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お礼の品

「みんなに渡したいものがあるんだけど、いい?」


「あらたまって何?」


 栞さんが紙袋を持ってやってきたと思ったら、そんな告知を言った。


「私からのもあるけど、お父さんが『おせちを片付けてくれてありがとう』ってお礼の品をね」


「むしろ貰っちゃったこっちがお礼をしたいんだけど?」


「それはほんとに大丈夫。お母さんがおせち作るの好きで毎年作りすぎるからほんとに困ってたやつなのですよ」


「手作りだったんだ。じゃあお言葉に甘えるけど、美味しかったって伝えといてくれる?」


「それは十分に伝わってたよ。毎年新学期が始まるまでは毎日おせちを食べてるぐらいに残ってたのが、まさかの三が日の間で食べ終わったんだから」


 栞さんは驚いていたけど、美味しかったからみんな食べ飽きることもなく、最初の重箱は一日で空になり、栞さんが二つ目を持ってきた。


 それも三日までには食べ終わっていた。


「さすがに永継以外は飽きてたけどね」


「いくら美味しくてもさすがにね」


「永継は飽きなかったの?」


「食べることで飽きるっていうのがわかんないんだよね」


 多分僕は毎日同じものを食べても飽きることはない。


 そもそも全く同じ味付けにしようとしても、少しは変わるから毎日同じものを食べ続けたこともないけど。


 今回のおせちだって、色んな種類の食べ物があったから、満遍なく食べれば飽きることもないはずだ。


「永継はお嫁さんの料理を全部『美味しい』って言って食べるいい旦那になるね」


「それは普通のことじゃないの?」


 作って貰って文句を言うのは自分勝手がすぎる。


 善光さんだって、僕の作ったご飯を「不味い」とかの文句は言わなかった。


 何も言わなかっただけでもあるけど。


「いるんですよ。私のトラウマだから話さないけど」


「しおりんの失恋話?」


「鏡莉ちゃん、そういうところだけ食いつかないの」


「しおりんは二次元にしか興味ない人だと思ってたから」


「失礼な! 私は永継のことを好きだと言えるよ」


 栞さんの発言に何故か宇野さんが驚いた様子を見せる。


「あ、友達としてだから安心していいよ。今はまだね」


「……桐生さんって結局どっちなの?」


「秘密。一つだけ言うとしたら、私も流歌ちゃんが選ばれたとしても祝福するよ」


 栞さんが優しい笑顔でそう言った。


 その笑顔がなんだか儚げに見えた。


「まぁそれはそれとして、お父さんからのお礼の品を進呈しよう」


 栞さんはパッと明るくなって、紙袋の中に手を入れた。


「まずはお礼とか関係なくお年玉ね」


「お正月終わってるけど?」


「渡し忘れてた。ちなみにこれは受け取り拒否は出来ないやつね」


「お年玉だもんね。善意で貰ったものを返す訳にもいかないから貰うけど……なんかお金だから貰うみたいに聞こえるよね?」


「普通に貰えばいいんだよ。理由が欲しいなら、私を泊めてくれてる宿賃って思えばいいから」


 栞さんはそう言ってポチ袋を六枚机に置いた。


「栞さんの分?」


「いや、永継のだからね。お父さんからしたら、私と仲良くしてくれてありがとうの意味もあるだろうから」


「こちらこそなのに」


 僕の方こそ栞さんと仲良くさせて貰ってありがとうと言いたい。


 栞さんには宇野さん達と同様に感謝の気持ちでいっぱいだから。


「とにかくあげたからね。そんでこっちがお礼の品」


 そう言って栞さんが出したのは甘酒の瓶だった。


「高いお菓子とかだと食べづらいって言ってたから、お正月にちなんだものをくれたみたい。ちなみに飲んだことある人」


 栞さんがそう言うと鏡莉ちゃんだけが手を挙げた。


「お正月の特番撮った時に飲んだけど、酔えなかったよ……」


「鏡莉ちゃんもこちら側か。私もいつか会いたいんだよ」


「もしかしてそれが目的で?」


「これはほんとに偶然」


 たまに始まる栞さんと鏡莉ちゃんの謎の会話。


 内容はよくわからないけど、いつかわかるようになりたい。


「だから私は甘酒をやめて、こちらをご用意しました」


「それも駄目だったのに!」


 栞さんが取り出したのは多分チョコレートの箱だ。


