否定はしない
「お世話を始めるよ」
「まずは服を脱がすところからかな」
宇野さん達が買い物に出かけてすぐに、芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんに捕まった。
僕がお風呂に入るお世話をしたいようだ。
「さすがに一人で入るよ?」
「そうだよ、さすがに一緒はやめときなさい」
鏡莉ちゃんが僕の味方に付いてくれたので二対一では勝てない僕でも二体二ならなんとかなるかもしれない。
「姉さんに何言われたの?」
「いつもふざけてしかいない私に『永継君を守って』って真剣な顔で言われたから後も怖いし、せっかく頼られたから止めるよ」
「じゃあ鏡莉も一緒に入れば?」
「……駄目だし、るか姉に怒られたくないし」
鏡莉ちゃんがとても悔しそうに答える。
「いや、私が頼まれたのはめいめいとりっかを止めること。つまり私がなっつんのお風呂のお世話をすればいいのでは?」
「させないから。そもそもあんたは誕生日プレゼントだって使ってないじゃん」
「じゃあ使う。なっつん、二人っきりでお風呂に入ろ」
鏡莉ちゃんがポケットの中から『なんでも言うことを聞く券』を取り出した。
「いつも持ってたの?」
「いつ必要になるかわからなかったからね。これで私はいつでもなっつんとお風呂に入れる訳だ」
「でもそういうのは宇野さんからの許しが出たらだよ?」
『なんでも』は常識の範囲内でだから、本当になんでも言うことを聞く訳ではない。
僕には常識がないようだから、宇野さんが許したことだけをやることにしている。
「大丈夫、常識の範囲内でやるから」
「でも宇野さんに確認を……」
確認を取ってからじゃないと僕の判断ではわからない。
だけど今は確認を取る手段がある。
「こういう時のスマホ?」
「その通りだけど違うじゃん!」
鏡莉ちゃんがスマホを手に取って両手で握る。
「姉さんの許しがないならあんたに永継さんとお風呂に入る権利はないから」
「そうだよ、私達はお世話の一環だけど、鏡莉のは私利私欲になるからね」
「聞けばいいんでしょ!」
鏡莉ちゃんが拗ねたようにスマホを弄りだした。
どうやら宇野さんの許しを得ているようだ。
「おけ、許された」
「なんて言ったの?」
「めいめいとりっかを止める為になっつんとお風呂に入るって」
「他」
「本調子じゃないなっつんを一人でお風呂に入らすのは危ないからって言った」
「それで姉さんからの条件は?」
「ないよ?」
鏡莉ちゃんはそう言って梨歌ちゃんにスマホを渡した。
「……なるほどね。それなら私達もいいじゃん」
「今のめいめいとりっかはなっつんと一緒の空間に放置出来ないんだよ」
頼んだ僕が言えることではないけど、確かに過保護な気はする。
多分僕が逆の立場なら同じことをするけど。
「私はいつもふざけてるだけなんだけど、めいめいとりっかは真面目にやってるから駄目なんだよ」
「どういうこと?」
「やりすぎてるのに気づいてないでしょ?」
いいことをするのはいいことだ。
だけど何事もやりすぎはよくない。
僕も最近それを知った。
「善意の押し売りはよろしくないでしょ?」
「私達の方が私利私欲で動いてたって訳ね……」
「篠崎さんの気持ちを考えないで、私達がやりたいことだけをやっていたってことだもんね」
「僕は──」
梨歌ちゃんと芽衣莉ちゃんがしてくれたことは素直に嬉しかったから感謝を伝えたかったけど、鏡莉ちゃんが僕の口を人差し指で止めた。
「変態性は抑えて、なっつんは『嬉しいかった』とか言うだろうけど『そこまでやらなくても』とかも思ってたでしょ?」
「まぁ、二人のご飯を食べる時間を削ってまで僕のお世話をする必要はないかなとは思ってたかな」
「でしょ? なっつんは好きな相手に『嫌』とかの感情を持たないからこっちも気にしないけど、やりすぎはよくないよ」
