猫ミームにハマった幼馴染が、猫ミームでしか会話してくれなくなった件
今流行っていることはなんだろうか?
こういう質問をされた時、俺は即答することができない。
なぜなら俺はあまり流行に敏感なほうではないからだ。
俺がどれくらい流行に疎いのか具体的な例をあげよう。
Vtuberという存在を知ったのも最近だし、街中で「ひき肉です」と叫んでいる小学生を見て、こいつらは将来精肉店を開きたいのかと、勘違いしていた。
子供ながら自分のやりたいことを見つけて偉いなぁと感心していたのに、どうやらそれは今勢いに乗っているYoutuberの挨拶らしい、ということも昨日まで知らなかった。
とまあこんな感じで、トレンドやら風潮やらにはとことん疎い俺だが、そんな俺とは対照的に、幼馴染の芦塚明日香はとことん流行には敏感であった。
俺はそんな彼女から流行を取り入れているといっても過言ではない。
本来ならば俺が時代に遅れていないのは明日香のおかげなので、感謝しなければいけないのかもしれないのだが、そんな気持ちは一切わかない。
なぜなら、明日香はただ滅茶苦茶影響されやすいだけなのだから。
毎年、流行語大賞の時期になれば、ノミネートされた言葉しか話さなくなり、鬼〇の刃という漫画が異例の大ブームを引き起こした時なんて、段ボールで模造刀を作成すると、山まで鬼を探しに出かけていた。(危ないので俺もついて行った)
要するに、彼女は変わっているのである。
言葉を選ばずに言うとただの馬鹿だ。
そんな馬鹿と俺は同じ高校に通っているため今日も彼女の家に迎えに行っていた。
昨日は彼女の家のインターホンを押すなり、急に扉が開き『ひき肉です!』という登場をした。
今日は元に戻っていることを願う。
朝から憂鬱な気分のまま、俺はいつもどうりインターホンを鳴らした。
数秒遅れて、勢いよくドアが開き明日香がでてきた。
「チピ チピ チャパ チャパ ドゥビ ドゥビ ダバ ダバ マヒコミドゥビ ドゥビ ブン ブン ブン ブン」
体を左右に揺らしながら謎の言葉を発する人物が登場した。
俺は頭を抱えた。
こんな奴が俺の幼馴染だとは思いたくないが、正真正銘、俺の幼馴染である。
「ごねんね~翔也君。また変なものに影響されたらしくて……」
「あ、あはは……」
「チピ チピ チャパ チャパ ドゥビ ドゥビ ダバ ダバ マヒコミドゥビ ドゥビ ブン ブン ブン ブン」
俺は苦笑を浮かべ、心の中でツッコミをいれた。
お母さん!! 一体どんな教育をしたらこんな風に育つんですかーーーー?
「チピ チピ チャパ チャパ……」
「お前は黙っとけ!!!」
―――――――――――――
調べてみると、どうやらこれは猫ミームと呼ばれているものらしい。
自分の日常やルーティーンなどを、猫という可愛い動物の可愛い動きを使いながら紹介することで、どんなに汚い内容でも可愛く飾れることが人気の秘訣だとか。
今はこんなものが流行っているのか。
つくづく思うがあまり変なものを流行らせないでほしい。
頼む。
いやマジで……
「影響されやすいにもほどがあるだろ! 考え方とか、生活習慣が変わるとかなら分からなくもないが、お前の場合、人格が変化してるじゃねぇか!!!」
「ミャー…」
「もうそこまで行くと怖えよ! 行くところまで行っちゃってるよ!!」
「ミャー…」
「マルチ勧誘や宗教なんかにハマっても知らないからな!」
「ミャー…」
「だいたい高校生にもなって恥ずかしくないのか? そんなんじゃ、まともに社会に出られないぞ。会社に勤めても、『チピ チピ チャパ チャパ』なんてどこの言語かもわからないような意味不明の言葉を連呼する奴なんて即クビだ!」
「ああそれはクリステル・ロドリゲスさんの『Dubidubidu』っていう曲の一部だよ」
「なんでそこだけ真面目に答えるんだよ!!! そこは『ミャー…』って鳴いておけよ!!!」
朝からこいつとのやり取りは疲れるなぁまったく。
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
こ、今度はなんだ?
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
意味が分からない!?
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
ああもう!
俺はポケットからスマートフォンを取り出し、検索をした。
どうやらこれはうるさいヤギが舌をレロレロさせている様子をまねしているらしい。
猫ミームになんでヤギが出てくるんだよ!
まぁこの際どうだっていい。
猫ミームには猫ミームで対抗するんだ!
このヤギに対しては、『は?』と真顔で首をかしげる猫がセットになってミーム化しているらしい。
試してみるか。
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
「はぁ?」
「お~!!」
俺が『はぁ?』というと彼女は嬉しそうに目を輝かせた。
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
「はぁ?」
「あベ#ロレ!レロレア#レロレ&ロレロ%#レロレロ!?」
「はぁ?」
「お~~!!!」
俺が乗ってきてくれたのが相当嬉しかったようだ。
「ハッピーハッピーハッーピー♪」
ご機嫌な笑みを浮かべた明日香は、両手を叩いてジャンプし始めた。
これは分かりやすい感情表現だ。
「ハピハピハピハピハピ♪」
嬉しさを全身で表現した良いミームだな。
「ちなみにこれは閉店日のペットショップで必死に客にアピールする猫が元ネタで、本当は全然パッピーじゃないんだよ」
「だから急に素に戻るのやめろよ!」
キャラを統一しろ。
「でも心配しないで。この猫ちゃんは他のペットショップに引き取られたみたい」
心配してるのはお前の脳みそだけだよ。
―――――――――――――
ひとしきり猫ミームをやり終えて疲れたのか、そのあと明日香は大人しかった。
もうすっかり見慣れた通学路を二人横に並んで歩いていく。
毎日これくらい静かなら、俺も苦労しなくてすむのにな。
「あっ君のおかげで私、毎日楽しいよ……」
毎日元気溌剌な明日香が、真剣なまなざしでそんなことを言うもんだから、俺は戸惑った。
「おいおい、柄にもないこと言い出すなよ。お前はいつも笑っていりゃいいんだよ」
「(うん)」
なぜか俯いていた明日香は、今度は一遍して笑顔になり、急に走り出した。
こちらを振り向いた明日香の表情は、今まで見てきた彼女のどんな顔よりも眩しく思った。
「大好きだよ~」
今更ながら幼馴染のそんな言葉にドキッとしたのは内緒だ。
「それも、流行りのセリフかー?」
「えへへ~。教えなーい」
こんな幼馴染との他愛もない日常が、俺はたまらなく楽しいのである。
どんどん走っていく明日香を追いかけながら、柄にもなくそんなことを考えた。
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