表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/150

何事も無くはない

「おせちってさ、子供にはまだ早いと思うんだよね」


「どしたの急に」


 おせちでもなんでもない、いつも通りの朝ごはんを食べていたら栞さんがいきなりそんなことを言った。


「いやさ、お正月に毎年おせちが出てきてたんだけど、あれって子供が美味しいって思えるの少なくない?」


「おせちって名前は聞いたことあるけど、ちゃんとしたの見たことないからわかんない」


「うちも出たことないからさりげ自慢やめてね」


「そういうと思ってさ、持ってきて貰った」


 栞さんはそう言って、風呂敷で包まれた重箱を持ってきた。


「朝からどっかに行ってたと思ったら」


「毎年余りに余って毎日おせちになるから、おすそ分け兼在庫処理を頼もうかと」


「そういうのあるなら先に言ってよ。そしたら朝ごはんの量減らしたのに」


「そしたら宇野家の美味しい朝ごはんが減っちゃうでしょ!」


「おせちが入らなくなるでしょうが」


 宇野さんが少し嬉しそうに言う。


 今日の朝ごはんは宇野さんと芽衣莉ちゃんの合作だ。


 もちろん美味しい。


「正直おせちって食べ進めると飽きてちびちび食べるようになるからお腹にたまらないんだよ」


「人によりけりでしょ。日持ちするならありがたくいただくよ?」


「ありがと、では刮目せよ」


 栞さんはそう言って重箱の蓋を開けた。


 中には綺麗に色々な食べ物が詰まっている。


「残さないでね」


「残ったら僕が全部食べるよ」


「永継は好き嫌いないの?」


「嫌いで食べれないのはないかな。好んで食べないのはあるけど、無理すればなんでも食べれるよ」


 食べ物を選り好み出来る環境でもなかったから食べれるものならなんでも食べる。


「聞いたね、永継に無理をさせたい子は残すといいよ」


「栞さんも含まれるからね」


 梨歌ちゃんはそう言って栞さんのお皿におせちを彩りよく置いた。


「り、梨歌ちゃん。おせちは運動会のお弁当みたいに自分で取るものなんだよ?」


「ごめん、小学校の運動会とか芽衣莉と教室で二人別々の食べてたからわかんない」


「ごめんなさい」


 僕も教室で食べていた。


 お弁当を初めて作ったのも運動会の時だった気がする。


「そもそも最近はみんな教室だよ?」


 鏡莉ちゃんがおせちから伊達巻卵を取りながらそう言った。


「ジェネレーションギャップだ」


「まぁ私達みたいに親が来ないとかは最近だと普通にあるからね」


「そういうものなんだ」


 親が来る行事に親が来たことがないからわからないけど、栞さんが不思議そうにしてるところを見ると特殊なのだと思う。


 別にそれで困ったこともないし、多分これから気にすることもないだろうけど。


「ということで、永継」


 どういうことなのか、栞さんが黒豆を箸で取って手でお皿を作りながら僕の口元に運んできた。


 よくわからないけど、とりあえず黒豆を食べた。


「美味しい?」


「うん」


「それはあんまりって感じだな」


「お豆の食感ってあんまり好きじゃないんだよね。食べれるけど」


 噛んだ時の『ぐにゃ』といった感じがどうも好きになれない。


 味とかは美味しいと思えるけど、食感だけはどうも慣れない。


「じゃあ次は──」


「栞さん、私はあなたが食べるようにお皿に置いたの。永継さんは永継さんで食べるからそういうのやめてくれる?」


 梨歌ちゃんがそう言って数の子を食べた。


「おせち好きじゃないんだもん」


「食べれるものは食べれる時に食べないと後悔するよ」


「右に同じ」


 僕の発言に宇野さんが同意してくれた。


 またいつ今までのように、食事をやりくりしなければいけなくなるのかわからない。


 だから好き嫌いなんて言っていられない。


「すごい胸にくる言葉をありがとう。……食べますよ」


 栞さんはそう言って渋々田作りを箸でつまんだ。


 そして口元に持ってきて止まる。


「そんなに嫌なの?」


「えっとさ、私はさっき永継に『あーん』をしたよね?」


「だからそんなに永継さんと間接キスするのは嫌なの?」


「嫌じゃないし!」


 栞さんが思い切って田作りを食べた。


 だけど顔は真っ赤だ。


「しおりんって、ウブすぎない?」


「……放置プレイでお願いします」


 そうして栞さんを放置してみんなでおせちと朝ごはんを食べた。


 おせちはだいたい半分ぐらいを食べ終えて残りは夜か明日ということになった。




「行くけど、芽衣莉はほんとに大丈夫?」


「うん。篠崎さんを独占出来ればなんとか」


 朝ごはんの片付けを終えると、芽衣莉ちゃんが「初詣に行こ」と勇気を出して言ったので、みんなで出かける準備をした。


 だけど玄関に来ると芽衣莉ちゃんは僕の腕にぎゅっと抱きついた。


「なっつんをカイロ代わりにする予定だったけど、ゆりで我慢する」


「ゆりかはそんなに安い女じゃないから後で身体で払って貰うからね」


「……手を握るだけなら?」


「マッサージで許してあげる」


「……おけ」


