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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
110/125

20   [F]



――――  6 ――――



「本当にいいのか?」


「餞別よ。あなたのおかげでアレも倒せたことだし」


レヴィアタンはそう言って笑うが、後方に控えていた部下は苦い顔をしていた。

ネオ・アルカディアの最新技術が詰まったエル・クラージュを敵に明け渡そうというのだ。他の軍団や元老院に知れれば、レヴィアタンだけでなく冥海軍団全体が危機に晒されるだろう。

だが、それを恐れる以上に、レヴィアタンはゼロに対し恩を感じていた。それを示したかった。


ラドゥーンを倒した後、レヴィアタンの救助用ビーコンを頼りに、冥海軍団の救援が現れた。

傷だらけのゼロは彼らに保護され、治療を施されてなんとか一日で復帰することができた。


「まあ……これで貸し借りなしってことで。文句はないでしょ?」


「オーライ。そういうことにしといてやる」


呆れたように笑いながら、ゼロは答えた。


「……もう、大丈夫か?」


「あら、優しい。心配してくれるのね」


レヴィアタンはこれまでと変わりないように振舞っている。だが、真実を受け止めたばかりで内心はどうなのか。ゼロは些か以上に気にしていた。だが、レヴィアタンは「大丈夫よ」と苦笑じみてはいるが、明るく答える。


「ただの“ちょっと遅い失恋”だもの。女らしく、新しい恋に生きるわ」


「……そいつは何よりだ」


それからレヴィアタンは「ん~」と人差し指を自分の頬に当て、わざとらしく考えてみせる。それから、おもむろに歩み出し、ゼロの傍へと近寄る。そして、何を思ったのかゼロを抱きしめた。

