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プレゼントはお世話

「お兄ちゃんにだらしないところを見られた私の気持ちを三文字で答えよ」


「ドンマイ」


「四文字じゃん!」


 全員目が覚めて、僕が使っている宇野さんの布団以外を片付けて、宇野さんと栞さん(眺めてるだけ)が朝ごはんの準備をしていると、少し離れたところで悠莉歌ちゃんと鏡莉ちゃんが話している。


「可愛かったよ?」


「ならいいや」


「ゆりも結構気にしないタイプだよね」


「お兄ちゃん嘘つかないから」


 実際寝ぼけている悠莉歌ちゃんはいつもより子供らしくて可愛かった。


「ゆりが唯一子供っぽくなる時だよね」


「ゆりかは子供だもん」


「私はまだゆりが薬で子供になったか転生者説を疑ってるから」


 確かに悠莉歌ちゃんは五歳には思えないようなことを言っているけど、さすがにそれはないと思う。


「ゆりかは前世の記憶があるだけだよ」


「つまり転生者じゃん」


「そうなのかな? 今はゆりかの身体を借りているのだよ」


「じゃ、じゃあ本当のゆりは……」


「安心していいよ、まだ平気だから」


「で、でもそういうのには時間制限が──」


「なにやってんのさ」


 朝ごはんの準備を終えた宇野さんがジト目を鏡莉ちゃんと悠莉歌ちゃんに向ける。


「ゆりが実は転生者でしたごっこ?」


「もっとラノベっぽく」


「『妹が転生者だと知った私の気持ちを答えよ』」


「問いかける系ね。でも『妹が転生者だと知ったけど、私は変わらず妹を愛する』とかのが百合兼姉妹愛で惹かれる人多そうじゃない?」


「私のはシリアス多めで万人受けを狙ったやつだから」


「なんだ、私のは安牌だと言いたいのか!」


「どうせ最終的には男とくっつくんでしょ?」


「違うね、最後は妹と結婚して二人仲良く暮らしてくんだよ」


「姉妹で結婚はないでしょ」


「義妹だからいいんだよ」


 栞さんと鏡莉ちゃんの話が終わらない。


 結局悠莉歌ちゃんは何者になるのだろうか。


「ゆりかの秘密知りたい?」


 悠莉歌ちゃんが布団の中で伸ばしている僕の足にまたがってきた。


「教えてくれるの?」


「お兄ちゃんにならいいよ。手を貸して」


「うん」


 悠莉歌ちゃんの秘密とはなんなのか。


 もしかしたら本当に転生者なのかもしれない。


 そんなことを思っていたら、悠莉歌ちゃんが僕の人差し指を自分の胸の辺りに当てた。


「ここにねホクロがあるんだよ」


「悠莉歌、お説教」


 悠莉歌ちゃんが宇野さんにだっこされて連れて行かれた。


「お兄ちゃんがゆりかのこと知りたそうにしてたから教えただけなのにー」


「永継君の知りたかったのは別のことでしょ! 五歳でも女の子なんだから簡単に胸を触らせないの!」


「お兄ちゃんにしか触らせないからいいじゃん」


「そういう問題じゃないでしょ!」


「るかお姉ちゃんが触らせたかったってこと?」


「……違うけど?」


「お兄ちゃん、今度はるかお姉ちゃんのあるかわからないお胸を触っ──」


 悠莉歌ちゃんが思い切り宇野さんに抱きしめられた。


 嬉しさとかそういう感情ではない。


 窒息させる勢いだ。


「胸に肉がなくても悠莉歌を窒息させるぐらいは出来るからな」


「す、すいませんでした」


 息を切らした悠莉歌ちゃんが本気で謝っている。


「お兄ちゃん、るかお姉ちゃんは本気で怒るとお兄ちゃんの次ぐらいに怖いから、将来怒らせたら命の危機だよ」


「将来なの?」


「今は怒って嫌われたくないだろうけど、結婚したら束縛して離れないようにしてからキレるかの──」


 また悠莉歌ちゃんが宇野さんに抱きしめられた。


「悠莉歌、今日は私がご飯。食べさせてあげるよ」


「え、えっとその、お兄ちゃんには?」


「私が食べさせてあげるよ」


「……一人で食べるのは?」


「なに?」


「るかお姉ちゃんに食べさせてもらいます……」


 宇野さんの有無を言わさない圧力に悠莉歌ちゃんが負けて自分から抱きついた。


「上の二人も下りてきなさい」


 宇野さんがロフトを見上げて二人を呼んだ。


 芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんを。


「無視ね」


「るかお姉ちゃんが次いでにキレる。お兄ちゃん、上の勘違いお姉ちゃんズに何か頼んで」


「え?」


 悠莉歌ちゃんはとても冗談を言っているような顔ではない。


 つまりこのままでは宇野さんが怒るらしい。


「ちょっと見てみたい」


「怖いもの見たさはやめて。お兄ちゃんはいいかもだけど、るかお姉ちゃんが寝込むよ」


「宇野さんが?」


 てっきり悠莉歌ちゃん達が大変なのかと思ったのに、まさかの宇野さんだった。


「今のるかお姉ちゃんは周りが見えてないし、声もほとんど聞こえてないの。つまり、お兄ちゃんが眼中に入ってないの」


「そうなの?」


