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中学時代

「誰から話す?」


「言い出しっぺの私から」


 宇野さんはそう言うと一つ息を吐いた。


「私って帰り遅いじゃん?」


「遅い。いつも心配になる」


 宇野さんが帰ってくるのは早くても七時。


 鏡莉ちゃん達の誕生日の時は早く帰ってきてるけど、基本的には帰りが遅い。


 三が日は家に居たけど、他の日はほとんど家に居なかった。


「でもそれって仁さんのお店で修行してたんじゃないの?」


「それもあるんだけど、他にもあるの」


 それは初耳だ。


 宇野さんの帰りが遅い理由は、仁さんに料理を教えて貰っているからと聞いていただけだから。


「私ね、やりたいことがあって、だから帰りが遅かったの」


「やりたいこと?」


「うん、永継君と出会ってからやりたいって思って、お父さんを相手に色々やってたの」


 宇野さんが自分のことを優先して何かをやっていたことにも驚いた。


 それだけ大切なことが僕との出会いで見つかったのなら僕も嬉しい。


「流歌ちゃんまさか……」


「多分想像通りだよ」


「マジですか。確かにそれも()()だけど……」


 栞さんにはなんのことかわかったようで、少し呆れた顔をしている。


「流歌ちゃんは奥手だと思ってたけど、実際は虎視眈々と狙ってたのね」


「私はずっとそのつもりだったんだけどね。家に居る時間が少ないからそう見えないだけなんだよ」


「会う時間より、その先のことを考えすぎでは? あんまり余裕ぶってると芽衣莉ちゃん辺りに先を越されるよ?」


「わかってる。だからこれからは私も本気……出す」


「その間があるから流歌ちゃん可愛いんだよね。出せないだろうけど頑張れ」


 なんの話かわからないけど、栞さんの発言に「出すもん」と膨れた宇野さんが可愛かった。


「永継君には伝わってないだろうけど私の秘密は終了。桐生さんも言える範囲でなら言える?」


「大丈夫。私が寝込んだり引きこもったりしたら永継に慰めて貰うから」


「任せて。栞さんのして欲しいことをなんでもする」


「永継よ。そんなわざと引きこまりたくなることを言うんじゃない。ほんとに永継を好き勝手にしちゃうからね?」


「栞さんにならいいよ?」


 栞さんだけでなく、宇野さん達にも何をされてもいいと思える。


 多分変なことはされないと信頼しているからなんだろうけど。


「自分で言っといて照れないでよ」


「だ、だって。永継に好き勝手するって、そういうことも含まれるし、永継なら拒絶しないだろうし、だから……」


 栞さんが顔を真っ赤にしながら僕を見て、左手で毛布を掴み、頭から被った。


「可愛い可愛い。わかったから早く話して。永継君を心配させたいの?」


「それは駄目!」


 栞さんが勢いよく毛布から出てきた。


 まだほのかに顔は赤い。


「もういいや。さっさと話して永継に慰めて貰おう」


「吹っ切れた」


「実際わからないからね。それじゃあ始めよう。私がなんでオタクになったのか、そして私が永継に近づいたのかの話を」


 そう言って栞さんは目を閉じた。


 そして目を開けると同時に表情が変わった。


「永継はさっき聞いただろうけど、私って中学時代に不登校だった時があるの」


 栞さんが重々しい口調で語り出した。


「私って中学のときから眼鏡を掛けてたんだよ。髪も今と同じぐらいでそこそこ長くて、見た目が真面目ちゃんでその頃は成績もそこそこ良かったからほんとに真面目ちゃんだったの」


