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一大事

「みんなに大切なお話があります」


「あらたまってどうしたの?」


 色々あった始業式の日から数日が経ち、あれから特に変なことは起こっていない。


 少し変化はあったけど、それぐらいで前と変わらない日々を送っている。


 そんなある日、栞さんがみんなを集めて大事な話をすると言う。


「どうせろくでもないことなんだろうけど、暇だから聞いてあげる」


「そんなことを言ってられるのも今のうちだからね。きっと驚いて梨歌ちゃんは泣くよ」


「私を泣かしたら永継さんに嫌われるよ」


「じゃあ梨歌ちゃんには教えない。永継の一大事だけど仕方ないよね」


 栞さんがそう言うとみんなが一斉に反応した。


「僕の一大事?」


 この数日は特に何もないはずだから、僕に何かあったなんてことはないはずだ。


「永継にとっては普通のことかもしれないけど、永継を知ってる私から見たら一大事なんだよ」


「栞さんの勘違いじゃなく?」


「うん。てか絶対にあの人が犯人だし」


 栞さんが不貞腐れたように言う。


 何が言いたいのか全然わからない。


「しおりんしおりん」


「なに、鏡莉ちゃん」


「それをるか姉の居ない時に話すのは嫌がらせと、るか姉に話したら惨事が起こるからのどっち?」


「もちろん後者」


 みんなと言ったけど、この場に宇野さんは居ない。


 いつものようにアルバイト中だ。


「多分流歌ちゃんに話したらその人が学校に来なくなるでしょ?」


「内容知らないからわからないけど、るか姉に迫られたら一般人は泣くよね」


「流歌ちゃんの理論攻めは怖いよ」


 僕は聞いたことがないからわからないけど、栞さんの怯え方から相当に怖かったのが見て取れる。


 宇野さんだけでなく、みんなを見てても『怖い』という感情が出たことがない。


 だから少し見てみたくもある。


「永継が恐ろしいことを考えてる気がした」


「永継さん、姉さんを怒らせるのはほんとに駄目だよ。正直私達でも怖いって思うから」


「流歌さんって篠崎さんに怒るのかな?」


「ゆりか達に乱暴してたら怒るんじゃない?」


「しないもん」


 悠莉歌ちゃん達に暴力を振るうぐらいなら一生宇野さんの怒った姿を見たくはない。


「なっつんが私達に暴力を振るったら、逆に私達が怒られそう」


「なんで?」


「なっつんが私達に暴力を振るうなんてありえないから私達がやらせてるって」


「流歌ちゃんなら言いそう。それで永継になだめられて一人で照れてるんだろうね」


 何故かみんなそれで納得している。


 もしかしたら僕が暴力を振るうことがあるかもしれないのに。


 ……ないけど。


「前座はこれぐらいにして、なっつんの一大事ってなに?」


「忘れるとこだった。最初に言っとくけど、話は最後まで聞いてね」


「すごいハードル上がってるけど大丈夫?」


「軽く飛び越えるから平気。まずね、最近永継が女子と話してるの」


 栞さんがそう言うと芽衣莉ちゃんがキッと栞さんを睨んだ。


「私を睨んでも私が怖がって話が続かないだけだからね? だから睨まないで、泣くよ?」


「ごめんなさい。ちょっと不機嫌が顔に出てしまって」


「話は最後まで聞いてって言ったじゃん。話してるって言っても話しかけられるってのが正確かな。私がお花を摘みに行ってる時に話してるから内容はわからないけど……」


 栞さんがそう言って僕の方を見る。


 それにつられてみんなも僕の方を見てくる。


「話の内容?」


「うん。私一人だと聞くのが怖かったからみんなの力を借りてみました」


「姑息」


「梨歌ちゃんうるさいよ。梨歌ちゃんは怖くないんだね? もしも永継が他の女子と楽しく会話してたとしても」


「永継さんに限ってそんなこと──」


「無いって言い切れるの? 梨歌ちゃんは永継の全部を知ってる訳じゃないでしょ?」


「……」


 栞さんの言葉に梨歌ちゃんが固まって僕の方を見た。


 その目が今にも泣き出しそうだったので梨歌ちゃんの頭を優しく撫でた。


「栞さん、梨歌ちゃんを泣かしたら駄目だよ」


「半分は永継のせいだもん。永継との共同作業だもん」


「僕のせい……?」


 また無意識に人を傷つけていた。


 そんな僕が梨歌ちゃんの頭を撫でる資格なんてないと思い、手を離そうとしたら梨歌ちゃんに手を掴まれた。


「永継さんは悪くない。悪いのはあの性悪女」


「梨歌ちゃん、さすがの私だって傷つくんだからね? いいの? 私は遠慮なく泣くからね?」


