初めての相手は……
「それじゃあことの成り行きを話すね」
「お願い」
三が日が過ぎて今日は一月の四日。
一日に起こったことを仁さんが話してくれることになった。
ちなみに三が日は何事もなく、コスプレ大会やボードゲーム大会をやっていた。
「結論から言うと、全部の元凶はあいつなんだよ。日和さんと永継君のお父さん、それに芽衣莉のことも」
「ずっと気になってたんだけど、お父さんと永継君のご両親と前のお父さん? はみんな知り合いなの?」
「まぁそうだね。幼なじみって言うのかな、昔はよくみんなで遊んでたよ」
仁さんがその時のことを思い出してるのか優しい笑顔になった。
「僕も驚いたんだけどね、まさか瑛二が芽衣莉と鏡莉の父親だったなんてね」
「えいじ?」
芽衣莉ちゃんが不思議そうに聞き返した。
「……忘れたいよね、ごめ──」
「違う違う、私も知らなかったから」
仁さんが頭を下げようとしたのを鏡莉ちゃんが慌てて止めた。
「あの人えいじって言うんだ、興味ないけど」
「めいめいはあの人のせいで男性恐怖症になって、それが振り切って男に興味が無くなっちゃったんだよね」
「篠崎さんには興味津々」
芽衣莉ちゃんが学校で告白されても興味がないとは言っていたけど、理由が父親にあったのは知らなかった。
「ちなみに、僕の名前はわかる?」
仁さんがそう言うと芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが目を逸らした。
「あんた達、永継君以外の男の人は眼中に無いの?」
『ない!』
芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが揃って言う。
嬉しいけど、仁さんがとても悲しそうな顔をしている。
「いや、いいんだよ? まだ数回しか会ってないんだし、これから覚えて貰えれば……覚えて貰えるかな」
仁さんがどこか遠くを見つめてしまった。
「それで仁さん、うちの父親の名前って知ってます?」
「永継君はほんとにいい子だよね。是非うちの子をこれからもよろしく頼みたい」
それはこちらから頼みたいことだけど、仁さんがそう言うのなら僕も精一杯頑張る。
「仁お義父さんがそう言ってくれてるので、篠崎さんは心置き無く私達になんでも出来るね」
「仁お義父さんからの許しは得たから、なっつんはいつでも誰を選んでも平気だね」
「あんたら……」
あからさまに『仁お義父さん』と言う芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんに宇野さんがため息をついた。
当の仁さんは……。
「お父さんは喜んでいいのか悲しめばいいのかわかんないからって複雑な顔しないで」
「だって名前を呼んでくれたのが嬉しいけど、永継君のを聞いたから呼べたのかもしれないからそこの悲しい気持ちと混濁してるから」
「多分名前は覚えられてなかったから。それより永継君の質問に答えて」
「……流歌、お前が一番永継君しか見えてないだろ」
仁さんのその言葉に宇野さん以外のみんなが頷いた。
「そうだとして何か問題あるの?」
「……何もないですけど」
宇野さんの眼光に仁さんが小さくなる。
「いいから早く永継君の質問に答えて」
「わかったよ。えと、篠崎の名前だっけ? 確か善光《《よしみつ》》じゃなかったけかな」
「善光。やっぱり聞いたことないや」
芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが父親の名前を知らないことに驚かれていたからそれは珍しいことなのかと思い、実は僕は父親の名前を知っているのかと思ったけど、やっぱり知らなかった。
「話を戻すよ?」
「うん」
「瑛二は昔から日和さんのことが好きだったんだよ」
「隠してるつもりなのか知らないけど、お父さんもでしょ?」
「……僕達三人は日和さんのことが好きだったんだよ」
すごいカミングアウトを聞いてしまった。
だけど僕以外のみんなはそんなに気にした様子はない。
「だけど特に瑛二は執着がすごかった。何回告白して振られたかわからないよ」
「それは日和さんが善光さん? を好きだったからなの?」
「そこはわからない。僕だって日和さんが篠崎……善光と結婚してたなんて知らなかった訳だし」
「付き合うとかする前に離れていったってこと?」
「そうだね。高校卒業でみんなバラバラになってからはだんだんと連絡を取らなくなっていったんだ」
なんだか仁さんが少し寂しそうに見える。
僕達もそうなる可能性があるのかもしれない。
そんなことのないようにもっと仲を深めていきたい。
「でも僕のお父さん? は仁さんが何か知ってる風に言ってましたよ?」
「前にうちの喫茶店に来たんだよ、善光が」
「仁さんに会いにですか?」
「違うよ。ほんとにたまたま入ったところがうちで、善光も驚いてたよ。その時に聞いたんだよ、善光の今置かれている状況だけ。日和さんと結婚してたとかは聞かされなかったけど」
