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手紙の真意

「私がやりましたって人は挙手」


「高校に侵入してまで関係を壊したい人はこの中にはいないから」


 机の中に入っていたチョコのことを昼休みに宇野さんへ話したら、少し不機嫌になりながら「帰ったら話そう」と言われ、今、裁判が行われている。


「さすがにそうだよね。それだとやっぱり中学時代に永継君の机にチョコを入れてた人が怪しいのか」


「これってなんの話し合いなの?」


「永継君の貰ったチョコが安全かそうでないか」


 確かにそれは気になる。


 何せ今年のチョコは手作りだったから。


「今までの手紙は持ってきてくれた?」


「うん」


 今日は直接宇野さんのアパートに来たのではなく、宇野さんに言われて一度家に帰ってから、毎年貰っていた手紙を持ってきた。


「ほんとに取ってあるんだね」


 栞さんが少し驚いた様子で言う。


「誰かはわからないけど、せっかくくれたお手紙を捨てるのはなんかやだったから」


「永継らしいや」


「栞さんから貰った……脅迫状? も取ってあるよ」


「なんか素直に喜べない。私が悪いんだけど」


 最初は確かに困ったけど、こうして栞さんと仲良くなれたと思ったら、あの手紙も大事な一枚だ。


「全部で三枚?」


「うん、中学校の三年間で貰ったやつだから」


 ちゃんと便箋に入っていて、ハートのシールで止めてあったけど、さすがにもう粘着力がなくなって止められなくなっている。


「今日貰った手紙もハートのシールだったんでしょ?」


「うん」


 僕は四枚の手紙を机の上に並べた。


「あ、まだ中身見てないの?」


 鏡莉ちゃんが少し驚いたように今日貰った手紙のハートのシールのところを触りながら言う。


「うん、栞さんに『みんなに相談してから見よ』って言われたから」


「私一人の判断では決められませんでした」


 みんなの視線が栞さんを向くと、栞さんがしゅんとしながらそう言った。


「永継君が貰ったものだから私達がどうこう言えることはないんだけどね」


「でも気になるでしょ?」


「なるね。こっちも気になってるけど」


 宇野さんはそう言って三枚の方を指さした。


「僕の名前と一言二言書いてあるだけだよ」


 さすがにここで手紙を音読したり、みんなに見せたりはしない。


 それはこの手紙をくれた人に悪いから。


「永継君はちゃんとしてるよね」


「永継だもん。それで手紙は読むの?」


「読まなきゃ始まらないよね。永継君が読んで安全だと思ったら芽衣莉と悠莉歌がチョコを調べよう」


 そこまで慎重になる必要があるのかもわからないけど、僕を心配してのことだろうから何も言えない。


 だけど気になることは聞く。


「なんで芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃん?」


「芽衣莉は料理をする人としての目線で、悠莉歌は……なんか任せとけばなんとかしそうだから」


「悠莉歌ちゃんはなんとなくわかるけど、その理由なら宇野さんでもいいんじゃないの?」


 別に芽衣莉ちゃんが嫌とかではなく、単純に気になった。


「だって私が見たら何も考えずに捨てる可能性があるから」


「そんな芽衣莉ちゃんみたいなことを……」


「いくら私でも人のは捨てない……よ?」


 芽衣莉ちゃんは貰ったラブレターをゴミ箱に捨てた経歴がある。


 芽衣莉ちゃんの言う通り、さすがに人が貰ったものを勝手に捨てるなんてことはしないだろうけど、似てると思って、つい言ってしまった。


「なっつん、謝らなくていいからね。今の間はやる可能性があるやつだから」


「もしもお兄ちゃんがラブレターを貰って、それを知った場合に捨てそうなのはるかお姉ちゃんとめいりお姉ちゃんだよね」


「なんだかんだで姉さんと芽衣莉は永継さんのことになると考え方がおかしくなるからね」


「篠崎さんが悪女に騙されたら嫌でしょ?」


 芽衣莉ちゃんの言葉にみんな渋い顔をする。


 言葉にするなら「そうだけど……」という感じに。


「二人は愛が重いからね。それより永継、読んで読んで」


 なんだか宇野さんと芽衣莉ちゃんが栞さんを睨んでるように見えるけど、気のせいということにして今日貰った手紙を開く。


「おぉ……」


「どういう反応?」


「なんかね、教科書みたい」


「どゆこと?」


 宇野さんと栞さんをはじめ、みんなが不思議そうな顔をする。


 僕もそんな顔をしたい気持ちだ。


 教科書みたいとは、僕が本を読まないから具体例が出てこないだけで、もっといい表現があるとは思う。


 簡単に言うなら……。


「文字がいっぱい書いてあるの」


