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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
111/125

21st STAGE [A]

※WARNING※


この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません。

また、架空の人物、団体、事件などについても、直接つながりがあるかどうかは保証いたしません。


よいこのみんなの自己判断でお願い致します。





―――― * * * ――――



握りしめたハンドガンは冷たく、軽い。指を掛けたトリガーの、なんと小さく安っぽいモノか。


たった一度これを引くだけで、得物の先端に空いた丸い穴から、必殺のエネルギー弾が放たれる。そうすれば、力尽くで抑えつけたこの頭部は、どす黒い疑似体液まみれの屑鉄に姿を変える。

“それ”も自分の仕事……では別にないのだが、やるべきだと思っていながら、安易にその道をとることができない。

躊躇っているワケではない。まして、悩んでいるワケでもない。


――――…ただ…虚しい…


同じレプリロイドとして生まれてきたハズなのに、何故こうも殺し合わなければならないのか…。


――――…答えは簡単だ…


「同じ」ではないからだ。この男と、自分とに限らず、この世界に生きるレプリロイド達は一人として「同じ」ではない。

特に、自分のような「華麗で優秀なイレギュラーハンター」と、この男のような「凡庸なイレギュラーハンター」達とでは、その立場から何まで大いに異なる。


――――ならばどうする?


そう自分に問いかける。もう何度その問いかけをしてきただろうか。しかし“見つけたかった答え”は何処にもありはしないのだと、今度もまた割り切ってしまう。


「考えるまでもないな…」


その呟きはおそらく、彼の下で喚きちらしている男には微塵も聞こえていなかっただろう。






「……あの副隊ちょー…カッコつけてないでその銃をどけてくれませんか……?」



「“その呟きはおそらく、彼の下で喚きちらしている男には微塵も聞こえていなかっただろう”!」


「あの……思いっきり口に出してるとこ悪いんですが……自分、別に喚いてもいないし…そもそも凡庸でもないんで……――――……ぇでででっ!!」


「 え え い ! 勝 手 に 人 の モ ノ ロ ー グ に 口 を 挟 む で な い ! 」


そう言うとシューターは殊更強くドローの頬にハンドガンの銃口を突きつけた。「あがががが」と言葉にならない奇声を発してドローは抗議するが、怒り心頭のシューターの耳に届いている様子はない。


「俺は哀しいぞ!ドロー隊員!貴様のような男がいるおかげで俺はまたしてもあのクラフト野郎に釘を差される羽目になってしまった!分かるか!この屈辱が!分かるか!この虚しさがぁ!!」


「副隊長!落ち着いてください!ドローの奴も悪気はなかったんすよ!」


「そうです副隊長!今こいつは猛烈に反省しているところです!猛省です!どこぞの賭博師もびっくりです!故にここはどうかお見逃しを!!」


「シャラップ!!アーチ、ボウ!お前らも俺の邪魔をするというのならドローのように“銃口グリグリ”の刑だ!!間違って俺が引き金を引いてしまうかもしれないという恐怖に揉まれながらほっぺたの肉の悲鳴を存分に聞くがいい!!」


