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みんなのチョコ(KとQ)

「じゃあお誕生日会始める?」


「その前に私達から永継君に渡したいものがあるから受け取ってくれる?」


 今日は宇野さんの誕生日だから、宇野さんに何かをあげるものはあっても、僕が貰うものはないはずだ。


「くれるのなら貰うけど、何をくれるの?」


「永継君は今日が何の日か知ってる?」


「宇野さんのお誕生日」


「他に」


「バレンタインデー?」


 あんまり行事には詳しくないけど、チョコをあげる日だった気がする。


「永継にとってはバレンタインデーとかどうでもいいんだろうね」


「実際、ハロウィンもクリスマスも大晦日も興味なかったしね」


 梨歌ちゃんが呆れた様子で言うけど、そんな何をするでもない行事より、みんなの誕生日の方が大切なのは事実だ。


「ん? だから僕の机にチョコが入ってたの?」


「今更ですか。永継は興味ないから知らないだろうけど、男子達がソワソワしてて、机とロッカーと下駄箱をずっと気にしてたんだよ?」


 言われてみたら確かに男子達がいつも以上に騒がしかった気がする。


「芽衣莉なんかは男子を小間使いみたいに使ってたからね」


「あれは私悪くないよ。手伝いたいって言うから手伝わせてあげてただけだもん」


「いるよね、バレンタインが近づくと女子に優しくする男子。流歌ちゃんとかも使い潰したんじゃない?」


「昔はやんわり断ってたけど、最近は男子を近寄らせないようにしてるからそんなのないよ」


 宇野さんは最近人付き合いをやめた。


 教室に居る宇野さんを見ても、前ほど人が周りに居ることはなくなった。


 完全にいない訳ではないけど、それも後から宇野さんが言うには「適当に相手してるだけ」らしい。


「今でも告白されるの?」


「今はされる前に断ってる」


「どゆこと?」


「告白されそうになったら永継君のことを話すようにしてるの」


「僕?」


 栞さん達はどういう意味かわかったのか、宇野さんに呆れたような視線を送る。


「それで永継に迷惑がかかったらどうするのさ」


「しょげる永継君を慰めるけど?」


「るか姉悪女だ」


「流歌さんを応援するのやめた方がいいのかな?」


 今度は少し蔑みの視線が送られている。


「別に私だって永継君に迷惑をかけたい訳じゃないよ。迷惑がかかったら慰めるけど、そもそも迷惑をかけないように処理してるから」


「処理て……」


「いるんだよ、私にフラれて永継君に逆恨みする人。迷惑だから粛清が必要でしょ?」


「実際それで永継のとこには誰も来てないからなんとも言えないよ……」


 確かに僕の噂をする人はめっきり減った。


 今までは宇野さんと居るだけで噂になっていたのに、今では全然聞こえてこない。


「宇野さんが噂も止めてるの?」


「止めてるって言うか、変なことを言ったらどうなるかを教えた?」


「うわぁ……」


 声を出したのは栞さんだけど、他のみんなも栞さんと同じ反応をしている。


「無理したら駄目だからね」


「永継君だけだよ、そうやって私を心配してくれるのは」


 宇野さんがそう言って僕の頭を撫でてくれた。


「ちょっと前の流歌ちゃんってもっと大人しい印象だったんだけど」


「姉さん、永継さんと会ってから変わったから。多分いい方に」


「素を出すようになったよね。その分口は悪くなったけど」


「でも自分を押し殺してた前よりよっぽどいい。心配なのは色々学んだお兄ちゃんがるかお姉ちゃんは異常者だって気づいた時」


 悠莉歌ちゃんがそう言うと、宇野さんがジト目で睨む。


 宇野さんが異常者なら、一般人はどんなに聖人になるのか。


 それなら僕達は揃って異常者だ。


「まぁ実際のところ、私達は結構普通とは離れたところにいるよね」


「親の許しを得た同棲してるとことかね」


 鏡莉ちゃんがニマニマした顔で僕と宇野さんを見る。


「それだけでもないけど。今日のことだってそうじゃない?」


 栞さんがそう言うと、みんなで納得したような顔になる。


「とういわけで、誰からいく?」


「公平にくじ引きにする?」


「それが一番後腐れはないか」


「そういうと思って」


 悠莉歌ちゃんはそう言うと机の下からトランプを机に置いた。


「みんなで混ぜて順番に取って数字の高い順」


「同じ数字なら?」


「ポーカーと同じにする」


 ポーカーでは、『スペード』『ハート』『ダイヤ』『クラブ』の順で強い。


