添い寝の権利
「篠崎さん、寝ます?」
「寝た方がいいんだろうけど、寝ない」
お風呂から出て念入りに髪をタオルでわしゃわしゃしてもらい、布団に戻った。
もう熱はないと思うけど、ぶり返しが怖いから寝た方がいいのだろうけど、今日はせっかくの芽衣莉ちゃんの誕生日だからお祝いしたい。
「私と添い寝するってのはどうですか?」
「芽衣莉ちゃんがしたいことをしたいんだけど、それは芽衣莉ちゃんのしたいこと?」
「したい。もうなんか……したい」
一瞬の間が気になったけど、芽衣莉ちゃんがしたいのなら僕はそれを叶えたい。
「なっつん、めいめいを甘やかさないの。添い寝なら私がするから」
「あんたも調子に乗るな。壁が必要だから私が一緒に寝るから」
「梨歌ちゃんも同じじゃん。今日は私の誕生日なんだから私が添い寝するの!」
なんだかみんなで言い合いが始まった。
そもそも僕は寝る気がないから添い寝とかの話ではないけど。
「篠崎さんは今日誕生日の私と一緒に寝たいよね?」
「やっぱり一番若い私でしょ?」
「私なら永継さんに何もしないし、この二人の変態から守れるよ?」
何故か僕が選ぶ流れになったようだ。
正直このまま話しているだけでもいいのだけど、みんなの目が本気すぎてそんなことが言えない。
「どうしよう、宇野さん」
「まず、帰ってきた私を意識的に無視してるそこの三人をお説教かな」
ついさっき静かに帰ってきていた宇野さんにどうしたらいいのか聞いたら、宇野さんが少し怒ったように言った。
「じゃあるか姉が添い寝する?」
「私はそれでもいいよ」
「私も姉さんなら安心だからいいよ」
絶対に譲ろうとしなかった三人が何故か宇野さんにはその権利を譲った。
当の宇野さんは困った顔をしている。
「姉さんが一緒に寝たいけど、さっき怒った手前一歩を踏み出せないでいる」
「流歌さんはいいんだよ。篠崎さんの隣が空いてるし、何よりこのお布団は流歌さんのなんだから」
「そうだよ、るか姉が寝ないとまた争いが起こるよ」
だんだん宇野さんが説得されている。
一歩二歩と宇野さんが僕に寄ってくるので、毛布をめくった。
「永継君は誘惑しないの!」
「誘惑? みんなが納得するならいいのかなって思って」
「ほら、なっつんもるか姉と寝たいって」
「言い方! でも、永継君がそう言うなら」
宇野さんがそう言って布団の隣に座った。
そして毛布に手をかけようとしたら……。
「寒い」
「……」
宇野さんが手を伸ばした状態で固まった。
理由は悠莉歌ちゃんが布団の中に潜り込んだからだ。
「るかお姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に寝たら子供が出来ちゃうと思って」
「るか姉ショックで固まっちゃったじゃん」
「お外は寒くてね。るかお姉ちゃんも一緒に入って親子の川の字やる?」
悠莉歌ちゃんにそう言われた宇野さんは静かに部屋の隅に行って体育座りをした。
「僕もだけど、みんなあれやるよね」
「落ち込むと、とりあえず丸くなりたいけど、部屋の真ん中でやるようなことでもないから隅に行くんだよね」
「るかお姉ちゃんには後でいいこいいこしてあげなきゃ」
「ゆりの悪びれないところ好きだよ」
「ゆりかはこの歳で叔母さんになりたくなかっただけだよ?」
「悠莉歌ちゃんの年齢だと本当に一緒に寝ただけで子供が出来るって思っててもおかしくないだろうけど、絶対にわかってるよね」
栞さんが手を袖に隠しながらやって来てそう言った。
「むしろなっつんの方が思ってそう」
「今度本物でも一緒にやろうかな」
「エロゲをなっつんにやらすな。私が個人的に保健の授業をやるからいいよ」
「それなら私が永継の家庭教師のお礼に授業するからいいよ」
さすがの僕でも子供がどう出来るのかは知っている。
でも確かに小さい時は勘違いをしていた。
「昔は結婚したら子供が出来るんだと思ってた」
「私はキスだったなぁ。でもテレビでしてるの見て違うってわかったけど」
「僕はうちが再婚してるのに弟とか妹がいないのを不思議に思って気づいた」
栞さんもあるなら、みんなそういう勘違いをしているのかもしれない。
「ちなみになっつんはいつ真実に気づいたの?」
「保健の授業」
「なっつんが教師によって汚された」
中学生の時に保健の授業で習ったけど、僕が鏡莉ちゃんと同じ歳の時は確実に知らなかった。
「鏡莉ちゃんはなんで知ってるの?」
「これは答え方を間違えたら変態になるな。えっとねー、子役時代に色々あったの」
「鏡莉は子役時代を出せばなんとかなると思ってるでしょ?」
「なっつんの人の良さに漬け込んでいるのさ」
子役時代と言われるともうそれ以上は何も聞けない。
鏡莉ちゃんがそれをわかって言っているのだとしても、もうその頃の話は出したくない。
「そんでゆりは知ってるでしょ?」
「コウノトリさんが連れて来るんでしょ?」
「それは誤魔化してるようにしか聞こえないからね」
「ゆりかが知ってるかどうかはどうでもいいんだよ。それよりもゆりかはお兄ちゃんに聞きたいことがあるの」
あからさまに話を逸らしたようにも聞こえるけど、悠莉歌ちゃんの顔が真面目なのでちゃんと聞く。
「お兄ちゃんには大切な人が二人います。その二人が一人の人に追い回されています。そこで二人は考えました。二手に分かれれば片方は助かるのではないかと。この時お兄ちゃんはどちらを助ける為について行きますか? 一人は気弱な女の子。もう一人は元気の無い女の人」
「心理テスト?」
「そんなところ。ちなみに二人じゃなくてもいいよ、私達六人で考えても」
つまり悠莉歌ちゃん達が誰かに追われていて、みんなで別々の道を進んで逃げようとしている。
誰か一人は追いつかれる可能性はあるけど、残りの人は助かる。
そして僕はその一人を当てて守る役目がある。
「それって答え決まってない?」
「と言うと?」
「そんなの分かれ道の最初で僕が追ってくる人を待って、みんなを逃がす時間稼ぎをすればいいだけでしょ?」
僕がみんなのうちの誰かについたら確かに守れるのは一人だけだけど、追ってくる人が一人なら僕一人で壁になれる。
「出来るかなんてわからないけどね」
それでもやるだけのことはやる。
それだけみんなは大切なのだから。
「それでこれはどういう心理テストなの?」
「お兄ちゃんがお兄ちゃんであるかどうかの質問だから大丈夫。お兄ちゃんはお兄ちゃんだね」
悠莉歌ちゃんはそう言って僕に抱きついた。
なんでそんな質問をしたのかはわからないけど、悠莉歌ちゃんが意味のないことをするとも思えないから何かあるのかもしれない。
だから用心だけはしておく。
大切な人を守る為に。