僕としてはみんなに構って貰えることが嬉しいから何も気にならないけど、常識的に考えると違うのかもしれない。
そんな常識なら別にいらないと思ってしまうけど。
「私も人のこと言えないけど、なっつんが私達の為に色々やってくれるのを私達はやめさせたいって思う時があるでしょ? それと同じ」
「ありがた迷惑ってことだよね」
「それをなっつんに言える?」
「言えないね。じゃあ無意識の善意はやめる。だから私も永継さんのお風呂のお世話する」
「それは普通になっつんとお風呂に入りたいだけでしょ?」
「私は入りたい」
梨歌ちゃんに聞いたはずが、何故か芽衣莉ちゃんが答えた。
本当に大丈夫なのだけど。
「私利私欲すぎるのも駄目でしょ。てか、やめさせる説得のはずだったのに、むしろやる気出させた?」
「とにかく永継さんはお風呂に入ろ。私達はお互いを見張るって意味で全員行けばいいよ」
「見張るのは私の役目なんだけど?」
「鏡莉がいつもわざとなのは知ってるけど、永継さんと一緒のお風呂に入ったら何するかわからないのは一緒でしょ?」
「まぁ否定はしない」
鏡莉ちゃんが胸を張ってそう答える。
「冷静になれば私が一番まともなはずなんだから、私の言うこと聞いて」
「りっかは暴走すると一番手がつけられないからまともじゃないよ? なっつんの裸なんて見たら興奮して何するか一番わかんないじゃん」
「まぁ否定はしない」
鏡莉ちゃんも梨歌ちゃんも仲良しさんなのはわかった。
「篠崎さん、お洋服脱ぐの手伝うから一緒に行こ」
「一人で出来るよ?」
「私、心配なの。篠崎さんに何かあったらいけないから、出来る範囲でお手伝いしたいんだけど……、迷惑?」
芽衣莉ちゃんが悲しそうな顔でそう言った。
「迷惑なんかじゃないよ? じゃあ──」
今度は鏡莉ちゃんに口を両手で完全に閉じられた。
「めいめいはさっきの話を聞いてたのかな?」
「私が心配してるのはほんとだよ?」
「そうだろうけど、やりすぎは駄目だって言ったじゃん」
「でも私は心配するよ? 篠崎さんに何かあったら嫌だもん。篠崎さんが私達を心配するなら私達だってするでしょ? 鏡莉が言ってるのは篠崎さんにどんなことが起こっても無視し続けろってことでしょ? 私にはそんなの無理」
それは僕も同じだ。
心配した結果で心配されることになったとしても、僕はみんなを心配する。
「別に無視しろとは言ってないでしょ。ただ過度なお世話はやめなさいって言ってるの。それにめいめいのそれはなっつんの裸を間近で見たいだけでしょ?」
「そうだけど?」
「いっそ清々しいな。いいや、とりあえずなっつんは服脱いで浴室に入ってて。後からみんなで行くから」
「だから大丈夫だよ?」
「理由が恥ずかしいなら聞く気はないし、普通に迷惑をかけたくないって思ってるならそれも聞く気はないからね。他の理由はある?」
断る理由はその二つだから他に何も無いので、素直に洗面所に向かう。
大丈夫とは言ったけど、まだ少し辛さはある。
無理をすれば大丈夫だけど、悪化しないとも限らない。
だからお世話はありがたいんだけど。
「服を脱いでまってたら悪化しそう」
さすがに冬の浴室に裸で居たら風邪を引く可能性が高い。
だからみんなの準備が終わるのを少し待つ。
それから少しして、みんなが来そうな感じになったから服を脱いで浴室に入った。
そしてその数秒後にみんなが入ってきた。
三人ともスクール水着の姿で。
「お待たせ、私達は裸じゃなくてごめんね」
「ううん、僕も恥ずかしいから良かったよ」
さすがに女の子と一糸まとわぬ姿でお風呂に入るのは恥ずかしい。
そんなことを思っていたら、鏡莉ちゃん達のお世話が始まった。
何故かいつも以上にボディタッチが多くて、視線が下に行きがちだったのは僕の気のせいだと思う。




