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花に例えると

「ねぇねぇ永継」


「なに?」


 年越しそばと宇野さんが作った芽衣莉ちゃんの誕生日ケーキを食べ終えて、布団でのんびりしていた僕の服を栞さんがちょんちょんとした。


「永継はさ、流歌ちゃんにはどんな花が似合うと思う?」


「お花?」


「そう、植物の花。私は朝顔あさがおとかだと思うんだけど、永継はどう?」


 いきなりそんなことを聞かれても花の種類をそんなに知らないから困った。


 困ったから片付け中の宇野さんを観察することにした。


「永継君から視線を感じるけど、桐生さんが余計なこと言った?」


「流歌ちゃんにはどんな花が似合うか聞いたの」


「なんでまた?」


「え、なんとなく?」


「思いつきで永継君困らせないでよ?」


 僕は絶賛困っている。


 僕の知っている花で本当に宇野さんに似合う花があるのかどうか。


「ちなみに栞さんはなんで朝顔が宇野さんに似合うと思ったの?」


「朝顔って夜になるとしおれるじゃん? 朝と夜で顔が違うって、家と外で顔を変えてる流歌ちゃんと似てるなって」


「馬鹿にしてるでしょ?」


「してないよ? 流歌ちゃんはあからさまに変えてるけど、誰だって家と外では顔変えてるんだし」


 確かに僕も栞さんも学校ではほとんど喋らず、宇野さんの家に来た時や、宇野さんと三人で昼ごはんを食べてる時とは全然違う。


「それに、家に居る時の流歌ちゃんは朝顔が咲いてるみたいに綺麗だから」


「桐生さんにおだてられても何も出ないからね?」


「え、そこは照れながら『あなたもだよ』みたいなこと言ってくれるんじゃないの?」


「桐生さんは彼岸花ひがんばなかな」


 彼岸花は名前だけなら聞いたことがある。


 栞さんに「彼岸花ってオタクが好きな花ナンバーワンだと思う」と言われて知った。


「嬉しいけどなんで?」


「見た目は綺麗な彼岸花だけど、根には毒があるでしょ? 桐生さんは見た目は可愛いし、勉強も出来そうなのに勉強出来ないでしょ?」


「なぁつぅ。流歌ちゃんが意地悪言うよぉ」


 栞さんが眼鏡を外してから僕に抱きついた。


 ちょっと可哀想だったので、背中をさすった。


「でも宇野さんが可愛いって言ってくれたよ?」


「そこは普通に嬉しいけど、ストレートに馬鹿って言ったよ!」


「栞さんは馬鹿なんかじゃないよ。ただちょっと集中力が続かないから、学校でも僕相手でも他のことがしたくなっちゃうんだよね?」


 栞さんの家庭教師はもう何度かやっているけど、集中力が一時間もったことがない。


 早い時では一分でお絵描きが始まる。


「私はどうやら勉強と相性が悪いみたいなんだよ。例えるなら私の集中力が炎で勉強が水。だから私が勉強すると鎮火されちゃうの」


「じゃあ勉強を蒸発出来るように集中力を強くして」


「例えを間違えたな。草と炎」


「新鮮な草は水を沢山含んでるから大量の草で炎を鎮火しようね」


「炎と油!」


「用法用量を守ればいいパートナーになれるね」


「……」


 栞さんが僕の顔を一度見てから、また顔を僕の胸に埋めた。


「永継さんに言葉で勝負するなんて愚かな」


「なっつんってわがままとか屁理屈をよく即レス出来るよね」


「流歌さんなら呆れて、梨歌ちゃんなら怒りながらも答えて、鏡莉ならめんどくさがって適当に返して、悠莉歌ちゃんは笑って返すところをさすが」


「ゆりか馬鹿にされた? めいりお姉ちゃんは何を返したらいいのかわからなくて固まりそう」


 別に僕は思ったことを言ってるだけだからすごくもなんともない。


「やっぱりご褒美制にした方がいいのかな?」


「なっつんの一日占有権が貰えるなら毎回百点取ります」


「私も学年一位を取り続ける」


「じゃあ私はそれを阻止すればいいのね」


「ゆりかは……幼稚園を掌握すればいいの?」


「それは違うでしょ」


 片付けを終えた宇野さんが悠莉歌ちゃんの頭に軽くチョップをしながら言った。


「栞さんは何かして欲しいこととかある?」


「永継にして欲しいことは沢山ある。流歌ちゃんにも」


「私?」


「そろそろ名前呼んで」


 宇野さんは栞さんを頑なに苗字にさん付けで呼んでいる。


 理由を聞いても教えてくれない。


「桐生さんは敵だからやだ」


「そういえば流歌ちゃんの中だとまだ設定が続いてるんだっけ?」


