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別の噂

「仲良く登校してきたことに対しての弁明は?」


「嬉しかった?」


 教室に入り、準備をしていたら少し後に栞さんがやって来て僕をじっと睨むように見ていた。


 そして今、少し膨れながら僕にそんなことを聞いてくる。


「それは感想! 二人っきりで手を繋ぎながら登校なんてしたら駄目でしょ!」


「駄目なの?」


 確かに冬休み前なら駄目だったと思うけど、今となっては大丈夫だと思っていた。


「駄目じゃないけどぉ……」


 栞さんが拗ねたように自分の手を弄り出した。


「栞さんとも握れば同罪?」


「そんな次いでみたいに言われたって嬉しくないからね!」


 栞さんはそう言って僕の手を握った。


「今日一日離せない呪いにかかった」


「栞さんと手を離せないのは呪いじゃないよ?」


「永継なんだもんね」


 栞さんが顔を赤くしながら辺りを見回す。


「ちなみに永継は周りの視線には気づいてるの?」


「わかるよ?」


 今教室には半分ぐらいの人が居るけどそのほとんどが僕達をちらちら見ている。


「気にならないんだ」


「栞さんにしか興味がない?」


「なんて言えばいいのかわからなかったんだね、うん、わかるよ」


 栞さんが急に早口になった。


「永継に変な噂が立ちそうだよ……、いや、そんなの立ったら流歌ちゃんが消すか」


「今も色々言われてるけどね」


 今だって色んな噂話が聞こえてくるけど興味はないからスルーしている。


「バレたら私が恨まれそう」


「栞さんは僕が守るよ」


「相手は流歌ちゃんだからね」


「じゃあいっか」


「永継に見捨てられた、私は今日流歌ちゃんにあんなことやこんなことをされちゃうんだ」


 そう言う栞さんはなんだか嬉しそうだ。


 それと今日は来てくれるらしい。


「あ、すっごい話変えていい?」


「いいよ、手も離そう。なんか恥ずかしいし、ほんとに流歌ちゃんが怒りそう。ちなみに恥ずかしいってのはいい意味でね」


「栞さんがそう言うなら」


 少し名残惜しいので、最後に栞さんの手をぎゅっと強く握ってから手を離した。


「これが永継の『名残爆弾』」


「何それ?」


「永継って手を離す時に名残惜しそうに手を強く握るでしょ? それを聞いた私と鏡莉ちゃんで名付けた」


 ネーミングセンスが栞さんと鏡莉ちゃんらしいけど、爆弾の意味はわからない。


「詮索はしたら駄目だよ。その名の通りだから」


「よくわかんないけどわかった。それで、栞さんは宇野さんに何をあげるのかって決めた?」


「まだ。今までは私の趣味を無理やり押し付けてたけど、流歌ちゃんはそれだとほんとの意味では喜ばないだろうし」


 栞さんがこれまでにあげた誕生日プレゼントはコスプレ衣装だ。


 宇野さんは家に居る時間が少ないからわからないけど、意外と芽衣莉ちゃんが着ていることが多い。


「誰も着てるとこは見てないけど、みんな喜んではくれるじゃん?」


 みんなが着ているのは栞さんが居ない時だ。


 そしてそのことは絶対に言わないことと釘を刺されている。


「栞さんが着たら着てくれるんじゃない?」


「永継は無意識に辛辣なことを言うよね。私は見る専なの。確かに自分が着ないで人に着させるのもどうかとは思うけど」


「いつか栞さんが眼鏡を外したら、その時はコスプレしてよ」


「なんでハードルを上げる?」


「きっと似合って可愛いから」


 栞さんに無言で肩をぽすっとされた。


「眼鏡は外しません。私に眼鏡を外させたかったら永継も相応のことをしてもらうからね」


「何したら外してくれるの?」


「喜んでなんでもしそうだな。じゃあいつか私をその気にさせて。答えはあるけどやり方は教えない」


 栞さんがドヤ顔でそう言った。


 いつかその答えを見つけて栞さんから眼鏡を取る。


「永継がいつにも増して本気だ。嬉しいような怖いような」


「宇野さんにも眼鏡あげたら?」


 ふとそんなことを思う。


 栞さんの眼鏡が伊達なら、宇野さんが掛けても問題はないはずだ。


「急にシラフに戻るのも永継だよね。流歌ちゃんに眼鏡ね。永継って眼鏡好きなの?」


「眼鏡が好きってよりかは、眼鏡を外した栞さんと眼鏡を掛けた宇野さんを見たいだけ?」


 ただの私利私欲。


 そういった意味では眼鏡が好きなのかもしれない。


「永継も眼鏡掛けたら?」


「じゃあ栞さんの貸して」


「うん……ってナチュラルに私から眼鏡を取ろうとするんじゃないよ。永継の眼鏡姿見たさに外そうとしちゃったじゃないか」


 半分ぐらいしかそんな気はなかったけど、失敗してしまった。


「でも無理やり外さないのは永継だよね」


「無理やり取って嫌われたくないし、嫌がってる顔を見たい訳でもないからね」