「うくらいちょー(副隊ちょー)、おっえらのりうあいえいあんああえあえんっれ(ほっぺたの肉は悲鳴なんかあげませんって)」


「なんて言ってるのかはぜーんぜん分からんが、尚も反省する気 Z-E-R-O ということだけはよぉく分かった!謹んでこの引き金引いてくれよう!!」


「副隊長!それだけはダメっす!」


「俺たちに免じてコイツの命はどうかお助けを!!」


アーチとボウはシューターを取り押さえにかかるが「ええい!離せ離せ!」と喚きジタバタと抵抗されてしまう。

しかし、なんとか頬からハンドガンが離れたのを見計らい、ドローはよじよじと押さえつけるシューターの下から這い出ようとしていた。


「ええい!逃すものかよ!」「お待ちを!副隊長!お待ちをぉ!」「ストップ!ストーップ!!」「よっこらせ…よっこらせ…」


ドタバタと騒ぎ立てる面々。このいつも通り見苦しい騒動は、残念ながら暫く続くことだろう。



――――だが


真に華麗なハンターという者は、常に己の任務を自覚し、神経を鋭敏に張り巡らせ、あらゆる状況においてもその使命を達成する為に行動をする。


「そう……この私…コード隊員のように……」


状況を整理しよう。

現在、我々イレギュラーハンター第十七精鋭部隊“特殊班”は紅いイレギュラー追跡任務のため、奴の行動を分析し、活動していた。

あらゆるイレギュラーの集落を張り込み、時にはイレギュラーを尾行し、レジスタンス組織の拠点に侵入しては紅いイレギュラーを捜索し続けている。


先日はと言うと、紅いイレギュラーを見たという老レプリロイドの言葉を信じ、とある集落へと出向いたところ、とある“オレっ娘少女”に出会した。

十七部隊の保護を受けているという主張をされたが、我が愚かなる副隊長シューター様々は確認を取ること無く「そんなものはデマだ」と決めつけた。

それに対し、抵抗する“オレっ娘少女”。彼女の言動をうるさく感じたシューター様はドロー隊員に少女の身柄拘束を命じる。嫌々ながらもドロー隊員が少女を取り押さえたところで、通信機が不吉な呼び出し音を鳴らした。

だが、普段通りぐだぐだと不満を口にするドロー隊員と口論を続けるシューターは、それを知らせる私の声に耳を傾けず、十数分が経過。ようやく私の声に気づいたシューター野郎が通信機を手にとった時、既に事態は遅かった。

クラフト隊長の腰巾着その三、シメオンが部下とともに駆けつけ、我々特殊班を逆に拘束するという珍事に発展してしまった。

おかげで私も含め、皆一同にクラフト隊長のお叱りを受けるというハメに。っていうか、ドローに命じたのもお前だろ。赦すまじ、シューターのろくでなし野郎め。


しかし、そんな不幸もなんのその。私はめげることなく任務を続けている。

このクズ野郎シューターへの忍耐の日々も、いずれ本国に帰還した時、その功績を元老院議長様方と救世主さまに認めてもらい、華のエリートコースへと進むためだ。

そして先程、レジスタンスに所属していると思われるとあるレプリロイド十数人ほど(おそらく班を組んで行動していたのだろう)を尾行し、隠しゲートを通って地下へと帰って行く様を目にした。


私は聞き逃さなかった。彼奴らはその口からシューターの次くらいに忌々しいあの名前を口にしたのだ。

そう――――「ゼロさん」と。あの紅いイレギュラーの名称を…だ。


間違いなく彼奴らはあの紅いイレギュラーの仲間に違いない。


これぞ千載一遇のチャンス!棚から牡丹餅!


故に私は先程からシューターへと呼びかけ続けている。


「……あのー…副隊長…」


もう何度言ったかわからない屈辱的なフレーズ。しかし、奴はそれに気づく気配すら見せない。今もまだ他の三人の部下とともにふざけあっている。


「あの……ですね……」


決して私がモゴモゴ話しているとかそんなんじゃない。騒いでいる奴らが悪いのだ。そうだ、うん。絶対そうなんだ。

心の広い私はこれから、いつも通り十数分程呼びかけ続けることになるだろうが、全然それでも気にしない。この愚か者もいずれは気づくはずだ。

心の広い私は待ち続けてやるのだ。うん。寂しくなんか全然ないもん。



「あのー…副隊長…」





そして実際に私の声にシューター副隊長が気づき、いつも通り「なんだ!?ハッキリハキハキ話せ!」と偉そうに宣ったのは十三分後のことだった。



















21st STAGE





    デンジャラス・デイ















――――  1  ――――



「ふぃー……っと。ようやくコイツで終わりかね」


そう言ってドワは汗を拭うようにわざとらしく額を右手の甲で擦り、そう零した。先日の作戦で使用されたライドチェイサーとライドアーマーをひと通りチェックし終えたところだ。


「コッチは終わったぜ、班長。どれも異常なしだ」


後ろから部下のジョナスが溌剌とした声で報告する。


「流石だなジョナス。お前さんの手早さにはワシも感服するよ」


「照れるぜ、班長。まあ、“上司”の指導が良かったからかな」


「そいつは否定せんがな」


誇らしげに言いながら「ガハハ」と笑う。そうしている間も、彼の手は作業をスムーズに進めていた。

その様子を見ながら、ジョナスもまたドワの手際に思わず唸り声を上げそうになった。無駄口を叩きながらもテキパキと、丁寧に仕事を進めるだけの力は自分にはまだない。

ジョナスの雰囲気が伝わったのか、ドワは微笑みながら「まあ、場数が違うわ」と言葉をかける。そんな芸当に、ジョナスはさらに力の差を感じてしまうのだが。


「そういや、班長。今日は局長の用事の方はいいのかい?」


「おお。セルヴォの方はな、もうワシの役目は済んだ。あとはあ奴が一人でやるとさ」


ここ数日、セルヴォはドワも含めた白の団の技術者連中数人と共に何やら怪しげな活動を行なっていた。ジョナスだけでなく、他の一般団員たちにも「今はまだ見せられない」とだけ言い残し、セルヴォはとあるハンガー内に篭ったまま暫く姿を見せていなかった。

