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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
102/125

19   [C]



―――― * * * ――――



ネオ・アルカディアにある、意思を持ったスーパーコンピューター――――俗に「マザー」と呼ばれるコンピューターには、その誕生から今日までのあらゆる情報、或いはネットワーク上に散らばったプログラムの断片など、数億、数兆というデータが眠っている。

ちなみに、ゼロが眠っていた忘却の研究所に関しても、シエルにその所在を知らせたのは彼女だ。

研究者の中には、マザーでさえ復元、引き出し困難なデータをサルベージし、ネオ・アルカディアの今後に役立てようという者が大勢いる。

その内の一人、戦略研究所第七室主任オベールは、イレギュラー戦争時代のある実験から生まれた、一体の怪物に興味を示した。

「一つの細胞をどこまで大きくできるか」――――そんな研究者の興味から始まった実験は、紆余曲折を経て、一体の“バイオメカニロイド”を完成させるに至った。


オベールは、そのバイオメカニロイドの戦闘データ、プログラム、設計図等をマザーからサルベージし、現代の科学力を持って改良。構想から二年がかりの巨大プロジェクトの果て、新たな兵器として誕生させるに至った。

それが実験兵器LX-13号――――通称「ラドゥーン」である。


サルベージしたプログラムをベースに、新たな思考パターンを組み込んだAIをパンテオンの頭部に移植。それを核として、ゲル状素材により、竜のような身体を形成した。

身体には、無数のナノマシンが埋め込まれており、それらが神経と骨格の役割を果たすことで、柔軟かつ自在に変形することができるのだ。

また、ゲル状素材にはエネルギーを吸収する特性があり、あらゆるエネルギー弾を防ぐことが出来る仕組みになっている。加えて、その機能を活かし、外部からのエネルギー充填も可能。


かくして百年前に生まれた実験兵器は、現代技術による改良も施され、蘇ることとなった。


そんな「ラドゥーン」の記念すべき稼働試験の日。

メラレーン湖の研究施設に妖将率いる冥海軍団を招いての、模擬戦形式での評価試験。その途上、事件は起こった。


メカニロイドとの模擬戦後、パンテオン部隊との模擬戦へと移行するやいなや、突如として制御不能となり、ラドゥーンはそのままパンテオン部隊を瞬時に全滅させた。

緊急事態に、施設の防衛部隊と冥海軍団の戦闘部隊を出撃させ、ラドゥーンを取り押さえにかかったが、その脅威的なスペックの前に、全く歯が立たない。


そこに颯爽と現れたのが、真紅のコートに流れる金髪――――かの紅いイレギュラーだった。

















――――  3 ――――



「――――そうして暴走した実験兵器を止める手伝いをして欲しい……か」


「そうよ」


椅子の背もたれに一度身を預け、それからスッと立ち上がる。揺れる青い髪から、華やかな香が漂った。


「……まあ、この状況ですもの。答えは一つよね」


そう言って背を向けて歩きながら、再び手にとったコアユニットを、見せつける。

確かにレヴィアタンの言う通り、協力を拒めばいったいどのような手を取られるか分かったものではない。だが、だからと言って協力したところでレルピィを返してもらえるかどうかは、残念ながら別の話だ。

何れにしても、主導権は全て向こうが握っている。ここで下手に逆らう手はない。


「……仕方ないな。いいだろう。その話に乗ってやる」


「ありがと、紅いイレギュラーさん」


そう言って、レヴィアタンはあろうことかコアユニットをゼロに向けて投げ渡した。その意図が計りきれず、ゼロは再び戸惑う。


「預けておくわ。勿論、解除キーは私しか知らないけど」


「本当に……何を考えてやがる……」


ホームヘと持ち帰れば、ペロケに封印を解除してもらうことも可能だ。つまりは、これで隙を見て逃げ出すこともできる。

もしや、それすらも見越しているというのか。底が測り知れず、ゼロは疑いの眼差しを向ける。

だが、レヴィアタンは少しも動じること無く、言ってのける。


「あなたがここで逃げ出すような卑怯者ではない事くらい、私には分かるわよ」


「フフッ」と得意げに微笑む。

残念ながらレヴィアタンの言う通り、それが可能だと分かっていても、この状況をそのままに逃げ出そうとは考えていなかった。無論、ラドゥーンの脅威を野放しにしておくわけにもいかないと考えてもいたのだが。