 鏡莉ちゃんが渋々悠莉歌ちゃんの手を握った。


「マッサージをすれば悠莉歌ちゃんと手を握れるの?」


「お兄ちゃんはそれでいいけど、きょうりお姉ちゃんのは『させてくれたら』ね」


 手を握って温まらせて貰った上にマッサージをして貰えるのに、なんで鏡莉ちゃんが嫌がるのかわからない。


「楽しみー」


「私はめいめいに身体で払ってもらお」


「私の身体は全部篠崎さんのものだから駄目だよ?」


「当たり前のことのように言うし。もう行こ、さっさと行ってさっさと帰ってこよ」


 鏡莉ちゃんの言う通りだ。


 早く帰って来ればその分芽衣莉ちゃんが怖がる時間も減る。


「じゃあ行こっか。お参りには時間かかるだろうし」


 宇野さんはそう言って玄関の扉を開けた。


 その瞬間芽衣莉ちゃんが抱きつく力を強めたので、空いている左手で芽衣莉ちゃんの手を握った。




「そして何事もなく進めば良かったんだよね」


「だれかフラグ立てた?」


「ふざけてる余裕はないでしょ」


 栞さんの言う通り、何事もなく進むのが最高だったけど、人生そんなに上手くはいかないようだ。


「芽衣莉、間違いないのね?」


「……」


 宇野さんの質問に芽衣莉ちゃんが怯えながら頷いた。


 どうやら芽衣莉ちゃんのストーカーが後ろに居るようだ。


「折り返す訳にもいかないからこのまま進むしかないよね」


「初詣の人だかりで撒くのがいいかな?」


「通報が一番手っ取り早いのかな?」


「うちの人達に知らせられればいいんだけど」


 宇野さんと栞さんが色々と案を出す中、芽衣莉ちゃんの怯えがどんどん高まる。


「めいりお姉ちゃん」


 そんな芽衣莉ちゃんに悠莉歌ちゃんが優しく呼びかける。


「大丈夫、全部どうにかなるから」


 悠莉歌ちゃんが笑顔でそう言うと、本当にどうにかなった。


「篠崎さん?」


「悠莉歌ちゃんが呼んだの?」


「もちろん。問題は起こる前に解決策を講じておかないと、毎回後手に回ることになるからね」


 本当に悠莉歌ちゃんは何者なのだろうか。


 鏡莉ちゃんの言う『転生者』が冗談に聞こえなくなる。


「篠崎さん?」


「あ、えとね。解決したみたい」


 不安そうな顔をする芽衣莉ちゃんにそう言って後ろを振り向く。


 それにつられて芽衣莉ちゃんも後ろを向いた。


「《《お義父さん》》?」


 そこにはストーカーさんと仁さんとお母さんが居た。


「どゆこと?」


 僕達が立ち止まったことに気づいた宇野さんもその光景を見て不思議がる。


「きょうりお姉ちゃんはわかる?」


「……私はあいつを殺せばいいのか?」


 鏡莉ちゃんが本気で怒っている。


「鏡莉はあの人知ってるの?」


「めいめいは……知らないか。てか思い出したくないか」


「え?」


「あれは、認めたくないけど私達の父親。るか姉とりっかは会ったことないよね?」


 それは少しおかしい。


 確か芽衣莉ちゃんの両親が離婚して再婚したあたりからあの公園に来なくなったと言っていた。


 つまりは芽衣莉ちゃんが小学生の時には再婚しているはずだ。


 だから少なくとも五、六年は一緒に暮らしていることになる。


「そういえば見たことないかも。ずっと部屋に居たんだよね?」


「そう。部屋でなんか仕事してるみたいだったけど、興味ないから知らない。あいつはマ……お母さんが死んだ時だって部屋にこもってなにもしなかったんだから」


(死んだ?)


 芽衣莉ちゃんからは離婚とだけ聞いていたけど、どうやら死別らしい。


「しかもあいつはめいめいに手を出そうとしやがったから本気で殺意を持ったよ。再婚してあの人がめいめいを遠ざけてたからそこだけはあの人に感謝してる」


「私達が会うことなかったのってそれもあるのかな?」


「多分。要するにあそこに居るのはクズ。めいめいをストーカーしてたのも醜い執着心ってことだよ」


 鏡莉ちゃんの顔がどんどん怖くなってきた。


「あの時は恐怖で忘れてたけど、確かにあの人は知ってる」


 芽衣莉ちゃんはそう言って震えながら僕に抱きついた。


「大丈夫、これからの芽衣莉ちゃんには楽しいことしか待ってないからね」


 僕はそう言って芽衣莉ちゃんの背中をさする。


「後のことは大人に任せてお参り行こ」


 悠莉歌ちゃんが宇野さんの服を引っ張ってそう言った。


「そうだね。芽衣莉、歩ける?」


「歩けないから篠崎さんにおんぶしてもらう」


「余裕が戻ったね。そういうこと言うと永継君本気にするからやめてね」


「え、どっち?」


 おんぶする気満々だったけど、芽衣莉ちゃんが「大丈夫だよ」と笑顔で言って最後に僕を強く抱きしめてから離れて手を握った。


「でも手は握るね」


「うん」


 そうして僕達は初詣に向かった。


 お参りまでに色んな男の人が声をかけてきたけど、未だに怒りの消えない鏡莉ちゃんの睨みや強面さん達の到着によって何事もなくお参りが出来た。


 そしてすぐに帰りホッとしたところで悠莉歌ちゃんのマッサージが始まり、なんとも言えない空気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