 つまり栞さんが今勉強が苦手なのは、不登校になって学校に行ってない時期があるからなのかもしれない。


「これも永継には言ったけど、私の眼鏡は伊達なのね。なんで伊達を掛けてるのかと言うと、小学生の時にあだ名が『童顔』だったからなの」


「ん?」


 思わず声が出た。


 だってそれは少しおかしいから。


「今思うとそうなんだよ。小学生が童顔なのは当たり前。小学生って覚えた言葉を使いたがるからなんだろうけど」


「それは単純に桐生さんのことが好きでいじめてただけじゃないの?」


「小学生男子特有の『好きな子をいじめる』ってやつ? 逆効果なのも知らずに」


「私だって小学生の時にやられたから。周りの子に聞かされて『わざわざ嫌われることをして何が嬉しいんだろ』って思ったから」


「なるほど。私をいじめてたのが女子人気の高い男子だったから私には知らされなかったのか」


 栞さんがどうでもよさそうにそう言った。


「まぁそんな訳で、童顔なのを隠す為に伊達眼鏡を掛けてるんですよ」


「いつか栞さんの素顔を見るのが僕の夢になったんだよ」


「永継君がそこまで言うなら私も見たい」


「いつかね。まだ怖いから見せないよ」


 栞さんが悲しそうに眼鏡をいじる。


「話を戻すけど、眼鏡を掛けてるから私を『清楚なお嬢様』って勘違いした男子がいたのですよ。その男子に告白されまして」


「……胸糞悪い」


 宇野さんの機嫌が一気に悪くなった。


「口が悪いよ。流歌ちゃんなら似た経験してるのかもしれないけど、私はもちろん断りました。なぜならその人を何も知らないし知りたいとも思わなかったから」


 栞さんも口が悪いけど、実際いきなり話したこともない人に告白されてもその人を知らないから断られるのは当然と言えば当然だ。


「多分その人は、私が断れないと思ったんだろうね」


「なんで?」


「静かでお淑やかな子だったので、断る勇気なんて無いって思ったんだよ。実際は小学生の時のがトラウマで、人に興味を持てなかったのが理由なんだけど」


 栞さんをいじめてた男子とどんな関係だったのかはわからないけど、それなりに話していたりしていたのなら『男子と関わるといじめられる』と思っても不思議ではない。


「それで中学の時は『断った』のが駄目だったんだろうね。なんかね、私が告白して振られたって噂が流れたの」


「……」


 確かにそれは胸糞悪い。


 あることないこと、ないこと九割増で話す。


 だから人と関わるのが嫌になる。


「無視してれば収まると思ったんだけど、一ヶ月経った頃には逆に噂が酷くなっててね。さすがにメンタルが崩壊しました」


 その時のことを思い出してしまったのか、栞さんの表情がどんどん悪くなる。


「それで不登校になりまして、気にしたお父さんが色々と遊べるものを買ってくれたんだよね。人馴れって意味合いもあったのかボードゲームから始まって、今のパソコンも」


「じゃあ私達にくれたやつも?」


「うん。ほんとにいっぱい買ってくれたから、今度はみんなと仲良くなるのに使いたくて」


 宇野さんの家には栞さんから貰ったボードゲームが沢山ある。


 ボロボロとまではいかないけど、全部使い古された感じがあった。


 人馴れするのにそれだけかかったのか、それとも人馴れした後も楽しくて使っていたのかはわからないけど、そこに『家族愛』を感じた。


「しばらくして少し落ち着いたから学校に行ったんだよ。お父さんも仕事にならないぐらいには私を心配してたし、何よりお母さんを止めるのが大変で」


「止める?」


「学校に直接行ってどういうことなのか聞きに行こうとするのをね」


 栞さんのことが心配なのはわかるけど、それは逆効果になりかねない。


 今度は「親を使って噂を取り消した」とか言われかねない。


「それで結構な日が経ってたから平気かと思ったんだけど、平気ではなかったみたいでね。結局噂は聞こえてくるんですよ。だけどね……」


 栞さんが僕の顔を恥ずかしそうに見た。


「隣の男の子がその噂を全部消してくれたの」


「いい人だ」


「ほんとにね。本人は何も覚えてないんだけど」


 今度は栞さんが膨れながらジト目を向けてきた。


「まぁその可能性はあるか。ご近所さんだもんね」


「流歌ちゃんとは違うんだよね?」


「私は一応引っ越して来てるからね」


「そっか。で、鈍い永継でもそろそろわかったかな?」


 栞さんが少し怒った様子で言う。


 さすがにわかった。


「僕と栞さんが同じ中学ってこと?」


「それで?」


「今みたいに僕とお隣さんだった時がある?」


「うん!」


 栞さんが一気に嬉しそうになった。


「今みたいにってとこだけでそんなに喜べるのか」


「流歌ちゃんは茶々を入れないの。それで?」


「僕が栞さんの噂を消した?」


「正解!」


 栞さんが満面の笑みになった。


「笑顔の方がやっぱり可愛い」


「くっ、負けない。てか最近また『可愛い』を乱用してないか?」


「永継君に『可愛い』と言わせてるうちは勝てないと思いなさい」


「いつか勝ってやる」


 顔がほのかに赤い栞さんと、余裕の表情の宇野さんが睨み合う。


 その二人を眺めながら、僕は中学時代を思い出そうと頑張ってみていた。

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