『like』と『Love』
「おはよう永継君」
「おはよう宇野さん」
目が覚めると宇野さんに頭を撫でられていた。
「ずっとやってたの?」
「ううん。ちょうど目が覚めたから永継君の様子見に来たの」
そう言われると確かにカーテン越しに少し明るさを感じる。
「身体はどう?」
「動けない?」
寝る前のだるさとかとは違う。
なにかに押さえ込まれている感じだ。
「ごめんね、それは少し我慢してくれると助かるかな」
「可愛いね」
どうやら僕の両隣で芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんが寝ていて、僕の腕に抱きついていた。
「二人ともずっと泣いてて落ち着かせるの大変だったんだよ? とりあえず責任取らせる形で永継君の看病させてたけど、寝ちゃったんだね」
「芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんのせいじゃないけど、おかげで元気になったよ」
今回の熱は芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんのせいではなく、完全に僕のせいだ。
だから二人が気にする事は何も無い。
「おにいちゃん、おきたの?」
「悠莉歌ちゃん起こしちゃった?」
「おにいちゃんせんさーがはつどうし……」
悠莉歌ちゃんがこちらに来ようとしたけど、電池が切れたように布団に倒れた。
「悠莉歌って朝が弱いの。寝起きが悪いって言うのが正しいけど」
「さすがに起きる時間でもないでしょ?」
「うちにはちゃんとした時計がないから……ってこういう時にスマホを使うのか」
ついに宇野家にもスマホが導入された。
と言ってもノートパソコンの時と同じで使っているところを見たことはない。
「それって一台は宇野さんが持って、もう一台を家に置いとくようにしたんだよね?」
「うん。私しか学校に持ってけないし、うちの子達は基本的に家に居るからね」
このスマホは本当に困った時の連絡用のスマホだ。
だから特に使うことがない。
「買い物に行く芽衣莉か永継君が持ってるのもいいかと思ったけど、近場だし平気だよね?」
「うん。でも芽衣莉ちゃんはまだ出れないよね?」
「解決するまでは駄目だろうね。手がかりなしだから解決のしようもないんだけど」
唯一の手がかりは僕かみんなの知り合いということだけだ。
「とりあえず今日の買い出しは私が行くね」
「宇野さん一人?」
「じゃあ悠莉歌と桐生さん連れてくよ。悠莉歌ならストーカーがわかるだろうし、桐生さんが居れば最悪力技も使えるだろうから」
確かに栞さんが一緒なら強面さん達も一緒ということになる。
つまりは大人の力を借りれるから安心感が増す。
「永継君は芽衣莉と梨歌を安心させてあげて」
「梨歌ちゃんも?」
「永継君への罪悪感のことね」
そういえば話せなかったから、二人のせいではないことを説明出来ていなかった。
そのせいで、服を脱がしたせいで熱を出したと勘違いさせている。
「わかった。僕はみんなを幸せにするって決めてるもん」
「特に梨歌はね」
梨歌ちゃんには『なんでも言うことを聞く券』でずっと幸せにすることを約束した。
それがなくてもするつもりだったけど、せっかくの誕生日プレゼントで頼まれたのだからちゃんとやる。
「でも泣かせてばっかり……」
「永継君のせいじゃないよ。結局みんな自分もりも他人のことを優先に考えちゃうから、誰かが困ったり、傷ついたりしたら自分のこと以上に気にしちゃうんだよ。永継君もそうでしょ?」
「うん。大丈夫って言われても心配しちゃう」
「だからね、永継君には後悔じゃなくてみんなを信じて欲しいの」
宇野さんの顔がだんだん認識出来るようになってきた。
とても慈愛に満ちた優しい笑顔。
「泣かした後悔じゃなくて、泣いてるのは優しさからだから、それを信じて感謝をするってこと?」