「泣けばいいさ。今は私が永継さんを独占してるから慰めては貰えないけど」


 梨歌ちゃんがドヤ顔でそう答える。


「……永継」


 栞さんが俯きながら僕の制服の袖をつまんだ。


「私、そんなに性格悪いかな……?」


 栞さんが涙を浮かべながら僕の顔を見る。


「梨歌ちゃん、離して」


「……はい」


 この涙に演技を感じなかったからちゃんと対応しなければと思い、梨歌ちゃんから解放された左手で栞さんの涙を拭う。


「栞さん程まっすぐで綺麗な性格な人はいないよ。たとえ栞さんの性格が世間から見たら悪かったとしても、僕は大好きだよ」


 僕はそう言って栞さんの頭を抱き寄せてその頭を優しく撫でた。


「……ほんとに?」


「うん。僕一人に好かれても仕方ないだろうけど、どんなことがあっても僕は栞さんの性格が悪いなんて思わないよ」


「……ありがとう。私も──」


 その後は聞こえなかった。


 多分声には出してないのだと思う。


 栞さんがなんて思ったのかはわからないけど、栞さんの満面の笑みから悪いことではないのがわかる。


「りっか、なっつんに嫌われる前に謝った方がいいよ」


「罪悪感で死にそうだけどその通りなんだよね。栞さん、ごめんなさい」


 梨歌ちゃんが謝ると、栞さんがまた僕の胸に顔を埋めた。


 今度は眼鏡をおでこに掛けて。


「なっつんが挙動不審になってる。え? 今更抱きつかれただけで照れてるの?」


「僕、いつか栞さんの眼鏡のない素顔を見るのが夢なの」


「そこまで!?」


 栞さんが思わず顔を上げたが、そのまま眼鏡がストンと元の位置に戻ったせいで素顔は見れなかった。


「危ない、永継が策士すぎる」


「策士?」


 夢は確かに言いすぎかもだけど、それぐらい楽しみではある。


「確かにしおりんの素顔って見たことない。今日一緒にお風呂入ろ」


「鏡莉ちゃんずるい」


「え? なっつんも一緒に入る?」


「ちょっと考える」


 栞さんが見せたくなるまで待つ気ではいるけど、それはそれとして見たいものは見たい。


 だから栞さんが嫌でなければそれも無しではない。


「いや、嬉しいけど駄目だからね? 多分流歌ちゃん怒るから」


「その時はるか姉も一緒に入れば解決さ」


「やーだ、初めてではないけど、みんなに対しては初めてだから、初めては永継に捧げるって決めてるの」


「なんかエッチ」


「それは鏡莉ちゃんの頭がそういうことしか考えてないからだよ」


「否定はしない」


 鏡莉ちゃんが胸を張ってそう言うと、栞さんが引き攣った顔になる。


「とにかく私の素顔を初めて見るのは永継だから。それより永継の話に戻るよ」


「そっちのが気になるからいいよ」


「軽くショック。まぁいいけど」


 みんなの視線が僕に集まった。


 そんなに期待されても正直困る。


「そんなに話してる訳でもないし、ほんとに世間話程度だよ?」


「永継が私達以外の女子と話してるのが一大事なの」


「確かに人とは話さないけど、そこまで?」


 みんな一斉に頷いたので、もう何も言わない。


「えっと、内容だけど、ほとんど宇野さんの話が多いかな? ……その人って宇野さんが僕を呼びに来た時に僕を呼んでくれる人だから」


「今の間は?」


「そういえば名前知らなかったなって」


 僕は未だにクラスの人だけでなく、学校の人で名前がわかるのが宇野さんと栞さんしかいない。


 先生ならうろ覚えでわかるけど、同級生や上級生となるとわからない。


「あの人は確か、一ノいちのせさんだったかな? 私もうろ覚えだけど、そろそろ名前覚えようよ」


「人の名前覚えるの苦手なんだもん」


「私達の名前は言ってなくても覚えてなかった?」


「梨歌ちゃん達は最初から仲良くなりたかったからかな?」


 それは僕にもわからない。


 今まで仲良くなりたいと思えた人がいなかったから、比較対象もないし。


 昔の芽衣莉ちゃんにはいじめられているうちに仲良くなった感じだからよくわからない。


「とにかく、僕が話したのはそれだけ。宇野さんと仲がいいのかとか、宇野さんの妹達は可愛いのかとか?」


「栞さん、姉さんに言う?」


「言ってもいいかもね。永継君を言い寄ろうとするのなら容赦はいらないから」


 なんだかみんなの目が怖くなってきた。


 一ノ瀬さんの為に言ってないことがあるけど言わなくて良かった。


 みんなは何故か僕に仲良しな人が出来るのを嫌がるから。


 だから隠していこうと思う。


 一ノ瀬さんに「ずっと前から好きでした」と言われたことは。

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