みんなのチョコ(7と6と4)
「篠崎さんは甘いのが苦手なんだよね?」
「甘すぎるのが苦手」
芽衣莉ちゃんが「ふむふむ」と嬉しそうに首を縦に振る。
悠莉歌ちゃんのくれたチョコがギリギリ食べられる甘さだった。
「私はそれを知った上でとっても甘いものをあげるね」
「芽衣莉ちゃんからなら喜んで食べるよ」
「篠崎さんならそう言うと思った。じゃあ……」
芽衣莉ちゃんが可愛い袋から小さいチョコを取り出すと、自分で食べてしまった。
「ひょほをほっひんふひらわらひをはへれ」
芽衣莉ちゃんが口を開きながらそう言った。
訳は多分「チョコをトッピングした私を食べて」だと思う。
「芽衣莉ちゃんを食べるの? チョコじゃなくて?」
芽衣莉ちゃんの可愛い舌にはさっきのチョコが少し溶けた状態で乗っている。
それを食べるならまだわかるけど、芽衣莉ちゃんを食べるのはわからない。
「はんらんらろ?」
「簡単なの?」
芽衣莉ちゃんは頷くと、僕に顔を近づけてきた。
そして──。
「終了。それ以上は色々とアウトだから」
「そうだよ、永継の教育に悪い」
顔が目の前までやってきていた芽衣莉ちゃんの腕をつかんで宇野さんと栞さんが止めた。
「ほんとにやるつもりはなかったもん。篠崎さんが少しでも照れたらやめて『期待した?』って言いたかっただけだって言っといたじゃん」
「永継君よくわかんなくて照れる以前だったでしょ」
「それに止める気なかったよね?」
宇野さんと栞さんに問い詰められる芽衣莉ちゃんが目を逸らした。
「流れと雰囲気でいけるかと」
「後でお説教だな」
「ちなみに篠崎さんは普通に食べるのと私に口移しされるのどっちがいい?」
「普通に食べたい」
口移しなんてされたら芽衣莉ちゃんが作ってくれたチョコの味がわからなくなってしまう。
「篠崎さんがそう言うなら……」
芽衣莉ちゃんが悲しそうにチョコの入った袋を渡してくれた。
「そういうのはまだ早いよ」
「『まだ』か。ならいいや」
芽衣莉ちゃんが急に嬉しそうになった。
よくわからないけど、元気ならよかった。
「美味しい」
芽衣莉ちゃんから貰ったチョコを食べたが、甘すぎることはなく、ちゃんと美味しいチョコだった。
「トリュフにチャレンジしてみました」
「名前は聞いたことある」
「意外と簡単だったよ。ちなみに次は期待しない方がいいからね」
芽衣莉ちゃんはそう言って立ち上がった。
次は『6』の鏡莉ちゃんだ。
「失礼な。私は私のことを理解してるからこれにしたんだよ」
鏡莉ちゃんがぷりぷりしながら僕の隣に座った。
「私は梨歌のように冒険はしない。最初から予算ギリギリのチョコを買ってきたよ」
鏡莉ちゃんはそう言って高そうな雰囲気の袋に入ったチョコを取り出した。
「嬉しい?」
「うん、ありがとう」
手作りだから嬉しいんじゃない、チョコを貰えることが嬉しい。
だからそんなに不安そうな顔をしないで欲しい。
「前に料理をしたことがあるんだけど、完成したのはダークマターだったんだよ。だから私はその時に決めたんだ、絶対に料理はしないって」
鏡莉ちゃんの目は真剣そのものだ。
少しダークマターが気になるけど、鏡莉ちゃんの決意を無駄には出来ない。
「ゆりの真似みたいになるけど、あーん」
鏡莉ちゃんが包装からチョコを取り出して僕に差し出してくれた。
「あーん」
「……」
鏡莉ちゃんがチョコが無くなった自分の指を眺めている。
「美味しいけど、どうしたの?」
「なっつんに指ごと食べて貰うつもりだったけど、綺麗にチョコだけ食べられたなって」
鏡莉ちゃんは残念そうに指についた粉をペロッと舐めた。
「篠崎さんは触れてないんだね?」
芽衣莉ちゃんがものすごい速さで鏡莉ちゃんに詰め寄った。
「そしたらもっと同様しながらお風呂場かトイレに駆け込んでるよ」
「鏡莉って変態なんだよね」
「めいめいが言う?」
二人が変態かどうかは置いておくとして、市販のチョコは美味しいのだけど、チョコ感が強くてやっぱり苦手だ。
それともチョコの食べ過ぎで苦手意識が出てきたのかはわからないけど。
「まぁいいや、めいめいが変態なのは周知の事実だから、しおりんいいよ」