「なんでこういう曖昧な言い方には気づくのに……」
宇野さんに頬を優しくつねられた。
「永継君って私達のこと好きなんだよね?」
「うん」
「だけど多分それは『like』だよね?」
「うん?」
「『like』と『Love』の違いはわかる?」
深く考えたことがなかった。
日本語では『好き』とされることが多いけど、その意味合いが少し違うのは知っている。
「『Love』の方が強い好きだよね?」
「そこまでちゃんと考えなくていいんだけど、要は永継君の好きは『like』なんだよ」
「宇野さん達もそうじゃないの?」
「永継君は……私達にドキドキすることあるよね?」
何故か宇野さんが「私達」を強調するように言う。
「する」
「それが『Love』の感情なのね」
「うん」
「だから永継君はそれを基準にすれば恋愛感情がわかるはずだよ」
「そうなの?」
なんだか話を逸らされた感じもするけど、今勉強中の恋愛感情の理解が出来そうな気がしてきた。
「つまり僕はみんなのことを恋愛的に好きってこと?」
「んーとね、ちょっと違う。桐生さんを入れて六人いるけど、他の五人を忘れるぐらいに一人を思えるようになったらそれが本当の『Love』の感情」
「忘れるなんて出来ないよ?」
みんな大切な人達だから、誰かを忘れて誰かを思うなんて出来る気がしない。
「比喩ね。私も本気で恋したのは初めてだし、そもそも仲のいい男子が他にいないから詳しい訳じゃないけど、クラスの人ぐらいなら眼中から消えるよ」
そういえば前に宇野さんには好きな人がいると聞いた。
未だに誰かは教えられてないけど、経験者が言うのならその通りなのだろう。
「永継君のことだから勘違いしてるでしょ? その勘違いを利用するね」
「利用?」
「今どんな気持ち?」
「モヤモヤしてる?」
宇野さんに好きな人がいるのはいいことのはずなのに、それを聞くとモヤモヤする。
僕はモヤモヤしてるけど、宇野さんはとても嬉しそうだ。
「モヤモヤするかぁ、そうかぁ」
「?」
「気にしないで、永継君は素直ないい子だなって思ってるだけだから」
そう言って宇野さんが頭を撫でるのを再開した。
「あ」
「どしたの?」
「前に栞さんとやったゲームで、好きな相手は異性と一緒に居るのを嫌がるって言ってたけど、僕って邪魔?」
もしも宇野さんが好きな人の付き合ったりした場合は、僕が家に毎日来ているのはよく思わないらしいから、控える必要が出てくる。
「永継君は一番気にしなくていいことだから大丈夫。それと桐生さんは後で説教だな」
「ゲームの中だけなの?」
ちなみにそのシーンを見た後に栞さんが「ここはテストに出ないから覚える必要ないからね」と言って飛ばしていた。
それと他にも、主人公がヒロインの子の家に行くところなんかも飛ばしていた。
「永継君が……いや、普通に許すか。いやでも実は独占欲強いかも。……独占されたい」
「僕は独占欲強いみたいだよ?」
「永継君って、私達が男の子と話してたらどう思うの?」
(宇野さんが男子と話す……)
「なんか、やだ」
「ありがとう、今日は腕によりをかけてご馳走様を作ります」
何故か僕がモヤモヤする度に宇野さんが喜ぶ。
「なっつんが悲しむ度に喜ぶってどうなのかね?」
「るかおねえちゃん、さってー……」
「また寝た」
いつの間にか起きていた鏡莉ちゃんが起きたいけど起きれない悠莉歌ちゃんに毛布をかけた。
「……いつから?」
「『永継、私を愛して』から?」
「そんなこと言ってないけど!?」
「正確に言うなら『私達のこと好きなんだよね?』のとこかな? ちゃんと『私』を強調して、自分を好きだって言ってもらってから同じでしょ?」
鏡莉ちゃんの言葉に宇野さんが頭を抱えて「全部じゃないか……」と言って顔を真っ赤にした。
宇野さんの顔を赤さがわかるぐらいに日が昇っきた。
みんなの目が覚めたら芽衣莉ちゃんの誕生日が始まる。