突然の行動にゼロも含め周囲は皆、状況が理解できなかった。しかし、彼女が周囲の目を気にする様子はない。そして、それだけでなく――――


「……っ!」


ゼロの首筋にそっとキスをした。数秒ほど押し付けられた柔らかい唇。その感触が、温もりと共に残る。

開いた口がふさがらないままの部下達を尻目に、今度は耳元へその口を近づける。そして艶かしく囁く。



「この首はいずれ私が頂くから……覚悟なさい、ゼロ」


「…まったく……本当に…なんて将軍だよ」



首を竦めるゼロに、レヴィアタンは「フフフ♪」と嬉しそうに微笑んだ。


それからエル・クラージュと共に去りゆくゼロの背中をじっと見つめる。

後ろから部下が慌てたように駆け寄る。


「本当にいいのですか、妖将様!」


「なにが?」


「あの紅いイレギュラーですよ!?奴を野放しにしてしまっては――――……」


「しつこい」


そう言って、彼の額を指で弾く。そして、小馬鹿にしたように笑った。

その部下は額を抑え、苦い顔をする。


「……笑っている場合じゃありませんよ……これは明らかな――――」


「“裏切り”でしょうね。言いたければ上に言いなさい。私は甘んじて罰を受けるわ」


「そう言う問題ではありません」と喚き散らす部下の声を無視し、再び振り返る。もうずいぶん遠くまで行ってしまった。けれど、その紅い背中をハッキリと覚えている。


過去と向き合う勇気をくれた人。


いつかまた会う日を思い、期待する。どのような形でその時が訪れるのか。その“未来”はどんなものなのだろうか。

“明日”がこれほどまでに待ち遠しく感じられるのは初めてだ。


「……ありがとう。必ずまた会いましょう、ゼロ」


荒野の果てを見つめながら、呟くようにそう言った。

そしてまた、彼もいつか記憶を取り戻せるようにと、レヴィアタンは静かに願った。
















―――― * * * ――――



「ごめんね……ダーリン……」


エル・クラージュのコアユニットからしょぼくれた声が聞こえる。その主はレルピィだった。


「なにが?」


「『なにが』……って私のためにいろいろ苦労かけさせちゃったでしょ……」


敵により封印されてしまったことを、正直申し訳なく思っていた。とは言え、仕方のない事だったとゼロは笑う。


「なに、問題ないさ。結局はこうして全て丸く収まって…おまけにこんな物まで手に入ったしな」


そう言って、エル・クラージュの車体を優しく叩く。

ふとゼロは気づく。そう言えば、レルピィも先ほどのレヴィアタンとの遣り取りを見ていた筈だ。いつもの彼女ならば、即座に飛んで耳元で喚き散らしていただろう。それをしなかったのは、そうした「申し訳ない」という思いが理由だったのかもしれない。

自分が人質のように扱われたことで、反省しているようだ。

「もし、そうなら」と考え、ゼロは溜息を吐いた。


「あのな、レルピィ」


「………何?」


半ば呆れたような声で名を呼ばれ、おそるおそる問い返す。

だが、ゼロは優しい声で諭すように言う。


「お前が俺にとって大切だからこそ、俺は見捨てなかったんだ。お前はそれに対して感謝してもいいが、見当違いな反省なんかするなよ。そんなことされちゃ、毎度毎度助けてもらってる俺は、頭が上がらないっての」


「……ダーリン………」


「いつも通りのお前でいてくれよ。一日いなかっただけで、だいぶ調子が狂ったんだぜ?」


そう言って明るく笑いかけるゼロ。レルピィはその言葉に、心の奥がじんと温まるのを感じた。

そして、気を取り直したのか、一際明るい声を返す。


「うん……ありがとう、ダーリン!やっぱり愛してるぅ!」


そう言ってエル・クラージュを更に加速させる。

慌てて、振り落とされないようにハンドルを握るゼロ。だが、それにも構わず、レルピィは加速した。異常なほどの加速力で。


「ぬぉっ……ちょっ待て!待てって!」


「――――そんなわけで私と言う者がいることだし!あんな女に二度と誑かされないでよね!」


「お前っ!?……なんだかんだで怒って…んのか……って!……ちょぉ!?」


嬉しさからか、嫉妬心からか。危なっかしく蛇行しながら進んでゆくレルピィ。

舞い上がる砂埃と、風を切る轟音の中、ゼロは情けない声を上げながら必死にしがみつくだけで精一杯だった。


















 ……ええ、間違いないわ











 “私”の気持ちは本物よ





 彼を愛する想いも


 焦がれる想いも


 慕う想いも







 人の手により生まれた存在



 だけど



 この感情は




 組み込まれたプログラム以上に







 ――――厄介だわ



















NEXT STAGE





    デンジャラス・デイ














・19th STAGE「妖将」

・20th STAGE「届かぬ想い、その結末。」


イメージソング:last love song/KOKIA



最後に雨のように降り注ぐ何かの中でゼロがレヴィアタンにもたれかかり、且つ彼女が呆然と空を見上げているというシーンから組み立てたお話でした。

今は亡き大切な人の最期の言葉を追う彼女と、かつての主人の命を忠実に守るあの中ボスとの対比とか、思いつきで試してみたわけですが………


…ん~。あまり多くは語るまい。

読者の方々にはどのように感じていただけたでしょうか。


個人的には…「感情だけで描くのはあまりよろしくないね」という反省を得ました。

百部分用にイラスト書いたから、妖将様にはそれで赦していただこうかな……(汗


KOKIAさんのlast love songの詩が染みたので、ぜひお聴きくださればと思います。




さて、残すところ激闘編も一話でおしまいです。

次回はお祭り回にでもして、スパっと泥沼へと歩みだそうと思います。

あいつらも再登場予定です。


ちなみにもう一話予定していたのですが、必要性、内容等を考慮した結果、省きました。

どうしても酷な話になりそうだったし…ね。



ちょっと間は空いてしまうかもしれませんが、ゆるりとお待ち頂ければと思います。

それではまた次のお話で...

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