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保健室にて

「栞さん、ごめんね」


「永継が謝ることじゃないでしょ」


 栞さんを保健室まで連れてきた僕は、保健室の先生に栞さんを寝かせたら授業に戻るように言われたけど、残った。


 最初は無理にでも帰らされそうになったけど、栞さんが僕と離れた途端に苦しみだしたので、迎えの人が来るまでの間は一緒に居る許しを得た。


「僕が一ノ瀬さんと関わるのをやめてれば栞さんがこんな目に遭うことはなかったもん……」


「永継は優しいからそんなこと出来ないよ。今回のことは、優しい永継の気持ちを利用した一ノ瀬さんと、何も話してなかった私が悪いんだよ」


「簡単に話せることじゃないんでしょ? それなら仕方のないことだよ。僕だって栞さん達に話してないことがあるから」


「永継が隠し事なんて珍しいね。何を──」


 いきなり保健室の扉がすごい音を立てて開けられた。


 先生不在で助かった。


「栞さんはやっぱり愛されてるね」


「どゆこ──」


「桐生さん!」


 どうやら授業を抜け出して宇野さんが来てくれたようだ。


「流歌ちゃん?」


「保健室に運ばれたって聞いて。大丈夫? 大丈夫じゃないから運ばれたんだろうけど」


 宇野さんが僕と反対側に駆け寄って栞さんの手を握った。


「今言うってこと言っていい?」


「うん」


「私は本気で流歌ちゃんに嫌われてると思ってたけど、違うってことでいいの?」


「正直に答えるなら、めんどくさいと思う時はあるよ」


 栞さんがしゅんとして「そうだよね……」と寂しそうに言う。


「でも、嫌いな訳じゃないよ。生まれて二人目の心からそう思える友達なんだから」


 宇野さんが真剣な表情でそう答える。


「まぁ一番の永継君とは天と地ほどの差はあるけど」


「照れ隠しとして受け取るね。今ので結構回復した」


 そう言う栞さんの顔色がほんとによくなっている。


「僕じゃ力不足だった」


「何言ってんのさ。永継が居なかったら回復出来る状態まで回復しなかったよ」


「なら良かった」


 栞さんのゼロだったものを、一に出来たのなら僕が居た意味が生まれる。


「それで流歌ちゃんは授業中だけどおトイレで出てきたの? それなら長居は出来ないよね?」


「ん? 普通に栞さんが運ばれたって聞いたから何も言わずに出てきた」


「とても嬉しいけど、大丈夫?」


「私はもう内申点を気にする生活をやめたからね。色んな人に怒られるから自分の気持ちに素直になろうって思って」


 色んな人とは主に梨歌ちゃんと鏡莉ちゃんだ。


 芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃんも二人程ではないけど、宇野さんに自分優先で生活して欲しいと言い続けている。