「だから後で気づいたるかお姉ちゃんが前のめいりお姉ちゃんと同じ状態になる」


「なるほど」


 芽衣莉ちゃんが初めてビーストモードになった次の日は落ち込む芽衣莉ちゃんを慰めた。


 宇野さんの場合だと、芽衣莉ちゃん以上に時間がかかるのはわかりきっている。


「芽衣莉ちゃん、梨歌ちゃん。僕まだ本調子じゃないからご飯食べるの手伝って欲しいな」


 二人に聞こえるように少し大きめの声でそう言った。


 実際はご飯を食べるぐらいなら出来るけど、本調子でないのは事実だから頼みたい。


 どうやら聞こえたようで、二人は数秒で下りてきた。


「私に出来ることならなんでもやる」


「私も」


 芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんが僕の目をじっと見ながらそう言った。


「さっきまで逃げてた人の言葉とは思えない」


「悠莉歌、そういうこと言わないの。またやるよ」


「ゆりか黙る」


 宇野さんがまた悠莉歌ちゃんを抱きしめようとしたら、悠莉歌ちゃんが自分の手で口を押さえた。


「逃げたっていうか、永継さんにどんな顔で会えばいいのかわかんなくて」


「いつもの可愛い笑顔」


「笑顔……」


「そもそも二人は悪くないんだよ?」


 今回の熱は僕の不注意というか、無知のせいだ。


 だから本当に気にしなくていい。


「篠崎さんは優しいから」


「お兄ちゃん、なんでお熱だしたのか言わないとわからないよ?」


「あ、そっか」


 一番大事なことを話していなかった。


「僕が今まで部屋に押し込まれてたのは知ってるよね?」


「うん」


「そこにはもちろん冷房も暖房もなかったんだけど、暑いとか寒いとか感じたことはなかったのね」


 今にして思えば、僕を気絶させた父親が何かしてくれてたのかもしれない。


 知らないけど。


「だけど寝にくかったのは確かだから最近はリビングの床で寝てるの」


「寝やすいの?」


「とても」


 芽衣莉ちゃんが不思議そうに僕を見てくるけど、物ばかりの物置に比べたらとても寝やすい。


「だけどね、さすがに冬のリビングは寒かった」


「お布団は?」


「今日初めて使ったけど、膝枕の次に寝やすいんだね」


 芽衣莉ちゃんがまた不思議そうな顔をする。


 布団なんて使ったことがない。


 だって物置にそんなもの入らなかったから。


「だから小さい時は熱を出してたけど、気をつけないとなって思った」


 芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんが固まっている。


 さすがに呆れさせてしまったようだ。


「つまり二人は本当に何もしてないんだよ?」


「追い討ちはしてるけどね」


「悠莉歌?」


「黙ります」


 確かにあれが追い討ちになって熱が出たのかもしれないけど、僕が何もわからなかったのが一番の理由だ。


「だから二人に何かを頼むのも筋違いなんだよね。一人で食べるよ」


 僕はそう言って布団から出ようとしたら、芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんが僕を止めた。


「お布団がないなら毎日私のお布団で寝よ?」


「私のでもいいけど、私達は関係ないってことはないと思う。だから今日はお世話させて」


「今日は芽衣莉ちゃんのお誕生日だから僕に構うことはないんだよ?」


 今日の主役は芽衣莉ちゃんだから、芽衣莉ちゃんを構って欲しい。


「流歌さん、お誕生日プレゼントください」


「券? いいよ」


 流歌さんお手製の『なんでも言うことを聞く券』が芽衣莉ちゃんに渡された。


「篠崎さんのを今使うね。今日は私にお世話させて」


「でも──」


「なんでもだよ?」


 芽衣莉ちゃんが宇野さんの手書きの券を見せてくる。


 丸文字で可愛い。


「流歌さんの字って、普段は綺麗だけどこういう時は可愛く書けてすごいよね」


「うん、字も可愛い」


「るか、お姉ちゃん。照れ隠しでゆりかを潰さな、いで……」


 悠莉歌ちゃんがパタッと力が抜けたようにうなだれた。


「と、とにかく、私にお世話されるの!」


「あ、私もやるからね。お世話出来ないと私は幸せになれないから」


 梨歌ちゃんを幸せにするのが梨歌ちゃんへの誕生日プレゼントだから、どっちのお世話も断れない。


「じゃあお願いしていい? 僕の誕生日がきたらいっぱいお世話するからね」


「目が本気だ」


「永継さんからのお世話って普段のと変わらないのでは?」


「もしかして着替えまで!?」


 何故かそこで芽衣莉ちゃんが喜んだ。


 さすがにそこまでは考えてないけど、みんなにお返しが出来たらとは思う。


 これからも沢山お世話になる予定のみんなへ何をお返し出来るのか今から考えていて損は無い。


 そんなことを考えながら、宇野さんの作った朝ごはんが冷めてしまったことを悪く思った。

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