綺麗な花には毒がある
「行ってきます」
「……あぁ」
宇野さん達以外に初めて言った言葉。
そして初めてまともに返ってきた言葉。
それに少しだけ心を踊らせながら学校へ向か……おうと外に出たら、外に宇野さんと栞さんが居た。
「永継が嬉しそう。私が居るんだから当然か」
「自信家なのはいいけど、多分違うから恥ずかしいよ?」
「宇野さんと栞さんが居るのは嬉しいけど、びっくりの方が勝ってるかな?」
二人とは待ち合わせをした訳ではない。
もちろん嬉しいけど、なんでうちを知ってるのかと、なんで朝からうちに居るのかが気になる。
「僕って二人にうちの場所教えたっけ?」
「私達は教えられてないね。だけど永継のことを勝手に見守ってた人は居るでしょ?」
そういえば強面さんが僕のうちまでこっそり送ってくれたことがあった。
「桐生さんが尋問して聞き出したんだって」
「失礼な! 私が『教えて(はーと)』って言ったら普通に教えてくれたもん」
「絶対真顔で言ってたでしょ。圧もかけて」
「だって私の知らない永継の情報を持ってるって思ったら思いのほかキレちゃったんだもん」
「隠してた訳じゃないから教えたのに」
うちに呼ぶことは絶対に出来なかったけど、家の場所を教えるぐらいなら別に構わなかった。
「それじゃサプライズにならないじゃん」
「冬休み前じゃなくて良かったよ」
もしあの頃に来ていて、《《お父さん》》と鉢合わせていたらと思うとゾッとする。
「さすがにあの頃はしないよ。永継も嫌がってたし」
「お父さんとは仲良く出来てるの?」
「ぼちぼち?」
瑛二さんの件は仁さんとお母さんが解決したようで、善光さんこと、僕のお父さんは家に帰ってきた。
お父さんは居心地が悪いようで部屋の隅に居るけど、さっきのように挨拶をしたら返してくれるようになった。
「永継ってお父さんのこと恨んだりはしてないの?」
「あなたはなんでそういうことを聞くの。デリケートなことなんだから聞かなくたっていいじゃん」
「確かにそうだけど、永継って人を恨んだりするのか気になって」
「恨むよ? 永継君は私達に危害を加える人を一生恨むからぁ」
宇野さんがなんだか嬉しそうに言う。
実際その通りだ。
「恨むを許さないって意味だとするなら恨むことはあるよ。お父さんのことは恨んでたけど、お母さんには何もしてなかったみたいだし、それにお父さんも被害者だったから恨むことはしないよ?」
「永継だもんね。恨んでた時も恨む理由がお母さん。永継はもう少し自分を大切にしようよ」
「それは私も思う。永継君は第一優先が他人なんだもん。いいことだけど、だからって自分を蔑ろにしすぎなんだよ」
栞さんと宇野さんが真剣に言っているのはわかる。
だけど他人優先は二人も同じだ。
そんな二人に言われても説得力がない。
「永継が怒った?」
「というか拗ねてる?」
「知らないもん」
二人ともハズレで、不貞腐れているだけだ。
「嫌われてはない?」
「うん」
「じゃあ可愛いだ。永継は可愛い」
栞さんがそう言って僕の頭を撫でてきた。
「……栞さんやだ」
なんだか馬鹿にされてる感じがして、ついそんなことを言ってしまった。
「……調子に乗りました。永継に嫌われたらもう生きる理由がありません」
「そうやって優しい永継くんの同情を誘うのやめてくれる? 謝る気がないなら最初から謝らないで」
「辛辣だけどその通りです。永継、ごめんなさい」
栞さんが丁寧に頭を下げてきた。
身体が震えているので、僕は栞さんの頭を撫でた。
「栞さんは悪くないよ。僕が勝手に不貞腐れてただけだから」
「……ほんと?」
栞さんが涙目になりながら僕の顔を見る。
「うん。泣かしてごめんね」
僕はそう言って栞さんの涙を指で拭う。
「……今これを言うのはずるいかもだけど、私は永継に嫌われたらほんとに生きる理由がなくなるんだよ」
「嫌わないけど、どうして?」
「永継は私の全てだから」
応えになってない気がするけど、話したくないことなら聞く気もない。
その時が来たら話してくれるだろうから。
「それで二人はなんでうちに来たの?」
やっと一番最初に気になったことを聞けた。
「永継と一緒に学校行きたいから?」
「なんで疑問形なのさ。でもまぁそうだね、私もずっと永継君とは一緒に学校行きたかったから」
「大丈夫なの?」
宇野さんは学校で僕と話す時は昼休みで、屋上前の階段と決まっている。