「なんかとてもやりづらいバトンパスなんだけど」
鏡莉ちゃんが可愛いリス顔になっている芽衣莉ちゃんとじゃれ合いに行くと、次は『4』の栞さんが僕の隣に座った。
「期待はしないでね? お菓子作りなんて初めてだったし、先に言っとくけど形も悪いからね?」
「それでも栞さんが頑張って作ってくれたんでしょ?」
「……うん」
栞さんが自信なさげに頷く。
それならたとえどんなに形が悪かろうと、僕は喜んで食べる。
「……でも」
「やだ、貰う」
ここまできて貰えないのもショックだから無理にでも貰う。
「永継が真剣だ。わかった、私も覚悟を決める」
栞さんがそう言って深呼吸をした。
「私が想いを沢山込めて作りました。受け取ってください」
栞さんが顔を伏せながら両手で可愛い袋に入ったチョコを差し出してきたのでそれを受け取る。
「すごい、生告白なんて初めて見た」
「私もあんな風にされたら付き合うのかな? ないか」
じゃれ合っていた鏡莉ちゃんと芽衣莉ちゃんが少し頬を赤くしながらそんなことを言う。
確かにとてもドキドキして、チョコどころではない。
「永継?」
「栞さんのばか」
「永継からの罵倒!? ちょっともう一回いいですか?」
「やだ」
今は栞さんを直視出来ない。
理由はわからないけど、とにかく今は駄目だ。
「永継に嫌われた……?」
「栞さんって残念だよね」
「しおりお姉ちゃんも天然さん」
「永継だけではない? 私泣くよ?」
栞さんは言いながら涙を流した。
「ごめんなさい」
僕は思わず栞さんを抱きしめた。
「なっ、や、ちょ、ちが」
「桐生さんが壊れた」
「栞さんを泣かせたかった訳じゃなくて、栞さんが可愛すぎて直視出来なかったの」
「なっつんの無自覚オーバーキルが決まったぁ、しおりんは耐えられるのか」
「駄目ですね、どうやら梨歌ちゃんと同じ状態になってしまったようです」
鏡莉ちゃんと芽衣莉ちゃんの謎実況が入り、気になって栞さんを見たら確かに嬉しそうに脱力していた。
「チョコの感想言ってないのに」
「篠崎さん、お姫様を起こすには王子様のキスが──」
「それはガチで私が死ぬからやめて」
芽衣莉ちゃんの発言を聞いた栞さんが一気に起きた。
「僕のキスは死ぬ?」
「永継の言う『キス』って珍しいからなんか嬉しいけど、違うよ。嬉しくて死ぬだけだよ」
「よくわかんないから、とりあえずチョコ食べていい?」
「永継が冷たい。それもそれでいいけど」
栞さんが喜んでいるからそれでよしとして、チョコの袋を開けた。
中にはマフィンのようなものが入ったいた。
「一応ガトーなショコラです」
「普通に綺麗だよ?」
見た感じ別に形が崩れているものはないし、とても綺麗だ。
「ほんと?」
「うん。何が駄目なのかわからないもん」
袋から一つ取り出して見てみるけど、やはり綺麗な形だ。
「ん? んーーーーー?」
栞さんが取り出したガトーショコラを見て不思議そうな顔をする。
そして無言で立ち上がり部屋を出ていった。
すぐに同じ袋を持って帰ってきた。
「私が想いを以下略」
栞さんが顔を真っ赤にしてさっきと同じポーズでその袋を僕に差し出した。
「まさかのしおりん、めいめいがお手本で作ったやつを渡してしまったぁ」
「すごい顔が真っ赤です。可愛いミスだけど、私は褒められてる気分でむしろグッジョブです」
僕は微笑みながらその袋を受け取った。
「ありがとう栞さん」
「今度こそ期待しないで」
栞さんにそう言われながら袋を開ける。
中には確かにさっきのと比べると歪なマフィン型のガトーショコラが入っていた。
「栞さんの頑張りが見えて僕は好きだよ」
「美味しくなかったらごめんね」
「ん? 美味しいよ?」
なんだか我慢出来なくて食べてしまった。
とても美味しい。
「美味しかった」
「もう、急いで食べるから口元に付いてるよ」
栞さんはそう言って僕の口元に付いたものを取って食べた。
「こ、これは……」
「まさか天然の『おべんとついてるよ』が見れるなんて……」
鏡莉ちゃんと芽衣莉ちゃんの謎実況を聞いた栞さんが顔を真っ赤にしてうずくまった。
なんだか可愛かったので頭を撫でておいた。