そこはあの人なりに考慮したのかもしれない。
仁さんもお母さんが好きだったらしいから。
「簡潔に言うと、善光は瑛二に脅されてたみたいなんだよ」
「そこら辺がわからないんですよね」
瑛二さんがお母さんを好きだったのならあの人……善光さんとお母さんを別れさせようとするはずだ。
だけど善光さんの感じからすると離婚を促されていた感じはしない。
もしそうなら最後が悲しそうな理由には納得がいくけど、善光さんは結婚した理由を『利害の一致』と言っていたのがわからない。
「脅しの内容は『日和さんと結婚して子供に暴力をふるい続けること』らしいよ」
「それになんの意味があったんですか?」
「少なくとも瑛二には何かあったんだと思う。なんであろうと許されることではないけどね」
「そもそも従う理由はなんなんですか?」
今までのことを脅されてやっていたのだとしたら、何が理由で従わざるをえなかったのか。
「……それは言えない」
「そこまで言って言わな──」
僕は宇野さんの唇に人差し指を当てて言葉を止めた。
なんとなくわかった。
仁さんが『言えない』と言うのなら、僕が聞いたら駄目なことだ。
そして僕が聞いたら駄目なことは多分お母さんのことだ。
お母さんの秘密を瑛二さんが知っていて、それを僕または誰かにバラされることを人質に取られて善光さんは従った。
その秘密を僕が知ったら、全てが崩壊するかもしれないから。
「察しが良すぎるのも良くないね。絶対にDNA鑑定とかしたら駄目だからね」
(それは言ってるのと同じでは?)
「確証はないんだよ。だからみんなには内緒だよ」
仁さんの声は多分みんなには聞こえていない。
僕だけに聞こえるような声で話してくれた。
僕はまだ現実を受け止められるかわからないから何もする気はない。
(だってもしかしたら……)
「篠崎さんから熱い視線を感じる」
「めいめい、なっつんが見てるのは私」
「妹が居たらどんなかなって不意に思っただけ」
「それは!」
「つまり!」
芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんがあっという間に僕の隣にやってきた。
「ついに、ついに流歌さんと結ばれることを決めたってこと?」
「長かった、もう出会って三ヶ月ぐらい経つよ」
「むしろ短すぎでしょ」
芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんは何故か興奮しているが、梨歌ちゃんが少し怒っているように見える。
宇野さんは顔が赤い。
悠莉歌ちゃんは拗ねている。
「ゆりかもじゃん。可能性だけどゆりかもじゃん」
確かにそうだった。
とりあえず話が終わったら一緒に遊んでご機嫌を取ることにする。
「最後に芽衣莉の話をしてもいいかい?」
仁さんの言葉にさっきまで嬉しそうだった芽衣莉ちゃんが固まった。
「お願いします」
「うん、瑛二は日和さんと善光が結婚したから日和さんに似た人と結婚したらしいんだ。そして芽衣莉と鏡莉が生まれた。だけど病気で亡くなってしまったんだよね?」
仁さんが聞くと鏡莉ちゃんが頷いて答えた。
「そこまで酷くはなかったけど、身体が強い訳でもなかったみたいだから、私を産んでからは日に日に弱ってたみたい」
「その頃の瑛二は善光を好きに動かせて、それに日和さんの似た人と結婚出来て優越感に浸ってたんだよ。だから満足してた」
それが芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんのお母さんが亡くなった時に何もしなかった理由。
興味が無くなっていたのだ。
「だけど優越感は長くは続かなかった。多分二人のお母さんが亡くなる前からあいつと浮気はしてたんだと思う。そんな中で思ったんだと思う。芽衣莉ちゃんが日和さんに似てるって」
「あぁ……」
言われてみたら顔立ちが似てるかもしれない。
似てるだけで芽衣莉ちゃんとお母さんは違うけど。
「ストーカーの理由はそういう訳だよ。あいつも居なくなって一人になった瑛二は芽衣莉ちゃんに手を出そうとした。正直、こんな話をする必要ないとは思うけど、永継君が居ると大丈夫な気がしちゃうんだよね」
「それはわかる」
宇野さんも同意したけど僕にはわからない。
僕には所詮出来ることしか出来ないのだから。
「篠崎さん」
芽衣莉ちゃんが僕の腕に抱きつきながら僕を呼ぶ。
「なに?」
「私、初めてはまだだからね?」
「なんの?」
「それはもちろ──」
芽衣莉ちゃんの口が鏡莉ちゃんの手によって閉じられた。
「嘘をついたら駄目でしょ。めいめいの初めての相手は私なんだから」
「鏡莉、可愛かった」
「やめろし!」
さっきまでの空気が嘘のように明るくなった。
「やっぱり永継君はすごいな」
「ほんとにね」
なぜだか仁さんと宇野さんから褒められた。
嬉しいけど理由がわからない。
とりあえず話が終わったっぽいので、不貞腐れている悠莉歌ちゃんを抱きしめに行った。




