ……名も知らぬ技術士と麗しきレディーよ。恐れずついてくればよい。この俺様の背中にな☆」


「…………あ……ああ、そうさせてもらうよ」


「(――――不安しかない!)」


セルヴォとジョーヌの浮かない気持ちなど知らないまま、シューターは作戦開始を告げる。


「それでは、俺様の発砲と同時に展開だ!いくぞ!」


そう言って寝そべり、シャッターの隙間からメガ・ブランシュの頭部を狙う。

先ほどまで見失った獲物を探してうろうろとしていたが、今は動きを止め、休息をとっているように見えた。まさにチャンスである。


――――1……2の……


「3!」


合図とともに引き金を引く。

まるで呼吸するかの如く、自然なその動作に、白の団のメンバーは皆呆気にとられた。緊張感が張り詰めることも、闘気や殺気を発することもなく、シューターはごく自然な雰囲気のまま、引き金を引いた。

そして放たれたエネルギー弾は、寸分違うこと無く、宣言通りにメガ・ブランシュの右目を撃ちぬいた。


「なんと!?」


エルピスは思わず声を上げる。驚くのはそればかりではない。

着弾するより早く、シューターが引き金を引いた瞬間には既に、四人の部下はフォーメーション通りに展開するべく、シャッターをくぐり抜け、駆け出したのだ。

彼の射撃が、必ず成功すると信じていなければできない芸当である。


さて、右目を損傷したメガ・ブランシュは、ダメージのチェックをすると同時に、射線を辿り、シャッターの隙間に気づく。そして、そこに敵がいるであろうことを確信し、一気に取り付こうと地を蹴る。


「そうは問屋がおろしませんよ!」


掛け声と共に、エネルギー弾が右膝の裏にヒットした。衝撃に膝をつくメガ・ブランシュ。

既に展開していたボウとドローが同時に、同一箇所を撃ちぬくことで、確かなダメージを与えた。

メガ・ブランシュは、二人に気づき、すかさず右腕を振り回す――――……つもりが、左膝の裏に再びヒットしたエネルギー弾に、バランスを崩して倒れこんだ。


「油断大敵ってね!」


アーチとコードの連携攻撃もまた、メガ・ブランシュの動きを止めるに十分な力を発揮した。

しかし、メガ・ブランシュもそれでは終わらない。ゴーレムの両腕を広げ、がむしゃらに振り回し始めた。――――その瞬間、四発の銃声が響く。


メガ・ブランシュの右肩と、左肩が、ほぼ同時に二発ずつ放たれたエネルギー弾により、破壊された。

停止すると共に激しい音を立てながら、両腕が地に落ちる。


その華麗なトドメを与えたのは他の誰でも無い「――――華麗なる狩人!シューター様だ!!」






…………地の文にまで侵入してくる奇想天外ぶりを見せつけながら、シューターはそのまま銃を構えて、様子を見る。

未だにまともな言葉にならない音声を発するメガ・ブランシュではあるが、どうやら、害は去ったらしい。

そのまま後ろに備えていたセルヴォとジョーヌに合図を送る。


「ゴーゴーレッツゴー名無しの技術士と麗しき美女よ!脅威は去った!後は君たちに任せよう!」


「……名前がないわけではないんだが」


「えと……まあ、とにかく行きましょう!」


予想以上の手際良さと、些か以上にズレた発言に、半ば呆気にとられながら、二人はメガ・ブランシュの胴体部分に取り付き、コクピットハッチを強制開放した。

メインコンピューターに手を加えること数分、事態は穏やかに収束した。



まさに華麗な終幕であった。









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