「寝てる永継にイタズラしようとした私に何なりと罰を」


 前に芽衣莉ちゃんが心地よくて寝てしまった時、栞さんが僕の服を脱がしてコスプレ衣装を着せようとしたことがあった。


 もう済んだことだからなんとも思っていないけど、それなら……。


「じゃあ──」


「眼鏡は外さないけど」


「栞さんのいじわる」


「永継よ、欲しいものっていうのはそんなに簡単に手には入らないんだよ」


「そうでもないよ」


 僕達が話していたら、もう聞きたくはなかった声が聞こえてきた。


「おはよう篠崎君」


「なんの用?」


「そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ。桐生さんの眼鏡がない顔が見たいんでしょ? 私ならその時の写真持ってるよ」


 それを聞いた栞さんが身体をビクつかせた。


「昨日のお詫びに見せてあげようか?」


「いいから帰って」


 もう一ノ瀬さんと話すことはない。


 そもそも栞さんの許可もなく栞さんの写真を僕に見せるなんてありえない。


 それに詫びる相手も間違っている。


「私はただ篠崎君にお詫びがしたいだけなのに」


「栞さんに心から謝る気がないなら二度と近づかないで」


「謝ればいい? 桐生さんごめんね」


 一ノ瀬さんが栞さんの方に顔だけ向けて謝ったフリをする。


「謝る気はないんだね」


「謝ったじゃん」


「それで謝ったつもりならもういいよ」


 謝る気がないのならもう関わらないで欲しい。


「篠崎君は私にそんな態度取っても平気なの?」


「もっと追い込まれないと駄目なの?」


 僕が従順じゃないと栞さん達の秘密をバラすと言うのなら、僕は一ノ瀬さんを二度とそんなことがしたくならないように追い込まなければいけなくなる。


「篠崎君は結局後出ししか出来ないんだから、困るのは桐生さんなんだよ?」


「じゃあ今からやる?」


 僕は別に今からやってもいい。


 どうせ一ノ瀬さんはいつか言うのだから。


「永継、別に永継がそんなことしなくていいんだよ」


 一つ息を吐いてから栞さんが優しくそんなことを言う。


「ほら、桐生さんも迷惑だからやめろって」


「ほんとに迷惑だよね、日本語の通じない相手って」


「あれ? 私のこと馬鹿にしてる?」


「自覚ありじゃん。まぁ馬鹿にしてるっていうか、日本語もわからない迷惑な人だとは思ってるかな?」


 一ノ瀬さんが栞さんの方を向いて見下ろす。


「桐生さんは一番私に逆らわない方がいいんじゃない?」


「私の秘密を知ってるから?」


「そうだね」


「言いたければ言えば? 有象無象がなんて思おうと、永継達が真実を知っててくれたら私はそれでいいから」


 栞さんがそう言って僕に微笑みかける。


「ほんとに言うよ?」


「だから言えばいいでしょ。それともほんとは昨日言った程度のことしか知らないの? 私が不登校だったなんてこと聞いたって誰も気にしないしね」


「……」


 一ノ瀬さんが黙って栞さんを睨みつける。


 そして何かを思いついたのか、急に表情が明るくなった。


「どうせそれなら流歌ちゃんの秘密をバラすとか言いたいんでしょ? それも意味ないから」


「そんなの桐生さんにはわからないでしょ? 宇野さんはいい仕事に就く為に頑張ってるんだから」


「冬休み前までね。今はもうそこまで気にしなくてよくなったから隙を見せるようになったんだし」


 一ノ瀬さんが口を開くが、何も言わずにまた閉じる。


「それとね、後出しには後出しのいいところがあるんだよ」


「……」


「全てを嘘だって信じさせれば嘘つきはあなたになるし、他にも()()()でかき消すこととかもね」


 栞さんがそう言って一ノ瀬さんに含みを持った笑みを向けた。


「関係ない話なんだけど、私のお母さんって私を溺愛してるのね。それでお母さんって情報通って言うのが正しいのかわからないけど、色んなところから情報を得てくるんだよね。特に私の同級生のこととか」


 美乃莉さんが栞さんを溺愛してるのは一度会っただけでもわかる。


 只者でないのもとてもわかる。


 そして一ノ瀬さんが怯えていることから、そういうことをしたのも理解した。


「あなたじゃ流歌ちゃんには勝てないよ」


「なんでいつも……」


 一ノ瀬さんはそう呟いて教室を出ていった。


 方向からして下駄箱の方に向かっていた。


「ただではやられないんだよ」


「結局僕は何も出来なかったよ……」


「永継が居たから言い返せたんだよ。ほんとにありがとう」


 栞さんはそう言って僕の手を握った。


 その手は震えていたので、震えが止まるまで手を握り続けた。


 そしてそれからしばらく、一ノ瀬さんは学校に来なかった。

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