つまりは他の人にバレないようにしている。
それなのに一緒に学校へ行ったら、それが無駄になる。
「特定の相手は作らないようにしていざこざを少なくしてたけど、私が我慢すると妹達が怒るんだよ」
「流歌ちゃんはもうそんなに頑張る必要は無くなったんだもんね」
「うん、人並みでよくはなったから、もう普通の女子高生をやろうかなって」
宇野さんは今まで頑張りすぎていた。
そのせいで廊下で倒れて、僕は出会えたけど、倒れるまで頑張る必要はない。
「これからは僕も頑張るし、みんなで支え合って頑張ろ」
「永継君ってナチュラルにこういうこと言うよね」
「永継だもん。でもさすがにいきなり友達として一緒に居るのは永継に迷惑かかりそうだよね」
「なんで?」
「人間はめんどくさいから」
栞さんの説明はいまいちよくわからない。
要は僕と宇野さんが一緒にに居るところを見られると、学校の人に変な誤解をされると言いたいのだと思う。
「確かに永継君に絡んでくる人は増えるだろうね。だからいきなりはしないよ。毎日昼休みに永継君を呼び出してたからそんなに時間はかからないと思うし」
「いざとなったら同じクラスの私がなんとかすればいいんでしょ?」
「マウント取られた気がするけど、そうだね。永継君が相手すると、相手の人が不登校になるか、永継君が完全に悪者にされるだろうし」
「一番最悪なのは、惚れるにわかが出てくることだよ」
「今更永継君の魅力に気づいても遅いっての」
二人が少し怒ったように言うけど、そんな人が現れることはない。
たとえ現れたとしても、宇野さん達のように仲良くなれるとも思えない。
「永継はしないだろうけど、いきなり誰かと付き合って離れてかないでね」
「そっくりそのまま栞さんに返す」
「私には永継しかいないって言ったでしょ。多分他の男子はまだ無理」
「じゃあそれは貰う。僕にも栞さん達しかいないんだよ。だからみんなと離れて他の女の子と仲良くなることは絶対にない」
それだけは断言出来る。
大切なみんなを捨ててまで他の女子と付き合うなんてことはありえない。
「どうしても付き合わなきゃいけないってなったら、知らない人よりもみんながいいもん」
「……」
「……」
二人が固まった。
「ごめん、勝手なこと言って」
栞さんはわからないけど、宇野さんは好きな人がいるのだった。
その宇野さんも付き合いたい人の中に入れたのは最低の行為だ。
「流歌ちゃん、どうしても付き合わなきゃいけない状況ってどういう状況だと思う?」
「大人になれば親からせっつかれるみたいだからそういう状況だよね?」
「後は何かをしないと出れない部屋系か」
「そういう意味不明なのは無駄だからちゃんとした候補を出して」
どうやら僕の声が届いていないようだ。
やっぱりみんなと「付き合わなきゃいけない」なんて言い方が悪かったのかもしれない。
みんなと付き合えるのは光栄なことなのに。
「なんか今嬉しいこと思われた気がする」
「私も感じた。それより永継君は……、いや聞いたら負けか」
「なにを?」
「永継は気にしなくていいよ。永継の答えを聞くにはまだこっちの心の準備が出来てないって話だから」
やっぱり栞さんの言い方はわかりにくい。
「……あ、そうだね」
「永継がいきなり独り言を……、大丈夫? 病んでない?」
「ごめん違うの。お父さんが『早く行かないと遅刻するぞ』って」
お父さんは僕の耳がいいことを知っている。
だから家の中から言っても聞こえるのをわかって、時間を教えてくれた。
「永継嬉しそ」
「永継君が学校で笑顔を振り撒いたら変な虫が寄って来そうだから注意しててよ?」
「わかってるよ。私が独占するから平気」
「またマウント取ったな貴様」
二人が仲良く話しているが、ほんとに時間がやばくなってきた。
「行こ」
僕は二人の手を握ってそう言った。
「永継君、いきなりそんなことされたら心臓止まるから駄目」
「ほんとに。私達が悪いんだけどさ」
「ごめんなさい」
怒られたから手を離そうとしたら、逆に強く握られた。
「せっかく永継君が握ってくれたんだから離さないよ」
「重いなぁ。私も離さないけど」
宇野さんと栞さんはそう言って歩き出した。
「両手に花だね」
「……バカ」
「左手に菫で右手に彼岸花ですか」
綺麗な花には毒があるとは言うが、こんなに綺麗なら毒を貰ってもいいと思ってしまった。