「ノートをちぎるよりも早くていいか」


「悠莉歌ちゃんはポーカーするの?」


「お兄ちゃんと熾烈しれつな戦いをたまにしてる」


 トランプで悠莉歌ちゃんと遊ぶ時は何故かポーカーが多い。


 勝敗は五分五分だ。


「二人のポーカーは見てても楽しくないんだよね。真面目すぎて」


「私見たことないんだけど?」


「栞さんが隣で着替えてる時にやってるからね」


 梨歌ちゃんがそう言うと、栞さんが頬を膨らませて僕を見る。


「ほんとに二人のトランプは見てて面白くないからね。すごすぎて呆れるから」


「可愛い私を見て欲しいから私服に着替えてたけど、見たいから制服で来よ」


「栞さんは制服でも可愛いよ?」


「ふっ、言うと思ったから狼狽えたりしないからね」


 そう言う栞さんの顔が赤くなっている。


「しおりお姉ちゃんの番だよ」


「いつの間にか私以外は引いてるし」


 栞さんが会話に夢中になってる間にみんなトランプを引き終えていた。


「別に引く順番は関係ないからいいけどさ」


「じゃあみんなで一斉に見せよ」


「いっせーの」


 みんなの数字は宇野さんが「A」栞さんが「4」芽衣莉ちゃんが「7」梨歌ちゃんが「Q」鏡莉ちゃんが「6」悠莉歌ちゃんが「K」だった。


「これは私が一番?」


 宇野さんが嬉しそうに言う。


「なんで?」


「だってポーカーだと『A』が一番上でしょ?」


「ポーカーならね。これは一番数字の高い人が先だから」


 悠莉歌ちゃんの正論に宇野さんが悔しそうな顔をする。


「つまりゆりかから。お兄ちゃん、お口開けて」


「うん」


 悠莉歌ちゃんに言われた通り、少しだけ口を開ける。


 すると悠莉歌ちゃんが僕の口に何かを入れた。


「美味しい」


「良かった。ゆりかの愛情たっぷり一口チョコ。飽きない程度に食べさせてあげるね」


 悠莉歌ちゃんの手元には可愛い袋に入った一口サイズのチョコがあった。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 悠莉歌ちゃんは最後に僕を抱きしめてから離れていった。


「なんかずるいな」


 次は「Q」の梨歌ちゃんが僕の隣に座る。


「私はのは安物になっちゃったけど、許してね」


 梨歌ちゃんの手元にはお店のお菓子売り場で見かけるチョコがあった。


「気持ちは込めてるのでご勘弁を」


「梨歌ちゃんからならなんでも嬉しいよ」


「それならよか──」


「篠崎さんならそう言うと思いまして、こちらが梨歌ちゃんの本当のチョコ」


 芽衣莉ちゃんはそう言ってひび割れたり、形がいびつなチョコクッキーの入った可愛い袋を机に置いた。


「無くなったと思ってたら」


 梨歌ちゃんがそのクッキーを取ろうとしたら、芽衣莉ちゃんに先に取られた。


「だってせっかく篠崎さんの為に作ったんじゃん」


「私を恥ずかしめたいの?」


「篠崎さんはそっちの市販のと、梨歌ちゃんが愛情込めて作ったクッキーのどっちが欲しい?」


「え? どっちも」


 梨歌ちゃんが僕にくれる為に作って、買ってくれたものだから、それならどちらも貰いたい。


「聞き方を間違えた。どっちの方が嬉しい?」


「梨歌ちゃんの手作りの方」


 梨歌ちゃんがくれるものならなんでも嬉しいけど、時間をかけて手作りしてくれたのならそちらの方が嬉しい。


「正直者の篠崎さんにはどちらもあげる」


 芽衣莉ちゃんはそう言って僕にクッキーと市販のチョコをくれた。


「クッキーの方は今食べて感想を言って」


「うん」


 僕は不安そうな梨歌ちゃんをよそに、クッキーの袋を開いて、一つ口に運んだ。


「美味しい」


「ほんとに?」


「うん。これなら多分いくらでも食べれるやつ」


 いい意味でチョコ感がなく、程よい甘さで僕の好きな味だ。


「僕って好きな味あったんだ」


「篠崎さん、梨歌ちゃんが『うれ死』って言うんだっけ? になるからもう平気だよ」


 芽衣莉がそう言うので、梨歌ちゃんを見ると確かに嬉しそうだけど僕が見たら顔を逸らされた。


「お楽しみの梨歌ちゃんは放置して、私の番だよ」


 芽衣莉ちゃんが梨歌ちゃんを無理やりどかして僕の隣に座った。


 とてもいい笑顔だけど、なんだかそれが少し怖くなってきた。


 何故か他のみんなも目を合わせてはくれないし。


 僕は一体何をされるのだろうか。

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