「それで何があったの? 話せる内容なら教えて」


「私のことをそんなに好きな流歌ちゃんに教えたら大変なことになりそう」


「つまり誰かに何かされたのね。教室でされたことだろうから、言わなくても聞きに行くから」


 宇野さんからは怒りの感情を感じる。


 やっぱり宇野さんはどうしても大切な人を優先してしまうのだ。


「流歌ちゃん大好き。ちゃんと話すよ、今回のことも私のことも」


 栞さんの表情が少し暗くなった。


「一ノ瀬さんって言ってもわからないよね?」


「知らない」


「宇野さんに頼まれて僕を呼ぶ人」


「あぁ、確かに毎回同じ人だ」


 一ノ瀬さんは何故か毎回僕も呼びに来る。


 しかも宇野さんに頼まれて。


「偶然居るから頼んでるけど、さすがにおかしいか」


「僕も宇野さんと早くお話したかったから気にしてなかった」


「私も永継君以外に興味がなかった」


「仲良いアピールはいいから。これは流歌ちゃんも関わってる話なんだからね」


「私も?」


 確かに一ノ瀬さんは事ある毎に宇野さんのことを聞いてきたし、何より……。


「僕が真ん中を選んでたらこんなことにはなってなかったよね……」


「それは一番駄目なやつだからね? もしも一ノ瀬さんの話がほんとなら、永継の……穢れなき唇が汚されてたんだから」


「桐生さん、今の間は?」


「抜け駆けっ子達がいたなって思ったけど、穢れたって言うには失礼かなって思って、でも意味合い的にはお同じかなって」


 確かに僕は芽衣莉ちゃん、悠莉歌ちゃん、梨歌ちゃんと口付けをしたけど、汚れたって意味で穢れてはいない。


 むしろ浄化されたと言ってもいいぐらいだ。


「その話はまた後で聞くよ。続けて」


「一ノ瀬さんが右と左と真ん中を永継に選ばせて、永継は左を選んだの。ちなみに右が流歌ちゃんで左が私。それで真ん中が一ノ瀬さんみたいで、選ばれた私の誰にも言ってない話をされちゃって」


「誰にも言ってない話……」


 それを聞いた宇野さんの表情が固くなった。


 考え方を変えれば、右を選んでいたら宇野さんの誰にも話していないことがバラされていたということになる。


「誰にも話してないって言っても、同じ中学の人は知ってるし、この学校にも何人かは居るから、一ノ瀬さんが知ってても不思議はないんだよね」


「ほんとに?」


「永継が否定するとは」


 今の話を聞いて少し引っかかった。


「一ノ瀬さんが誰かと話してるの見たことないよ?」


「それは私達が見てるところはででしょ? 普通はそういう話を本人が居るところで聞かないでしょ」


「でも一ノ瀬さんはずっと一人だよ?」


 栞さんの言うことはもっともだけど、それなら一ノ瀬さんが誰とも話してないのが気になる。


「それすらも私達に情報を得たことをバレなくする為の演技かもね」


「そこまでして何がしたいの?」


「それはわからないよ。だけど私達の誰かか、私達が気に入らなかったのは確かだろうね」


「じゃあ僕なのかな?」


 一ノ瀬さんのやってることは、僕の嫌がることばかりだ。


 栞さんの居ないタイミングで話しかけてきたり、僕に選ばせて栞さんの秘密を暴露したり。


「多分なんだけど、永継は巻き込まれてるだけだと思うんだよね。今回のことで永継に私か流歌ちゃんの秘密を教えて距離を取らせようとしてる気がするんだよ」


「なんで?」


「ひとりぼっちになって寂しがってる永継に寄り添う為に」


 意味がわからない。


 なんで僕が栞さんと宇野さんを傷つけた相手を近くに寄らせるのか。


「永継の一途さを知らないんだよ。永継は気づいてないんだろうけど、一ノ瀬さんは永継のこと好きだから」


「それは直接言われたけど、それも嘘だと思うよ?」


「言われてたの?」


「うん。言ったら一ノ瀬さんに悪いと思って隠してたの。ごめんなさい」


 それを話していたら何か変わったのかはわからないけど、二人に隠し事をしてたのは事実だ。


 だからちゃんと頭を下げて謝る。


「永継が謝るとこないじゃん」


「でも、もっとちゃんと断ってれば良かったんだよ」


「断ってたんだ。それならほんとに永継は悪くないから謝らなくていいの」


 栞さんはそう言って僕に優しい笑顔を向けてくれた。


「結局のところ、私が話してれば良かったんだよ。永継達には隠し事をしたくないし」


「だからそれは──」


「もんなで全部話さない?」


 ずっと何かを考えていた宇野さんがそう切り出す。


「私はもうそのつもりだったよ?」


「僕は……」


「永継は考えても隠し事なんてないだろうから大丈夫」


 いくら考えても、もう隠し事が思いつかなかった。


 強いて言うなら芽衣莉ちゃんのことだけど、それは芽衣莉ちゃんの居るところで話さないとフェアじゃない。


「みんなで弱みを消していこう」


 そうして僕達は話し始める。


 過去に何があったのか。

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