大義名分
「祝、永継と学校で堂々と仲良く出来るようになりましたー」
「栞さんがおかしいのはいつものことだけど、どしたの?」
がつから帰ってきて、定位置に着いたところで栞さんが拍手をしながらそう言うと、日課の柔軟をしていた梨歌ちゃんに不思議そうな顔を向けられた。
「まぁ色々あって永継と流歌ちゃんと私は学校で普通に接することが出来るようになったの」
「また永継さんは事件に巻き込まれたの?」
「今回は私達全員巻き込まれたよ」
「姉さんと栞さんも?」
「梨歌ちゃん達も」
栞さんはそう言って事の成り行きを話した。
「つまり篠崎さんのストーカーってことですね?」
「それはわからないけど、とりあえず芽衣莉ちゃんは目が怖いから永継召喚」
栞さんが僕を見ながら芽衣莉ちゃんを指さした。
何を求められてるのかわからないけど、とりあえず芽衣莉ちゃんのところの行って頭を撫でておいた。
「一瞬で芽衣莉ちゃんがトロ顔に。可愛い」
「芽衣莉はいいとして、私達と永継さんが一緒に居るところを誰かに見られたってことだよね?」
「そだね、しかもこの家に帰るところまで見られてるそうで」
正直うんざりはしてる。
一緒に居たい人達と一緒に居るだけで周りからとやかく言われることに。
だけど宇野さんと一緒に居るということと、そういううんざりが付きまとうのは仕方ないことかもしれないけど。
「ても永継に気づかれないでストーカーするって相当だよね?」
「さりげなく自慢しなくていいから。でも確かにそうだよね」
「多分見られたのって初詣に行った日だよね?」
「気づいてたの?」
「ううん、ただ宇野さんと一緒に外に出たのって初詣の日だけだから」
僕が宇野さんと外で一緒に居たことがあるのは、昼休みを抜けば宇野さんが倒れてた日と、初詣の日しかない。
あの時はみんな一緒に居たから同時に見られても納得がいく。
「あの時の篠崎さんは私だけを見てたから気づけなかったのか」
「さりげなく自慢するな。でもそうだよね、初詣の人だかりで見られたとしたらさすがの永継さんでも気づけないだろうし」
「可能性としては、ここが宇野さんの家だと知ってて、僕が入っていくのを見られたからってのもあるけど」
たまたま見られただけならさすがに気づけない。
その時に何か一言でも言葉を漏らしていたら話は別だけど。
「まぁでも、いずれはバラすつもりだったんでしょ?」
「うん。徐々にバラすつもりが、いきなりバラされたってだけだからね」
「そりゃ姉さんキレるよ」
「怖かった。永継が聞いても新しい流歌ちゃんをしれて喜ぶとは思ったけど、流歌ちゃんが死にそうだから聞かせなかった」
「それがいいよ。そうしなかったら永継さん本人の慰めが必要になるし」
宇野さんは今、隣の栞さんの部屋で鏡莉ちゃんと悠莉歌ちゃんに慰めて貰っている。
理由は本気で怒ったのが恥ずかしかったらしい。
「人の為に怒ったのを恥じらうってどうなの?」
「姉さんは永継さんにマジギレを見られて恥ずかしがってるの。可愛いでしょ?」
「控えめに言って可愛いけど、最近私の部屋を慰めの部屋として使ってない?」
「そもそも私は栞さんが隣を使ってるの見たことないんだけど?」
栞さんが引っ越してきてから、隣の部屋を使ったのは僕が見た限りではない。
引っ越した時の荷解きをしてたのは知ってるけど、ご飯もお風呂も睡眠もこっちで済ましているからほんとに部屋を使っているのは見たことがない。
「だってみんなと一緒に居たいし、それにあの部屋はそもそもここに置けなくなったものを置く為に借りたのが一番の目的だから」
「クローゼットに余裕が出来たのは助かってる」
前までは外にまで掛けられていたコスプレ衣装が今では無くなっている。
僕は行ったことがないからわからないけど、隣に運んだらしい。
「それとここに泊まる大義名分をつくる為でもある」
「金持ちの考えは私達にはわからないよ」
「結局のところは永継と一緒で、みんなと居たいの。私はその為なら何も惜しまないだけ」
栞さんが優しく微笑みながらそう言った。
「なんかいいこと言ってる風だけど、大悟さんがお金出してるんでしょ?」
「身も蓋もないこと言わないでよ。もちろんお金を出してるのはお父さんだけど、タダで出して貰ってる訳じゃないからね?」
「と言うと?」
「芽衣莉ちゃん、お楽しみのところごめんだけど、永継の耳を塞いで」
僕はずっと芽衣莉ちゃんの頭を撫でていた。
離そうとすると、芽衣莉ちゃんが悲しそうな顔をするから離せなかったからだ。
その芽衣莉ちゃんが抱きつかれるのかと思う勢いで僕の耳を塞いできた。
「桐生さんの指示だから仕方なくやるね」
それだけ僕に伝えると、芽衣莉ちゃんはしっかり僕の耳を塞いであどけない笑顔を向けた。
(めいちゃんみたい)
この笑顔は昔遊んでた時の芽衣莉ちゃんそっくりだ。
可愛くて仕方ない。
そんな芽衣莉ちゃんを眺めていたら、ずっと僕に視線を向けてた芽衣莉ちゃんが栞さんの方に視線を向けてムスっとした顔になった。
それとめいちゃんみたいで可愛かった。
そんなことを考えていたら芽衣莉ちゃんが手を離した。
「篠崎さん、私不機嫌になったから抱きしめながら頭を撫でて時折ほっぺをふにふにして」
「それはただ芽衣莉がして欲しいだけでしょ」
「大義名分が出来たから」
出来たのかはわからないけど、今は芽衣莉ちゃんが愛おしいので言われた通りにする。
「永継って芽衣莉ちゃんのこと大好きだよね」
「言ったら芽衣莉が拗ねるけど、あくまで妹的にね」
「いずれは妹になる予定だからそれが一番いいのか」
「いいの?」
「お父さんも本気じゃないしね。あくまで大義名分」
なんの話かはわからないけど、僕のやってることに意味はないみたいなことを言われた気がする。
やめる気はないけど。
「実際さ、栞さんはどうなの?」
「掘り下げなくていいよ。私は流歌ちゃんを応援してるし」
「じゃあ想像してみて、姉さんが栞さんの目の前でイチャついて……モヤるな」
「梨歌ちゃんも人のこと言えないじゃん。とにかく私はいいの。それよりあそこでイチャついてる兄妹をなんとかしないと」
僕達のことを言っているのだろうか、背後から呆れたような視線を感じる。
ちょっと楽しくなってきて、言われてないけど耳をふにふにしたり、強く抱きしめてみたりと色々やっている。
「お互い楽しんでるみたいだから放置でいいんじゃない? 私は止めて永継さんに嫌われたくない」
「でも芽衣莉ちゃん爆破しない?」
「今が楽しければ本望でしょ」
梨歌ちゃんの呆れたような声が聞こえてくる。
僕は芽衣莉ちゃんがやめて欲しくなるまでやめる気はない。
だからやめたのは宇野さん達が帰って来て宇野さんが止めた時だった。
最初は拗ねていた芽衣莉ちゃんだったけど、少し経つとロフトに逃げ込んでいた。
だけど、宇野さんの笑顔が見れて安心した。