「設定?」


「私が流歌ちゃん狙いで流歌ちゃんに近づいたって」


 確か僕がその話を聞いた時、宇野さんは着替えをしていた。


「……つまり敵なのね」


「あ、どっちにしろか」


「何をもって敵なの?」


 そもそもなんで宇野さんが栞さんを敵視してるのかがわからない。


「永継君は知らなくていいの。それより私の花って決まった?」


「難しい。単純に綺麗なやつなら思いつくけど、宇野さんは綺麗より可愛いだし、宇野さんの良さは可愛いだけじゃないもんね」


 宇野さんは可愛いだけではなく、頑張り屋さんや他にも沢山のいいところがある。


 それらを全て兼ね備えた花を僕は知らない。


「流歌ちゃん敗北。じゃあ永継の思う一番可愛い花でいいんじゃない?」


「一番可愛いお花?」


 そう言われて一番に思いついたのは……。


すみれ?」


「絶妙なところをいくね。確かに可愛いけど」


 可愛いイコール小さいで、思いついたのが菫だった。


 宇野さんと似てるかと言われたらわからないけど。


「花言葉は似てるかもよ」


 栞さんはそう言ってスマホを取り出した。


「色によってもあるけど、菫としてだと『謙虚』『誠実』『小さな幸せ』だって。色別だと恋愛に関するのが多いね」


「るか姉にぴったりじゃん」


「永継君が選んでくれたから嬉しいけど、どこがぴったりなの?」


「なっつんと会えるだけで幸せでしょ?」


「別に小さくないし」


 宇野さんは謙虚だし誠実だから僕もぴったりだとは思う。


 恋愛に関することだって、告白されることが多い宇野さんからしたら似てるのかもしれない。


「菫、おけ。ちなみに鏡莉ちゃん達はどう?」


 栞さんが何かをスマホに打ち込んだように見えたけど、次なる難題でそんなの気にならなくなった。


「芽衣莉ちゃんは百合ゆり?」


「ゆりかじゃないの?」


「悠莉歌ちゃんはひまわりもいいけど、紫陽花あじさいとかもいいかなって思う」


「なんで?」


「紫陽花って色んな色があるから色んな顔をもってる悠莉歌ちゃんっぽいかなって」


 悠莉歌ちゃんは五歳にしては色んな顔をもっている。


 年相応な時や、大人びた時、そして人を煽る時。


 そんな色々な顔をもつ悠莉歌ちゃんは、色んな色の紫陽花が似合う気がした。


「ゆりか、お兄ちゃんにいじめられた?」


「なっつんは褒めてるよ。そう聞こえないのはゆりが悪いことをしてる自覚があるから」


「否定はしない!」


 何故か悠莉歌ちゃんは胸を張って答える。


 僕がいじめてしまっていたのなら謝る必要があったけど、多分大丈夫なはずだ。


「それでなんで私は百合? 私は別に女の子が好きとかないよ?」


「ん? なんか百合って綺麗なイメージあるし、静かに凛としてるイメージもあるからかな?」


 芽衣莉ちゃんと言われてパッと出てきたのが百合だったから、特に理由はわからない。


 だけどしっくりはきてる。


「ゆりかと評価が違いすぎない?」


「ひまわりの方が良かった?」


「ちなみにひまわりの理由は?」


「悠莉歌ちゃんはいつでも元気だからかな? 例え元気じゃなかったとしても」


 悠莉歌ちゃんで最初に思いついたのはひまわりだ。


 だけど、悠莉歌ちゃんの元気な姿は全てが全て本心からなのかわからない。


 だから紫陽花に変えた。


「りかお姉ちゃんは薔薇ばらだとして、きょうりお姉ちゃんは何になる?」


「よく梨歌ちゃんのわかったね。鏡莉ちゃんはたんぽぽ?」


「何故にたんぽぽ?」


「私の薔薇も」


「たんぽぽってとっても強いお花だから、世間に負けなかった強い鏡莉ちゃんと合ってるかなって。梨歌ちゃんは薔薇って感じがするから」


 芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんはすぐに決まった。


 理由とかを後回しにして、それしかないと思った。


「きょうりお姉ちゃんにどっちかあげようかと思ったけど、いいや」


「いや、私の薔薇の説明が適当なんだけど?」


「りかお姉ちゃんは薔薇だよ」


「うん、りっかは薔薇」


「梨歌ちゃんはぁ、薔薇」


「だからなんでよ!」


 こうしてみんなの花が決まった。


 話を出した栞さんは、やはりスマホに何を打ち込んでいた。

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