「大悟さんのはお礼かもしれないけど、栞さんのはただの趣味でしょ」


「酷いよ梨歌ちゃん。確かにこれを食べたみんながどうなるのか気になって買ったけど……そもそも私はなんでお礼をするとにしたんだっけ?」


 大悟さんがお礼を言うのはなんとなくわかったけど、栞さんも同じ理由だと思っていたが、どうやら違うようだ。


「おせちを食べてくれてありがとうといつも泊めてくれてありがとうでいっか。それよりもみんなで甘酒飲みながらチョコをつまもうよ」


 そう言って栞さんは甘酒の蓋を開けた。


「うちへのお礼なのに勝手に開けるんだね」


「だって流歌ちゃん達もったいない症で私が持ってきたお菓子もずっとしまってたじゃん」


 栞さんが初めてここに来た時にくれたお詫びの品を開けたのも栞さんだ。


 日持ちするものではあったけど、ずっとしまって触らぬ神状態になっていたものを栞さんが無理やり開けてみんなで食べた。


 多分栞さんが開けなかったら今もしまったままだったと思う。


「流歌ちゃんは貰ったものを腐るまで放置する気?」


「ごもっともだけど、めったに食べれるものでもないって思うと『いざ』を待っちゃって」


「気持ちはわかるけど、それならうちにあるのを毎日持ってくる?」


 確かにあるのが当然になれば宇野さんもすぐに開けるかもしれない。


「悪いからいい。桐生さんが開けてくれるならそれでいいし」


「なんか告白された気分」


「意味がわからないからコップ持ってくる」


 宇野さんが立ち上がると、芽衣莉ちゃんも「手伝う」と言って立ち上がった。


 芽衣莉ちゃんは仁さんの話を聞いた後には元気になっていた。


 後で一緒に散歩に行く約束もした。


「しおりん、誰が酔えると思う?」


「悠莉歌ちゃんは酔わなそうだよね、梨歌ちゃんは酔ってないようで実は酔ってる可愛い系を希望」


「りっかはキレそう。めいめいはほんとに酔うか酔ったフリしそう」


「流歌ちゃんと永継は酔うね」


「るか姉は酔うだろうけど、なっつんは酔わないかもよ」


「永継は読めないからなぁ」


 栞さんと鏡莉ちゃんの会話が不穏でしかない。


 甘酒はアルコールがないはずだから酔う訳がないのに、そんな話をするのは何かしてるからなのかと疑ってしまう。


「甘酒で酔う人なんていないでしょ。そっちもアルコール入りのチョコだろうけど、お酒に弱い人は駄目なんだろうけど、普通は平気なんでしょ?」


 芽衣莉ちゃんとコップを持ってきた宇野さんが訝しげな視線を送りながら言う。


「まぁね。だけど期待を裏切ってくれるのが流歌ちゃんでしょ?」


「意味がわかんないし」


 宇野さんが呆れたような顔でにコップを机に置くと、栞さんが甘酒をいだ。


 注がれたコップを宇野さんがみんなの前に運び、チョコを取りやすいように真ん中に置いた。


「じゃあ飲もー」


 栞さんがそう言うとみんなで一斉に甘酒を飲んだ。


「美味しい」


「いいやつなのかね。美味しいや」


「なんかポカポカするね」


 甘酒を飲んだら急に身体がポカポカとしてきた。


「期待を裏切らない永継だよ。気持ち悪くはない?」


「うん。ふわふわはしてるけど」


 前に熱を出した時に似ている。


 あの時のように苦しさみたいなのはないけど、眠たくなってきた。


「永継は眠り上戸か。一番楽な酔い方だね」


「あれか、合法的に家まで運べるやつ」


「それで何故か上半身裸で一緒に寝てるもんだから勘違いして恋が始まるやつ」


 栞さんと鏡莉ちゃんが楽しそうに会話してるけど、頭に全然入ってこない。


「ねむ、い」


 僕の意識はそこで途絶えた。




「……」


 目を覚ました僕はすごい光景を目にした。


 呆然とする悠莉歌ちゃん、その悠莉歌ちゃんの前で倒れる梨歌ちゃん、抱き合って倒れている鏡莉ちゃんと栞さん。


 そして……。


「宇野さんと芽衣莉ちゃんはなんで服を着てないのさ」


 宇野さんと芽衣莉ちゃんは上半身が裸の状態で僕の隣に寝ている。


「僕がやった訳じゃないよね?」


 寝てたからなんの記憶もないけど、とりあえず目のやり場に困るから近くに落ちてた二人の服を被せた。

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