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[Z-E-R-O]  作者: 村岡凡斎
激闘編
101/125

19   [B]



―――― * * * ――――



瞼を開くと、白い壁が一メートルほど先に見えた――――が、自分の体勢に気づき、それが壁ではなく天井であることを認識する。

見知らぬ天井を呆然と眺めた後、つい先程までの状況を思い出し、勢い良く上体を起こす。そして未だに傷が疼く頭を抱えた。


――――そうだ……俺は……


ゼロは、あの竜の牙に頭を強打し、意識を失ったことを思い出す。

すかさず、左手のコアユニットを確認した。だが、そこに有ったエメラルドの輝きは、何処にも見当たらない。

湖の底に落としてしまったのか。それならレルピィはどうなってしまったのか。ライドチェイサーの制御部にダイブしたままだったなら、ライドチェイサーと共に湖の底に沈んでしまった可能性もありうる。いや、ブースターを上手く噴かして水面に上がれた可能性も考えられる。

何れにしても、今傍にはいないということだけは確かだ。


「……そもそも……ここは何処だ…?」


ようやく、自分が置かれた状況について、疑問を口にした。

そういえば確かに暗い湖の底へと沈んで行った筈だ。しかし、気づけば五体無事に、それどころか柔らかく寝心地よいベッドの上に先ほどまで寝ていたのだ。よくよく見てみればタオルケットまでかかっていたらしい。だが、専用の紅いコートが無いことに気づく。身に着けているのは黒いアンダースーツのみだ。

いったいここは何処だ?どうして助かった?この格好はどうした?何が起こった?

整理のつかない頭で、周りを見渡す。

そばに置かれた机と椅子。壁に備えられた電子モニター。簡素ではあるが、誰かがここで過ごしているような雰囲気がある。

奥の方へ視線を遣ると、部屋の一角にまた別の個室らしきものが見える。――――と、そこから妙な音が聞こえる。暫く耳を澄まし、シャワーが床を叩く音であることを理解する。

間違いない。この部屋には誰かいる。その誰かが、おそらくゼロを救い、この部屋で介抱していたのだ。そして今、無用心にも、シャワーで身体を洗い流しているところらしい。


ゼロは考える。

ゼロを救った時点で、レジスタンス関係の者と考えるのが一番妥当だ。しかし、先ほどまでいた場所を考えれば、ネオ・アルカディアの関係者という線も捨て切ることはできない。

更に、後者であるならば、ここがネオ・アルカディア関係の施設内である可能性も高いわけだ。万事休すという事も考えられる。

考えれば考えるほど、想定は広がる。だがある時点で、考えたところでキリがないと感じ、ゼロはついに考えることをやめた。


それから、ふと机の上に視線を遣る。

そこには四角いフォトスタンドが見える。枠の装丁は木目が目立ちノスタルジックな作りになっているが、無論、映っているのは過去に記録されたデジタル映像である。

ゼロはそのフォトスタンドをおもむろに手にし、そこに映る映像を眺めた。


「……こいつは…」


そこには一組の男女が映っている。ゼロはその内の片方に見覚えがあった。髪や目の色が異なってはいるが……明らかに“彼女”だ。

ならばここは――――……‥‥






そこで、シャワー室の戸が開く。ゼロは咄嗟にフォトスタンドを机の上に戻した。


「あら……起きてたの?」


羽織ったバスタオルで水滴を拭き取りながら、“彼女”はゼロに問いかける。衣類を一つも纏わず裸体を晒しているというのに、“彼女”は少しも恥じらう様子を見せない。

特徴的な青い髪がその白い肌を更に妖艶に見せる。

一歩二歩と近づく度に揺れる豊満な乳房に、ゼロは思わず顔をしかめる。


「……まさか…お前にまた会うことになろうとはな。しかも、こんな形で……」


「フフッ……形は問題じゃないわ。大事なのは、“再び会った”という事実よ」


そう言って裸のまま、ベッドの端に腰掛ける。誘惑するように腰をくねらせ、ゼロへと顔を近づける。


「久しぶりね、紅いイレギュラー」


「ああ、ボレアス山脈以来……だな。妖将レヴィアタン」


二度目の邂逅に、お互い不思議な因縁を感じずにはいられなかった。

















――――  2  ――――



イレギュラー戦争時代に、かのレプリフォースが使用していた物を、冥海軍団用に改造したのがこの大型潜水艦だった。

今回の稼働試験の関係により、レヴィアタン率いる冥海軍団の一部隊が乗艦していた。

現在はメラレーン湖内に潜水中である。


あの竜との戦闘により、水中に沈んだゼロを、冥海軍団に所属する水中調査用パンテオンが発見し、回収したのだ。

おかげで、幸か不幸か、ゼロは湖の藻屑となる前に一命を取り留めたわけだが、正直なところ、状況が好転したとまでは言えなかった。


「いつまでその格好でいるつもりだ……」


「あら…、困る?」


椅子に腰掛け、裸のままドライヤーで髪を乾かすレヴィアタンに、ゼロは苦い顔をする。


「ホント、思ったよりもお子様なのね」


「どう言ってくれても構わないが………この状況…お前の方こそ分かっているのか?」


別に、レヴィアタンが肌を露出し続けることに関して、どうこう思うことは無い。

問題に思っているのは、口にしたとおり、この状況。

レヴィアタンは丸腰どころか一切の衣類も纏わぬまま、ゼロを背にし、悠々と髪を乾かしている。ゼロが紅いイレギュラーという、四天王最大の宿敵だというのを忘れたかのような無防備さだ。

