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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
105/125

20th STAGE [A]



―――― * * * ――――



『……いる…の…かい?』


病床に伏しながら、彼は問いかける。

彼女は彼の手を優しく握り、顔を見つめる。


『ああ……レベッカ………』


人工呼吸器を取り付けられた口で、彼は何度も彼女の名を呼ぶ。

愛おしむように。撫でるように。抱きしめるように。

けれど、その声は響く度に、彼女の心を締め付ける。


『……オルジフ…』


彼女は彼の名を呼ぶ。

その声に、彼は微笑んでみせる。

しかし、彼女は微笑みを浮かべるどころか、哀しげな顔のまま、彼を見つめていた。

そして、再び口を開く。


『オルジフ……私は……――――』


言いかけて、止めた。

ちょうど今、命の灯火が消えかけている彼に、自身の気持ちを伝えたところで、何になるというのか。

それだけではない。その言葉は“裏切り”だ。彼を愛すればこそ、口にするべきではない。

これまでと変わらず、心の奥底にしまい込めばいい。

そう、これまでと変わらず。“その名”で呼んでもらえばいい。

彼がそれで笑顔になるというのなら、それで十分ではないか。今際の際に、それを台無しにする必要など無い。

名前など、只の記号に過ぎない。どんな呼ばれ方をしようと、彼は自分を見てくれているのだ。




――――彼は、きっと私を……




  私…を……――――…?






不意に、彼の手が頬に伸びる。既に温もりなど、欠片も感じられなかった。


次の瞬間、彼は微笑みながら何かを口にした。

たった一言。呟くように。囁くように。


それから、彼は静かに瞼を閉じる。

そして命の火が確かに消えたことを、アラームと心電図が知らせた。


医者と看護師が事後処理をする中、彼女は立ち尽くし、一人思う。


――――オルジフ……私は……


遂に言えなかった唯一言を、震える声で呟いた。




『……私は……“レベッカ”では…ないわ』








顔を両手で覆えども、涙は遂に流れなかった。


















20th STAGE





  届かぬ想い、その結末。
















――――  1  ――――



「四天王計画については知っている?」


「一応……な」


ゼロは白の団のデータベースから得た知識を思い返す。


ちょうど十年前、ネオ・アルカディア政府内にて“今後予想されるレジスタンス組織の活動活発化への対策”の一つとして挙げられた軍団再編計画。その目玉として用意されたのが、軍団をまとめ上げる指揮官レプリロイドの開発案であった。


「政府に属する、レプリロイド工学権威として名高い四人の科学者に、その開発指令が下された……」


救世主エックスのDNAデータを元に、人類、ネオ・アルカディア、それを統べる救世主エックスの守護者たる、最強最優のレプリロイドを開発する計画――――それが、“四天王計画”である。

四人の科学者はその計画を実行するために呼び出され、それぞれ独自の技術を用いて計画に相応しいレプリロイドを開発するよう指令を受けた。


「その内の一人が、そこの彼――――オルジフよ」


上層部の指示により、四人は四つの軍団の具体的なコンセプトに見合ったレプリロイドを設計。


一人は、制空権の掌握及び国家のライフラインに直接関係する設備を護衛する軍団の長となり、且つ、四天王のリーダーとなり得るレプリロイドを。

一人は、広大な大地の上、最も巨大な戦力をまとめ、レジスタンス組織掃討の要となる軍団の長となり、且つ、自らも軍団に恥じぬだけの戦闘力を持ったレプリロイドを。

一人は、隠密活動に特化し、国外のみならず、国内の反抗勢力からも救世主を直接護衛する軍団の長となり、且つ、自らも高い隠密機動能力を持ったレプリロイドを。


そしてオルジフは、制海権の掌握及び海洋調査任務を主とし、情報戦全般を取り扱う軍団の長となり、且つ、自らも水中戦、情報戦に秀でたレプリロイドを。


四人が設計したレプリロイドには、開発段階でコードネームが付けられた。「ハルピュイア」「ファーブニル」「ファントム」「レヴィアタン」――――どれも神話や伝承とリンクさせ、軍団のイメージに沿うようにつけられた名称である。

