何をされても
「結局宇野さんはなんで嘘をついたの?」
「確かに嘘はついたけど、なんかちゃんと理由はあるから怒らないでね……」
宇野さんとの登校中に結局聞きそびれた嘘の理由を聞いてみた。
「自分で言うのは恥ずかしいんだけど、永継君に私のことを考えて欲しくて」
「考えてるよ?」
というより、お母さんが大丈夫なのを知ってからは宇野さん達のことしか基本的には考えていない。
「意味合いがちょっと違くてね。私だけを想って欲しかったと言いますか。……言ってて思うけど鏡莉達の言う通りめんどくさいよね」
「そうかな?」
「永継君は優しいから」
「僕は自分を優しいとは思わないし、たとえ優しいんだとしても、誰にだってそうじゃないよ」
僕は別に優しいから宇野さんのことをめんどくさいと思わない訳じゃない。
多分それが別の人ならめんどくさくて一緒に居たくないと思うかもしれない。
「僕は宇野さんだからそう思うんだよ」
「朝から泣きそう。そうだよね、永継君だってみんなに優しい訳じゃないもんね」
「うん、多分一ノ瀬さんには優しく出来ない」
正直もう一ノ瀬さんとは関わりたくない。
「思ったんだけどさ、始業式の日に私達の噂を流したのって一ノ瀬さんかな?」
「どうだろ。決めつけは駄目だけど、可能性はあるよね」
もう終わったことだし、結果的に宇野さんと栞さんと学校で一緒に居られるようになったから誰がやったとかは興味はない。
「それより、宇野さんは僕と栞さんが同じ中学校だって知ってたの?」
「桐生さんのは有名だったからね。でも思い出したのは昨日話を聞いてからだけど」
「宇野さんなら同級生の名前全部覚えてそう」
ちなみに僕は昨日聞くまで誰一人として中学の同級生の名前を知らなかった。
高校生になっても、わかるのは宇野さんと栞さん、それと一ノ瀬さんだけだ。
多分一ノ瀬さんのことは時間とともに忘れていくのだろうけど。
「多分ね、嫌でも覚えるんだよ。むしろ嫌いだった人程覚えてるものなんだよね。永継君と桐生さんは人に無関心すぎて忘れてるんだと思うけど」
「そういうものなんだ」
嫌いな人程覚えるなんて律儀なものだ。
僕ならわざわざ嫌いな人を記憶しておきたくない。
「そう考えると今は過去最大に人の名前を覚えてることになるんだ」
「その人数は?」
「えっと、一ノ瀬さんを含めて十二人?」
指折り数えたから多分合ってる。
芽衣莉ちゃん達のお父さんの名前も聞いたはずだけど、既に忘れた。
「一ノ瀬さんを含めてって、忘れる前提ですか」
「一ノ瀬さんが昨日のことを気にして関わるのをやめたら多分忘れると思う」
「何も気にしてない様子で話しかけてきたらどうするの?」
「内容にもよるけど、宇野さんと栞さんをまた傷つけようとするなら、僕も言いたいことを言うだけ」
それが正しいのかなんて関係ない。
あちらがやめないのならこっちも引き下がることはもうしない。
「永継君が怒ってくれるのは嬉しいけど、やりすぎないでね。私達のせいで永継君が悪者扱いされるのはやだよ?」
「僕だって抑えられるなら抑えるよ。でも最近はどうしても抑えられない時があるから……」
たとえば宇野さんのお母さんと話した時とか。
「桐生さんに監視頼んどこ。暗い話は終わりにして、永継君は二月の十四日はうちに来てくれる?」
「なんで?」
「来てくれないの……?」
宇野さんが立ち止まり悲しげな顔でそう言った。
「行くよ? なんで今更当たり前なことを聞くのかなって思って」
「その日がなんの日かは知ってる?」
「宇野さんのお誕生日」
「……そう、正解!」
宇野さんが一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐにパッと明るい顔になった。
「その日は僕と芽衣莉ちゃんでご飯作るね」
「いいの?」
「だって宇野さんが自分でやりそうなんだもん」
せっかくの誕生日なのだから、ゆっくりして欲しい。
「僕はいいって言うなら芽衣莉ちゃんだ──」
「やだ!」
僕が言いかけてる途中で食い気味に宇野さんが否定する。
「永継君の手料理が一番の誕生日プレゼントだから」
「じゃあ他にはいらない?」
まだこれといって見つかってはいないけど、何かしら誕生日プレゼントをあげたい。
それはもちろん宇野さんだけでなく、他のみんなにも。
「永継君が意地悪になってるよ。そんなこと言うならハードル上げるよ?」
「どんな風に?」
「私が今思う一番の誕生日プレゼントは永継君の手料理だけど、永継君はそれを超えるプレゼントをくれるの?」
それに「うん」と答えたら確かにハードルが上がる……のかはわからない。
「花より団子?」
「私が食い意地張ってるみたいに言うのやめなさい」
「僕の手料理より欲しいものとかあるでしょ?」
宇野さんに物欲がそんなにないのはわかっている。
それでも何かしら欲しいものぐらいはあるはずだ。
「あるにはあるよ。でも本当に欲しいものは自分で手に入れる派なんですよ」
「じゃあそれをあげても困るよね。つまり欲しくはないけど、貰えたら嬉しいものをあげればいいの?」
「欲しくはないって言い方があれだけど、そうかな」
確かにこれはハードルが上がった。
僕の手料理を超えるのは容易いだろうけど、程よく欲しいものを探さなければいけない。
「永継君はサプライズとかしない人なんだね」
「されたことないからわからないけど、嬉しいの?」
いきなり欲しくもないものを貰っても困るだけだろうし、だったら直接欲しいものを聞いてからあげた方が嬉しいと思っている。
「永継君、ちょっと止まって」
「え?」
宇野さんがいきなり立ち止まって僕の手を握る。
「サプライズ」
宇野さんはそう言って僕に抱きついた。
「嬉しい?」
「嬉しいけど、どうしたの?」
宇野さんに抱きしめられて嬉しくないはずがないけど、いきなりだと困惑が強い。
「永継君にサプライズの気持ちを教えてあげようと思って。私からしたら永継君は抱きつかれて嬉しいのかわからなかったけど、永継君は嬉しかったでしょ?」
「うん。でもそういうことなの?」
「確かに永継君の言いたいことはわかるよ。サプライズされた方は絶対に喜ばないといけないだろうし、疲れるかもって思うよね?」
「うん」
「だけどさ、私達は永継君からなら何されても喜ぶし、何を貰っても心から喜べるよ」
栞さんにも同じことを言われた。
でも今更サプライズは遅い。
「来年には考えておくね」
「……その言葉が一番の誕生日プレゼントになりそうだよ」
宇野さんが僕のことを強く抱きしめた。
もう学校も近いのだから離れないとまためんどくさい噂が流れてしまう。
そうはわかっていても宇野さんの温もりを離したくない。
「宇野さんを喜ばせるね」
「永継君が居たらそれだけで嬉しいけど、楽しみにしてるね」
宇野さんが笑顔でそう告げる。
そして僕達は結局手を繋いだまま学校に着いていた