「小説みたいな?」


「そう、国語の教科書みたいなの」


 読めない程ではないけど、小さい文字が沢山書かれている。


 読むのに時間がかかりそうだ。


「読むからちょっとまっててね」


「そこまでしてるならちゃんと読んであげて」


 宇野さんがそうは言うが、少し呆れているようにも見える。


 それはそれとして、手紙を読み進める。


『拝啓 篠崎様


 いきなりこんな手紙を渡されても困るのはわかっていたのですが、どうしても伝えたいことがあったので筆を執らせていただきました。


 想いを直接言葉に出来ない私をお許しください。


 想いと言うのは……、このチョコでわかるよね?』


 と手紙には書かれていた。


「……」


「永継が固まった。内容が意味不明すぎてどうしたらいいかわからない?」


 僕は頷いて答える。


 堅苦しい文面かと思ったら最後は軽いし、誰からかもわからないし、何より『想い』とはなんなのかわからい。


「あ」


「どした?」


「小さく『追伸』って書いてある」


 手紙の端っこにとても小さく、ほとんど見えない文字でなにか書いてある。


「ふむふむ」


「それ使う人初めて見たけど、永継の場合可愛いしか出てこないな」


「んー……、はい」


 僕は全員を見回してから栞さんに手紙を渡した。


「私が読むの?」


「なんか『追伸』に『よくわからなかったら近くの女の子にでも渡して』って書いてあったから」


 栞さんを選んだのは一番近かったから。


 そして手紙を渡す気持ちがわかるかもと思ったから。


「まぁいいけど」


 栞さんは不思議そうにはしていたけど、僕から手紙を受け取って読み始めた。


「……なんか書き方がオタクっぽいね。それか、結局言いたいことが言えなくてふざけたのか」


「結局どういうことなの?」


「手紙の内容はわかったけど、これの安全性は不明って感じかな」


 栞さんがチョコに視線を送りながら言う。


「送り主とかはわからない?」


 宇野さんが少し不機嫌そうに栞さんに聞く。


「手紙だけじゃわかんないけど、予想はつくよ」


「誰?」


「一ノ瀬さんでしょ」


 栞さんがそう言うと宇野さんの顔が少し怖くなった。


「学校来てないんだよね?」


「来てないけど、私達の帰った後か登校前なら入れられるし、それにこのふざけた感じが一ノ瀬さんっぽい」


 今度は栞さんの顔が怖くなった。


「もちろん全く無関係だった人が永継に惚れたって可能性もあるけど、それなら名前か何か自分がわかるものを書いてると思うんだよね」


「栞さんは書いてなかったよ?」


 栞さんから貰った手紙(脅迫状)には栞さんとわかることは何も書いてなかった。


「あれは私が天然だったの。ご愛嬌ってことで許して」


「書き忘れて可愛いってこと?」


「微妙に合ってて否定出来ないから照れとこ」


 栞さんはそう言って僕から顔を逸らした。


「結局一ノ瀬さんからの謝罪の文ではないのね?」


「本人に聞かなきゃわかんないけど、この手紙が一ノ瀬さんからなら、書こうとはしたけど照れたかひねくれてめんどくさい書き方にしたか、一切悪いとは思ってなくてまた同じことをしたかだね」


「後者の場合は今の不登校も可哀想な子アピールになるじゃん」


「要するに、印象が悪すぎてわかんないってこと」


 確かに一ノ瀬さんからなら少し身構える。


 もしかしたらチョコに塩でも入っているかもしれない。


「毒でも盛られてたら危ないから処理する?」


「誰かわからない時よりも捨てたい気持ちが強くなってない?」


「そんなことはない。とにかくチョコは危ないから封印か捨てるかだよ」


「もしも照れただけだったら可哀想だから封印でいいんじゃない?」


「桐生さんって優しいというか甘いよね」


 宇野さんが少し呆れた顔で言うと、栞さんが薄く笑った。


「そんで永継君。こっちの三枚とは違う人なの?」


「多分違うと思う。こっちの三枚はこんなに堅苦しくなくて、書き方も可愛かったから」


 最後の一文は似てると言ったら似てるけど、似てないと言えば全然似てない。


「高校デビューして書き方が変わったとかじゃない限りは違うってことね」


「うん。こっちはもっと楽しそうなの、伝えたいことだけを短くまとめて読みやすいし」


 今日の方を悪く言う訳ではないけど、今日のは読みにくかった。


「もう考えてもわかんないことはいいじゃん。これは私の部屋に封印してくるから本題に入ろ」


 栞さんはそう言ってチョコを自分の部屋に持って行った。


 一瞬だけ見えた顔が少し赤らんでいたのは見間違いなのだろうか。

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