それらが、今日までレジスタンスに恐れられる四天王と、彼らが統べる四軍団の前身となった。


「元々、オルジフが設計していたのは男性型だった。それもそうよね。旧時代からの男性社会を受け継いだネオ・アルカディアにおいて軍団の長をわざわざ女性型にする意味はないもの」


救世主とその理想郷を護る、四人の屈強な英雄たち。彼らの完成が間近となったちょうどその時。一つの悲劇が起きた。


「オルジフには、大学講師時代から傍で研究を支え続けた恋人がいたわ」


病弱な彼の健康を気遣い、傍で研究を支え続けた恋人。――――彼女の名はレベッカ。

メガロポリス大学でも才色兼備で有名な彼女は、レプリロイド工学を専攻。授業を通じてオルジフと出会い、授業の質問などを繰り返す内に、彼の人間性に惹かれていった。

そして、大学院を卒業と共に、彼との交際を始めることになる。


「オルジフが戦略研究所顧問に就いたこととか、持病を患っていたこととか、歳の差とか……いろいろ事情が重なって、家庭を築くことは暫くなかったわ。けれど、共に過ごし、愛を育み続けた」


互いに愛しあい、慈しみあい――――大切なあたたかい時間を過ごし続けた。

オルジフにとって、レベッカは誰よりも欠かせない大切な存在となった。


しかし、四天王計画に取り組み、完成が近づいた頃。メガロポリスにおいて、とあるレジスタンス組織による襲撃事件が起きた。


「当時、あの大反乱から七十年も経過していたこと、黒狼軍や解放議会軍のような特別視される組織が見当たらなかったことから、国内の警戒心は薄れていたのね。イレギュラーハンターのおかげで、大事には至らなかったけれど、少なからず犠牲者が出たわ。……そしてそこにレベッカが巻き込まれたのよ」


オルジフは嘆き悲しんだ。

最愛の恋人を失い、元々病弱だった身体の具合はさらに悪化していき、取るべき食事も喉を通らないほどであった。

喪失感、絶望感、悲哀と苦悩に包まれる時間。その中で、オルジフは目の前にいる完成間近のレプリロイドに目をつけた。


「彼は、電子頭脳の不具合を理由に、製作途中のレプリロイドを廃棄。コンセプトの見直しと、新技術の導入を謳い、追加予算を請求し、レプリロイドを基本骨子から全て作り直し始めた」


しかし、そうして彼が作り上げたものは、他の研究者達の想像を絶する私情と私欲の産物であった。


「彼は四天王計画用に支給された全ての予算を用いて、新たなレプリロイドを作り上げた。――――死んだ恋人、レベッカと瓜二つの模造人形を……」


上層部はその外観に呆れ果て、オルジフに対し抗議を寄せた。だが完成したレプリロイドにイメージカラーとして指定されていた青が取り入れられていたこと、何より独自技術の導入により戦力として十分な機能が付随されていることを挙げられ、要望を満たしていることに渋々納得する形となった。

かくして、四天王の一人“レヴィアタン”は完成した。……レベッカの模造人形としての外観と“心”を持ったまま。


「上は指摘しなかったけれど……“心”の部分において、私にはある意味、“問題”と言える点があるの」


「“心”……?」


目覚めて直ぐに彼女のことを「レベッカ」と呼ぶオルジフ。しかしレヴィアタンは与えられたコードネームではないその名前に首を傾げる事はなかった。

眼の前にいるオルジフを最初から特別な存在に感じ、愛おしく想い、愛しあう事を躊躇わなかった。その“感情”を一切疑わず、彼を愛した。


まるで、“生まれる前から共に歩んできた恋人”のように――――……‥‥


「もう…分かるわね?」


ゼロは唖然としたまま彼女を見つめた。

レヴィアタンは一息ついた後、複雑な表情と微かに震える声で言葉を続けた。



「オルジフは……レベッカの記憶と感情をデータに変換し…私に搭載したのよ」



真の模造人形――――完全な“レベッカ”を作り上げるため。




オルジフはレヴィアタンに“レベッカ”を移植したのだ。









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