エルピスが「まあ、彼のことです、問題はないでしょう」と言葉をかけるも、シエルが誰よりも心配そうに表情を曇らせているのには、誰もが気にせざるを得なかった。


「いったいぜんたい、何をしてやろうってんだい?局長は」


「そいつは見てのお楽しみじゃ」


そう言ったところで、通信を知らせるアラーム音がドワの耳元で鳴り始める。

「噂をすれば…というやつじゃな」と、言ったことでジョナスにもその相手がセルヴォであることが分かった。

一言二言交わし、僅かに驚きと歓びに身を弾ませたかと思うと、そのままジョナスの方へと振り返る。


「せっかくじゃ。お前さんも来い」


整備を終えたライドチェイサーを軽く一叩きすると、そう言って促し、歩き始めた。ジョナスは好奇心の赴くままに、ドワの後ろについていった。













基地の中心部から一キロと少し、旧式のジープを走らせると、セルヴォが作業をしていた七番ハンガーに辿り着いた。

そこには既に、作戦を終えて帰ってきたマークチームが物見遊山に立ち寄っていた。

ジープから降りて半開きになっていたシャッターを屈むようにしてくぐると、ジョナスの目に、とんでもない物が飛び込んできた。


ゴーレムの頭部に、腕。他にもネオ・アルカディアのメカニロイドに装備されていた様々な武器が至る所に装着されたライドアーマーがそこに仁王立ちしていた。

気づけばセルヴォが柄にもない高笑いを上げている。



「フフフフフ……フハハハハハハハハハハハ――――!遂に!遂に完成したぞ!見てくれ、ドワ!これぞ私の技術の粋を集めて完成された決戦兵器!名付けて“メガ・ブランシュ”!!」



そのゴテゴテとした奇抜なデザインに茫然とするマークやジョナス達を尻目に、ドワとセルヴォが達成感のままにハイタッチを交わしている。


「思えばここまでの道のりは決して楽なものではなかった!一ヶ月ほど前から、ゼロが薙ぎ倒してくれた敵メカニロイド達のパーツを、団員たちにせっせと運び込んでもらい!挫折とひらめきを繰り返してはパーツを繋ぎあわせ!幾度の実験を重ねようやくここまで辿り着いたのだ!」


ついこの前依頼された作業を思い出し、「あの指示はこれのためだったのか…」とトムスが零す。「いったいなにかと思ったよな」とコルボーも呆気にとられながら言葉を返す。

ランナーズ・ハイならぬ“メカニック・ハイ”状態のセルヴォは、そのままサイバーエルフシステムにアクセスし、デルクルに指示を出す。


「さあ!今こそ起動のときだ!頼むぞデルクル!」


「ハイサー!おまかせを!!」


セルヴォが叫びながら起動スイッチをオンにすると、同様にどこかおかしなテンションのまま、デルクルはメガ・ブランシュのメインコンピュータ内に飛び込む。

そして、数秒の沈黙の後、プシューッと豪快に排気を吹き出すと共に、メガ・ブランシュは右腕を振り上げた。


「きたー!来ましたよ、セルヴォさん!リンクシステムはバッチリです!」


「キターーーーーーーーーーー!!計画は完璧だ!パーフェクツ!!今日は祝杯だーーーーー!!」


「よくやった!よくやったぞセルヴォ!今日はワシがいくらでも酒を振る舞ってやろう!!」


呆気にとられる他の面々を無視して、二人と一体(?)は踊るように歓びを分かち合っていた。

何より、普段では決して見れることのない、ハイテンションなセルヴォの様子に、マーク達は言葉をかけられないでいた。




それからしばらく経って――――


「なるほど、これがセルヴォさんが制作していた新兵器ですか」


団長であるエルピスもまた、メガ・ブランシュのお披露目に立ち会っていた。

ハンガーから出て、そのゴテゴテとした体に似合わぬ軽快な動きを披露するメガ・ブランシュに、感心の声を上げる。


「ああ、褒めてくれいいのだよ、エルピス。私は今どんな賛辞も受け入れよう」


「……頭のネジでも落としましたか」


「……なかなかすごいデザインですね…」


ゴーレムの腕を振り回すメガ・ブランシュを眺めながら、ジョーヌが戸惑いながら感想を述べる。

だが、デザインの点についてはセルヴォも気にしていたのか、その言葉自体拾おうとはしなかった。

しかし、一般団員が何より戸惑っているのは、間違いなくセルヴォの謎のテンションである。それこそ、なにかしら怪しげなプログラムでも取り入れてしまったかのようにさえ思える。

