1 [C]
―――― 3 ――――
――――なにが…どうなった…?
真っ暗で何も見えない。
――――たしか…緑の光が来て……
ゴーレムから放たれたレーザー光を思い出す。
ああ、そうか。そのまま崩れてきた瓦礫に埋められたのか。
――――ざまぁ無いな…
こんなこと…以前なら…。
――――……以前?
引き出せなかったはずの記憶のピースが頭によぎる。
そうして脳裏に浮かんだのは、閃光を操り瓦礫を切り裂くイメージ。
手にしているのは見紛う事無き……
――――…武器……
そう、武器。
確かにあった。
持っていたハズだ。
かつては。
――――…なら…どこに…?
かつてあったというなら
今はどこにある?
大切な力。
戦うために必要な力。
――――…思い出せ…
状況を好転させる可能性を
――――思い出せ。思い出せ!
このまま終わるわけには行かない。
己が誰なのかも忘れたまま、再び眠りに付くわけには行かない。
ただひたすら念じ続ける。
――――思い出せ!思い出せ!
思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!
思い出せ!!
――――…あるよ
(!?)
焦りを諌めるように
不意に声が響いた
頭の中で
(この声は…?)
闇の中、聞いた声
どこか懐かしい
優しい声
――――武器ならあるよ。
(どこに…?どこにある!?)
クスクス
――――本当に分からないのかい?
(笑ってる場合じゃないだろう!)
必要なんだ
どうしても
――――…何のために?
(…っ?)
――――何のために、武器が必要なの?
(……闘う…ためだ…)
――――じゃあ…
それなら君は
何のために闘うの?
(………)
即座に答えられず
言葉に詰まった。
(何のために?)
自分が死なないため?
(それもある)
あの少女を助けるため?
(それもある)
(だが…)
そう
理由がある。
全ての理由の上に、さらに理由がある。
(それは…)
――――それは…?
(…正義)
いや
(…信念)
己の信念を貫くため
いや
(そんなカッコいいもんじゃない…)
許せない者を許さず
護りたい物を護り
救いたいモノを救う
(俺の…)
男は自嘲気味に、けれど満足そうに笑った。
闘い続ける理由。
それは――――
(“ワガママ”を通すため…さ)
単純で飾ることのない真実の理由。
――――…あるよ。
(………)
――――君は持ってる。
(……?)
――――…もう武器を持ってる。
(…どこに…?)
かすかに聞こえる笑い声
優しい響き
全てを包み込む温かい流れを感じる
――――君の武器は
いつだって
君自身の中にある
一瞬だった。
何十分も何時間も話していた。
そんな気がした。
目の前は相変わらずの暗闇。
だが
――――思い出した。
俺の武器
俺の“ワガママ”を通すための唯一の力
許せない者を許さず、護りたい物を護り、救いたいモノを救う“力”
彼は左腕を前に出す。
――――俺の武器…
封印されて久しい、俺の刃
左腕のアーマーに溝が走る。
光が溢れる。
――――俺の行く手を阻む
全ての敵を両断する
俺の剣
アーマーが開く。
白い柄が見える。
それを握りしめる。
血がたぎる。
鼓動が大きくなる。
体中に力が、満ちる。
そう、それは彼の――――
――――俺の…誇り
俺の写し身
俺、そのもの!!
神話の英雄は光の剣を引き抜いた
―――― * * * ――――
瓦礫の合間から光があふれると同時に、閃光が空間を駆け巡る。
リーグは構えていたエネルギー銃の引き金を引くこと無く、その光の行先に目を奪われた。
「!?」
誰もがその光景を疑う瞬間。
「…ゴーレムが…!?」
刹那の間に、その巨体は真っ二つに割れ、光を放つ。
「伏せろ!!」
リーグの声と同時に、イーガとナイロは身をかがめる。
そして爆発――――爆風で破片が周囲に飛び散る。
「くっ…何が起こった…!?」
「隊長!!」
「!?…な!」
ナイロに呼ばれて振り返ったリーグはその目を疑った。その場にいたはずのシエルが忽然と姿を消していたのだ。
「どこへ!?」
事態が理解できない。いったいここで何が起こっているのか。
なにもかもが突然過ぎて思考が追いつかない。
光が溢れた。
ゴーレムが破壊された。
Dr.シエルは姿を消した。
そして――――
「…ガ…ッ……!!」
イーガの首が宙に舞った。
疑似血液が吹き出る。
「…な…んだと…!?」
目の端に、真相の鍵を捉えた。
空を裂く緑の閃光
流れる金髪
少女を片手で抱える一人の男
「貴様…!!」
「『死んだはずだ』ってか?」
「ハハハ」と高らかに嘲笑う。そこに立っていたのは、ゴーレムの攻撃を受け、瓦礫に埋まったハズの男。
「なあに。たかが“瓦礫に埋まっただけ”さ。なあ、小娘」
呆気にとられるリーグとナイロを無視して、男は抱えていた少女を優しくおろす。
「ゼ…ロ…」
彼女――――シエルもまた目の前の状況が理解できないでいた。
「なんだよ?お前さんも俺が死んだと思ってたのか」
男は不満気にため息を漏らす。
「だ…だって…」
「もっと信用してくれてもいいんじゃないか?そうだろ?だって俺様は…」
[伝説の英雄]
[ゼロ]なんだろ?
「ば…化物がぁ!!」
エネルギー銃を向けるリーグ。だが、ほんの一瞬で男は姿を消していた。
いや、消えたのではない。
「…ァ…」
ナイロの首も飛ぶ。
男の速度は、彼らの知覚を容易に超えていた。
そしてリーグは全てを悟る。
――――ああ…そういうことか……
自分たちがこれまで守ってきた本当の対象。
己の存在意義。
全ては、この怪物から
ネオ・アルカディアの秩序を
ネオ・アルカディアの平和を
守るため
ミュートスレプリロイドでも無い一介のレプリロイドである自分に
四天王は、こんな大役を任せてくれていたのだ。
――――……しかし、本当に残念だ
己の死の間際にそれを知るとは
悔やみきれぬ虚しさの中
彼の首もまた、呆気無く宙を舞った。