確かにこの艦内にいる限り、下手な手出しはできない。だが、彼女を人質にして浮上を迫り、逃げ出すことも、ゼロにはできるのだ。

先日のボレアス山脈の一件といい、彼女はいったい何を考えているのか。それがゼロには掴めず、不安要因となっていた。


「そういえば…カムベアスの一件、聞いたわ。結局、あなたが殺したそうね」


ふと、振り返ることもないまま、レヴィアタンが話題を変える。

あの雪山での苦い経験を鮮明に思い出し、ゼロは答える。


「……ああ。すまない、せっかく情報をくれたというのに」


レヴィアタンが情報提供してくれたというのに、ゼロはそれを生かして、カムベアスを救うことが出来なかった。

だが、レヴィアタンは短く笑って返す。


「別に、謝る必要なんて無いわ。あれは…なるようになっただけ…でしょ?」


『なるようになっただけ』――――その言葉が、何処か寂しく響いて聞こえた。

髪をあらかた乾かし終え、レヴィアタンは体ごと振り返る。先程から相も変わらぬ、ひどい無防備っぷりに、ゼロはそれ以上突っ込まないことにした。


「さて…と。……大丈夫よ。あなたのことを只のウブな坊やだなんて、欠片も思っていないわ。――――これを見れば、私の態度の意味が分かるでしょ?」


そう言ってロックを解除し、机の引き出しからあるものを取り出した。

ゼロは唖然とする。それは、彼が身に着けていたはずのコアユニットだった。しかし、中心部には封印装置が取り付けられているのが見える。


「まあ、ただのサイバーエルフならデリートしても構わないのだけど……。紅いイレギュラーのサイバーエルフとなれば話は別よ」


その言葉の意味が、悔しいほどによく分かる。

紅いイレギュラーと言えば、四天王並びにイレギュラーハンター、いや、ネオ・アルカディア全体の宿敵であり、お尋ね者だ。

しかし、明らかに彼のバックボーンに関しては謎が多する。

その能力、行動範囲の広さや、行動理念等は勿論のこと、彼のバックにいったい何者が付いているのか?協力者はどれほどいるのか?組織であるならばどの様な組織なのか?規模は?本拠地は?……

彼が所持していたサイバーエルフを解析することにより、そんな様々な謎を解明できる可能性があった。


実際、レルピィを解析してしまえば、それだけの情報を引き出すことができるのも確かだ。


「自壊プログラムを作動されても困るから、こうして動きを封じているのだけど……どうしようかしらね」


意地悪そうに笑ってみせる。その憎たらしさに、ゼロは思わず苦笑する。


「返してもらえると嬉しいんだが……大事な相棒なんでね」


「そう簡単に返すと思う?」


「力尽くでも」


「あら、怖い」


どこまでが本気なのか分からない笑みを零す。

だが実際、力尽くでかかったところで、既にレルピィのデータが移されている可能性もあり得る。もしそうなっていた場合、ここで無用な騒ぎを起こすわけにもいかない。

しかしレヴィアタンは、あっさりとその答えを明かす。


「安心して、あなたの大事な相棒はちゃんと中にいるわ」


ゼロはますます訳が分からなくなった。


「…お前は…いったい何を――――ッ!」


問い質そうとした瞬間、レヴィアタンは人差し指を立て、ゼロの口唇に押し当てる。


「一つ、交渉といきたいの」


そう言って、コアユニットを机に置くと、ベッドに手をつけ、椅子から「ずい」と前に進み出る。

近くで見ると、その端正な顔の作りと白い肌は更に妖艶で、ゼロ程の男でさえも扇情的な彼女の動きに、動揺してしまう。――――妖将とはよく言ったものだ。

揺れるゼロの心を知ってか知らずか、レヴィアタンは真剣な表情で話題を切り出す。


「見たでしょ、あの竜を」


その言葉に、ゼロは反応する。

『竜』――――おそらく先程湖で出会したあの透明な竜のことだろう。

口唇を塞ぐ手を掴み上げ、口を開く。


「あれがお前たちの新兵器か?」


「実験兵器LX-13号……通称“ラドゥーン”」


レヴィアタンは躊躇うこと無く、そう返す。それが自分達の新兵器であることをあっさりと認めた。


「今、アレは制御不能状態に陥っているの」


あの竜――――ラドゥーンは稼働試験中に、冥海軍団のコントロールを離れ暴走を始めた。

ゼロはようやく合点がいった。だからあの時、模擬戦形式の稼働試験というには些か緊張感に満ちた雰囲気の戦闘となっていたのか。それならば、あの状況に説明がつく。


「この子から情報を引き出すのは容易いわ。……けど、アレを止めるのは容易ではない」


先ほどの様子を思い出す。確かに、あらゆる攻撃を無効化する体を持ったラドゥーンを止めるのは難しい。ゼロ自身、痛手を負ったばかりだ。

そこで、レヴィアタンはある提案を持ちだした。


「紅いイレギュラー、あなたの力を貸して。アレを――――ラドゥーンを止めるのに協力してちょうだい」






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