が、本人はいたって正常であると言いはって聞かなかった。


「セルヴォさーん!これほんと楽しいですよ!」


デルクルは嬉しそうに声を上げながら腰をぐるぐると回す。


「別に遊ぶために作ったわけじゃないぞ、デルクル!ほどほどにな!!」


そう言いながらも、顔からは笑顔が絶えない。


「班長……本当に局長大丈夫なんすか?」


募る不安のままに、ジョナスがドワにコソコソと問いかける。


「う…む……まあ、根を詰めて作業を続けておったからな……。気が抜けてるだけじゃろ。明日にはきっと元通りじゃ」


「……だといいんすけどね」


今のセルヴォの様子を見ている限り、どうにも信用がならないのだが。


「うわー!これ楽しいなー!」


メインコンピューター内で動作制御をしているデルクルは手足ができたかのような心地に満足していた。

ゼロや一般団員たちとの任務の際に、ライドチェイサーの管制システムを操ることはあっても、このように四肢を動かし、動く機会などめったにない。

セルヴォの意図がどうあれ、デルクルは現在の状況が楽しくて仕方なかった。


しかし、その様子を不満気に見ている者達がいた。


「ちょっとデルクル!あたしたちにも使わせてよ!」


「げ!ウインキィ!」


そこにはウインキィ、ナッピィ、ハピタンの三人組が構えていた。

白の団のサイバーエルフの中でも悪戯好きで有名な三人組である。一般団員からオペレーター陣まで、誰かれ構わずちょっかいを出しては慌てるさまを見て去ってゆくという、最高に質が悪い三人組だ。

サイバーエルフ達の中でも、この三人に絡まれたら「有無を言わず要求に従え。さもないと×××」と言葉にも表せないほどの仕打ちが待っていると有名なのだ。


だが、メガ・ブランシュを動かすデルクルはその要求に戸惑うも、「嫌だ!」ときっぱりと拒否する。


「こ…これは僕がセルヴォさんに託された“ひみつへいき”なんだぞ!簡単に使わせてやるもんか!」


「あんた、あたしたちに逆らうわけ?」


ナッピィがそう言ってずいと身を乗り出すと、「うっ」とデルクルは後退る。すると、メガ・ブランシュも奇妙な挙動を見せる。その様子に、浮かれるセルヴォ以外のメンバーはわずかに首を傾げた。


「その態度…どうなるか分かってんでしょうね!」


「う……うるさーい!絶対に渡さないもんね!」


システムにしがみつく(実際にしがみついているわけではないが、表現上このようにする)デルクル。それに三人が飛びかかり、身を引き剥が(これも実際に引き剥がすわけではないのだが表現上(略)そうとする。

抵抗するデルクル。メガ・ブランシュの挙動はますます怪しくなり団員たちは後ずさる。ようやくセルヴォも異変に気づき、様子を注意深く見守る。


「どきなさいよ!このオタンコナス!」


「うわー!邪魔すんなよ!離れろ!」


「あんたこれ以上逆らったら痛い目見るわよ!!」


「さっさと渡しなさい!!」


「うるっさい!うるさーい!!」


激しい四人の攻防に合わせ、メガ・ブランシュは更に激しく暴れ始める。

団員たちは急いで距離を取り、セルヴォだけがそこに留まり、デルクルに「何があった!?」と慌てて呼びかける。



「どきなさいって!!」


「渡しなさいよ!」


「あたしたちによこしな!!」



「う…うううう……うるっっっっっさーーーーい!!これは!!僕のもんだーーーーーーーーっ!!!!!!」





内部で起こる激しい攻防が最高潮に達した時、メガ・ブランシュの動きが止まる。

明らかに怪しい様子に、一同は恐る恐るその状況を見守る。

セルヴォが「デル…クル……?」と呼びかけるが、返事がない。


やがて、けたたましいアラーム音とともに、ゴーレムのアイカメラ部分が赤く輝き出した。

それが危険を知らせる合図であることは、誰の目にも明らかだった。






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