「それに」とレヴィアタンはくるりと振り返り、付け足す。


「目の前に、こんないい女がいるのに……それを放っておくような甲斐性無しじゃないでしょ?」


いちいち真面目に言っているのかどうか分からず、ゼロは苦笑を返すことしか出来なかった。それから完全にペースを持って行かれていることを、自嘲した。

そうしている内に、レヴィアタンは近寄り、ベッドの上に乗る。そして、ゼロの上に覆いかぶさるようにして両手をつき、微笑を浮かべながら問いかける。


「それで、どうする?」


「……なにが……?」


「もう“初対面”じゃないわよ」


ボレアス山脈でのやり取りを思い出す。冗談半分ではあったが確かに“そのような”会話をした。

レヴィアタンは扇情的な眼差しでゼロの顔を見つめる。


「“据え膳くわぬはなんとやら”……って知ってる?」


「なるほど……とんだ将軍様だ」


そうして更に顔を近づけ、レヴィアタンは頬を紅潮させ、艶かしい吐息を誘うように吐き始める。身体が奥の方から火照り出すのを感じる。

ゼロはタオルケットの下に入れていた手を出し、彼女の方へと伸ばす。妖しく揺れる、たわわに実った果実のような、それでいて柔らかく揺れる白い乳房へと。ついにその指が触れる――――かと思いきや、その手は青い髪を掻き分けると、彼女の肩を抑え、そのまま優しく遠ざけた。

「あら……?」と呆気にとられるレヴィアタン。ゼロは不敵に笑う。


「悪いが、敵陣の真っ只中にいながら、敵の女を抱くような趣味も持ち合わせていないのさ」


そう言うゼロを、レヴィアタンは物足りないような目で見つめながら嘲笑う。


「一見悪そうなクセして……そういう真面目なところ、損よ?」


「一応、自覚してる」


そのままレヴィアタンは笑いながら離れ、ベッドの端に腰掛けた。

ゼロは机の上に視線を向ける。


「それに、既に先約がいるみたいだしな」


「え?」とレヴィアタンも同じ方を眺める。

そこには、先ほど見つけた例のフォトスタンドが立っていた。すると、レヴィアタンは慌てたように手を伸ばし、フォトスタンドをパタリと伏せた。


「勝手に見るなんて……狡いわ」


「無造作に置いておくほうが悪い」


初めて動揺させたことに、ゼロはようやく余裕を取り戻す。


「そこに映ってるの……お前だろ?」


常に映っていた男女二人組。カップルのように寄り添い、笑顔を見せていた。

その内の女性の方。髪の色も瞳の色も、彼女特有の青ではなかったが、顔の作りも、女性らしい身体のラインも、レヴィアタン本人としか思えなかった。

だが、レヴィアタンは誤魔化すように笑う。


「女の過去に口出しするなんて、案外野暮ね。いい男が台無しよ?」


「なるほど、妖将ともあろう女が、過去の男を今も引きずっているわけか……」


「ノーコメント」と不機嫌そうに立ち上がり、背を向ける。

そして壁に近づき、手を当てる。すると四角い溝が入り、扉が開く。そこはクローゼットとなっていた。

レヴィアタンはそこから自身のボディスーツとジャケットを取り出す。そして、共にかけてあったゼロのコートを取り出すと、ぶっきら棒に投げ渡した。


「ある程度おしゃべりも済んだことだし……作戦といきましょう」


そう言って再び背を向けると、ボディースーツを下から履き始める。こちらに向けられた形の良いヒップが、尚もゼロを誘っているようで、思わず目を逸らした。

そうして一人考える。

過去を聞かれることをあからさまに拒否し、話を逸らした彼女に、ゼロは興味が湧いた。

妖将といえど一人のレプリロイドであり、触れられたくない過去の一つもあるのだ。そして、きっとそこに彼女の真実があるのかもしれない。

ようやく一つできた取っ掛かりを、どうにか上手く利用することはできないものか。


「ほら、早く準備なさい。いつまで人のベッドを占領しているつもり?」


最後に赤いリボンを頭に飾りつけながら、そう言って急かす。

「すまない」と立ち上がり、ゼロは自分のコートに袖を通した。――――と、不意に思い立ち、机のフォトスタンドに手を伸ばす。そして気付かれないように隠しながら、懐に仕舞う。


――――これくらいの見返りは許せよな


そう心の中で呟く。

もしかしたら、何かしら彼女の情報を得ることで優位に立てるかもしれない。そう言う材料は、今尚続く窮地には重要だ。見過ごすことはできない。

代わりに、ラドゥーンを仕留めるのに全力をつくすことを誓い、彼女の後に付いて部屋を出た。





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